Station to Station
さっそく、トニーは親友の要求に応え、自身の仕事場の工房から選りすぐりの銃を用意した。
まずはリボルバー拳銃をもう一丁。スタールM1858アーミー。44口径のダブルアクションリボルバーで、パーカッション方式の拳銃だ。
これはかつてジャンゴがニューフロンティアを使う前にサブアームとして持っていたもので、久しぶりの再開に「よくこんなものをまだ残していたな」と驚いた。
これは装填に手間のかかるパーカッションからメタルカートリッジ式にシリンダーを交換したコンバージョンモデルだ。そうすれば、緊急時に……ジャンゴがそんなヘマをするとは思えないが、念の為……予め装填済みのシリンダーに変えればすぐに六発撃つことができる。
次にレバーアクションライフル。ソードオフに改造したランダル銃。メアーズレッグだ。
この改造ウィンチェスターM1894は30-30ウィンチェスター弾という強力なライフル弾を放つことが出来るとともに、銃身を短く切り詰めているため拳銃同様に扱うことができる。
無論その分反動はシャレにならないが、それはあくまでも常人での話。ジャンゴならば問題なくこの銃を素早く、そして正確に連射できることだろう。
続いて破壊力に優れた散弾銃を一丁。ポンプアクションのイサカM37。
こちらも携行性を高めるためにソードオフに改造しているが、銃身だけでなく銃床も切り詰めていている。当初はピストルグリップのものを用意しようとしたが、クイックドロウの手軽さを考慮した結果、それは却下されこちらが選ばれた。
そして、コルト・モニター。制圧力と瞬間火力を求めて選ばれた得物だ。渡されたときに「ボニーとクライドか」とジャンゴは感心したが、「別物だよ」とトニーはそれを否定した。
最後に、38口径のコブラデリンジャー。装弾数はたったの二発ではあるが、隠匿性に優れ、相手の意表をついて撃つことができる。
「言われた通りに用意したが」トニーは重武装……外見からはわからないが……のジャンゴに苦笑した。「それだけありゃ、戦場でも安心してピクニックができそうだな」
「ああ。感謝している。いい銃だよ。さすがトニーだ」
「……ベルだ」
「なに?」
「礼を言うなら、ベルに言っとくれ」
「すると……銃をてがけたのは」
トニーは大きくうなずく。彼は嬉しそうな顔をして、自慢げに語った。
「あいつはすごいよ。わしの技術をどんどん盗んでいく。前に冗談めかしてベルが銃の声が聞こえるんだ、って言ってたがな、信じざるをえんよ。それにな、最近のうちの商品の半分以上は、ベルが手がけた銃なんだからな」
「……そうか。そうなのか」
穏やかな表情で、ジャンゴは携行した数々の銃に目を落とした。父親になったつもりはなくとも、それでもやはりベルの成長は嬉しいものだ。
トニーもそれは同じようで、顔がすっかり温和なおじいちゃんといった様子に綻んでいる。
「おまえさんに憧れるあまりガンマンになりたがってもいたが、あいつにはガンスミスとしての類まれな才能がある。できればそっちの方の道に進んで欲しいところだよ。そしたらいつか、店を出せるかもしれんからな。わしの跡を継いで」
「そいつは楽しみだな」
ジャンゴとトニーは顔を見合わせて笑い合った。
「さて、こんどこそ出発するか」
「ああ。気をつけてな」
「なにを言ってる。おまえも途中まで来い」
「は?」
「最初からおまえを叩き起してクルマを出してもらうつもりだったぞおれは」
さも当然、といった具合に、ジャンゴは肩を竦めて言った。もちろんトニーはそんなこと予想もしていなかったし考えてもいなかった。
「いや、おまえさんひとりで行けばいいだろ」
「おれは馬かバイクしか乗れん」
「ならバイクで行けっちゅーに。なんでわしを巻き込む」
「そしたら誰がベルを連れて帰るんだ」
「はっ? あいつまさか出てったカグヤさんについてったのか?」
「そうだが」
しれっとして答えるジャンゴに……というよりはベルの行動に対してトニーは顔を覆い、ひどくウンザリした様子でううんと唸った。
「なんだかバカみたいじゃないか……さっきからおまえさんにそれらしい言葉をかけて快く送り出そうとしていたわしが」
「ひどい三文芝居の演出だったな。大統領になるには程遠い。頑張っても副知事がいいとこだ」
「うっさいわい! なんだ、くそ、締まらんなぁ……」
そんなこんなで、結局ふたりで事務所のガレージに向かうことになり、トニーはぶつくさ文句を垂れまくる。
対するジャンゴはまったく悪びれる様子もなく飄々としていた。
「ジョンもベルも……おまえらは、こう、どうしてそう……わしを困らせるんだ? わしゃ虐められてるのか?」
「別にそんなんじゃない。信頼してるからこそだよ」
「そういえばわしのご機嫌を取れるとでも思ってんのかおい。だいたいな、なんでわしがおまえさんのことをこうまで心配してやってると思ってんだこのヒモめ。いつもいつも酒かタバコ三昧でだらだらとしておいて、さぁいざ行くぞ、って久しぶりに腰を上げたと思ったら、おまえもついてこい? 振り回すのも大概にしたらどうだね」
「よく言うよ、昨日目も当てられないほどべろんべろんになって帰ってきたくせに。しかも吐きやがった。きたねー」
「誰のせいだ誰の! そんなふうになるまでストレスをためさせてたのは誰のせいだ」
「元々の酒癖の悪さをストレスのせいにしなさんな。酒に弱いくせに酒好きを気取るんじゃない」
「あぁ? 誰が毎日毎日面倒みてやってると思ってんだこの引きこもりクソジジイ」
「鏡を見て言え。おれの方が若くてスマートだぞ」
「外見だけだろうが! あと言っておくがな、掃除はおまえがしろ。少なくとも自分の使うスペースぐらいは責任をもってやれ、なんでもかんでもわし任せにするんじゃないぞ」
「なんだ、あれ聞いてたのかよ」
「伊達に歳はとってないぞ。年々耳はよくなる一方だ」
「普通逆じゃないか?」
「どっかの誰かさんのせいでマトモな歳の取り方ができてないってことだよバーカ!」
だんだん、ふたりの言い合い……トニーが一方的に怒り、ジャンゴはのらりくらりとあしらっているが……はヒートアップを始めた。
トニーの顔は蒸気が出そうなほど真っ赤で、今にもその勢いで白髪が逆立ちそうだった。
「バカとはなんだバカとは。困ったことがあればすぐにおれに泣きつくくせに」
「んなっ。それはおまえにしか頼めないことだからだろ!」
「ふーん? カミさんと離婚したときにおれのとこに転がり込んだのもそうなのか? 大の大人が情けなくえんえん泣き喚いて行くところがないからここに住むだのなんだのって。泣き虫トニーがよく言うよ」
「あ、あれは仕方ないだろ! 子供まで連れてかれちまったんだぞ!? それに泣き虫だったのはガキのころの話だ! もう泣き虫じゃない……はず……」
「ほう? だがさっきベルの話をしてたときに涙ぐんでたろ。おれの目は誤魔化せんぞ」
「……泣いてない」
「泣いてた」
「泣いてない!」
「いーや、泣いてた。鼻も垂れてる」
「それだけはない。絶対に垂れてない!」
「あと匂いがくさい」
「そりゃ加齢臭ってやつだよ! 歳とりゃ誰だって通る道だ!」
「よかったな。ちゃんとマトモに歳をとってるじゃないか」
「がぁぁぁぁぁぁぁっ! ああ言えばこう言う! 死ね! くたばれ! このロクデナシ!」
……そんな子供じみた言い争いをしながら、ジャンゴとトニーのふたりはクルマで移動を開始する。
「おいおい。あんまり怒ると健康に悪いぞ」
「は! 穀潰しがよく言うよ。誰のせいでおれの健康が脅かされてると思ってんだか」
「おまえのまずい飯のせいじゃないか? 見かけは良くても味付けがなぁ」
「じゃあおまえさんが作れよ!」
「いやぁやめときますよトニー先生。おれは包丁でまな板を真っ二つにするタイプだからな。火を使えば火事になる。ま、そんなわけでおれとベルはジャンクフードから卒業できんのだ。ハンバーガーは最高だよ」
「ぬぁぁぁぁぁっ! おれがどれだけ苦労してると思って……! おまえなんかクズだ! 最低のクズ野郎だ! 悪党の中の悪党だよ、世界一、いや宇宙一の大悪党だ!」
「ずいぶん手厳しいな。しかもさっきと言ってることが違うぞ。おれは優しい人間だったんじゃないのか」
「おー優しいとも。そうともおまえは優しいよ、自分にだけ激甘だ。脳みそがハニートーストで出来てるぐらいの卑しい悪魔さ」
「それは言い過ぎだろ。よくてホットケーキぐらいだ」
「うるせぇ! どっちにしろ犬にでも喰われちまえ! ファーーーーーーーック!」
その道中、車内でもふたりの諍いは延々と続いていた。
トニーはクルマのカーオーディオ代わりとなり、ラジオどころかまるで重機関銃さながらに怒鳴り続けてジャンゴを退屈させなかった。
そうして、さすがに語彙もなくなり息が切れたころ、トニーのクルマはベルのもとへと辿り着いたのだった。




