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そして彼女は老いた  作者: 丹午心月


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04 少女になる

 私だけだった時はもっと時間に余裕があったけれど、今はない。

 学校でも弁当が必要で、毎朝メリタの朝食とは別に作る。

 拾った頃に比べれば食べるようになり、体も大きくなった。

 下着は着色された物を好むようになり、買う時は清潔な白派の私と言い合いになる。

 何故白が駄目なのか。


 そのメリタは二年生になった。

 学生になってからの一年、熱を出す度に早めに迎えに行った。

 そろそろ熱が出なくなるような体にする為に、鍛えなければならない。

 やはり歩く時が来ているようだ。

 登下校時はもちろん長期休暇の間は私と一緒に職場にいて、往復は私が抱き上げていた。

 これを止めさせなければならない。

「メリタ、今日から二年生になった。そろそろ自分の足で歩く。分かった?」

「フェルにのるー」

 うーん、やはりそう言うと思っていた。

 けれど、私は今日から厳しくする。

「私はメリタのお父さん。だから厳しくする。今日から乗れない。分かった?」

「それならガッコは行かない。分かった?」

 顎を上げて顔を逸らした。

 可愛いけれど、生意気になった。

「分かった。今日から一人でお留守番。メリタのお弁当はここに置いておく。十二時になったら食べる。分かった?」

 その場にしゃがみ込んでしまった。

 動かないという意思表示で、これをすると私はいつも抱き上げる。

 それを理解しているわざとしている。

「いやっ! それならフェルのしごとに行く!」

「それは駄目。今日から私に乗れない。一人で歩くなら連れて行く。どう? 歩く?」

「うーっ……。フェルにのるぅー……。うわーん」

 泣き落とし作戦が発動した。

 その手には乗らない。

「けれど乗れない。決まった事だから無理。お留守番をする? それとも私と一緒に歩いて職場へ行く? それとも学校へ行く?」

「ううーっ、フェルにのる……。うえーん……、うわあーん」

「分かった。泣いていると良い。私は仕事へ行く。お留守番を宜しくお願いします」

 大粒の涙を流しながら泣き止んで私を見る。

「いぐ……。いっしょに行く……」

「歩く?」

「のる」

「お留守番を宜しくお願いします」

「いやっいやっ!」

「それなら歩く?」

 流れる涙を腕で拭って睨み付けて来る。

「……あるく」

 怒っているようだけれど、歩いてくれるようだ。

 助かる。

「それなら手を繋いで歩こう。メリタの手の為に手袋をする。待っていて」

 こうしてブランケットから卒業してくれた。

 と思ったけれど、家にいる間は私を椅子代わりにしているから、その時に使用する。

 ブランケットの卒業はまだ先のようだ。


 メリタが歩くようになって少し健康になった。

 熱を出す回数が激減。

 これは私を褒めなくてはならない。

 けれど、最近は寝かし付けが出来なくなって来た。

 気が付いたら私の膝の上で寝ている。

 中々ベッドへ行かなくなって、この有り様。

 歩くようになってからこうなっていて、原因はそれだと理解出来る。

 寧ろ原因はそれしかないから困る。

 そろそろ学校へ通って欲しいと思うのだけれど、毎日私と一緒に出勤する。

 それが当たり前になりそうになって私は焦る。

「メリタ、そろそろ学校で勉強する方が良い」

「フェルの方がおしえかたがじょうず。だから行かない。分かった?」

「学校には学校でしか学べない事が沢山ある。だから行こう」

「やっ!」

「それなら日曜だけ乗る事を許す。どう?」

「いらないもん」

「それなら家の中でも乗らないようにしよう」

「それはダメー! バーカ!」

 その言葉に私の思考が停止した。

「バカという言葉をどこで覚えた? 私は教えていない」

「ガッコ……。バーカって言われた……」

「えっ!?」

 学校とはそういう言葉を教える場所だった?

 有り得ない……。

「フェルはお父さんって言ったら、バーカって言われた……」

「なるほど、分かった。私のようなヒューマノイドは生物学上では父親になれないからそう言う子供がいるのだろう。けれど、私はメリタの父親。間違いない」

「ほんと?」

「本当。そう言った子に言い返しに行かなければならない」

「なんて言うの?」

「お前の方がバカだと言う」

「言って良いの?」

「私が言う。寧ろその子の親に言いたい」

 私はこの事を担任に言い、相手の親から謝罪を貰って終了した。


 それから少ししてメリタがまた学校へ登校してくれるようになる。

 その代わりに週末はメリタを抱き上げて移動する事になった。

 なるべく家の中にいたいと思う。

 メリタは甘えん坊だけれど、きっと学校で友達が出来れば私への依存が薄れるのではないだろうか。

 そうは思っても、友達の話は一切しない。

 やはりヒューマノイドが親代わりだと、バーカと言った子供のように軽蔑や軽視をしてくる子供が多いのだろうか。

 私は「壊れた(マンクス)」だけれど、メリタは中々に愛嬌のある可愛い子だから、それを見てきちんと判断して貰いたい。

 私の自慢の娘がそういう目に遭っていると知ると、思考が停止してしまう。


 小学校の行事に運動会があって、それに親は不参加。

 幼稚園の時には競技の合間に傍にいられたけれど、学校はそれすらない。

 校内でやるただの体育のイベントと化している。

 我が子の成長を目の当たりに出来る機会を奪われて、私は思考を停止するしかない。


 思考が停止する機会が増えても毎日の忙しさは変わらない。

 季節によって着る物も替えなければならない。

 衣替えという物だ。

 メリタは可愛いから何を着ても似合う。

 でも下着は白。

 清潔感があって良い。

 それなのに着色している物を選ぶ。

 以前はそうではなかったのに、もう白は着用しない。

「白は清潔感があって良い」

「ピンクの方がカワイイ」

「清潔感のある白が良い」

「カワイイピンクが良い」

 何故こうも頑固になったのだろうか。

「お父さんの言う事を聞いて欲しい」

「フェルはお父さんじゃないでしょ。それに白はフェルのシュミでしょ。私はピンクがいいの」

 お父さんじゃないでしょ、という言葉に衝撃を受けてしまった。

 よし、消去。

「私はメリタのお父さん。メリタは私の娘」

「それならピンクを買っていいよね?」

「言い包めようとしている。それは駄目」

「どうせピンクを買ってくれるんだから、もうピンクでいいでしょ」

「たまには白を穿いて下さい。お願いします」

「どうして白がよくて、ピンクがダメなの?」

「白は清潔感があって良い。ピンクに清潔感はない」

「はぁ……。フェルは白がすきってことでしょ?」

「私の好みは違う。けれど白は清潔感があって良い。ピンクにはそれがない」

「えっ、フェルって白がすきなんじゃなかったの?」

「私に好き嫌いはない。けれど白は清潔感があって良い」

「そればっかり……。ほかに言えないの?」

「メリタは可愛いから何を着ても似合う。だから白にしよう」

「また白をおしつけるの? それはよくない。ダメ」

「駄目だった? それならメリタが白を選んで」

「だからピンクがいいって言ってるでしょ」

「またピンク……。違う色にしよう」

「分かった。白って言わないならピンクはやめてもいいよ」

「白は清潔感があって良い」

「それならピンクね」

「分かった。ライトブルーで良い。これ」

「どうしてもピンクをやめさせたいんだね」

「爽やかな水色。これで良い。どう?」

「んーまぁ白じゃないならいいよ」

「決まり」

 白ではない事に甚だ不満を感じるような気がするけれど、ピンクでなければ良しとする。

 メリタがピンクから卒業する第一歩となった。

 これ以降、ピンクが徐々に減って行く。


 下着に水色以外の色が含まれるようになった頃、メリタは三年生になっていた。

 月日の流れが早過ぎる。

 私の中の何かが狂っているに違いない。

「フェルー、下着に白がある。いつ買ってきたの?」

 メリタもいつの間にか少女になってしまった。

 けれど私の自慢の娘。

 誰よりも可愛い。

「やはり清潔感のある白が良い」

「今度買ってきたら毎日だっこさせるから」

「メリタ、反抗期に入った? これは危険。私は十分に気を付けなければならない。やはり私は合っていた。メリタを悪の道へ(いざな)うと知っていた」

「また意味の分からないことを言って……。わたしは白が好きではないの。何度言わせれば気がすむの?」

 衝撃の事実を知ってしまった。

「メリタ、白が嫌い?」

「きらいでもないけど、好きでもないの」

「それは知らなかった。ごめんなさい。これからは気を付ける」

 この情報はいらないと思って消去していたのかも知れない。

 今も消去したくて堪らないけれど、どうにか耐えた。

「これでフェルにだっこしてもらう曜日は月火水になったからね」

「それは駄目。増やし過ぎ。それにメリタは歩かないと駄目」

「だっこしてもらえるの、後少しくらいだからいいでしょ?」

 そう言って甘えて来る。

 大人になりつつあるのか、やはりまだまだ子供なのか、扱いが難しい年頃になって来た。

 お父さんなんか嫌い、と言われてしまうより増しと思って我慢する。

「仕様がない。白のパンツが穿けなくなるまで水曜は抱っこする」

「月曜と火曜もだよ」

「それは許容出来ない」

「私の部屋へむだんで入ったんだからそれで月曜でしょ。勝手に下着の入った引き出しを開けたんだからそれで火曜よ」

「いつから駄目になった? おかしい。今朝まで平気だった。それなら今朝の内に言っておいて欲しかった。何故言ってくれなかった?」

「白いパンツが入ってたから気が変わった」

「それはない。取り消し希望。なかった事にしよう。抱っこもなし。以後お互いが気を付ける。これでなしにしよう」

 次の週、抱っこしてくれないと休むと言い張って困った。

 メリタはまだまだ子供だった。

 けれど、近い将来、きっと私を必要としなくなって来る。

 それまでは頑張って良き父親でありたい。


 メリタがまた成長して、白の下着が穿けなくなるまで水曜日は抱き上げて学校へ送った。

 日々成長するメリタを感じられて良かったのかも知れない。

 その機会をくれた白い下着をまた買いたくなったけれど、メリタが柄物の下着を好むようになって来て困っている。

 ストライプで一色は白で、もう一色は紺。

 水玉は紺地に白の水玉。

 逆なら分かる。

 これは白を侮辱しているに違いない。

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