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そして彼女は老いた  作者: 丹午心月


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6/8

06 受験を控える

 メリタがとうとう十四歳、八年生になった。

 来年は受験。

 大変な年になると予想されるから、遊べるのは今年まで。

 メリタの本当の年齢と誕生日は判明していないから、拾った時の年齢を三歳にしている。

 私の娘になって今年で十一年。

 月日の流れ方がおかしい。

 もう十一年になる?

 それはない……。

 私は「壊れた(マンクス)」だからそう感じるのかも知れない。


 大きくなったメリタを見ると、私はメリタの何を見ていたのかと疑問に思う事がある。

 メリタの記録はディスクに沢山残してあっていつでも見られるから、その軌跡はいつでも辿れる。

 店の前で丸くなっていたメリタの姿も当然ある。

 そう、私は物持ちが良い。

 そしてメリタに怒られた。

 メリタの衣類や使っていたベッドが捨てられなくて、貸倉庫を借りている事を知られてしまったからだ。

 正座という物をさせられて説教もされた。

 これは普通、娘が父親にする物ではない。

 おかしい。


 ベッドは捨てた。

 玩具も捨てられた。

 衣類も殆どを捨てられた。

 少ししか残らなかった。

 残った衣類はぬいぐるみにして置いてある。

 私の大切な思い出。

 メリタはもう覚えてなかったけれど、私にとっては大切な思い出。


 来年は受験だからと思って、週末は一緒に出掛ける。

 メリタは近くの川辺の道が好きで、一緒に歩く。

 それだけ。

 抱っこをせがまれる事もあるけれど、それはしない。

 肩に座らせていた方が楽だからしない。

「だからお姫様抱っこをしてくれればいいんだよ。分かった?」

「分からない。お姫様抱っこをするとメリタが病人だと間違われる。それは駄目」

「他人がどう思おうとどうでもいいでしょ?」

「人の目を気にする事は大切」

「気にし過ぎるのはどうかと思うよ?」

「メリタはもっと気にしないといけない。もう十四歳になる。大人になる自覚を持ち始めなければいけない。分かった?」

「まだ子供だもーん」

「この前は大人って言った。子供なのか、それとも大人なのか、はっきりして欲しい。それによっては私も態度を改める」

「子供に決まってるでしょ」

「メリタはまだ子供だった。分かった。そう接する」

 難しい年頃になっているメリタはまだ子供でいたいようだ。

 それに付き合う。


 メリタも随分と料理が上手になった。

 それを見て、遂に就業時間を通常通りに戻した。

 顔を合わせる時間が減るけれど仕様のない事。

 メリタは寂しそうにする事もあるけれど、徐々に慣れるだろう。

 けれど、朝食と週末の昼食は相変わらず私が作る。

 メリタの甘えん坊が直る事はもう期待していない。

「やっぱりフェルの作るご飯の方がおいしい」

「そう言っても平日の帰宅後に作る事はしない。自分で作って食べる。分かった?」

「だから週末だけお願いしてるでしょ。でも来年は、受験勉強を始めたら帰って来てから作ってくれる?」

「遅くなっても良いなら作る」

「落ちないように夜も頑張るから遅くてもいい。ありがとう」

「メリタは頭が良いから落ちない。勉強は程々にして睡眠をきちんと取って下さい。お願いします」

「でも難関校だから」

「落ちても良い。そのつもりで程々にするようにして下さい。お願いします」

「うん、分かった。でもまだ先の話だからね」

「来年なんて直ぐ。気が付いたら再来年になってる」

「あはは。それは大仰だよ」

 笑っていられるのも今の内。

 来年になったら毎日勉強で笑う事がなくなっているような気がする。

 この調子では相当の息抜きをさせなければならない。


 メリタが機械工学へ進みたいと言い出した。

 学校を私立の方へ移りたいようだ。

 その学校は校区外からも人が集まる事から受験がある。

 けれど、それに落ちたら今の学校で少し下のレベルの大学を目指す事になる。

 下のレベルでのんびりして欲しいと思うのだけれど、メリタはそうではないようだ。

 上のレベルの大学はここから通える。

 下になるとそうではないから、メリタとしては上を目指している。

 少し早い巣立ちが出来ると思うと、私は下で良いような気がする。

 いずれにしてもメリタにとって良い出会いがあると良い。

 今も友達らしい友達がいない。

 毎週末、私と一緒という事がおかしい。

 メリタはそれで良いみたいだけれど、それで本当に良いのかと悩む。

 メリタの人生だから、メリタが良いならそれで良いに決まっている。

 けれど、人は往々にして後悔する生き物。

 それが少なければ少ないほど良い、と私は思う。

 メリタがなるべく苦労しないようにと思っても、私はそう導けているのだろうか。

 「マンクス」だから大いに不安。


 メリタと顔を合わせる時間が少なくなっても、毎朝一緒に家を出る。

 以前のように熱を出す事は本当になくなった。

 健康になってくれて良かった。

 けれど、時々学校で風邪を貰って来る。

 インフルエンザという物は面倒臭い。

 予防注射を打っていても罹る事がある。

 今年はその年だったようで、メリタがインフルエンザになった頃、学級閉鎖になった。

 メリタは相変わらず熱を出すと私にくっ付いて来る。

「冷たくて気持ちいい」

 小さい頃から言う事が変わっていない。

 そしてこの時の私は関節の問題で身動き一つ取れない。

 昔のように髪の毛を挟んでしまうかも知れないと思うと動けない。

 それはさて置き、普通に冷却シートで額を冷やしているのに、それ以上冷やすのはどうかと思う。

「メリタ、お腹の具合はどう? 悪くない?」

「平気」

 本当なのだろうか。

「やはりブランケットを巻いた方が良い」

「平気だってば」

 そう言うのであればこれ以上は言わないでおく。


 メリタの身長はまだ伸びている。

 いつになったら止まるのか。

 私の小さかったメリタはもういない。

 最近、それをつくづく思い知らされてしまう。

「誕生日にどうして白のパンツなの? おかしいでしょ?」

「小さい頃は白でも良かった。それなのに今は駄目。おかしい」

「好みが変わったの。って言うか、誕生日プレゼントにパンツはおかしいでしょ?」

「メリタ、何をプレゼントしても文句を言う。だからパンツにした。白は清潔感があって良い」

「フェルがくれる物は変なキャラクターグッズとか、クッションとか、真っ赤なお皿とか、ずれてるから言われるんでしょ」

「普通ではない物が良い。そうすれば記憶に残る」

「あのー、花束やアクセサリーでも記憶に残るんですけど?」

 困っているようで実は怒っているメリタ。

 直ぐに分かる。

「後で面白かったと笑える」

「いや、笑えないんですけど?」

 女の子は難しい……。

 けれど、こう言いながらも使ってくれるメリタは本当に優しい子。

 パンツは穿いてくれているかどうかは洗濯をしていないから分からない。


 遂にメリタが九年生になった。

 来年の五月にある受験に向けて勉強が始まっている。

 私が置いてあった教科書を使って復習をしている。

 けれど、週末は相変わらず一緒に出掛ける。

 まだそこまで切羽詰まっている感じではないようで一安心。

 これが良い息抜きになってくれたら良いと思う。

 夜も私がご飯を作っている。

 帰りが八時で、それから作っているからメリタの夕食時間は遅い。

「量を減らそう」

「お腹が本当に空いてるから減らされたら泣くからね」

 夜に食べ過ぎは良くない。

 困った。

 けれど、不思議と太らない。

 肌も荒れない。

 そうであっても、油物は控えようと思う。


 メリタの身長が私の肩に届きそうになっている。

 大きくなった。

 私の小さかったメリタはもうどこにもいない。

 人間の成長は本当に早い。

 特に女の子は早い。

 けれどまだまだ子供。

 私に甘えて来る。

 この役目をいつかメリタの旦那さんになる人に譲る日が来る。

 その日が来れば、私が孫を抱ける日も近くなるという事。

 今度はメリタみたいな甘えん坊にならないように乗せ過ぎないように気を付ける。

 楽しみ。


 秋が深まって来ると、いよいよ風邪が本番になる季節。

 インフルエンザに罹らないように毎日栄養のある物を食べさせる。

 去年は罹ったから、今年は罹らないかも知れない。

 それは希望的観測という物でしかなかった。

 去年同様仕事を休んでメリタの傍にいる。

 熱を出した時、私が傍にいないと泣く。

 こういう所は子供の頃のまま。

 寝ている隙に何かをしようと部屋を出ていると、不思議と起きて泣く。

 こうだから少し良くなるまで買い物は行けない。


 今年もインフルエンザに罹った。

 二年連続で罹る事は今までなかった。

 もしかして栄養が足りていない?

 夜は淡白な物を出しているからかも知れない。

 それもこれも夕食の時間が遅くなった所為。

 もう少しカロリーの高い物を食べさせてみよう。

 太ると服が着られないと怒られそう。

 一度インフルエンザに罹ったから、もう罹らないと思いたい。

 ……やはりカロリーの高い物を食べさせよう。


 二度目のインフルエンザに罹る事もなくお正月になった。

 お正月も休まずにメリタのご飯を作る。

 メリタはすっかり以前に戻って料理をしなくなった。

 受験が終わるまではこのままで良いかも知れない。

「フェル、お散歩行こ」

「外は寒い。風邪を引いたら困るから行かない」

「引かないってば。マスクをするから大丈夫」

「お正月はどこにも出掛けない日。だから行かない」

「お散歩行こうよー」

「今日はもう遅い。昨日にしよう」

「昨日はもう終わってるじゃない。早く」

「行かないと言ったら行かない」

 あ、メリタが膨れっ面になった。

 不味い、これは泣く手前。

「受験に失敗したら大学は離れた場所になって離れ離れになるんだよ? そうしたら毎週お散歩に行けないんだから、行ける時に行きたいの」

「分かった。行きます」

「最初っからそう言えばいいんだよ」

「ごめんなさい」

 この後も口を尖らせて小言を言い続け、私は黙ってそれを聞いた。

 歩いていると機嫌を直してくれる。

 その時まで大人しく聞く。


 メリタの通う大学がこの受験で決まる。

 メリタはその為に頑張って勉強をしている。

 私は落ちても良いから、メリタに健康でいて欲しい。

 けれど、メリタはどうしても落ちたくないようだ。

 メリタが風邪を引いて熱を出す事を考えると、受かってここにいてくれる方が安心で良い。

 それは理解しているのだけれど、私は早く巣立って欲しいと思っているようだ。

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