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狼のエピタフ  作者: 高橋 久緒
第二章 飛翔
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5. 因果率

 翌朝、3次成長したリリーは、全裸に朝日を浴びて窓際に立っていた。

 朝の透き通った光がリリーのプラチナブロンドに反射してキラキラと輝き、天使の輪のように見える。

 顔から幼さが消え去り、その完璧な美貌と、完璧なプロポーションは、あまりにも神々しく、地上に顕現した天使としか言いようがなかった。


 俺が目覚めたことに気がついたリリーは、そそくさとその場で土下座ポーズを取り、言う。

「御主人様、おはようございます。昨晩、御主人様のお情をいただき、リリーは無事に3次成長を遂げることができました。ありがとうございました」

「うん、おはよう、リリー。そうか、良かった。体調はどうだ?」

「3次成長は2次成長ほど負荷はかかりませんので、現在、体調は万全でございます」

「じゃあ、今日は出掛けても大丈夫か?」

「問題ございません」

「じゃ、朝飯食って出掛ける準備をしよう」


 リリーは裸のまま、俺の着衣を手伝ってくれる。自分の着衣より俺の世話を優先してくれているのだが、お前の神プロポーションは、朝から俺の目には毒だ。

 俺はちょっとからかうように言う。

「それにしてもリリー、昨日、お前があそこで逃げ出していなければ、その後のイチャラブ展開はお前のものだったのにな」

「な!なんですとーー!?」

「優しーくお仕置きされながらのエッチな展開が待っていたのに、逃してしまったな」

「‥ご、御主人ざば、リリーは血の涙が出そうでございます」

唇を噛み締めながらリリーが言った。

「ははは、うそだ、うそ。リリー、ありがとうな。本当は逃げ出した体を装いながら、その後の展開をピーに譲ってくれたんだろう?お前ほど賢くて、責任感の強い子があんな無責任なことをするわけがない。俺はちゃんとわかっているからな」

 嗚咽が漏れないよう口を塞いだ手の甲の上を、リリーの大粒の涙が次々とこぼれ落ちていく。

「リリーも、ピーに負けないくらい、泣き虫だな」

「ご、御主人様はいじわるでございます。リリーの涙腺は崩壊しっぱなしでございます」

「さ、朝食に行こう」

「はい!」

裸のまま部屋を出て行こうとするリリーに慌てて言う。

「待てまて!ちゃんとリリーも服を着て!」

「‥嫌でございますぅ。リリーは奴隷らしく裸で行きとうございます」

露出狂か!嬉しくて忘れていたのかと思いきや、意図的かよ。

「いい加減にしろ」

 俺はリリーのおでこを人差し指で軽く弾いた。

 

 図書館に向かって、街中を歩くリリーを男も、女もみんな振り返った。背が155センチから170弱に伸びたリリーは、寸足らずのカメレオンスーツを着ており、サイズアップしたバストをさらに下から押し上げ、大きくはだけた胸元に見事な谷間を作っていた。

 薄いピンク色に変色させたカメレオンスーツは、スパンコールのようにキラキラと輝く鱗で、リリーを恐ろしくセクシーにしている。

 図書館で、リリーが無事、3次成長した報告をポアロにしたのだが、ポアロはあんぐりと口を開けたまま何も言えなくなっていた。今頃は、血の涙を流しているのかもしれない。


 図書館の次に、冒険者ギルドに行った。昨日中途半端にしてしまったサラとの打ち合わせをするためだ。

 また、応接室でサラと打ち合わせをしている。リリーは昨日の大立ち回りの謝罪と、3次成長したリリーの紹介のため、事務所回りをしている。

 3次成長したリリーは、その神々しいまでの美貌で、一目では昨日までのピーと同一人物だとわかる人は1人もいなかった。


「グリフォンの討伐でヴォルクは無事A級に、リリー様はC級にランクアップしました。後で、冒険者タグを更新しますね」

「おい!俺は呼び捨てでリリーには『様』が付くのかよ」

「うるさい!お前なんか呼び捨てで充分だ!」

しどい‥。

 そこにリリーが戻ってきた。

「サラ様!御主人様に対する無礼は許しませんよ!!」

「も、も、もも、申し訳ございません。リリー様!」

「やめろ、ピー。遊びだ、本気にするな。サラ、続けてくれ」

「は、はい。えっと、A級になられたヴォルク様にはギルド内に個室が用意されます。以後、打ち合わせ等はそちらで行うことになります」

「やめてくれ、ヴォルクでいいって。今まで世話になったサラにそんな風に他人行儀にされると、かえって辛いわ」

「サラ様、リリーが余計なことを言いまして、申し訳ございませんでした」

 その場で土下座するリリー。

「ピーもやめろ。さっさとソファに座れ。打ち合わせが進まねー」

「個室が不要ということであれば、断ることも可能ですがどうされますか?」

「いや、用意してもらった方がいいだろう。この前みたいにロビーで絡まれるようなことも防げるし。パーティメンバーも使っていいんだろ?今のピーがロビーにいたら絶対、男が寄ってくる。余計なトラブルを防ぐためにもあった方がいい」

「ですね。では、リリー様もフリーパスで。あと、私の事務スペースも個室内に移動させてもらってよろしいですか?」

「ああ、もちろんだ」

「あと、スクルド支部内にヴォルクを入れてA級は全部で3人になりましたので、規定により2、3ヶ月に一度、ギルマスを交えたA級会議が開催されます。支部方針を決めたり、重要な連絡事項の通達等がありますので必ず参加して下さい」

 A級は支部ギルドマスターと同権限を持っている。ということは、クジュ王国スクルド領の領主と対等ということだ。A級が貴族扱いされるのはそういう理由だ。

 だが、勘違いしたバカがA級になり、その権力を悪用したりすれば、すぐ降格になったり本部ギルド長から粛清されたりする。


「3人か‥、多すぎるな。支部の権力構造が複雑になりすぎる」

「その通りです」と、サラ。

「あ、サラには予告しておく。A級はもう1人増えるぞ。ピーだ」

「本当ですか!?」

「ああ、早ければ一週間以内。遅くても一ヶ月以内にな。ピーは魔力が強い。すぐに俺以上の大魔法使いになる。現状でも、恐らくワイバーンを乱獲できる」

「マジかよ‥またギルマス案件だよ。もういいわ、後で報告しておきます。打ち合わせが進まねー!このクソ忙しいのに!」

「御主人様、それは私を買い被りすぎでは。リリーはまだ攻撃魔法など一つも使えませんよ?」

「俺を信じろ、ピー。魔法発動の理屈はそんなに難しいものじゃない。頭のいいお前ならすぐに理解できる」


 その後、打ち合わせは夕方まで続けられたが、サラが限界だったため打ち切られ、後日ということになった。

 報告事項として、ギガパイソンの査定が終わり買取額が全額口座に振り込まれたことと、グリフォンの報奨金も振り込まれたこと、グリフォンの査定はもう少し時間がかかること、避役は査定が終わり、買取金は口座振込がいいか、現金がいいかの確認が行われた。

 また、打合せしている間に冒険者タグの更新も終わり、俺とリリーに新しい冒険者タグが手渡された。


 

 その夜、ホテルのベッドで俺とリリーの寝物語が始まった。

 その話題はなぜリリーには、俺に拾われたあの夜以前の記憶がないのか、リリーは一体どこから来たのか、また、俺の、一狼の記憶もなぜ35歳以降を思い出せないのかということだった。


 リリーは、仰向けになったまま、右腕を空中に伸ばし、何かを探っているかのように彷徨わせた。


「私は因果率の嵐の中で、1本の紐をつかんだの。この紐を掴めた事は、奇跡、でも必然。


 エルフは弱い。この世の理に触れすぎるから。だから、すぐに死ぬ。自然が私たちの生存を許してくれない。


 でも、私は生きたかった。


 私はエルフの中でも特殊個体。生命力が強い。エルフの生命力が弱い原因はこの世に関心が無いから。生きたいと思っていない。自然にそのようにされている。


 でも、私は生きたかった。


 あなたから教わった物理学の超弦理論、あれは正しい。でも足りない。この世の現実の世界も、宇宙も1本の紐。それがどう揺れるかで全てが成り立っている。


 私があなたと会う前に何があったのか、一狼、あなたが35歳以降何があったのか、そんなことを知っても意味はない。確率は揺れ動き、都合がいいように書き変わるだけ。


 あの時、男に殴られていた私は、死を悟り、過去に念の手を伸ばした。そして一狼、あなたを見つけたの。私の生存確率を最も高めてくれる存在」


「俺がお前を拾ったのではなく、お前が俺を拾った、それが真実か‥」


「あなたは転生輪廻し、私の近くに偶然、いえ、必然的にいた。そして私を助けてくれた」


「あの時の頭痛も、飲んだことのない冷えたエールを思い出したのも、全てお前が原因か」


「そうとも言えるし、そうとも言えない。全ては吹き荒れる因果率の嵐の中で、たった1つだけ結実した真実、私たちがこうしてここにいると言う事だけが真実なの」


「私の計算違いは、私がヴォルクの愛の奴隷になってしまったこと。私はあなたを守るためなら、全世界とも、神とでも戦う。あなたの為に生き、あなたの為に死ぬの。でもそれも、私の生存確率を上げるための必然」


「いつか俺たちがこの人間社会に飽きたらエルフの国にでも行こうか。実はお前がエルフの女王だった、なんてな」


「現状、エルフの国などというものは無いわ。エルフは、あまりにも生命力が弱すぎ、絶滅寸前の絶滅危惧種。でも私のような特殊個体が何人か集まり、密かにエルフの国を築いていたと言う可能性はゼロではない。そういう未来が良ければ、ただそういう未来を掴むだけ」


「未来さえ自由に変えられるのか。お前は神か?」


「ふふっ、何を言っているの?リリーは御主人様の、ただの薄汚い奴隷です。愛しております、御主人様」



 この会話がいつなされたのか、昨日なのか、今夜なのか、それとも未来のどこかだったのか、夢だったのか、因果律の確率さえ揺れ動き、ゆらいでいく。自然の都合がいいように書き変わってゆく。


 真実はただ一つ。今、俺たちはここにいるということだけ。

「因果率」は因果律の誤字ではありません。

書き分けていますので、察してくださいねハート

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