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狼のエピタフ  作者: 高橋 久緒
第二章 飛翔
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10. スタンピード

 クジュ王国王宮2階、最も奥まった場所にある謁見の間、隣にある御前会議室ではクジュ王を含めたクジュ王国閣僚が集められ、緊急の御前会議が開催され、紛糾していた。


「なんじゃ、これは!こんな紙切れ一つで奴ら、手の平を返してきよって!」

財務卿が、忌々しげに国王宛に届いた冒険者ギルド通達文を円卓の上に投げ捨てた。

 その通達文は国王宛の上奏文の体をとらず、親書として届けられた。内容はヴォルク、リリーという2名の冒険者には一切の手出しをするな、すれば全面戦争も辞さないとする、丁寧ではあるが、かなり強烈な文言が綴られていた。

「たかがギルド風情が、礼を欠くにも程があるわ」

「冒険者ギルドごときが、散々我国に寄り掛かって甘い汁を吸っておきながら!」

「実情は逆であろうが。これまで冒険者ギルドは常に我らの味方であったろうに」

「甘い汁を吸っていたのは卿ではなかったのか?」

「何を申すか!軍務卿!」

「よさぬか!王の御前であるぞ」

通達文を手に取りながら軍務卿ガイルは言う。

「このA級になりたての2名の冒険者が何だというのだ、ギルドは。我が軍の精鋭部隊で捻り潰して見せましょうぞ、陛下」

「馬鹿を申すな!軍務卿。冒険者ギルドと全面戦争をする気か!向こうは全冒険者が即ち兵士ぞ!我が軍の10倍、いや100倍を相手に、しかも向こうはA級を何人抱えていると思っておるのだ!陛下の御判断を誤らせるような戯言を申すな!」

「しかも、ギルドを支配しておる『東方の十賢者』は、暗黒竜を操ると聞くぞ。三十年前、我が国に侵略戦争を仕掛けようとしたスリゼイ王国は、十賢者によって操られた暗黒竜に滅ぼされたともっぱらの噂」

「な、なに!そんな噂は知らぬ!」

「全冒険者及び暗黒竜を相手に勝てるとする軍務卿、すごい自信であるな。かつてご自慢の精鋭部隊はA級冒険者1人に子供扱いされておるのに」

「!‥‥‥」

顔を真っ赤にして軍務卿は黙り込んだ。

 しばしの全員の沈黙を破って宰相が言う。

「何ですか?その十賢者というのは」

「‥そうか、宰相は知らぬか‥」

クジュ王、クジュウ八世は仰向き、天井から吊るされた、魔石で光るシャンデリアを見つめながら言う。

「『東方の十賢者』とは、かつて初代勇者様が転生なされた時、どこからともなく集まり、勇者様を祝福し守護したとされる者等でな、勇者様没後、世界各国で冒険者ギルドを立ち上げ、市井に転生される勇者様を探していた者達よ。我が国が誕生する、ずっと以前の話だ。もちろんその代の十賢者は没しておるが、その後も連綿と冒険者ギルドのギルド長と9人の役員が、その任を継いでいるとされる」

「で、では冒険者ギルドとは、単なる職業ギルドではなく、勇者探索機関なのですか?」

「であるからこそ、勇者の国、クジュ王国は冒険者ギルドのあからさまな庇護を受け、ここまで成長したのだ。それをお前達は勘違いしおって‥」

「で、では!この2名が新たな『勇者』ということですか!そんなことは一言も書いてありませぬ」

「冒険者ギルドがはっきりと勇者認定をしてしまえばどうなるか、宰相はそんなこともわからんか。勇者様がもし、大陸統一に動かれたらどうなる?各国は自衛に動くだろう。少なくとも勇者暗殺を企てる国は一つや二つではあるまい」

「し、しかし、そうなると一番被害を受けるのは、我が国!我が国の建国理念は‥」

「うむ。新たな勇者が現れたなら、予は国を譲らねばならん。しかし、それが真に国民の為になるのであれば予は一向に構わぬ」

「なりませぬ!」

「なりませぬぞ!陛下!」

「王太子殿下というお世継ぎも決まっておりますのに、動乱がおきまする!」

 建国の理念も忘れ、保身に走るか、このバカ共は、とクジュ王は深く絶望した。しかし、こんなバカ共しか重用できぬ自身もまた、王としての資質を欠いている証拠と深く恥じた。

「冒険者ギルドが『勇者』とハッキリと明言しておらぬ以上、王位を譲ることもできぬな」

「おお‥」

ほぼ全員の閣僚が安堵した。

「陛下、この二名が勇者かどうか、その人となりを確かめる為に召見してみられてはいかがでしょう?」

宰相が提案した。

「ほう、その者らがその場で勇者宣言をし、王権を譲れと迫ってきたらどうする?あるいは不測の事態が起き、その者と我らが敵対することとなったらどうするのじゃ?そもそも、『召見』がその者らに対する『手出し』には当たらんとする根拠はなんじゃ?」

「馬鹿者が!もう少し考えてから発言せよ!」

「そんな危ない橋が渡れるものか!」

宰相は全員からの非難を一身に浴びた。

「‥で、では我々はどうしろと!?誰か良い案はあるのか!」

「何も出来んよ。何もしてはならん!通達文にそうあるであろうが。何もするなと。その通りに動くしかあるまい」

「‥‥」

全員が沈黙した。

国王は続ける。

「むしろ、他にやるべきことが山積みよ。我が国はこれまで冒険者ギルドの後ろ盾があればこそ、軍備をおざなりにし経済発展に注力出来たのだ。これからそれが望めんとなれば、軍備に財政を注ぎ込むしかあるまい。となれば、財政状況は悪化し、経済も逼迫するぞ。ギルドからの財政援助も受けられぬ。そんな状況で他国と渡り合わねばならんのだ。まあ、他国と同じ状況になるというだけではあるがな」

「‥‥」

重い沈黙が場を包む。

 クジュ王は続けた。

「卿らに厳命する。この二名の冒険者に一切の手出しを禁ずる。そして、予想される国難に全力で対処せよ。また、王太子派閥の動きに注意せよ。勇者候補らへの謀略に動くようであれば、誅することも躊躇うな。以上だ」

 

 クジュ王国王太子殿下が身罷られたのはこの会議からニ週間程経ってからだったという。



「御主人様、この理屈からいえば、いちいち水蒸気を出さずとも、空気を量子もつれ状態にしてしまえば転移魔法は発動するのではありませんか?」

「いい所に気がついたな、ピー。その通りだ。だが俺は魔力が弱い。魔力を効率よく使う為には目視できる対象物が必要なんだ。だが、魔力の流れが見えるお前なら空気を量子もつれ状態にすることは可能だろう。いきなり空中に仕舞うようにストレージを利用することも可能だぞ。やってみろ」

 

 俺とリリーは、最後の物理学授業にスクルドの街の南東部広がる平原に来ていた。

 量子力学、そして量子力学と相対性理論を繋ぐ超弦理論を説明し終わり、ER=EPR仮説も解説が終わった。

 念力=魔力がなぜ人間の念いに連動して魔法が発動するのか、魔素=ダークマターがどのように働き、念力となるか、その仕組みが理解できなければ転移魔法は使えない。

 ダークマターを触媒、中継網とした第五の力でマクロ物質に物理出力を出している、という理屈なので消費している訳ではない。従って、どれだけ強い魔法を連発しても魔力自体が弱まる事はないが、脳や神経系が代謝エネルギーを大量に消費するため、脳加熱や疲労という『スタミナ切れ』を起す。

 念力で量子コヒーレンス状態を維持するのは大変なのだ。

 そこから更に多世界解釈や多次元宇宙論の理解を経てようやく転移魔法の発動が可能になる。


 こうしてリリーは霧ではなく、空気の量子もつれを利用した転移魔法とストレージの使用が可能となった。霧で視界が塞がれた状態での転移より、リリーの空中で突然消え、現れる状態は見ていて幻想的だ。また、ストレージの利用も霧を発生させる1行程を省くので、収納や取り出しも非常にスムーズだ。ちょっと悔しい。

 だが、もっと悔しいのが、リリーの次元斬だ。リリーの次元斬は俺の次元斬を更に発展させ、剣を使う。

 リリーに買ってやった剣は安物の片刃のレイピアなのだが、そのレイピアの刃側に入り口の量子もつれ状態にした空気を纏わせ、背側の1センチ後ろくらいに出口の量子もつれ空気を作る。

 するとどうなるか?レイピア自体は普通のレイピアに見えるが、斬れないものは無い、魔剣のような効果を発する。まあ、魔法を纏った文字通り魔剣なのだが。

 つまり、刃に触れた物質、正確に言えば刃に触れる寸前の物質を次々と刃の背後に強制転移させているので、どんなに硬いものであろうが、厚みがあろうが、斬れない物は無いのだ。

 魔力の暴力を駆使したリリーならではの次元斬だ。

 そして、空中で素振りをしている時は普通なのだが、魔獣など、密度が高い物を斬った場合、刃の背後に落ちてきた物質と転移して出てきた物質が時々重なり合い、アーク放電を起こす。

 それが超カッコいい!あー悔しい!俺の次元斬なんて霧でハッキリ見えないのに、リリーの次元斬は放電を伴い、バチバチって効果音まで付く!

 これはもう、今夜、御主人様として生意気な奴隷を折檻するしかないね!リリーにはご褒美だが。覚えておくが良い。変態リリーめ。

 だが、魔法の天才リリーでも、なぜか雷魔法だけは発動できなかった。

 理屈としては、指一本分の空気の原子核をストレージに入れてやればいいのだが、原子核がどういう物か、どうなっているのかが上手くイメージできないようだ。

 ま、体術や剣術、魔法でも、もう俺よりリリーの方が強くなってしまったので、一つくらいは御主人様にアドバンテージ残しておいてくれ。


 この後も物理学講義は続き、量子消しゴム実験では過去の改変すら可能と解釈できる結果が出たこと、つまり、魔法で過去を変えることができる可能性もあることを説明すると、リリーはめちゃくちゃ驚いていた。

 おかしかったのが、シュレーディンガーの猫の思考実験の話をした時、リリーは、どうしてシュレーディンガーさんはゴブリンじゃなくて猫ちゃんで実験したのだ、可哀想ではないか、動物虐待だとマジオコしてたことだ。

 いや、思考実験だから、猫ちゃんは殺してないよ?ゴブリンでも動物虐待よ?


 最後の物理学講義を終えると、タイガーが無理矢理出てきて、次元斬の試し斬りで、大はしゃぎで未開の森の木を斬りまくっていた。ギャハハハと笑いながら森林破壊をする様はまるで破壊神のようだ。鬼に金棒どころか、タイガーリリーに次元斬は禁断の組み合わせだ。

 この技、俺の次元斬と区別するため、『真・次元斬』と命名しよう。


 スクルドの街で、適度に魔獣狩りをし、冒険者として普通の生活を送り、魔法や技の精度を高めていった。そうして、一月ほど過ぎた頃スタンピードの明確な兆候が出始めた。

 未開の森深層部に強い魔獣が集結し始めたのだ。魔獣が集結するようなことは普段は有り得ない。互いに潰し合うからだ。しかし、強力なリーダー個体が統率した時は別だ。この時だけは魔獣の群れは互いに潰し合うことを止め、別の目標に向けて団結する。人類種の街を潰し、蹂躙するという目標だ。

 リーダーはA級魔獣のキマイラだった。キマイラはA級魔獣としては少し特殊で、そのサイズや合成している魔獣種によってA級かB級かの判定が分かれる。弱小魔獣同士が合成し、強くなっても、せいぜいB級判定にしかならないが、強力な魔獣同士が合成した場合、A級魔獣に、時にはA級クラス同士が合成して超A級魔獣になる場合がある。

 こうなると厄介だ。A級冒険者がパーティを組み複数で、あるいは大人数で当たらなければならない。

 今回のリーダー魔獣のキマイラは正にこれだった。標準とされるキマイラはライオンの魔獣、山羊の魔獣、ヘビの魔獣あたりが合成されているのだが、今回のキマイラはその標準体が更にワイバーンを取り込んでいる。そのため、その体は巨大化し、30メートル近い。魔力も強大で飛行能力もある。

 もう、魔獣というより怪獣である。

 最初は集結していた魔獣の数は500匹程だったが、その数は徐々に膨れ上がっていき、2500匹近くになった。偵察に出ていた冒険者は2500匹を超えた時点でカウントをやめた。恐らく最終的には3000匹くらいになっていたのではないだろうか。

 そして、魔獣の侵攻が始まった。かつて観測されたことがない大規模なスタンピードとなった。ギルマスは慌てふためき、領主は街から逃げ出した。

 スタンピードが街に到達する3日前になって、街の人間の半数がいなくなった。代わりになぜかスタンピードを見学に来る者が結構な数いた。クジュ王国内だけでなく、他国から来ている者が多かった。

 冒険者ギルド総合本部の役員も1名来ていた。カスパールという70近いおじいちゃんだ。よく来たね、こんな辺境の街まで。

 カスパールは俺とリリーに張り付いている監視?SP?の2名と頻繁にやり取りしていた。

 そして、ギルマスはその役員の接待に追われ、逃げ出すこともできず困っていた。まあ、スクルド支部の指揮を執らないといけないので逃げるなんて選択肢は無いんだけどね。

 本部所属のA級冒険者、シンも来ていた。王都の立食パーティーでリリーをナンパしていた奴だ。カスパールの護衛で来たらしい。

 スクルド支部がスタンピード対策をほとんど何もしていないのを見て驚いていた。俺が何もしなくていいとギルマスに指示していたからだが、シンの方が慌てふためき、あちこちを駆けずり回っていた。


「本当に大丈夫なのか?こんな無対策で。ギルドは平常運転じゃないか。あり得ない!せめてどういう作戦なのか聞かせてくれ!」

 シンは慌てふためき、俺に掴み掛かってきた。その時、俺の隣に居たのはタイガーだったので、シンはリリーに殴り飛ばされた。

「おい!テメェ!!俺の御主人様に何しようとしたぁ?ブチ殺すぞ、ゴルァ!ダルマと一緒に真っ白な灰にしてしてやろかぁ?ああ!?」

 シンはパーティで会ったリリーとのあまりの違いに尻もちをついたまま目を白黒させていた。

 ちなみにダルマこと『戦神』ゴロンゴロは俺との賭けの行く末を見るため、ギルドに来ているのだが、リリーに虐められ自室に引き篭もっている。ご自慢の立派だったアダマンタイトの鎧は『真・次元斬』でボロボロにされていた。


 スタンピードがいよいよ街に迫ってきた。当日は朝から曇り空だった。

 スクルドの街、南東部の平原地帯。3キロメートル向こうにはまた森が広がる。その森の端に続々と魔獣が集結し始めた。

 そして、昼近く、森の奥から全長30メートル、尻尾のヘビを入れれば40メートルの怪獣キマイラに率いられた、3000匹以上に膨れ上がったスタンピード本隊が到着し、それに合わせて平原への行進が始まった。

 地平線を埋め尽くす魔獣の群れ、空はいよいよ雲が厚くなり真っ暗だ。この世の終わりを彷彿とさせるその光景に皆が恐怖した。


 一方、迎え撃つのは俺1人。南東の街壁天辺の見張り用通路にゴロンと横になり、片肘を付いて魔物の群れを見つめながら、どこら辺にテスラを撃ち込めばいいか、計算していた。

 街壁通路は最高の観覧席だ。俺の魔法の噂を聞き付けた観客達が押し寄せていた。

 通路の真ん中辺り、スタンピードの最前線にあたる場所に俺は寝転び、俺の前にはマントをはためかせ、腕を組んで仁王立ちをしたタイガーリリーが、魔獣の軍勢上空でホバリングしている怪獣キマイラを睨み付けていた。

 リリーちゃん?今日の主役は俺なのよ?まるで君が主役のような陣取りじゃない?ちょっとそこ邪魔、どいてくんない?

 でもまあ、万が一、テスラがアクシデントで不発に終わったらリリーちゃんに何とかしてもらわないとなので、文句は言えない。

 俺の左右の特等席には、ゴロンゴロやギルマス、役員のカスパール、シンもいた。


 いよいよ、魔獣の大軍が街壁から1キロの地点に迫って来ていた。

 俺は、よっこらせと立ち上がり、リリーを脇にどけた。

「いいか、ピー。絶対に飛び出して行くなよ。テスラに巻き込まれたら一瞬で蒸発し、跡形もなくこの世から消え去る。わかったな」

 リリーは黙って頷いた。

「さあ、花火大会の始まりだ!」

俺はマントを翻し、両腕を突き出して次々と直径1メートル大の霧のボールを魔獣軍勢のあちこちに設置していく。指先で指定したその場所に設置された霧のボールは、100メートル間隔で、横に長いグリッド状だ。

 霧のボールは全部で15個、最後に大将キマイラの近くに1個設置するのも忘れない。

 空からポツリポツリと雨が降り始め、遠くで遠雷が響き渡っていた。


「くらえぇぇ!轟雷!!テスラ!!」


 魔獣軍勢の咆哮を押し返すように叫ぶと同時に、ストレージに貯まった『雷撃=バルヴォルト』の残り滓、指一本分の空気の原子核を一斉に16個の霧のボールに放り込んだ!

 次の瞬間、この世のものではない地獄の光景が魔獣ひしめく平原に繰り広げられた。

 16個の霧のボールからの凄まじい発光と同時に、上空を覆った黒い雷雲から、無数の落雷が降り注いだ。

 数億ボルトの逆放電から放たれた強烈な閃光が街壁上の観客に届く。空気中の水分は一瞬で沸騰、蒸発し、火傷しそうな乾いた熱風が観客に吹き付ける。無数の轟音が重なり合い、超重低音となり街壁を揺らした。

 霧のボールがあった爆心地では、落雷が直撃し、逆放電による凄まじい電位差が原子間の結合エネルギーを引き千切り、その周りにいた数百匹の魔獣は分子レベルでバラバラとなり、プラズマの光の中に消え去って肉片の一つも残らなかった。

 霧のボールから離れた地点にいた魔獣たちも生き残ることはできず、無数の落雷が同時に引き起こした超高圧の衝撃波が重なり合い、一瞬で押し潰され、弾き飛ばされた。

 それまで平原だったその場所は、無数の巨大なクレーターと炭化した魔獣の残骸が残る、地獄の荒野と化していた。


 あまりの凄まじい光景に観客達は誰も呻き声すら発することができず、唖然としていた。

 俺もびっくりだよ。まさかこんなに威力があるとは。いや、ちゃんと計算していてこれくらいの威力になるだろうなとは思っていたけど、自然条件も味方して、想定外の威力だわ!落雷が余分だったわ。オーバーキルもいいとこ。

 『ノヴァフレア』と一緒にこれも禁呪指定だ。

 皆が唖然とする中、1人ではしゃいでいたのはリリーだけだった。

「すげぇーー!すげえ!見たか!偉大なる御主人様の魔法をー!かっけーー!チョーカッケー!おい、だるまぁー!見たかっつってんだろが!」

 ゴロンゴロがリリーに蹴飛ばされていた。


 少しすると、猛烈な雨が降りはじめた。テスラによって熱せられた大気と大量の水蒸気が上空で急激に冷やされたためだ。

 土砂降りの雨の中、それでも誰も動こうとしなかった。

 やがて、誰かが言い出した。

「‥勇者だ‥」

「勇者様だ!」

「『勇者』ヴォルクだ!勇者!勇者!」

 あ、まずい、と俺は思った。そんな二つ名が付いてしまったら、どっかの国に暗殺される!やーめーてー!

 すると別の所から声が上がった。

「『雷帝』だ!雷帝がいい!見たろ!あの雷魔法を!雷帝だー」

「そうだ!雷帝だ!『雷帝』ヴォルクだ!」

「雷帝ヴォルク万歳ー!雷帝ヴォルク万歳ー!」

 バンザイコールは中々止まず、ちらっと見た役員カスパールさんは両手で顔面を覆い、おいおいと泣いていた。

 あなた、ギルド長室のカーテンの向こうでも泣いてたよね?いい歳して泣き虫なの?

 この時の俺は、雷魔法は『勇者』にしか扱えない、伝説の魔法だなんて知らなかった。


 その後も中々バンザイコールは止まず、ギルドの自室に戻った時はパンツまでぐっしょりだった。

 着替えでリリーが素っ裸になっている時に、シンが部屋を訪ねて来た。

 即座にリリーが反応する。

「テメェーー!俺の乳見に来たのか!お前になんか触らせてやんねーぞ。これは御主人様のものだからな!お前には1ミリもやらねぇ!」

いや、その前に乳とお股を隠しなさい。全部、シンに見られてるよ?タイガーには性教育が必要だ。

 部屋の外で立ち話をする。

「なんか話か?」

「いや、特に用件は無いんだけどね。最後に君の顔を見ておきたくて。僕は任務が終わったんで、明日、本部に帰るんだ」

「は?カスパールさんの帰りの護衛はどうすんだ?」

「‥いや、これは発表前だから秘密なんだけど、カスパールさんはこのまま、ここのギルマスに就任する」

「え?役員が支部のギルマスに?左遷なのか?」

「いや、役員のままここのギルマス兼任らしい」

「へー、珍しいな。そんな人事」

「‥僕もね、本部に帰ったら冒険者を引退する。ギルド職員になるよ」

「何でだ?お前、相当やるだろ。A級の中でもトップクラスだろが」

「‥いやー、君と比べちゃうとねぇ‥。君は凄い奴だったんだなあ。コイツには敵わないと思ったのは君が初めてだよ。いつかはS級にと思ってたけど、暗黒竜倒すのはとても無理そうだしね。A級トップも無理そうだし」

「そうか」

「今度はギルド職員のS級、ギルド長目指して頑張ってみるよ。それで世界を獲ってみせるさ」

 その時、部屋のドアがガチャっと開いて、裸のままのリリーが顔を覗かせて言う。

「なあ、ヴォルク。俺の乳、揉まねえの?さっきから裸で待ってんだよ、風邪ひいちまうよー」

「ああ!揉む、揉む。ちょっと待ってて、すぐ戻る」

そう言うと俺はリリーを押し込めてドアを閉めた。

「あははは、君も忙しそうだからもう、行くよ。僕は総合本部に赴任するから、王都に来たら顔見せてよ。今度一杯やろう。奢るから。じゃあ、また!」

「ああ、じゃあ、またな」

シンは後ろ向きで片手を上げて去っていった。

 部屋に戻るとリリーは相変わらず裸で、両手で自分の乳を揉んでいた。

「あ!こら、ピー!その乳は俺のだぞ。何勝手に揉んでんだ」

「へへっ、ヴォルクがあんまり遅ぇから代わりに俺が揉んどいてやったよ」

「黙れ!さっさと俺にも揉ませろ」

「やーだねー!揉みたきゃ俺を捕まえなー。へへ」


 リリーとの真剣な鬼ごっこが始まり部屋の中はメチャクチャになった。

 後でサラ先生に滅茶苦茶怒られた。

物語もどんどん進んでいき、第二章も終わってしまいましたー


次から第三章、暗黒竜を倒すまでを書きます。

お楽しみに。

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