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GLAY GHOST 〜赫焉のジャンゴ  作者: DDDog
ただ一欠片の人間性のために
27/31

強襲

 BLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!

 BRATATATATATAT!BRATATATATATAT!BRATATATATATAT!

 けたたましい銃声が、平和な往来で容赦なく鳴り響く。

 突然の出来事に、巻き込まれた善良な一般市民たちは悲鳴をあげ慌ただしく逃げ惑い混乱する。

 探偵社の兵士たちはそんな彼らのことなどお構いなしに、それぞれが手に持つハンドガンやサブマシンガン、アサルトライフルなどでジャンゴを蜂の巣にしようと弾幕を張る。


「ジャンゴさんっ!」


 突き飛ばされ射線上から逃がされたカグヤは、狙われたジャンゴに向かって叫ぶ。

 丸腰であるジャンゴは四方八方からの銃弾の雨に晒され、腕や足、胴体に銃弾が命中する。

 しかし。


「排除対象抹殺……いえ、死んでない!突っ込んできます!」

「バカな!?」


 ジャンゴは銃弾の隙間のない雨の中、正面から立ち向かって槍めいて突っ切る!

 それはジャンゴにとって、この場を凌ぐための最適な戦法だった。

 彼には全盛期ほどではないが不死者ならではの並外れた再生能力がある。それを存分に活用し、あえて銃弾を回避せずにその身で受けることを選んだのだ。

 血が飛び散り、銃弾が肉体を貫通する。

 無論、痛みは伴う……だが、武器のない状態、徒手空拳での戦闘を余儀なくされる今、この捨て身の戦法しか方法はない。


「慌てるな!怯むな!撃ち続けろ!」


 兵士のひとりが困惑し、狼狽する仲間たちを叱咤する。

 だが、すぐには持ち直せない。

 ジャンゴは的確に周囲の状況を把握し、混乱の大きい分隊に狙いをつけ、それめがけて突撃する!

 その姿を正面から目にする、彼の標的にされた兵士たちはジャンゴの放つ圧倒的なプレッシャー……さながら悪鬼めいた迫力に恐怖し、保持する銃の狙いがぶれる。

 その大きな隙を逃すジャンゴではない。さらに加速し、距離を瞬く間に詰めていく。

 そうはさせじと、他の兵士たちが後を追うように銃撃する。

 BRATATATATATAT!BLAMBLAMBLAM!BRATATATATATAT!

 だがジャンゴの勢いは留まるところを知らない。体の軸をブレさせず、猪突猛進、一直線に駆け抜ける。


「クソッ、なんだあれは!」

「ステヴァンの部隊をひとりで壊滅させたんだ……ホンモノの化け物だ!」

「おまえら落ち着け!頭だ!頭を狙え!」


 BLAMBLAMBLAMBLAM!

 さらに銃撃!こんどは、頭部を狙った弾丸がジャンゴを襲う。

 これに対してジャンゴは、僅かな動きで、頭部に命中しそうになった弾丸だけを避けて走る。

 たとえ再生能力があると言えど、急所部位、とりわけ頭部を破壊された場合は再生にかなりの時間を要することになる。ゆえにそれだけは避けなくてはならない。

 再生が遅れたことで、その間にカグヤを拉致されればまずい。


(とんだお荷物だ、クソッタレ)


 ジャンゴは苦々しく歯噛みしながらも、標的めがけ駆け抜け、ついにその距離を近接戦闘に持ち込む距離まで詰めた。

「ひっ」ジャンゴを目前にした兵士が怯えた声を上げた。

 ジャンゴはその兵士にすかさず裏拳を叩きつけ、鼻を潰す。衝撃に後ずさる兵士に容赦なく追い打ちをかけ、技も型もない前蹴りを鳩尾にめり込ませる。

 兵士は内蔵に痛烈なダメージをもらい、気を失って地面を転がり倒れ伏す。

 BLAMBLAM!

 ジャンゴの背中に同じ分隊の仲間が放った銃弾が命中する。スーツに穴が開き、血が飛び散るが、彼は意に介さない。

 銃弾を撃ち込んだ兵士に次の狙いを定め、振り向くとすぐに短距離をトップスピードの加速で走り出し、その勢いをつけたローリングソバットを叩き込む。兵士はその一撃を頭に受け、首が嫌な音をしてぐるりと180度回転、絶命する。

 続けて、休む暇なくジャンゴに次の兵士が襲いかかる。彼はあえて近接戦闘をしかけ、拳銃を持つ手とは逆の手にダガーを構え、突き刺そうと試みる。

 ジャンゴはそれを脇で押さえ込み、てこの原理で彼の腕の関節を逆方向に曲げてへし折る!「づぁっ!?」痛々しい悲鳴が上がり、折れた骨が肌を突き破って露出する。しかしそれでも彼はあがき、拳銃をジャンゴに突きつけて引き金を引こうとする。

 ジャンゴは僅かに身を引いて距離を取り、両手で彼の拳銃を持つ腕を掴み、力任せに真下へ向けさせる。

 BLAM!

「ぎゃあっ」再び悲鳴が上がる。彼は自分の足を自分で撃ち抜いてしまい、靴から血が吹き出た。

 そこへ、また別の兵士がジャンゴを背中から撃ち抜こうとサブマシンガンを構えた。ジャンゴはそれを察知し、咄嗟に目前の兵士の足を踏みつけた。

 撃ち抜いた足にさらなる激痛が走り、彼は体勢を崩す。ジャンゴはその隙に彼の後方へくるりと踊るように回り込む。

 BRATATATATATATATATAT!


「う、ごぁぁぁぁっ!?」


 彼を盾にして銃撃を防御しつつ、腕を持ち上げさせ、兵士の腕で拳銃を構え、引き金を引かせる。

 BLAMBLAMBLAMBLAM!


「ううっ、ぐっ!」


 アーマー越しといえど、装甲の薄い部位に的確に衝撃を与えれば、その激痛は凄まじい。

 ジャンゴはサブマシンガンを撃つ兵士が衝撃に体勢を崩し、その射線が自分から外れた瞬間を見計らい、盾にしていた兵士を投げ捨てるようにしてぶつけさせる。

 ふたりの兵士は衝突し、崩れるように倒れた。

 そして兵士が落とした拳銃を拾い上げると、絡み合うように倒れるふたりにトドメをさす。

 BLAMBLAM!

 ジャンゴはふたりを殺してすぐ、周囲の状況を確認する。

「くたばれ、クソ野郎!」SUV越し、反対側でアサルトライフルを構えた兵士がジャンゴを血走った目で睨んでいた。

 それを見たジャンゴはすかさず、分隊車両のSUVの車体側面を思いっきり蹴りつけた。車体が大きく凹み、ガラスは割れドアが衝撃に吹き飛ぶ。

 弱体化しているとはいえ悪魔由来の馬鹿力は健在であり、その怪力に蹴られたSUVは横に勢いよく滑るようにスライドし、質量の塊となってアサルトライフルを構える兵士に激突する。吹き飛んだ兵士はきりもみに飛び、背中からアスファルトに叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


「次……!」


 これで一分隊は始末した。次は誰だ。誰を殺す!

 ジャンゴは横を振り向き、次の獲物を探そうとした。

 だがそのとき、彼の目にある光景が目に入った。


「おかあさーーーーーん!ううっ、どこぉ……」


 親とはぐれた子供。銃撃戦の最中で、置き去りにされている。そして、そんな彼女のもとに、駆け寄る女性……カグヤだ!


「キミ、お母さんとはぐれたの?大丈夫、大丈夫だからね」

「お姉ちゃん……ひぐ、お母さん、わたし置いてちゃったぁ……」

「そんなことないよ。きっと、お母さんはあなたのことを一生懸命探してるから。一緒にお母さんと会いに行こう?さぁおいで」


 カグヤは探偵社の狙いが自分であるとわかっていながら、危険に晒される少女を案じ、自分よりも彼女を優先して助けようとしていた。

 それを見たジャンゴは、もどかしさと憤り、苛立ちを感じた。


(なにしてる……!)


 彼女の正義感ゆえの行動のためとはいえ、ジャンゴは自分の思い通りに彼女が動いていない状況を目の当たりにして、心が大きくかき乱された。

 それが、彼に隙を作った。

 カグヤに気を取られているうちに、死角側から爆音が聞こえた。こちらにものすごい勢いで迫っている……疾走するクルマの音だ!しかし、それに気づいた時にはもう遅い。


「ぐ……っ!」


 ジャンゴはおよそ時速100キロオーバーのSUVに撥ね飛ばされ、ワイヤーでぐいと引っ張られたかのように大きく後方へ飛んでいった。

 ジャンゴの身体はそのまま路上を越え、その先にある店のショーウィンドウを突き破って、ガラス片とともに店の中へ転がった。

 あのバカのせいでヘマした……。ジャンゴは仰向けに倒れたまま心の中で悪態をついた。

 それと同時に、このままでは分が悪い……というのを痛感していた。敵は大勢いる。もちろん、徒手空拳で戦うだけなら、なんてことはない、雑魚の群れだ。時間はかかるだろうが、全員を血祭りにあげることなど容易だ。

 だが、時間がかかるというのがネックだ。自分は今、カグヤを敵の手に渡さないようにすることを優先しなければならない。ゆえに、ただ戦うだけではこの状況を突破することはできないのだ。

 では、どうする。もっと効率よく連中を殺すには、武器がいる。

 先程拾った銃は?もう手の中にはない。撥ねられた際にどこかへ落としたらしい。

 ならば……。


「ひ、ひぃぃぃ、なんでこんなことに……!」


 そのとき、何者かの声が聞こえた。

 ジャンゴは倒れたままの状態で目を上に向け、逆転する視界で声の主を確かめる。

 そこにいたのは、ソードオフされた水平二連散弾銃を手にびくびくと怯える太った男。


「なるほど、これはツいてんな」


 ジャンゴはニタリと笑った。彼は跳ねるように起き上がると、流れ弾で穴の空いた店の入口のドアを見た。「GUNSHOP」!


「おいそこのデブ!銃をよこせ、今すぐにだ」


 ジャンゴはまだ追撃の様子がないことを確認しつつ、急ぎながら銃砲店の店主に注文する。

 店主は困惑と恐怖に苛まれつつも、「はい!はい!それはもう、はい!喜んで!」とぶんぶんと首を縦に振り震えた声をあげる。

 ジャンゴは店に並ぶいくつものガラスケースに収まる銃の数々を素早く確認して、品定めをする。

 だが、あろうことか……リボルバーの姿がどこにもない!


「……リボルバーはどこだ」

「うちではありませんよ!仕入れてないんです!」

「どこの世界の住人だリボルバーがないなんて?そういう宗教か!?」

「今はオートマチックしか売れませんよ!うちの店は小さいですし、需要が薄くなってるんですから!」

「|That’s bullshit!!《ふざけんな!》滅びろオートマチック……!」

「ひぃぃぃ!すみませんすみません!」


 そうこうしている間にも、敵は迫っている。そして、カグヤが危険にさらされる。ジャンゴは歯がゆい気持ちをこらえ、ここは妥協することにした。


「フォーティーファイブをよこせ。それで我慢する!」

「は、はい、ただいま!」


 店主はジャンゴの気迫に小動物のように怯えながら、言われるがまま45口径の自動拳銃を在庫からすぐにかき集めて用意する。

 AMTハードボーラー。スタームルガーP90。HK45。ソーコムピストル。グリズリーマグナム。グロック30。シグザウエルP320。

 ジャンゴはこれらを前にしてどれも趣味に合わずに顔を顰めた。だが、今はこの中から選ばなくてはならない。

 ジャンゴはルガーP90を手に取る。「弾もだ、早くしろ!」怒鳴り声に急かされた店主から紙箱と予備のマガジンを三つ受け取り、素早く弾を込めていく。

 そのとき、再びクルマのエンジンが放つ爆音が耳に入った。SUVが店めがけて突っ込んでくる!「ひぃぃぃ、もうダメだぁー!」店主の悲鳴が上がる!

 それに対してジャンゴは悠然とした態度でしわくちゃになったタバコを口に運び、火をつけ、割れて跡形もなくなった元ショーウィンドウの前に立つと、迫り来る砲弾めいた勢いのSUVを待ち構える。

 そして、あわや衝突直前……ジャンゴは拳を振りかぶり、SUVのボンネットめがけ思いきり殴りつける!

 SUVは迎え撃ったジャンゴの左ストレートによりボンネットが大きく陥没し、急停止するどころか弾かれたように後方へ滑り、遊園地のコーヒーカップめいてスピンした。それにより、二……三名の兵士が跳ね返ってきたSUVに撥ね飛ばされ、骨を粉砕されて地面に叩きつけられ、動かなくなった。

 ふんっとジャンゴは鼻を鳴らし、入ってきたショーウィンドウから出ていこうとする。しかし、なにか思い出したように一旦戻ると、「それもくれ」と店主の持つ散弾銃を指さす。

 うんうん頷いてソードオフショットガンと十分な弾を手渡す。ジャンゴはそれを受け取ると、右手にP90を持ち、左手にソードオフショットガンを持って紫煙をくゆらせながら店を出ていこうとする。

 だが、店主が恐る恐るそれを引き止める。


「あのー……お代は」


 ジャンゴは舌打ちをして、つかつか早歩きで店主の前まで戻ると、スラックスからボロボロのサイフを抜いて叩きつけるように置いた。


「ほら、ある分だけやる」

「ど、どうも」


 ジャンゴは今一度向き直り、「さぁ、反撃開始だ」今度こそ店から出ていく。

 そして、それを見送った店主は、サイフの中身を確認し……叫んだ。


「足りないッ!」


 ジャンゴは吹き抜けになったショーウィンドウから飛び出ると、店の横でジャンゴが出てくるのを待ち構えていた兵士のひとりをソードオフショットガンで撃ち抜く。

 BANG!

 アーマーを装着しているといえど、12ゲージの散弾を至近距離でくらえば一溜りもない。兵士は吹き飛び、血を撒き散らして地面を転がった。

 ジャンゴは腕をクロスさせてルガーP90を左斜め前からこちらへ銃を構えて走り寄ってくる兵士ふたりに45ACPの破壊力に富む弾丸をお見舞いする。

 BANGBANGBANGBANGBANGBANG!

 腕や脚、関節部の装甲の薄い僅かな隙間を狙って正確に撃ち、兵士を仕留めていく。

 続けてジャンゴはカグヤの姿を探す。

 ──いた。兵士数人が、彼女に迫る。迷子になっていた少女を庇うように立っている。少女は銃を持った兵士に迫られ、怯えて足がすくみ、動けなくなったようだった。ジャンゴは舌打ちしながら、彼女のもとへと駆ける。

 BRATATATATATATATATATATATATATATATAT!

 それを止めようと、ジャンゴを狙った集中砲火が襲いかかる。しかし、その射撃は風のように駆けるジャンゴを捉えることは出来ず、虚しくも無人の店や街頭の広告塔に穴を空けることしか出来なかった。

 ジャンゴが猛スピードで迫っているのを捉えた兵士たちは、カグヤからその標的を変え、ジャンゴにめがけて引き金を引く。

 BLAMBLAMBLAM!BLAMBLAMBLAMBLAM!BLAMBLAM!

 迫るジャンゴを迎え撃つ銃弾を、彼は走る勢いのまま前転で避け、兵士三人の懐へ潜り込む。

 まずは右側の兵士にソードオフショットガンをゼロ距離で突きつけ、引き金を引く。BANG!

 散弾が容赦なく腹部をぶち抜き、アーマーを越えて皮膚をズタズタに破壊し、贓物をぐちゃぐちゃにした。

 それと同時に、左側の兵士にはルガーP90をこちらもゼロ距離で突きつけ、引き金を引く。BANGBANGBANGBANG!

 胸部のアーマーに銃弾がめり込み、ひび割れ、そして破壊される。四発目が彼の心臓を撃ち抜き、兵士は糸の切れた人形のようにがくりと力を失って後方に倒れる。

 残るふたりの兵士の視線が、ジャンゴに向けられ……注目がカグヤから逸れる。その隙に、カグヤは勇気を振り絞り意を決して兵士のひとりに飛びつき、彼の手からサブマシンガンを奪い取る。

 カグヤは「……ごめんなさい」そう一言告げると、奪ったサブマシンガンの引き金を引いて、フルオート射撃で兵士のひとりにマガジンが空になるまで銃撃を浴びせ、その命を奪う。

 そして、最後に残ったひとりは、ジャンゴにギロリと睨まれ、恐ろしい気迫と情け容赦ない戦いぶりに萎縮し、がくがくと無様に震え上がる。

 戦意を喪失したからといって彼を見逃すほどジャンゴは甘くはない。素早く立ち上がると、彼のヘルメットに守られた頭部をソードオフショットガンの木製の銃把で強かに殴りつける。二度、三度、往復に。

 そして、脳震盪を起こして倒れかかる彼の頭を掴むと、ヘルメットのバイザーを開けルガーP90のチャンバーに一発装填してスライドを操作、銃身を捩じ込むように挿入する。そして、引き金を引く。BANG!

 ヘルメットの中で兵士の頭が爆ぜて血を撒き散らし、絶命する。ジャンゴは汚いものでも捨てるかのように乱雑に彼の弛緩した体を放り投げると、カグヤの方を向く。


「……行け!」


 と、簡潔に指示し、カグヤはうなずき少女とともに戦場から退避する。

 そんなガキに構うな、などとは言わなかった。そう言いたいところではあったが、踏みとどまった。彼女の善性に助けられた身分としては、それを踏みにじるようなことは言いたくないと思ったのだ。

 まったく、我ながら甘くなったものだ……と思いながら振り返り、ジャンゴは次の獲物を探し……すぐに手頃な標的を見つける。

 ジャンゴは再び駆け出し、放たれた矢のごとく肉迫する。


「くっ……」

「とにかく頭部を狙って撃て!チャーリー、フォックスはターゲットの確保を優先しろ!逃がすな!」

「了解!」


 指示に従い、分かれる兵士。

 ジャンゴはそれを横目で捉えながら、ルガーP90のマガジンを交換し、ショットガンをブレイクオープンして排莢、滑らかに二発装填する。

 BANGBANGBANGBANG!BANG!

 正面からの弾丸を迂回せず大胆に真っ向から立ち向かいながら、カグヤを追おうとする兵士の妨害をする。

 その射撃に兵士ふたりが犠牲となる。さらに、撃たれた兵士のひとりがアーマーに吊るしていた手榴弾に流れ弾が……否。これを狙った弾丸が命中したことで、爆発を起こす。

 KABOOM!

 衝撃と爆風によりさらにふたりの兵士が犠牲となり、辛うじて無事だった兵士も、地面や壁に身体をぶつけ、痛みに麻痺し、すぐには動けない状態になる。

 そして、足止めに成功したことを確認すると、再び標的を正面の分隊に戻す。


「くそお!」


 BRATATATATATATATATATATATATATATATAT!

 正面、停車するバンのドアから、機関銃を取り出した兵士が迫り来るジャンゴを狙って銃撃。だがジャンゴはまるで怯まず、いささかもその勢いを衰えさせない。それどころか、さらに加速して機関銃の弾幕を一直線に突き抜ける。


「うわぁぁぁぁぁっ!」


 悲鳴をあげながら、引き金にかかる指にさらに力を込めて弾をばらまく。それと同時に、分隊の仲間が援護射撃でさらに弾幕を激しいものにする。

 だが、それでも。ジャンゴは止まらない!

 そして、その距離が十分に縮まったとき、ジャンゴは勢いのままに前方へ跳躍、吸い込まれるように機関銃を撃つ兵士めがけて両足蹴りを繰り出す。

 その蹴りをくらった兵士は反対側のドアごと吹き飛び、地面をボールのようにごろごろと転がった。

 ジャンゴは突撃した反対側から流れるように飛び出て着地。立ち上がり、振り向く。まるで、幽鬼がごとくプレッシャーを伴って。

 バンを挟んだ位置でジャンゴと対峙する、分隊の残りの兵士たちは思わず竦み上がる。

 ジャンゴは、バリケードのように彼と兵士の間を阻むバンのサイドシルめがけて、足を繰り出し蹴り上げる。さながら、サッカーボールを蹴るように!KRAAAAAASH!

 バンはその鈍重な車体が嘘のように回転、宙を舞う。

 その信じられない光景を前に、唖然とする兵士たち。そして……ジャンゴは。バンというバリケードがなくなったことで、なんの障害もなく射撃が可能となった。

 BANGBANGBANGBANGBANG!

 情け無用の銃撃に、兵士四人は体を穿たれ穴だらけにされる。

 ジャンゴは彼らが崩れ落ちていく様をつまらなそうな無表情で眺めながら、ルガーP90とソードオフショットガンのリロードをする。

「……う、く……」辛うじて一命を取り留めた兵士が、うつ伏せに倒れたまま隙だらけのジャンゴを撃とうと震える手を上げた……そのとき、ジャンゴの虚ろな目と視線がかち合った。

 ジャンゴは狙われていると知りながらも、特にアクションは示さず、ただくわえていたタバコをぷっと吹き捨てた。そして、彼はつぶやく。


「ビンゴ」


 KRAAAAAAAASH!

 宙を舞っていたバンが逆さまに瀕死の兵士にピンポイントで落下し、彼をぐしゃりと押し潰した。爆ぜたように肉片と血しぶきをあげ、兵士は息絶える。

 ジャンゴは彼の死体に目もくれず、残る兵士たちと対峙しゆっくりと歩き出す。

 KABOOOOOOM!

 横転し爆発炎上したバンの爆風と炎を、その背に受けながら。

 黒いシルエットとなって朧に揺らめく彼の亡霊がごとき姿を前にした兵士たちの間には、明らかな恐慌があった。

 今、自分たちが敵対している存在が正真正銘の()()であることを理解し始めて、彼らはごくりと生唾を呑み込む。


「……どうした。さっきみたくもっと撃ってこいよ」


 ジャンゴは口元をニヒルに歪ませて笑い、静かな口調で挑発する。


「撃て、撃てぇーっ!撃ち殺せぇっ!」


 BLAMBLAMBLAM!BRATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATATAT!BLAMBLAMBLAMBLAM!BRATATATATATAT!

 恐怖をかき消そうとするような、悲痛な一斉射撃がジャンゴを狙って放たれる。

 ジャンゴは銃撃に晒される中、見せつけるように二丁拳銃にそれぞれリロードをしながら、獲物を追い詰める狩人のように悠然と歩を進める。

 恐怖を受けた銃弾が、彼に当たるはずもない。当たったとしても、それは急所には届くことはなく、致命傷にはなり得ない。

 ブレた照準では、ジャンゴの脅威を排除することは敵わないのだ。

 BANG!

 ジャンゴは歩きながら、ルガーP90を撃つ。

 BANG!

 ひとりひとり、無慈悲にその命を刈り取っていく。

 BANG!

 死神は止まらない。

 BANG!

 最後のひとりになるまで。

 BANG!

 敵をひとり残らず殺すまで。

 BANG!

 血の海を築き上げるまで。

 BANG!

 彼という虐殺の使徒を止める手だてはそれ以外にありはしない。


「化け物が……!」


 ついに最後のひとりとなった兵士は憎々しげに吐き捨てながら、逃げることなく果敢に拳銃の弾をひたすらジャンゴへと撃つ。

 BLAM!BLAMBLAMBLAM!BLAM!

 その虚しい銃弾のうち一発が、ジャンゴに命中した。兵士はさらに引き金を引く……だが、CLICK!そこで、弾切れである。ジャンゴに命中した一発は、彼の拳銃の弾丸、最後の一発だったのだ。

 ジャンゴは立ち止まり、命中した箇所に視線を送る。

 ズタズタに切り裂かれ、また穴だらけになった、ひどくボロボロになったダークグレーのカジュアルジャケットと白いダスターコート。

 ジャンゴはふぅ、とため息をつく。そして、BANG!躊躇いなく引き金を引いた。

 最後のひとりを殺し、市街地で起きた凄惨たる銃撃戦はついに幕を閉じた。静寂が帰還する中、ジャンゴはぽつりとつぶやく。


「一張羅だったんだけどな」


 ジャンゴはルガーP90をスラックスとシャツの間に捩じ込むように収めて、タバコを口にして一服する。


「……ジャンゴさんっ」


 そこへ、カグヤが戻ってきた。


「無事か?」


 彼女の行動について言いたいことはいろいろあったが、口に出すのを堪え、まず安否を確認する。


「ええ、あの子もちゃんとお母さんに会えて……」

「おまえのことを聞いてんだ、バカ。誰があのガキのこと聞いた」

「あ……ご、ごめんなさい。ええ、わたしはこの通り無事ですよ」

「そうかよ。……なら、いい」


 そのとき、ジャンゴの目にこの場から逃走しようと必死に這い進む生き残りの兵士の姿が目に入った。

 ジャンゴはつかつかと彼に近づき、逃がすまいと彼の背中を踏みつけた。「ぐえっ!」間抜けな悲鳴が聞こえ、彼はびくびくと痙攣する。


「おまえさんの行き先はそっちじゃねぇよ。あの世だ。今送ってやる」


 ジャンゴはショットガンを突きつけながら、ふぅーっとタバコの紫煙を吐き出した。

 兵士はぷるぷると震えながら、「……ざまぁ、みろ」と捨て台詞を吐く。

 その台詞に妙な引っ掛かりを覚えたジャンゴは足をどけ、彼を力任せに引っ張り起き上がらせる。


「今のは、どういう意味だ?」

「……」

「答えろ!おれを襲ったときも言っていたな。当たりを引いた、とか。いったいなんの話だ?」

「……誰が、言うか」


 BANG!


「づ、ぁあああああっっ!」

「次は逆の足を撃つぞ」


 反抗的な態度をとる兵士の右足をソードオフショットガンで撃ち抜き、粉微塵にする。

 激痛に荒い息を吐く兵士は震えながら、「わかった……!わかった話す!」と悲鳴を上げる。


「うぅ、ふーっ、ふーっ……!お、俺たちは……〈教団〉に頼まれたんだ。そいつを……〈巫女〉を、おまえらが匿っていることを突き止めたクライアント……クラウスは、俺たちに要求した。ぐっ、う……〈巫女〉を奪還するために、二手に別れて……オレたち探偵社であんたを、排除しろ、ってな。オレたち探偵社が……あんたを足止めしている隙に……〈教団〉側のクラウスが……あんたの拠点に……襲撃をかけ、〈巫女〉を捕らえる手筈だった……」

「……そんな。それって……!」


 カグヤが悲痛な声を上げた。

 つまり今……事務所は。

 自分を狙って、不運な行き違いから、襲撃を受けているということだ……!


「あんたが拠点を離れて手薄になっているうちに……クラウスたちが……〈巫女〉を捕獲する。そういう予定だったがあんたは……ターゲットを連れて、いた……だから、予定が狂った……。どちらにせよ、オレたちが……あんたを、邪魔者を殺し、〈巫女〉を捕獲すればどの道結果は同じだったが……このザマだ。く、ぐ……くくく、まぁいい。これで痛み分けだ……あんたの事務所はクラウスにめちゃくちゃにされる……他のお仲間も……全員殺されるんだからな……!」

「もう黙れ」


 BANG!

 ジャンゴはショットガンの狙いを頭部に移し、引き金を引いて無慈悲に破壊する。

 ……最悪の事態だ。

 トニーが、ベルが……危険に晒されている。

 ちょうどそのとき、ジャンゴの懸念を助長するように、携帯端末が通知音を鳴らした。送信者は……ベル。

 本文はなし。だが件名に……「たすけて」の文字!


「……急いで戻るぞ」

「わたしの……わたしのせいです」


 カグヤが涙目になって震えた声をあげる。

 罪悪感に苛まれたカグヤは腕を抱き、ジャンゴに悲痛な叫びで訴える。


「わたしが……わたしが皆さんと関わったから。こんな……!」

「黙れ!……黙ってろ」


 ジャンゴはカグヤに対して一喝する。


「……自分を責めんな。これはおれのせいでもあるんだよ。ひとりで背負い込むんじゃねぇ。それに……まだ手遅れになるとは限らないんだ」

「……」

「今は……最善を尽くすことを考えるこった。いいな」


 ジャンゴはそう諭すが、彼の心も込み上げる不安にかられて気が気でなかった。

 どうか、どうか……無事でいてくれ。

 そう願い、ジャンゴとカグヤは事務所に向かって全力で駆け出した。

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