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狼のエピタフ  作者: 高橋 久緒
第一章 出逢い邂逅
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7.次元斬

「ピー、愛してるぞ」

俺はそう言うと、背負っていたピーを背中から下ろした。ピーは嬉しそうにニコニコしながら顔を少し赤らめている。可愛い。

 今日は、ピーとピクニックがてら、今は使われていない、森林伐採跡地に来ている。本当は体力保存のために1日中寝かせ、俺も1日中ピーの側についていてやったほうがいいのだろうが、お金を稼がないと生きていけない。俺は今まで貯金らしい貯金をしてこなかったので蓄えは少ない。このままでは俺とピーはおまんまの食いあげだ。1日中宿に籠っているわけにはいかない。

 昨日はあれから、吐いてもまだ食べようとするピーを落ち着かせた後、胃に優しくて、栄養のあるものをお腹いっぱいになるまで食べさせ帰宅した。

 ピーが吐いたのは、肉が食べられないのではなく、食べ慣れない肉をいきなり大量に胃に入れたからだ。ブロック肉ではなく、最初はハンバーグのようなひき肉にすべきだったと、少し後悔。

 ピーが何故いきなり肉を食べ始めたのかは謎だ。俺と結婚したかったのか?まさかね。だが『嫁』という言葉を聴いてからの急変だったような気がしないでもない。

 自慢ではないが俺は昔からモテた試しが無い。一狼時代を通して、通算60年間、ついぞモテ期は到来しなかった。その原因は、ヴォルク時代に限って言えば、この灰を被ったような汚い髪色のせいだ。子供の頃からこの髪だ。白髪に黒い髪の毛が少量混ざり、薄汚く見える。

 灰色狼のようだ。それでついた名前が『ヴォルク』。ヴォルクとは狼という意味だ。育った孤児院の院長が適当に付けた名前だ。ヴォルクは孤児院育ちで、両親の顔すら知らない。物心が付く前に孤児院前に捨てられていたらしい。本当の名前があったのかも知れないが、俺は知らなかったし、無かったのかも知れない。

 孤児院育ちは大抵、冒険者になる。その理由は冒険者登録は無料だからだ。無料で登録できて、人権が貰え、仕事も貰え、国の行政サービスも受けられるようになる。他の仕事に就こうとしたら国民登録しなければならない。国民登録しなければ働くことは出来ない。当たり前だ。人権が無いのだから、奴隷やモノと同じなので給金が貰えないのだ。しかし、国民登録には人頭税が掛かる。タダで行政サービスを受けることは出来ない。

 それでお金を持っていない孤児院育ちは、皆んな最初は冒険者になって街の雑用業務などの仕事を得るのだ。他の仕事がやりたくなれば、冒険者を辞めて国民登録をすれば良い。

 俺も例外では無く冒険者になり、実入のいい魔獣討伐を命懸けでこなし、何とか普通の一人前の冒険者、C級冒険者になったが、ここら辺で頭打ち状態だ。殆どの冒険者はC級止まりで、これ以上のB級冒険者、A級冒険者になるのは困難を極める。因みにB級冒険者は一流、A級は超一流。このクラスになるともう人外の域だ。百人力、千人力などという言葉があるが、まさにこれで、B級は百人相手に戦える戦闘力があり、A級は千人相手にすることができる。こうなるともう、俺に言わせれば化け物だ。

 B級冒険者もA級冒険者もすごく威張っている。まあ、実際に偉いのだから威張っていて当然だが、A級冒険者など貴族扱いだ。領主やギルマスと同じ権限を持っている。

 スクルド支部にはA級冒険者は2名いるが、殆どギルドにはいない。長期遠征に出ているか、ギルドに顔を出してもすぐにギルマス室かVIPルームに籠ってしまう。俺もほとんど見たことがない。一度遠くからチラッと垣間見たことがあるだけだ。

 ちなみにこの2名、犬猿の仲だ。この2名が鉢合わせしないようにギルドやギルマスは物凄く気を遣っている。ギルド内で喧嘩になれば大惨事が起きる。

 通常、支部ギルドにA級は所属していない。本部に移籍することが殆どだ。そうしなければ、権力構造がおかしなことになるからだ。

 しかし、魔獣との戦いの最前線である辺境支部では、時折こういうことが起きる。支部ギルドもせっかく自分の支部で育てた貴重な戦力を本部に取られることを嫌がる。痛し痒しだ。


「愛してるぞ、ピー」

森林伐採跡地の片隅にある、捨てられた木材の端にちょこんと座って休んでいるピーに向かって、俺は再度言った。

 愛は言葉にしなければ伝わらない、とよく言う。その通りだと思う。なので俺は1日10回以上、ピーにその言葉を伝えることを自分の義務と課した。最初は気恥ずかしさもあったが、もう慣れた。

 何せ、ピーの命が掛かっているのだ。恥ずかしい云々など言ってられるか。そんなこと、どうでもいいわ。

 ピーは、恥ずかしいのか、うつむき加減で顔を伏せ、スクッと立ち上がって俺に歩み寄る。

「‥私もヴォルク、大好きーー」

抱きついてきて、真っ赤になった顔を隠すように俺の胸に埋める。めちゃくちゃ可愛いい。ピーは何回かに一度、こんな反応を返してくれる。

 60年間、ついぞ無かったモテ期なのか。本当に俺のことを愛してくれているのなら、もうこのまま嫁にしてもいい。

 だが、その前に俺もピーも金を稼いで生きていかなければならない。今日、ここに来たのはピクニックではなく、本当の目的は魔法実験だ。

 金を稼ぐために、そしてあのギガパイソンを倒すために。それには俺の戦闘力を向上させなければならない。そのための方法論として、一狼時代の物理学知識を駆使して魔法を魔改造し、武器にする必要がある。

 今使える魔法を応用して威力を劇的に高めるのだ。おおよその目処はつき、理屈は何とか整った。後は、その理屈通りに魔法が発動するかどうかだ。

 魔法実験をするのにここを選んだ理由は、ここが廃棄された場所なため人目が無いことと、実験材料の丸太が放置されていること、そして伐採地の周囲も動物や魔物が駆除されていて安全だからだ。安全でなければピーを同行させることができない。


 準備は整った。20メートルくらい前方に太さ直径30センチ、長さ2メートルほどの丸太が横たわっている。

「ピー、見ていろ。計算通りなら、すげえことが起こるぞー」

 俺は両手を前に突き出し、右手、手の平を目標対象物の丸太に向け、左手、手の平をその丸太の左10メートルくらいの位置に向ける。

 すると、球体状に霧が徐々に湧いてきた。それは丸太の右端部分50センチをスッポリ覆い、直径1メートルほどになった。霧は内部が視認できる程度の濃度で発生が止まる。丸太の左側10メートルの位置にもほぼ同時に同じ形状の霧が発生していた。

 そして、次の瞬間、霧に包まれていた丸太の端の部分が一瞬揺らめいて見え、フッと消えた。

 と同時に、左側にあった霧の中央に突然現れ、ゴトンと音を立てて地面に落ちた。そして、二つの霧は徐々に霧散し、風に吹かれて消えて無くなった。


 ヴォルクは不敵に笑っていた。


「へっ‥成功だ。できたぜ、ヴォルク式『次元斬』」


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