6. ワイバーン、乱獲
俺は地面に転がっていた拳大の石を拾い上げながら言う。
「今日は普通の魔獣狩りじゃないぞ。物理学の講義と魔法実験をしながらの狩りだ。最終目標はワイバーン。‥と、その前に今日はピーか。リリーに代わった方が良くないか?体だけじゃなく頭も使うぞ」
今日のピーはサイズ直しをした冒険者装備をピッチリ着ている。その着こなしを見ているだけで、どちらの人格が出ているか丸わかりだ。
着こなしだけでなく、その雰囲気もまるで違う。ピーが出ている時は、同じ身体でも女子高生のように見えるが、リリーだとぐっと大人っぽくなり、良家の令嬢のような雰囲気だ。変態だが。
「えへへ‥。そうだねー、お勉強はリリーちゃんの方が効率いいからね。じゃあ代わるね。でもその前に」
ピーは俺に抱きついてきた。
「ヴォルク、大好きー」
「すまんな、ピー」
俺は、リリーの頭を撫でながら言った。
少し前までは、そのリリーの頭は俺の胸の位置だったが、今では肩の位置だ。あの可愛かった、幼さが残っていたピーがひどく懐かしく感じる。
「うううん、全然大丈夫だよ。私もリリーちゃんも一緒だから。じゃあ‥」
その瞬間、俺は凄い力で抱きしめられた。すぐに解放されたが。強烈なベアハッグを喰らった気分。
「ああああ!!ご、御主人様!大丈夫でございますか!?」
「あ、ああ、問題無い。何だったんだ、今のは」
「も、申し訳ございませんでした。私の隙をついてタイガーが一瞬出てしまいました。あの子、早く御主人様に会いたがっておりまして、力加減を間違えたらしく、決して御主人様を害する意図はございません。何卒お許しくださいませ」
リリーが土下座しながら謝罪する。
「タイガーか‥なるほど。なかなか楽しそうな子じゃないか」
「決して悪い子ではないのですが、少しガサツと申しますか、おバカなところがありまして‥」
「俺も早く会ってみたいな。出してやるわけにはいかないのか?」
「とんでもございません!この前も、騒ぎを起こしたばかりです。御主人様がお許しになっても、私が許しません!タイガーちゃんは当分、謹慎です!」
「まあ、それはお前に任せよう‥ああ、そういえばあの時、お前はタイガーのことには一言も触れず、全責任を自分で被って、消えようとしたな。リリーは偉い子だな」
「ご、御主人様、おやめください。リリーの涙腺がまた決壊してしまいます」
「ははは、じゃあ、そんなにゆっくりもしていられないから、物理学の講義を始めようか」
「はい!」
俺は手に握っていた石をリリーに見せる。
「これは何だ?」
「石ころでございます」
リリーが答える。
「そうだ。じゃあ、よく見ていろ」
俺はそう言うと、手のひらを裏返し、石を地面に落とした。
「ピー、石はどうなった?」
「??、石は下に落ちました」
「そうだ。では、なぜ下に落ちた?」
「それは、下に落ちるものだからでございます」
「ピー、それは答えになってないぞ。下に落ちると誰が決めた?なぜ上に落ちない?なぜ右に落ちない?なぜ左に落ちない?どういう理屈で下に落ちるんだ?」
リリーは大きく目を見開いて、今落ちた石を見つめていた。
「あ、あまりにも当たり前すぎて、そんな事、考えたこともございませんでした‥」
「一狼の時代にな、ニュートンという学者がいた。そのニュートンがリンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見したと言われている。本当の話かどうかは知らんがな」
「‥万有引力ですか」
「万の物は、全て引力を有している、という事だ。つまり、この石が下に落ちたのは、この地面に引っ張られたからではないか、と考えたわけだ」
「地面に‥で、ございますか」
「ああ、地面にだ。では、この地面とはなんだ?一体どうなっている?」
俺は、これから踏み込んで行く先、未開の森を真っ直ぐ指差して言う。
「スクルド領を出て真っ直ぐ進んで行くとどうなる?」
「未開の森でございます」
「では、その向こうは?」
「山岳地帯でございます」
「その向こうは?」
「その向こうは、もう地図も無く、私にはわかりません」
「では教えてやろう。山が終わればその向こうにはまた陸地が、陸地が終われば、海と言う大きな水たまりが、その海の向こうには、また陸地が、陸地が終われば、また海が。それを何度か繰り返すと、ここに戻る」
「えっ!ここにでございますか?それはどういう‥はっ、ま、まさかこの地面は球体なのでございますか?!」
「ふっ、賢いなピーは。その通りだ。一狼の時代には、地面のことを地球と呼んでいた。球状の大地『地球』だ」
「!!!!」
リリーは目を大きく見開いたまま、何も言えなくなっていた。
「夜になると月が出るだろう?地球もまたあの月と同じ形をした、球状の星だ。宇宙という真っ暗な空間に浮かぶ星なんだ」
「‥‥‥」
「この先は天文学になってしまうから、また別の機会に話そう。話を戻すと、この石ころは、地球と言う巨大な物質の引力、重力によって引っ張られたのだ」
その後、俺は簡単に運動の三法則を説明し、次に素粒子物理学へと進んで行く。
リリーは、下に落ちた石を拾い上げ手に取って、まじまじと見つめて言う。
「この石を細かく割っていくと、分子、原子、素粒子となり、最後には物質ですら無くなるのですか‥」
「そうだ。その素粒子の中でも特に大事なのは、電子と光子だ。その他の素粒子は、今はまだ覚える必要は無い」
俺とリリーは森に向かって歩を進める。
「次に空気について説明する。風が吹いたり息を吸ったり、ここに何かがあるのはわかるだろう。空気の成分は、ほとんどが窒素と酸素だ。人間は、この空気を吸って、酸素を取り込んで生きているわけだが、この分子は細かすぎるし、気体だから、密度が薄すぎて光が透過してしまい、人の目には映らない。だから見えない。だが、物質である限り、念力=魔力で動かせる」
俺は魔力で空気を動かし、風を吹かせる。
「‥これが風魔法だ」
「こ、この風は御主人様が‥」
「俺は魔力が弱いから、風魔法といっても、せいぜいもう少し強く風を吹かせる程度しかできない。この世界のほとんどの風魔法使いもこの程度だ。だが、お前は魔力が強い。もっと色んなことができるぞ。例えば、魔力で空気を動かし、直径10センチ位の真空状態を作ってやれ。それを風に乗せて敵にぶつけるんだ」
その時、前方から都合よくD級魔獣のブラッディウルフが現れた。
「ちょうどいい実験台が現れたな。ピー、やってみろ」
俺はブラッディーウルフが動かないように、念力で縛り付け固定し、サポートする。
風魔法の理屈を理解したリリーは、バレーボール大の真空を作り、ブラッディウルフにぶつける。
真空をぶつけられた部分は、毛が弾け飛び、皮膚が膨張し、裂けて血が飛び散った。
「そうだ!これが攻撃風魔法、『エアカッター』だ!だが、この魔法は殺傷能力が低く実用的ではない。次は同じ要領で2メートルの真空を作り、ブラッディウルフに被せてやれ。そして一気に解除!」
真空に取り込まれたブラッディウルフは、一瞬その体が膨張した後、ドーンという大爆音と共に爆縮した真空に、いや、1平方メートルあたり、約10トン相当の大気圧に押しつぶされ、グチャグチャの肉の塊となってその場に残った。
「これが、爆霊地獄‥は、さすがにまずいか、『エアハンマー』にしとくか、という魔法だ!」
リリーはあまりの衝撃にその場にへたり込んでいた。
「‥ご、御主人様‥、リリーは、リリーは腰が抜けてしまいました」
「ははは、漏らしたか?」
慌てて股間を押さえ、真っ赤になったリリーは言う。
「漏らしてません!!‥‥ほ、ほんの‥ちょっと‥しか」
ヴォルクの魔法と物理学の講義は続く。山岳地帯の奥に棲むワイバーンに向かって。
「そうだ!空気中にある水分を念力でかき集めるんだ!もっと!次はその集めた水を冷やして凍らせろ。水から熱を奪うんだ。氷にしろ!もっと大きく!先端を尖らせて槍状に!そして念力で射出!キラーベアの土手っ腹にぶち込んでやれ!」
キラーベアの体に複数の氷の槍が次々と突き刺さる。
「それが『アイスジャベリン』。攻撃水魔法だ!」
リリーは大きく目を見開き、仕留めたキラーベアを見つめながら荒く呼吸をし、興奮している。額の汗を拭いながらリリーは言う。
「‥凄い、スゴイです!御主人様の魔法は!」
「ははは、何を言っている。凄いのはお前だよ、ピー」
実際にそうなのだ。あんな簡単な、講義とも呼べない指示で、攻撃魔法を発動してしまうリリーが凄いのだ。
俺は魔力が弱いので、水魔法などコップ1杯分の水を作るのがせいぜいだ。それを氷にすることすらできない。
それをリリーは大気中から水分を集め、大量の水を作り、同時にそれを凍らせて槍の形状にし、さらにそれを敵に向かって放つなど、一体いくつの念力作用を同時展開しているのか、同時並行操作しているのか。
そもそも、凍らせろ、熱を奪え、などと指示をしたが、あんなこと俺にはできない。どういう理屈で熱なんて奪うんだ?いや、理屈を組み立てようと思えばできるのだが、実際それを念力で行えとなったら無理だ。そんな魔力は俺にはない。
だが、リリーはそれを念力、魔力で力任せに実現してしまう。まさに魔力の暴力だ。
俺は氷の槍が刺さったままのキラーベアをストレージに収納しながら言う。
「ピー、『アイスジャベリン』という攻撃魔法は使えるようになったな?お前は発生させた水をわざわざ凍らせた。だが、そんなことができるなら、相手を直接凍らせてしまえば、もっと早く殺せる。また、逆に熱を加えて血を沸騰させてやるとか、燃やしてしまうとか、もっと殺傷力の高い魔法になるぞ。まあ、相手も魔力の強い魔法使いや魔獣なら、その念力にレジストしてくるから、実戦では何ともいえんがな」
「な、なるほど」
「要は、魔法などというものは、魔力を自然物にどう作用させるかという理屈と工夫次第で、なんとでもなるということだ。そのためにも、この自然とは何なのか、どうなっているのかということを理解する事が、物理学が大事なんだ」
「御主人様、リリーは、次は御主人様が使っていらした雷魔法や転移魔法を覚えとうございます」
「ふむ、あれはまだ、お前の物理学の知識では無理だ。相対性理論や量子力学、超弦理論の理屈が必要になる。というか、どうした?突然。トイレにでも行きたくなったか?」
「‥っ!!」
リリーは顔を真っ赤にして股間を押さえた。図星だったようだ。
「もう!御主人様!レディにそのような事、おっしゃってはなりません!」
リリーに叱られた。
その夜、野営の火を見つめながらリリーは言う。
「御主人様、リリーは一つ疑問なのですが、目的地は、ワイバーンがいる山岳地帯の奥なのですよね。どうして転移魔法で、そこにひとっ飛びしてしまわれないのですか」
ゆらめく炎に照らされ、幻想的な美しさを漂わせる美人エルフの横顔を見ながら俺は言う。
「‥転移魔法か、あれも決して万能な魔法ではない。転移先を指定するのに、俺は座標ではなく目視で行っている。なぜ座標で行わないかというと、この世に絶対的な座標などというものは無いからだ。俺たちは今ここにこうして止まっているように思えるが、実際はすごい勢いで移動している」
「そうなんですか?」
「ああ。今は夜だな。昼間あった太陽はどこへ行った?沈んで地球の裏側へ行ったな。だが、それは太陽が地球の周りをぐるぐる回っているのではない。地球が自転しているのだ。1日かけて1周している。というか、むしろ1周する時間を1日と決めただけだがな」
「ええ!?」
「自転しているだけではない。さらには地球が太陽の周りをぐるぐる公転している。そしてその太陽もまた銀河の中心をぐるぐる回っている。その銀河もまた移動している。従って、絶対的な座標などというものは無く、指定しようがないんだ。
だから俺は出口設定は目視でファジーにしている。つまり行ったことがあり、憶えているところにしか行けないということだ」
「そうなんですね‥」
リリーは立ち上がり、俺の横に腰を降ろすと、お互いが羽織っていたマントをうまく1つに重ね、寄り添い、俺の肩に頭を預ける。
「疲れたか?先に眠るといい。見張は俺がしておく。ゆっくり休め」
リリーの額に軽くキスをし、俺は言った。
「‥御主人様、愛しております。先にお休みさせていただき‥‥」
リリーは微かな寝息をたてて夢の中に旅立った。
リリーには言わなかったが、本当は野営などする必要はない。転移魔法でホテルに戻り、翌朝、またここに転移してくれば良いのだ。
だが、俺は、というか一狼時代、アウトドア派だったのだ。キャンプが好きだった。だからこの野営は趣味だ。
3日目夕方、俺たちはようやく未開の森を抜け山岳地帯に辿り着いた。木が無くなったのはここが森林限界だからだ。つまり、この辺は既に標高がかなり高い。
ここからさらにワイバーンの棲み家まで、高山地帯を一日登らなければならない。
俺たちはもう1回、ここで野営することにした。二人で焚き火をしながら、俺は今回最後の講義をする。相対性理論だ。
「ピー、『光魔法』があるだろう。世間ではどう評価されている魔法か知っているか?」
「そうですね‥私のこれまでの知識では、一般的には役立たず魔法とされています」
「そうだな。なぜそのような言われ方をしているのか、それはこの世界の人間、魔法使いどもが光とは何なのかよくわかっていないからだ。真実は真逆だ。『光魔法』こそが、あらゆる魔法、あらゆる攻撃魔法の中で、最強の魔法だ」
「さ、最強ですか‥」
「そうだ。グリフォン戦でおれは光魔法のフラッシュを使ったな。俺はあの時、お前に言ったはずだ。あの魔法をお前が使えば、敵を一瞬で丸焦げにし、森を焼き払うほどの大魔法になると。明日はその魔法でワイバーンを屠るぞ」
「‥‥‥」
リリーはその大きく美しい目をさらに見開き、ゴクリと固唾を飲み込んだ。これから俺が語る言葉を一言半句とも聞き逃さぬよう緊張していた。
「では、まず光の性質から話そう。前に素粒子の話をしたな。その中で大事なのは電子と光子だと言った。光の正体はその光子だ‥」
俺は光の性質から始めて、特殊相対性理論、一般相対性理論を説明し、そして物理学の奥義とも言える『E=mc2』を説明した。
「何と言うこと!なんということですか!では、私も、この石ころも全ては光なのですか!もう宗教ではありませんか!」
「そうだ。物理学を突き詰めていくと、もう宗教や哲学との垣根も曖昧になっていく。面白いだろう?」
「リリーは‥リリーは、この世の中の見え方がまるで変わってしまいました!」
「『E=mc2』こそが物理学の奥義だと言ったが、この奥には更に秘奥義、究極奥義がある。それはまたいつか説明しよう。もう、遅い。明日のためにもう寝たほうがいいだろう」
「リリーは興奮して眠れそうにありません!」
「そうか、では俺が先に休ませてもらうぞ?」
「承知致しました。私はこのまま寝ず番をさせていただきます」
リリーは焚き火の炎を見つめ、両手を硬く握りしめていた。
寝ず番の交代をしようと、俺は夜中に起きたが、リリーはまだ眠くないということで、結局俺は朝まで寝てしまった。
「ピー、眠くないか?今日は最後の大仕事だ。大丈夫か?」
「大丈夫でございます。御主人様こそ、朝までよく眠れましたでしょうか?」
「うむ、ありがとう。お前の体力も心配だ。今日は速攻でワイバーンの棲家まで行って、乱獲して帰ろう。森の中では視界が悪くて転移魔法が使えなかったが、今日は視界も開け、乱発できる。昼前には辿り着けるだろうから、午前中に終わらせて、さっさとホテルでシャワーを浴びよう。俺も体臭が少し気になってきた」
もう、4日も風呂もシャワーも浴びていないのだ。当然だ。
「り、リリーも臭っておりますか?」
リリーは自分の身体をクンクンと嗅ぎ出す。
「いや、お前は相変わらずいい匂いだ。エルフの体臭は特殊なのか?むしろ、セクシーな匂いが強くなっているな」
「嫌でございますぅ。それなら御主人様も同じです。強い雄の匂いがぷんぷんで、リリーは眩暈がしそうでございます」
「ははは、じゃあ行くか!」
俺たちは焚き火の後始末をしてから、転移魔法を繰り返し、次々と高い山を踏破して行く。時には山の頂から山の頂へ、リリーの魔力感知で捉えたワイバーンへと一直線に向かって行った。
そして、ようやく辿り着いた。ワイバーンの棲家へ。
ワイバーンは爬虫類の変温動物だ。午前中は高い山の斜面で日光浴をして体を温めていることが多い。
ワイバーンは全長20メートル前後、大きい個体は30メートル以上ある。雄は濃い茶褐色、雌は汚い抹茶色だ。前足を進化させた大きな翼を持っている。翼は、コウモリのような膜になっている。だが、あの巨体が飛べるほど大きくは無いように思える。おそらく飛行には風魔法を使用している。首はそれほど長くないが、しっぽはそれなりに長い。飛行時の舵取りに使うのだろう。
ワイバーンはブレスを撃ってくる。それは魔法ではなく、体内に溜め込んだ揮発性の高い油脂に火魔法で火をつけて吐き出してくるのだ。いつぞやの爆炎の魔術師方式だ。なので殺傷能力が高い。なんちゃって火魔法ではないので、注意が必要だ。
俺は本物のワイバーンを初めて見たのだが、妙な違和感を覚えていた。この前までC 級だった俺がA級魔獣のワイバーン狩りに参加するような機会もなかったため、初見なのは仕方ないが、どこかで見たような気がする。
遠くの山の頂き付近を旋回する小さな姿なら見たことがある。そのせいだと、この時は思った。
ワイバーンに見つからないように岩陰に隠れながら、群れから300メートル近くまで近寄った。
群れは全部で18匹だ。岩陰でリリーに話しかける。
「ピー、あいつら、こっちに勘付いてるよな?」
「当然」
「逃げようともしないな。舐められているな。まあ、好都合だが。じゃあ作戦を話すぞ。まず、ここからあの一番下、そう一番手前にいる雄、あれの首の骨をお前の念力でへし折ってやれ。いきなりやられればレジストする間もないはずだ。
次に、お前の魔力の強さに驚いた奴らは、一斉に上空へ飛び立とうとするだろう。上空に5、6匹飛び立った頃合いを見計らって、お前の光魔法をお見舞いしてやれ。
光魔法は、100メートル四方の面積で太陽の光を一秒間集めろ。そして、群れの中心辺りで一気に解放するんだ。集光する面積は決して間違えるな。これより大きな面積で集めたらとんでもない威力になってここにいる俺たちも巻き込まれ死んでしまう。
わかったな?それと、光を解放する時、絶対に光は見るな。見れば網膜が焼き切れ、目は完全失明する。注意しろ。わかったか?質問はあるか?」
「どうして5、6匹逃すのですか?」
「ワイバーンを絶滅させる必要はない。必要な分だけ狩れればいいんだ。奴らにだって生きる権利がある」
ワイバーンはここにいる個体が全てではない。他の地域にだっている。だからここで全て狩ったところで絶滅するわけでは無いが、必要以上の殺生はしてはならない、したくない、というのがヴォルクの本音だ。冒険者は他種族の虐殺者になってはならない。一狼時代のバッファローにしてはならないのだ。
「今回の狩りはお前の魔力の強さを証明し、お前を一気にA級にする目的もある。だからある程度、ワイバーンの個体数が要る。が、それ以上は必要ない。10匹もいれば充分だ」
「分かったわ」
リリーは答える。
「だが、逃した5、6匹が、彼我の力の差も分からず向かってくるようなら容赦はするな。あらゆる魔法を使って蹴散らしてやれ」
「了解よ。御主人様」
「いいか、くれぐれも集光面積を間違えるな。そして発光は決して見てはならない。では、行くぞ。やれ!」
一番手前にいた、雄のワイバーンの首が僅かに持ち上がる。ゴキン!と音がし、ワイバーンの首があり得ない方向に鋭角に曲がった。ワイバーンは全身をジタバタさせて、その場から逃れようとする。まだ絶命していない。だが、時間の問題だ。いや、自己治癒してくるかも知れない。
他のワイバーンたちは驚愕した。やたら魔力の強い人間が近づいて来るのはわかっていたが、いつものようにブレスを1、2発お見舞いしてやれば逃げ帰って行くだろうと。むしろ、その人間を喰らってやれば自分の魔力が強くなるため、待っていたと言ってもいい。そのため、ここまでの接近を許したのだ。
ところがその人間はその魔力に見合った魔法に習熟しており、とてもではないが敵いそうにないと瞬時に理解した。
慌てて逃げようと、群れはパニックになった。
半数の10匹程が、すぐに羽ばたきを始め、空へ飛び立っていく。
「ピー!今だ!」
東の空が一瞬薄暗くなる。俺は慌てて手で自分の目とリリーの目を塞いだ。リリーは念力を集中させるため、まだ目を開いていたのだ。目視で発光させる場所を指定していたためそれは仕方のない事だ。おそらく、発光する瞬間には目を瞑る気だったのだろうが、それでは間に合わない可能性がある。
次の瞬間、ワイバーンの群れの中心辺りで強烈な光が炸裂し、10MJの太陽光エネルギーが、10MWの怒涛の熱線となって近隣のワイバーンを襲った!
少し遅れて、岩陰に隠れた俺たちの耳にドーンという、近くで雷が落ちたような爆発音が届いた。
状況を確認するため、岩陰から身を出した俺たちは、そのあまりの惨状に暫し言葉を失った。
「‥‥この魔法、『ノヴァフレア』って名前にしようか。しかし、こりゃ禁呪レベルの魔法だな。ピー、この魔法は以後二度と使うな。使う時は俺の許可を取れ!いいな!」
「‥‥し、承知致しました‥御主人様‥」
リリーはまたしても腰が抜けたらしく、その場にペタリと座り込んでしまった。オシッコも漏らしていたかも知れない。リリーの名誉のため聞かなかったが。
この魔法の恐ろしいところは、ノヴァフレアの魔法原理は、ただ、太陽光を集めただけという、恐ろしく単純なところと、集光面積を広げたり、集光時間を長くしたりと、まだいくらでも威力を高めることが出来る点だ。リリーの魔力なら原爆並の破壊力を出すことも可能だ。
奇しくも、昨日『E=mc2』を教えたばかりであった。
空からはまだ、飛んで逃げたが、逃げ遅れたワイバーンや、光を見て失明し飛べなくなったワイバーンが5匹程、ボトボトと落ちてきていた。
残りのワイバーンは遠くの山へと逃げて行った。
現場の惨状は酷いものだった。計算では、光の中心付近の温度は数万度に達していたはずだ。ほんの1秒足らずではあったが、近隣のワイバーンは、光が当たった部分の皮膚や鱗、翼は焼け焦げ、蒸発し、更に急激な空気の熱膨張による衝撃波でグチャグチャである。
爆心地から50メートルくらい離れた位置にいたワイバーンですら、かろうじて生きてはいるものの、全身に重度の火傷を負い、両目は失明、翼の皮膜も焼け焦げ、衝撃波で平衡感覚も失っているため、飛ぶこともできず、ただその場でもがいていた。
俺は悲惨な状況になっているワイバーンの首を次元斬で斬ってまわり、止めをさし、その遺体を全てストレージに収納して回った。全部で13匹いた。
最後に俺とピーは、その場で黙祷を捧げ、転移魔法でスクルドの街に戻ったが、なんとも後味の悪い狩りになってしまった。
リオレウスが出てしまいました。
やばい?w




