2.一狼転生
「何じゃ、こりゃあああーーー!」
俺は目が覚めると上半身を起こし、毛布をはぐって股の辺りを確認する。やっちまったー!股から右足にかけてぐっしょり。30過ぎて寝小便?信じらんねー!こんなこと初めてだ。いや、子供の頃はしたけどさ。ここ三十年以上はしたことねえ!信じてくれ。
俺の名は秋山一狼。一郎じゃなくて一『狼』な。35歳の独身サラリーマンだ。何で郎じゃなくて狼なのか?そんなこと知らねえ。親父に聞け。今はそれどころじゃねえ。被害状況の確認が先だ。
急いでズボンの中に手を突っ込み濡れ具合を確かめる。あれ?おかしいぞ。ズボンはぐっしよりなのにパンツはあんまし濡れてねえ。敷布団は濡れてる。どういうことだ?
その時、足元で何かが動いた。やっと気がついた。足元の毛布が妙に膨らんでいて暖かい。何かいる!バッと毛布を一気に捲り上げる。
「何じゃ、こりゃああああ!」
足元には15、6歳の全裸の少女が小さく丸まって、すやすやと寝ていた。
15、6歳といえば中学生から高校生くらい?裸ってことは俺、やっちゃった?やっちゃったの?やばい、淫行条例で捕まるじゃん。
あれ?待てよ。俺、ズボンもパンツも履いてる。ってことは、やってない?やって無いに違いない。どっちにしろ記憶はねーんだ。やってないで通すぞ!
そう決意を固めた時、ふと気がついた。このおねしょ、この子じゃね?最初は普通に俺の右隣で寝てたけど、おねしょをして濡れている箇所が冷たくて居心地が悪くなり、それで濡れてない足元に移動して丸まってた。そう考えればなぜ足元にいたのか、全ての謎がとける!犯人はお前だ!コナン顔負けの名推理。
毛布を剥かれた全裸少女は寒くなったのか、肩をブルッと震わせた後、右手をパタパタと動かし毛布を探っていた。手が届く範囲に毛布がないことがわかると、観念したようにゆっくりと眼を開け、顔をこちらに向けて呟いた。
「‥へぷー‥」
まじまじとこの子を見つめた俺はかなり驚いた。ちょっと痩せすぎてはいるがめちゃくちゃ美少女だ。
発光してるんじゃないかと思えるような明るい綺麗なストレートのプラチナブロンド。大きな目に宿るエメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝いている。高すぎず、低すぎないスッキリとした鼻に薄桃色の唇。肌は驚くほど白い。こんなアニメみたいな美少女、見たことねえわ!
そして何より驚いたのが尖った細い耳。
「‥エロ、ちがっ、エルフ?」
フリーレン!と叫ばなかった自分の自制心を褒めたい。
その時だった。部屋のドアが激しくノックされ、外から女の声が響いてきた。
「ちょっとヴォルク。朝から変な奇声あげないでちょうだい。他のお客さんに迷惑でしょ」
ヴォルク?ヴォルクって誰だ?あ、俺だ。いや、違う。俺は一狼だ。
「一体部屋の中で何してんの。ちょっと出てきなさい。うちの宿は、壁が薄いからまる聞こえなのよ」
宿?今、宿って言った。ここ、どこなんだ?改めて部屋を見渡すと、いつもの俺の安アパートじゃない。一体何がどうなっているんだ?俺は昨日何をやっていたか思い出そうとしたが全く覚えていない。
「もう入るわよ!ったく」
ドアノブをガチャガチャやりだすドア向こうの女。
やばい、合鍵か?入ってくる!何がやばいのかよくわからないが、とりあえずベッドで丸まっているフリー… エルフ!註:英語では、裸のエルフのことをフリーエルフと言う(嘘)
フリーエルフとおねしょの跡はまずいだろう!慌ててベッドの下に落ちていた毛布で隠し、急いでドアに向かう。
その途中ふと横を見ると鏡があった。鏡の中に別人が映っている。歳のころは20代半ば。筋肉質な上半身、灰色の髪の毛、顎には汚い無精髭。どう見ても自分じゃない。
手のひらでペタペタ顔を触り確認してみる。鏡の中の人物も同じ行動をしている。間違いない、俺だ‥。
「何じゃこりゃあああああーーーー!!」
本日、三度目の松田優作降臨。




