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狼のエピタフ  作者: 高橋 久緒
第一章 出逢い邂逅
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8.タイガーリリー降臨

『次元斬』の魔法実験を終えた俺たちは、その後、沢山持って行った『豚の止まり木亭』謹製の弁当を仲良く食べて、暗くならないうちに伐採跡地を引き上げた。

 雷魔法の実験もしたかったが、条件が整わず諦めた。あと光魔法の実験もしたが、こちらは不発。もうちょっと理論を整えないと使い物にならん。殺傷能力低すぎ。目潰しくらいならいけるかもだが。

 帰りにギルドに寄った時、鑑定水晶でもう一度自分の魔法を調べてみて驚いた。理論と理屈が理解できた魔法がみんな表示されていた。それまで使えなかった風魔法から、火魔法、土魔法、それと聞いたこともない創造魔法なんてのもあった。

 『次元斬』なんて、これに分類されるんだろうな、多分。それとも、新しい魔法を創れる能力のことかな?よくわからん。

 いずれにしろ、俺の考えが正しいことは証明された。魔法発動の鍵は魔法に対する正しい理解と理屈だ。

 待ってろ、クソ蛇。次元斬でぶった斬ってやる。


「ねえ、ヴォルク‥」

毛布から、顔を半分だけ出して俺を呼ぶピー。帰って宿で夕食を腹一杯食べさせてから、すぐに寝かせた。

 ただ、お嬢様、そこは俺のベッドだ。1人用のベッドに2人は狭い。頼むから自分のベッドで寝てくれ。ピーは、保育施設に預けたあの日の夜以来、俺のベッドに潜り込んでくるようになった。

「どうした、ピー。寝れないのか?灯りを消すか?」

「ううん、いい。ヴォルクはやらなくちゃいけないことがあるんでしょ?」

 俺はここのところ、ずっと深夜まで考え事をしている。現代物理学を、いや、一狼時代の物理学を、正確に言えば、古代物理学か?それを魔法に応用して、強力な武器にするための方法論を。

「ヴォルク、私ね、ピーは今すごく幸せ‥」

「愛してるぞ、ピー」

 そう俺が言うと、ピーは恥ずかしがって顔を全部毛布で隠す。

「‥でもね、幸せすぎてちょっと怖い‥」

毛布の中からピーは言う。

「おやおや、それは困ったな。ピーはこれからもっともっと幸せになって行くんだぞ?」

 ピーは毛布の中で足をバタバタさせて喜んでいる。

 今は、天使のように可愛いこのピーが、10年後、あんな化け物になると誰が想像できたろう。

 曰く、『史上最凶の暴虐女帝』

 曰く、『最低最悪の最強エルフ』

 曰く、『秀麗絶佳の凶暴天使』


 その頃のピーは、名前をリリーと改名し、皆からは『タイガーリリー』の異名で呼ばれ、恐れられていた。


ーーそんな、タイガーリリーのエピソードを一つ。それは、俺とリリーがS級になって間もない頃の話だ。



「ああ?誰に口きいてんだ?このクソ雑魚が」

言い終わらないうちにリリーは相手の男の股間を思いきり蹴り上げる。

「ギャ‥!!」

あまりの激痛に男は両手で股間を押さえ、白目を剥き口から泡を吹いてその場に倒れた。

 つい先ほど、ギャハハハハという下品な笑い声と共に騒々しく現れた11人の半グレ集団の1人だ。冒険者ギルド=スクルド支部のロビーに雪崩れ込んできた、『都会の煌めきスターズ』とかいう馬鹿っぽいネーミングのパーティメンバー達。4、 5日前からスクルド支部で活動を始めた新参者だ。パーティランクはC。

「やっぱ田舎臭えな‥本部と比べるとよ」

「そりゃ仕方ないっしょ、スクルド支部なんて未開の森に隣接する、一番辺境のド田舎支部なんだから」

「でも、女は結構上玉もいたぜ!昨日ナンパして拉致ったのなんかよ‥」

そう言いかけた男は肘を小突かれ、小突いた男の視線の先を辿って思わず絶句した。

 そこには天使がいた。物憂げに絹のような長いストレートのプラチナブロンドをかきあげ、大きな目にはコバルトグリーンの瞳がキラキラと輝く。耳が尖っているからエルフ種だろう。珍しい。スッキリとした可愛らしい鼻に濡れたピンクの唇。肌が驚くほど白い。エルフ種には美男美女しかいないが、その中でもこのエルフは最高級の女王クラスの美しさだ。

 だが、ふと視線を下に落とすと、そこには股間を押さえて気絶している男がいた。先にロビーに入って行ったメンバーの1人だ。

「おい、ねーちゃん、仲間に何した?」

リーダーが少し怒気を込めた声でそう訊ねる。

「あ?舐めた口叩きやがったから、お仕置きさ」

天使のような美女らしからぬセリフが返ってくる。

口元が残忍な笑みを浮かべ始めた。

ドカッ!

足元で気を失っている仲間を蹴り飛ばしてこちらまで放ってくる。すごい脚力だ。あのスレンダーな体のどこにそんな力があるのか。

「とっとと連れて帰りな。二度とツラ見せんな」

「なんだと!舐めやがって!」

「‥っざけんな!クソ女が」

それを合図に6人が美女を取り囲む。そして我先にと殴りかかって行った。中には獲物を抜いている者もいる。

だが、1人だけリリーの正体に気付いた者がいた。

「みんな、ダメだ!逃げろ!ありゃ『タイガーリリー』だ!殺されるぞ!」

残りの3人はその言葉に攻撃を踏み止まった。

 しかし、殴りかかった6人はもう遅い。ほんの一瞬で6人がほぼ同時に戦闘不能にされていた。ある者は腕の関節を逆方向に折られ、ある者は両目を潰されていた。腕を斬られ無くなっている者、両脚を斬られている者。そして首を刎ねられた者、リーダーだった。

 彼らの悲劇はリリーを知らなかったこと。この街に来てまだ日が浅く、『タイガーリリー』を見たことがなかったことだ。


「そーいや、てめぇらの悪行、耳に入ってんぞ?」

斬り落としたリーダーの首を蹴り飛ばしながらリリーが言う。

「最近こっちに移籍してきた、都会のスターなんちゃらってクソパーティが、裏じゃ強盗まがいのことして一般人にまで迷惑かけてるってな。ああ?大方、本部の方でも何かやらかしてこっちに逃げてきたんだろ。困るんだよ、ギルドの看板しょってそんなことされちゃあよ」

 リリーは生き残ってまだ意識のあるスターなんちゃらを睥睨しながら続ける。

「おまけにS級の私にまでちょっかい出しやがって。S級冒険者がどういう存在か分かってんのか、お前ら。全世界にたった2人しかいねえ、あらゆる冒険者のトップだ。ギルド長や国家元首と同等の権限持ってんだぞ?S級は歩く国家なんだよ。ある意味、どこぞの王様なんかよりも偉えんだよ。なんでだかわかるか?S級はな、1人で国家に匹敵する、いや、凌駕する戦力を持ってるからS級なんだよ。そりゃそうだよな!一匹で国を滅ぼした暗黒竜を狩ることが出来るのがS級なんだからよ!暗黒竜よりも弱え国がS級に敵うわけねえよな?そんな私に暴行を加えようとしたんだぞ?てめえらは。死刑だろ。死刑だよな?無礼打ち上等だよな?」

腰からレイピアを抜きながら、リリーは言う。

「並べ。首刎ねてやっからそこに並べ」

その一言で、無傷だった4人は小便を漏らしながら逃げ出した。

「うっわ!ばっちぃ。追う気にもなんねえな」

そして、レイピアを鞘に収めながらリリーは近くにいた女性ギルド職員に言う。

「今の4人、探し出して殺しとけ」

「は!かしこまりました」

腰を90度曲げ深々とお辞儀したまま女性職員は言った。

「‥それはそうと、とっとと出て来い、ヴォルク!いつまで待たせんだ!カウンターの後ろに隠れてんのはわかってんだよ。てめぇの長ぇクソのせいで下等生物に絡まれちまったじゃねえか!」

カウンターを振り返ってリリーが言う。


 やべぇ、やベぇよ‥タイガー出てんじゃねぇか。どうしてこうなった?と、カウンターの後ろにへばりついていたヴォルクは思う。朝、泊まっているホテルで大をして来るのを忘れ、クエストに出発する直前になって催してきたため、リリーをロビーに待たせてトイレに行った。そして、出てきたら『タイガーリリー』降臨。さっきまでお嬢様モードだったのに。

「さっさと行くぞボケェ!クソトカゲで新しい武器の試し斬りが終わったら肉食いに行くんだからよ!」

怖い、肉食エルフ怖い。

恐る恐るカウンターの陰から出て、そろそろとリリーに近づいていくヴォルク。怯え切ったウサギのように。

「ちゃんと手ぇ洗ったか?」

「あっ‥洗いました!」

両手をリリーに見せる。

「そうか、偉いぞ!小便の時はいいけど、大便の時はキチンと洗わないとな!ウンコわ臭えから!」

いや、小便の時も洗え。あとエルフがウンコ言うな。

「ん?手が濡れたままじゃないか。どうしてハンカチを使わない?朝、ちゃんと渡したろう?」

慌ててズボンの後ろで手を拭いながらヴォルクは言う。

「‥あ、わ、忘れてました」

リリーの笑顔が引き攣る。

「はああああ?!忘れてたぁ?どぉりでお前のハンカチ毎日綺麗だと思ったら、そういうことか!そういうことなのか?!馬鹿か?馬鹿なのか?!死ぬの?かーーーーー!無駄無駄無駄ーー!私の毎日の努力、まったく無駄!全然無駄!お前は私の努力を無駄にする天才だな!」

「は‥はは‥恐縮です」

「褒めてねえぞ?はぁーーーー、豚に真珠、猫に小判、ヴォルクにハンカチ。新しい諺作りてぇのか、テメェわ!凄えなお前!吟遊詩人も真っ青だわ」

「いや、それほどでも‥」

「褒めてねえっつってんだよ!」

ゴン。ついに手が出るリリー。

「ケツ触んじゃねえ!」

ゴン!ゴン!‥‥

 2人はロビーを出て行った。先ほど受注したワイバーン討伐クエストをこなすために。

 声が遠くなっていく。

 ロビーに残されたギルド職員は途方に暮れた。

「どうします?これ」

奥からおっとり刀でやってきたサブマスに指示を仰ぐ。

 気絶している者が1人、意識はあるが床でのたうち回っている者3人、腕を折られた者と片腕を斬り飛ばされた者、両目を潰された者だ。あとの3人は死んでいる。首を刎ねられたリーダーと腹を蹴られ5メートル近く飛ばされた者、おそらく複数の内蔵破裂。もう1人は両脚を膝上で斬られた者、出血多量かショック死もしくは両方か。

 サブマスは、はあああと深いため息をついたあと、気を取り直したように顔をあげ、ぱぁん!と手を叩いた。

「まだ息がある者は救護室に、手当てはしなくていい。どうせ死刑だ。死体はスミに、衛兵に片付けさせる。あ、衛兵に連絡して!あと掃除、床掃除して、血を拭いて、テーブル片付けて。あ、そうそう、冒険者タグの回収も忘れないように」

そう言うと、一旦奥に引き上げようとしたサブマスは足を止め、再び職員を見回して言う。

「あー、皆もよく分かっていると思いますが、リリー様には絶対に逆らわないように。特に『タイガーリリー』、あれはダメです。死ねと言われたら死んでください。国やギルドが潰れます。頼みますね」

頼まれねえよ!と、ツッコむ者は誰もいなかった。

 はああ、と再び深いため息をついたサブマスは奥に引っ込んで行った。

m(_ _)m

新しい武器

魔剣!ライトセイバー

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