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狼のエピタフ  作者: 高橋 久緒
第一章 出逢い邂逅
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4.冒険者ギルド

 目の前でピーが朝食のサラダを食べている。今日はちゃんとフォークを使っている。

 ピーは相変わらずサラダとパンを少ししか食べないので、女将さんに頼んで目玉焼きとベーコンは無しにしてもらい、その分サラダを増やしてもらった。

 昨日はあれからピーを風呂で洗って、服や靴、日用品の買い込みで店を何軒か回っていたら1日が終わってしまった。晩飯に『豚の止まり木亭』に寄った際、猫娘のミアちゃんにフォークとスプーンの使い方をピーに教えてもらった。なんと、ミアちゃんは身振り手振りだけで覚えさせてしまった。飲食店の店員だけあってさすがだ。伊達に看板娘やってない。この世界には人間以外の種族も多く、フォークやナイフ、スプーンを使う習慣のない種族も多いから教え慣れているのかも知れない。

 ああ、ちなみにピーを風呂で洗ったのは俺だ。この世界の銭湯はほとんど混浴ばかりで男女の区別はない。しても意味がない。何故なら銭湯に来るのは人間種だけではなく、様々な種族が来るからだ。他種族の裸なんか見ても何とも思わない。そもそも雄なのか雌なのか判別すらつかないのもザラだ。

 はしゃいで裸で走り回るピーを捕まえて洗うのに一苦労だった。


 朝食を終え、出掛ける支度のため一旦部屋に戻る。部屋は二人部屋に変えてもらった。ベッドも別々だ。ピーは一緒に寝たがったが、精神年齢は5歳でも見た目15歳だから、さすがにまずい。またオネショされても敵わないし。

 今日の予定はまた二人でギルドに行くつもりだ。ピーの冒険者タグを受け取りにいかないといけないし、俺は仕事だ。ピーの養育費を稼がないと。ピーはその間、ギルドの託児施設に預けられないか相談する。ギルドには冒険者専用の託児施設がある。なぜなら夫婦で冒険者をやってる人たちも多いからだ。そして、出来れば預けている間に言葉を教えてほしい。とにかくもうちょっとピーとコミュニケーションが取れないと話にならない。なんなら別料金で家庭教師を雇いたいがそんな金は無い。


 冒険者ギルドに着き、ピーの冒険者タグができる時間までギルドのロビーで時間を潰す。

 ロビーはかなり広い。冒険者ギルドの建物も立派だ。スクルドの街で1番でかい。役場よりも大きい。それが冒険者ギルドの権勢を象徴している。

 少し冒険者ギルドのことを説明しておくと、冒険者ギルドは商人ギルドや鍛治ギルドといった他のギルドとは別格だ。

 他のギルドは国家の下に作られた組織だが、冒険者ギルドは国家に所属していない。それは冒険者ギルドが冒険者という戦力を擁しているからだ。

 冒険者ギルドは国家間の紛争に関与しない。それは冒険者を保護するためであり、国家間の紛争、すなわち戦争などで冒険者の損耗、死亡を避けるためだ。

 もし冒険者ギルドが国家の下についてしまえば、国は必ず冒険者という戦力を戦争に動員しようとする。そんなことになれば、場合によっては冒険者同士で殺し合わなければならなくなる。冒険者の減少は即ちギルドの衰退であり、冒険者同士の殺し合いはギルドの自殺行為に他ならない。

 そのため各国の冒険者ギルドは連携し、一つの巨大多国籍組織になった。

 つまり、冒険者ギルドとは、ギルドの仮面を被った、領土を持たない一つの国家なのだ。従って、冒険者ギルドのギルド長及び、各国支部のギルドマスターは国家元首と同等の権力を持つ。  

 そして、冒険者ギルド総合本部のギルド長こそが、実質、この世界の最高権力者なのだ。


 10時になったので、早速先日の窓口でピーの冒険者タグを受け取る。金属でできたカードサイズのプレートだ。そこには10桁の識別番号と名前、種族名が打刻されているだけだ。いたってシンプルな作りだ。情報量よりも偽造防止に重点が置かれているためらしいが、どんな偽造防止策が施されているのか、詳しくは知らない。

 タグに一つだけ開いている穴に俺は用意してきた丈夫な革紐を通し、ピーの首にかけて服の中にしまう。冒険者にとって、命の次に大事なタグだ。

「絶対に失くすなよ」

そう言って、服の上からタグをポンと叩いた。

 その後、2階の託児施設を訪問して手続きをし、ピーを預けた。ピーは不安そうな顔をし、俺に着いて来たがったが、心を鬼にして置いて来た。別れ際に保母さんに銀貨を1枚握らせて、言葉と出来れば読み書きも教えて欲しいと頼んでおいた。

 ちなみに銀貨1枚は、一狼時代で換算して一万円くらいの価値だ。

 そして俺は一階ロビーに戻り、クエストボードを漁った。もう、この時間だと遅過ぎてロクな依頼が残ってない。

 夕方にはピーの引き取りで帰ってこなければならないため、そんなに遠出は出来ない。森の浅い所で適当に獲物を狩るしかないか、とクエストの受注は諦めて出発することにした。

 ロビーの片隅に設置されている、簡易鑑定水晶が目にとまった。ギルドがサービスで置いている物だ。自分の能力の把握は生死に直結するため、月に一度は鑑定することをギルドは推奨している。無料だが、自分が今どんな魔法が使えるかという事ぐらいしかわからない。

 そういえばもう何年も鑑定してないな、とヴォルクは思った。いつも『水魔法、治癒魔法(弱)』としか表示されない。もう、これ以上能力は増えないと諦め、いつしか鑑定することも無くなった。これが一狼時代の転生ものの漫画だったらチート能力でも授かるんだろうけど、過去世の記憶が甦っただけのパチもん転生じゃ無理だわなと思いながら、何の期待もせずに手をかざしてみる。

 水晶には『水魔法、治癒魔法(弱)』以外に『光魔法』が表示されていた。

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