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GLAY GHOST 〜赫焉のジャンゴ  作者: DDDog
ただ一欠片の人間性のために
28/31

The Last Stand

 わしが──ぼくが。彼と出会ったのは……ほとんど偶然だった。

 ひどく疲れきって、傷つき、憔悴した彼をぼくの祖父が匿ったことが、彼との思いかげないファーストコンタクトで……今となっては忘れようのない、かけがえのない想い出だ。

 彼は、まだ十年ほどしか生きていない幼い子供の自分から見ても、相当に異質だった。

 生きる、ということについてなにも知らない、わかっていないような不思議な、ある意味で無垢な人間だった。

 だからぼくは、よかれと思って彼にたくさんのことを教えた。教えられる限りのことを。

 特に熱心に教えたのは、好きな音楽についてだった。

 彼はジャズやクラシックがなんとなく好みだと言っていたが、ぼくはロックも最高だ、と熱弁して彼に引かれるほどに布教した。

 ……今思えば、若気の至り。恥ずかしいことをしたと思うのだが。

 けれども彼は、自分と好きな音楽を共有して、打ち解けて……少しずつ、人間らしくなっていたように見えた。

 ともに笑い合って……遊んだり、騒いだり。

 彼と過ごす時間は、友達のいない自分に、充実した時間をもたらしてくれた。

 けれど。

 幼かった自分は気づくことはできなかった。

 彼がいつも、一歩身を引いたような、冷たくて、寂しげな……苦悩に苛まれていたことを。


「──おまえはもう、おれと関わるな」


 それは月が……嫌になるほど綺麗な夜のことだった。三日月が鋭く、細くて、人を串刺しにしてしまえそうな夜のことだった。

 ぼくが、彼の正体を……本性を知ったのは。

 彼はそう冷たく、抑揚のない平坦な声で突き放すように告げてきた。

 ダークグレーの装束に全身を包んだ、異様な姿の彼は……周りに死体の山を積み上げている。彼の表情はわからない。目深に被った帽子が、俯く彼の顔を隠している。

 現実感のない光景に混乱を覚え、目眩に襲われる。込み上げる恐怖に足が竦んで動かない。

 これが、あの彼なのか?本当に?

 ぼくにはとても信じられず、なんども悪い夢だと疑ってしまった。

 だが、これは紛れもない現実だ。

 それを物語るように、全身に生々しい激痛が走っている。暴力を振るわれたことによる、痛み……初めて知った、耐え難いリアルな痛みだ。

 それに、悪臭……鼻を突くような、嫌な匂いがぼくの鼻を苛んでいる。これは、血の匂い。そしてその匂いのもとは。

 唯一の肉親であった、祖父の死体からのものである。


「……これで、わかったろう。これ以上おれと関わると、おまえは不幸になる。おまえはもう、おれと一緒にいるべきじゃない」


 不思議と、祖父を失ったことに涙は流さなかった。

 散々周囲の心無い連中から泣き虫だと罵られて虐められたが、大切な家族を失ったことに対して自分は泣きはしなかった。

 その代わり。


「つらく、ないの」

「……なにがだ」

「裏切られたんでしょ。大切な人から」

「……」

「そんな人の差し金で……殺されそうに、なったじゃないか」

「……はっ。おまえ、あいつらの話聞いてたか?おれが、裏切ったんだよ」

「ウソだ」


 虚ろな笑みを浮かべた彼の言葉をぼくは即座に否定した。


「だったらどうして……そんな辛そうな、寂しそうな顔してるんだよ」

「……」

「仲間を、殺して……裏切られて……平気なわけないだろ……っ」


 雨が降り出し、頬に一筋の水滴が伝う。なぜか、冷たくない……温かい雨だった。

 違う。これは、雨じゃない。雨なんか降ってない。

 ならこれは……。


「……おまえ、なんで泣いてんだ」


 ぼくは、泣いていた。涙を流していた。


「そんなに、怖かったか?」

「……ううん」


 首を振って否定する。この涙は、恐怖だとか、祖父を失った悲しみから来るものじゃない。


「あんたが……泣かないから」

「……」

「すごく苦しそうなのに、辛そうなのに……泣かないから。ぼくが、代わりに……泣いてるんだ」


 その答えに、彼は……ようやく顔を上げた。

 彼の顔はやはり寂しそうなものだった。だが……どこか、救われたような、そんな一縷の希望が浮かんでいるように……ぼくには見えた。


「……変なヤツだな、おまえ」


 彼は乾いた笑いを浮かべる。相変わらず、下手くそな笑顔。けどぼくは、そんな彼の精一杯の笑顔に釣られて、一緒に笑う。


「おれのために、泣くなんて。まったく、とんでもない泣き虫だな」

「……うん。でも、これぐらいしか、あんたの力になれないから。それに……」


 ぼくは、零れる涙を拭わずに、押し寄せる感情の波に任せて涙を流し続けながら言う。


「友達だろ、ぼくたち」


 友達。

 その単語に、彼は少し驚いたような顔をして、やがて……くつくつと笑い声を立て始める。

 そして、笑いに震えた声で彼は言う。


「ああ。……友達だ。おれたちは」



 ◆◆◆◆



 んっ、と凝り固まった体を伸ばし、ぷはぁと一呼吸。ずっと緊張していた全身と精神を弛緩させ、トニーはようやく作業から解放される。

 やれやれ、久しぶりにいい仕事をした。我ながら、最高の仕上がりだ。

 トニーは達成感を感じるとともに、机上に置かれたリボルバー拳銃と、机の隅に置いた写真立て……そこに入れられた、二週間前の集合写真を交互に見てふっと柔らかく笑った。

「よし」彼は椅子から立ち上がり、完成したリボルバーをケースに収めて、そのケースを持って工房の隣の部屋に移動する。

 様々なリボルバーが収められたガラスショーケースが並ぶその広い部屋は、ガンスミスであるトニーの店だ。

 店といっても、ここで商売をしていたのはもう十年以上は前のことであり、今は受注限定に方針を変えているため、長いこと店として使われてはいないのだが。

 しかしながら、使わないからといって個人経営のガンショップにしては無駄に広く大きな店を片付けるのは面倒……もとい気が引けたため、内装をそのままに、現状はこの部屋を商品の倉庫のように使っている。

 いつかまた、店を開ければな……とは思っている。だがそのときは、きっと自分の店ではなく、ベルの店となっているだろう。どうかそうであって欲しい。


「トニー、朝ごはん持ってきたよ」


 トニーが埃を被ったレジカウンターにケースを置いたそのとき、ベルが部屋の中に入ってきた。

 片手に皿を持ち、皿の上には丸と三角の形をしたご飯……カグヤお手製のおにぎりが乗せられていた。


「おお、待っとったぞ。カグヤさんの作るオニギリは根を詰めてるときの楽しみだからな」

「いいよね、これ。食べやすいし美味しいし。具がランダムなのも面白いし。……ウメボシはヤだけど」

「ははは。そうか?わしは酸っぱいのが好きだがなぁ」

「ふーん、変わってるね。……もしかして、ちょうど仕事終わったとこ?」

「あぁ、思ったより早く終われたな。いま何時だ?」


 ベルはその問いにやや困ったような反応をし、目を逸らしながら、「……八時でーす」となぜか棒読み気味に言う。

 トニーはその微妙な反応に「ふぅーん?」とこくこくうなずく。そして、ポケットの中に入れていた携帯端末を取り出して時刻を確認する。


「九時過ぎじゃないか」

「うん、まぁ、そうだね。ごめん、トニーのこと忘れ……トニーにごはん持ってくの忘れてて」

「今わしのこと忘れてたって言ったか?……まぁいいが、なんでそんなすぐバレるウソつくかねぇ、まったく」


 トニーは早速おにぎりにかじりつきながら、ベルを叱る。

 叱られる方のベルは「えへへ、ごめんごめん」と苦笑しながらトニーに詫びる。

 まったく。トニーは呆れながらも、仕事終わりの解放感と機嫌の良さから彼女にそれ以上小言は言わなかった。


「ジョンは?」

「カグヤと一緒に出かけたよ。デートするって」

「嘘こけ。あの顔だけ伊達男の朴念仁がそんなたまか」

「嘘じゃないし。ふたりっきりでお墓行くんだよ」

「ただの墓参りだろそれ」

「じゃあデートじゃん」

「……おまえさんがそう言うならそれでいいんじゃないか、もう」


 トニーはひとつおにぎりを食べ終えて、次のおにぎりを口に運ぶ。先程のおにぎりの具は合成鮭だった。次はなんの具が出てくるやら……。


「じゃ、私そろそろ行くから」

「ん?あぁ、そういや補習あるんだったか」

「そ。めんどうだけどね」

「しかし珍しいじゃないか?おまえがサボらないなんて」

「……カグヤに言われたの。それに、ちゃんと補習に行けばご褒美くれるって」


 なるほどな。トニーは、カグヤがすっかりベルの扱いに手慣れてきたことに感心して思わず笑ってしまう。

 しかし、墓参りか……。

 墓となると、例の彼女……ジャンゴに未だ癒えない大きな爪痕を残した〈ドクター〉と呼ばれる女性の墓だろう。

 会ったことはないし、顔も知らないが……どんな女性だったのか気になってしまう。自分がわかるのは、彼女が……どんな理由があったかは知らないが、ジャンゴのことを裏切り、捨てたということだ。

 それがきっかけで、ジャンゴは……。


「……ん?」


 そのとき、トニーは異音を耳にした。


「どうしたの?」


 ベルは気づかなかったようだが……この音は、誰かが事務所に入ってきた音だ。

 ジャンゴたちが帰ってきた?否。足音が違う。しかも、数が多い。ずかずかと、乱暴な音だ。こんな音を出す人間はうちにはいない。

 となると……。


「……ベル。いいか、そこのカウンターの裏に隠れてろ」

「え?」

「声を出すな。息を潜めて、じっとしとるんだ。いいな」


 普段とは打って変わって重苦しい雰囲気を漂わせて言いつけるトニーの様子に、普段脳天気なベルも只事ではないことを察してこくりと頷き、言われたとおりにトニーの後方に配置されているカウンターに身を隠した。

 すると、事務所の方からけたたましい音がいくつも聞こえてきた。銃声や破壊音……泥棒程度なら可愛いだろうが……トニーの直感から、もっと面倒な相手だと感じ取っていた。

 破壊音は事務所から場所を変え、次に廊下、生活棟……少しずつ、こちらへ近づいてきている。

 そしてついに、隣の部屋……つまりトニーの工房。破壊音がすぐそこで聞こえる。まもなく、不届きな侵入者様とご対面だ。

 ドアが荒々しく蹴破られる。

 トニーは身構え、ぞろぞろと現れた一団をギロリと睨みつけて出迎える。


「おおっと、ようやく家主サマと会えた。恐縮だ。こんなところに引きこもって、待っていてくれるとはな」


 ニタリといやらしい笑みを浮かべて、現れた痩せぎすの男は引き連れた部下たちよりも一歩前に出て、トニーに挨拶をする。


「〈教団〉のエージェント、クラウスだ。噛み締めるといい。覚えておく価値のある名前をな」


 〈教団〉……例の、カグヤを狙っていた組織の回し者か。

 つまり、狙いは考えるまでもなくカグヤだろう。

 トニーはひとまず、彼らがすぐに仕掛けてくるわけではないことを悟ると、十分に警戒しながらも出方を見るために会話に付き合ってやることにした。


「ご挨拶どうも。ま、覚えておくとしよう。それはともかく、今は営業時間外だ。回れ右して帰ってもらおうか?」

「それは失礼した。ここが店だとは知らなかったんでな」

「店だと知っていようがいまいが、人様の家を荒らし回っていい理由はないと思うがね」


 トニーの指摘にクラウスは不敵に笑いながら、口にアメリカンスピリットのペリックをくわえ、火をつけた。どこか、挑発的な仕草で彼はタバコを吸い始める。


「さて、無駄話をする気はない。とっとと本題に移るとしようか。ここに来た要件はただひとつ。おまえらがここで匿ってる女性、ツヅキ・カグヤを引き渡してもらいたい」

「……うちにそんな女性はいないんだがな」

「つまらない嘘はつかないことだ、ご老人。調べはついてるんだ。それに、シラを切ったところで意味はないぞ。ほら、これはなんだ?」


 クラウスは写真立てを突き出す。

 トニーは思わず舌打ちした。この前に撮った集合写真……隠しておくべきだったか。

 トニーの反応を見てニヤリと笑うクラウスは、写真立てにタバコを押し付けて火を消し、乱雑に投げ捨てる。

 そして、待機する部下に顎でしゃくって指示し、彼からアタッシュケースを受け取ると中を開き、紙幣がぎっちりと詰まったそれをずいと突き出す。

 トニーは怪訝な顔をして「こりゃなんだね」と尋ねる。


「わからないか?金だよ。彼女を売ってもらいたい」

「ほう、売れと来たか。随分な態度じゃないか」

「ここは店なんだろう?需要に答えて商品を提供する、それが商いというものだ。彼女には価値がある。なら、それに見合った額の金を渡す。我々としては、穏便にことを済ませたいのだからな」

「……生憎だがな、彼女は売り物じゃあない」


 見せつけるように広げられる大量の金を前にしても、トニーは動じることなく、ウンザリしたような顔でため息をつくとともに屹然とした態度でキッパリと跳ね除けるように答えた。


「わしがおまえさん方に売れるものはなにひとつありゃせんよ」

「どうしても、か?」

()()()()()()()()()ということだ」

「それは残念」


 クラウスはうなずくと、もう必要ないということか、アタッシュケースをぽいとゴミを捨てるように放り投げた。床に紙幣がばら撒かれる。

 それから彼は、肩を震わせて笑い始めた。なにが面白いのか……トニーは眉をひそめ訝る。


「あぁー……どいつもこいつも、どういうアタマの作りをしてるんだ?クソほど理解できない。この前に始末した……エ、エ……なんだった?ああ、そう、エイミー……そいつもオレが丁寧に頼んでたのに断りやがって」


 最初に見せていた丁寧な口調と態度が徐々に崩れ始める。

 怒っているのか、それとも愉快なのか……クラウスは顔を歪め、さらに笑い声を立てる。


「ああ、まったく、バカげてる。あのクソメスのエイミーはともかく……おまえらは〈巫女〉とはなんの関係もないくせに、庇いたてするなんざ、つくづく見上げ果てたバカだ。どうしてなんの得にもならないことを率先してやる?あの女になにを吹き込まれた?助けてくれたら体を捧げるとでも言われたのか?」

「……」


 クラウスの物言いにトニーはぴくりと僅かに眉根を動かした。彼の目付きが少し鋭く尖り始める。


「ああ、それとも。おまえのとこの同居人……あのくすんだ金髪ヤロウ。あれは見るからに、女をこましてそうなヤツだったからな。おおかた、アイツが彼女の体目当てにあれこれと誑かして、あんたもそのお零れを貰ってる……だから、オレたちに渡したくないんだろ?」


 トニーの顔に、みるみる激情が浮かんでくる。

 ギリ、と歯を噛み鳴らし拳を硬く握る。

 そして、トニーは静かに、かつ地の底から湧き上がるような恐ろしく低い声を発する。


「おい、クラウスってぇの」

「あん?」

「たった今、あんたに売ってやれる商品が入荷した。ぜひとも買ってもらいたいね」

「ほう」クラウスはほくそ笑む。「そいつは、なんだ?」


 問われた瞬間──勇ましく、トニーは吼えた。


()()()だッ!!」


 BANGBANGBANGBANGBANGBANG!

 ジャンゴには劣るものの、並の人間よりも遥かに素早い早撃ちで、トニーはヒップホルスターに収めていたレミントンニューモデルアーミーを六発、ファニングショットで続けざまに唸らせる!

 しかしクラウスは敏感にもトニーの反撃を察して、身体を動かして回避した。

 それにより、彼の後方で待機していた部下のひとりが眉間、胸、腹部に銃弾が命中し彼は血を流して吹き飛び、部屋の出入口へと押し出され強制退室させられる。

 攻撃をしかけるトニーに対してクラウスは銃を抜き、部下も続々と銃を抜いた。


「ケンカか!おもしれぇ……買ってやるっ!」


 BLAMBLAMBLAM!

 BANGBANGBANG!

 瞬く間に、室内は壮絶な銃撃戦の舞台と化す。

 商品ケースや壁際に配置された陳列棚が破壊され、資材や商品の破片が紙吹雪のように辺りに散らばった。

 クラウスたち五人と、トニーひとり。

 狭くはないが、広くもない……そんな閉鎖空間を跳梁跋扈するように彼らは敵対者の命を奪うためにそれぞれ動き回る。


「わしを……わしをバカにするのは幾らでも構わん!だがな……あいつを、ジョンを!わしの友を!愚弄することだけは許さんっ!」


 トニーは身を屈め、商品ケースを盾にしながらクラウスたちの銃撃から身を守りながら、ニューモデルアーミーのローディングレバーを操作し、空になったシリンダーを丸ごと取り外す。そして、六発フル装填された新しいシリンダーに交換する。


「あいつを、あのどうしようもないロクデナシのぶきっちょをバカにしていいのは……このわしだけだっ!」


 BANGBANG!

 啖呵を切るとともに、トニーは身を隠した状態のまま腕だけをショーケースの横から覗かせ、発砲!

 その銃弾は、回り込もうと近づいてきたひとりの足を貫く。

 BANG!

 バランスを崩し、衝撃につんのめり隙だらけになったその男の頭部にトドメの一撃を撃ち込む!

 これでさらにひとり排除だ。


「……!くっ」


 BANG!BANG!

 トニーが身を隠すショーケースめがけて、ショットガンが放たれ、ガラス片が降り注ぐ。

 トニーはとっさに頭を守りながら、すぐに移動を開始する。衝撃によってガラスケースから転がり落ちたリボルバーを拾い上げて。

 ショーケースから別のショーケースへ。トニーはそそくさと移動する。

 BLAMBLAMBLAM!

 ショーケースの間で姿を晒す瞬間を狙って、ショットガンを撃ってきた相手とは別の男がハンドガンをトニーめがけて発砲する。

 しかし彼は、初老に差し掛かっているとは思えない身体能力を発揮し、前方へ跳躍、前転して滑らかに着地する。

 そして、即座に振り向くと、後方からショットガンを構えた男と対面する。


「TAKE THIS!!」


 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!

 トニーの持つリボルバー……先程拾い上げたラスト&ガッサーM1898が火を噴く。

 六発の弾丸をとっさに回避する間もなく正面から受けた彼は力なく倒れ……かかったものの、根性を見せて踏ん張りを効かせ、果敢にもトニーをショットガンの餌食にしようとする。

 BLAMBLAM!しかし、まだシリンダーに残っていた二発の弾丸を容赦なく撃ち込み、遂に彼は絶命して倒れ伏す。

 トニーは八発撃ち終えたラスト&ガッサーを投げ捨てると、ニューモデルアーミーの銃把で右に配置されたショーケースを叩き割り、そこからさらに別なリボルバーと不思議な形をした武器を手に取った。

 トニーはショーケースを勢いよく飛び越えると、反対側でトニーを奇襲しようとタイミングを伺っていた男に拳を振りかぶって飛びかかる!

 トニーのアグレッシブな行動に、男は仰天してしまい即座に逃げる判断が出来なかった。トニーの拳……アパッチナックルダスターを装備した拳が、着地と同時に彼の頬骨を破壊した。

 続けて彼はそのナックルダスターから収納していたナイフを展開、首を狙って刺し殺す!

 返り血がトニーを汚し、顔が赤く彩られる。トニーは刺し殺した死体を蹴り捨て、振り向きざまさらにナックルダスターの収納形態を組み替える!

 BLAM!ナックルダスターから銃弾が放たれる!これによりトニーを右側から狙い撃とうとしていた男が怯み、彼は大きな隙を作る。

 BANGBANGBANGBANG!

 先程ショーケースから回収したアダムスリボルバーが45口径の弾丸を放つ。肩、脇、膝、そして首。男は血しぶきをあげながらふらつき、そのままゆらりと糸の切れた人形のように倒れた。

 ここはトニーが丹精込めて作り上げたリボルバーが並ぶ部屋。ゆえに、いかに不利な局面であろうとも、それを覆すだけの地の利は彼にあるのだ。


「……残るはあんたひとりだ」

「こいつは驚いた。見事な早業。まったく、参ったね」


 引き連れていた部下を全員殺されたにも関わらず、クラウスは飄々としてニヤニヤ笑っていた。心底楽しそうに。

 クラウスはサングラスを外して鋭い目付きを持つ蒼い瞳を露わにすると、手に持つスコフィールドリボルバーをブレイクオープンさせ、新たに六発装填する。

 トニーは彼がひとまずは行動を起こさないことを察し、ゆっくりと立ち上がり、クラウスのいやらしいニヤケ顔を睨みつける。


「あんた、ホントにジジイか?」

「年寄りを労りたかったならお生憎様だったな。わしは見かけほど老いちゃおらんのでな」

「へぇ、それはお盛んなことで」


 トニーはアダムスリボルバーを置き、新たにショーケースからさらに別のリボルバーを二丁取った。


「しかし、ここはいい店だな。オレはそこまで銃に詳しいわけじゃないが……オレはオートマチックよりもロマンのあるリボルバーが好みでな。ここにある銃がどれも希少で価値のある素晴らしい一品だってのはわかる」


 クラウスもまた、トニーお手製のリボルバーをショーケースから手に取る。


「あんたを始末するのが惜しくなってきたよ。腕もたつ。あんたと敵対する前に、この店に訪れておきたかったもんだ」

「そいつはどうも。モデルガンならいくらでも売ってやったさ」


 お互いに不敵に笑い合い、殺意を帯びた視線がかち合う。

 再び空気がピリピリと張り詰め……その緊張感が限界まで達したとき、両者はほぼ同時に腕をしならせるように上げ、銃を構えて動き出す!

 BLAMBLAMBLAM!BANGBANG!

 BANGBANGBANGBANGBANG!BANGBANG!

 トニーの右手に持つチェスカ・ズブロジョヴカZKR-551が三連射、左手のロジャース&スペンサーアーミーが二発弾丸を放つ!

 対するクラウスはレマットリボルバーをファニングで素早く五連射、続けて逆の手に持つメルウィン・フルバートをサミングで撃つ!

 両者の弾丸は真横を掠め、後方の陳列棚を破壊する。彼らはお互い左と右で対極に動きながら、銃撃の応酬を繰り広げる。

 BLAMBLAMBLAM!トニーのZKRがクラウスのレマットリボルバーを弾き飛ばす。九発もの拳銃弾に加えて、散弾も発射できる厄介な銃だ。その脅威は最優先で取り除かねばならない!

 だがクラウスも負けてはいない。BANGBANG!咄嗟にフルバートをファニングで二連射し、トニーのZKRを弾き飛ばす。

 ふたりは得物をひとつ失いながらも止まることなく移動を続け、ショーケースとのすれ違いざまに新たなリボルバーを手に取った。

 BLAM!

 BLAM!

 トニーはヴェロ・ドッグリボルバーを、クラウスはシャメロ・デルヴィンMle1873を、両者はまったく同時に撃つ。

 その銃弾は互いのリボルバーを再び弾き飛ばす。そして、一瞬の見合い……トニーは鋭く睨み、クラウスは楽しそうに目尻に笑みを湛える!

 BANGBANG!BANGBANGBANG!

 BANGBANGBANG!BANG!

 再び彼らは銃撃を再開する。トニーはニューモデルアーミーとロジャース&スペンサーを、クラウスはスコフィールドとフルバートを二丁拳銃で撃つ、撃つ、撃つ!

 BANGBANGBANGBANG!BANG!

 BANGBANG!BANGBANGBANG!

 両者ともに一歩も譲らぬ拮抗した激しい撃ち合いを重ねながら、互いの距離を徐々に詰めていく。

 そして、ふたりの距離が目前にまで迫ったそのとき、トニーは先手を打って引き金を引く!CLICK、CLICK!


「!しまっ……」


 だが、ここでトニーのリボルバーは二丁ともに弾切れだ!その好機を見逃すクラウスではない。彼は撃ちきったフルバートを投げ捨てると、フリーになった手を硬く握り締めてトニーを殴りつけた。

 トニーの鼻頭が折れ、鼻血が流れる。トニーは一歩、二歩とふらふらと後退る。痛みを堪えながら前を向くと、そこにはスコフィールドリボルバーを無慈悲に突きつけたクラウスの姿があった。


「弾の数は数えておくんだな、老いぼれ!」


 ALAS!絶体絶命。トニーはここでクラウスに殺されてしまうのか。しかしトニーは諦めてはいない。死の瞬間まで、足掻き続ける……!その燃え盛るような強い意志を持って、トニーは眼前のクラウスをきっと睨む!

 そのときである。

 BANG!


「がっ……!?な、に……!」


 突如、クラウスのスコフィールドが横からの衝撃に弾き飛ばされた。


「……トニー!」


 それは、今までカウンター裏に隠れていたベルの援護射撃だった。

 つい先程トニーが仕上げたばかりの銃……コルトM1878、通称ダブルアクションフロンティアが彼女の勇気ととっさの機転により窮地に立たされたトニーを救ったのだ!


「クソガキ……!ぐぶっ!」


 予想外の横槍に悪態をつくクラウスに、トニーは力任せに反撃の鉄拳を顔面めがけて叩き込む。続けて、膝蹴りをクラウスの鳩尾に滑り込ませる。

 これは干天の慈雨。降って湧いたチャンスを最大限に活用するべし!

 トニーはニューモデルアーミーを持ち帰ると、銃把で前のめりになったクラウスの顎を殴りつける。

「むんっ……!」まだだ。休む暇など与えない。トニーは気合いを込め、今度は仰け反ったクラウスの胸板に体重を乗せた肘打ちを叩き込む。そして、「ベル!」トニーは名を叫んで指示すると、その意図を悟ったベルがダブルアクションフロンティアを投げ渡した。

 トニーはくるりとその場でターンしてそれを手にした。そして構え……よろめくクラウスに銃口を突きつける。


「……惜しかったな、若造(キッド)


 BANGBANGBANGBANGBANG!

 引き金を五回、連続して引き……クラウスに残弾すべてを叩き込む。

「ごは……」クラウスは悔しそうな、あるいは全身を襲う激痛のためかひどく歪んだ表情を浮かべ、声にならない悲鳴をあげて仰向けに倒れ伏す。

 倒れた彼の背中から血が流れ出て、床に水たまりを作っていく。目を剥いて動かなくなったクラウスの姿を見て、彼が絶命したものとみると、トニーはようやく肩の荷を下ろして一気に脱力した。


「ふぅ……はは、なんとかなったか」


 まだまだ、自分もやるもんだ……トニーは辛くも勝ちを拾った自分を褒め称える。

 守りきることが出来た。ベルを。この家を。友の……ジャンゴにとって唯一の、帰る場所を。そして、カグヤを脅かしていた脅威を、取り除くことができた。

 トニーは振り返り、ベルの方を向く。

 ベルがすっかり安心しきった顔をして、いつもの調子でにかっと笑う。その屈託のない笑顔に柔らかい微笑で返し、トニーはぐっ、とサムズアップをする。

 ……思えば。

 初めてのことかもしれない。自分が、ジャンゴの大切なものを……同時に、ジャンゴのことを間接的にも守ることができたのは。

 いつも、なにかしら彼の役に立とうと考えていた。なんでもいいから、力になろうと思っていた。ずっと、友として彼を支えようとしていたが……ついに今回、彼を本当に助けることが出来たのではないだろうか。

 ──ジョンよ。わしは、これ以上おまえに大切なものを失わせたくはない。あの日、おまえが……空っぽになってしまったようなことを、二度とは。

 そう、二度とは──。


「──ああ、本当に」


 そのとき。

 ひどく冷たい声が、背後から聞こえた。


「惜しかったよ、ジイさん」


 唐突に襲う衝撃と、腹部にじんわりと鈍く感じる異物感とどろりとした気持ち悪い生温さ。


「……あ」


 トニーは目の前のベルの顔を見た。

 信じられないものを見るような、また泣き叫ぶような悲痛な顔。……なんだ、おまえ。そんな顔もできたんだな。

 そして、ゆっくりと目線だけを動かして、腹部を見た。

 そこには、手が生えていた。

 体に生えた、三本目の手。禍々しい異形の、銀色の手。

 それは当然、自分のものではない。

 それが誰のものなのかを漠然と、まるで他人事のように現実感なく理解したとき、トニーは全身の力が全て吸い取られたかのようにするりと抜け落ちた。


「あんた、めちゃくちゃ強かったよ、間違いなく。久しぶりに楽しかった……でも悪いな、ぬか喜びさせて」


 実際はすぐ真後ろからの至近距離だというのに、まるではるか遠くの環境音のように声が小さく聞こえる。

 生えていた手が、ずるりと抜け、支えを失ってトニーの体はばたん、と正面から倒れ込んだ。


「あれじゃあ死なないんだよ、オレは。オレは……()()じゃあ、ないんでな」


 メタリックシルバーの生体外骨格に身を包んだ異形の存在……先程までは人間の姿をしていた、かつてクラウスだった男は……小さく笑い声を立てながらつぶやく。

 トニーはぼんやりとその話を聞きながら、朧気にもやがかかっていく思考の中で思った。


 ──ああ。しまったなぁ……こんなんじゃ、ジョンに笑われちまうなあ。


 トニーは場違いにもそんなことを思いながら、力なく苦笑した。

 そんな彼の消え入るような姿に、ベルは絶叫した。


「トニーーーーーーッ!」

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