表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして彼女は老いた  作者: 丹午心月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/3

02 幼女と別れる

 工場地区のテペファクトに到着し、私の職場へ向かう。

 この辺りに人間はいなくもないという程度で少ない。

 私がメリタを抱き上げていても見向きもされなかった。

 メリタは私に抱き付いていて、時々辺りを見ているようだ。

 体が動いているから理解出来る。


 職場の事務所に到着する。

 事務長のアンドロイドはヒューマノイドの私と違って、人型でも外見も人間に近い。

「マンクス、その連れている幼女は何だ? 遂に犯罪者になったか?」

「おはようございます。捨て子を拾いました。警察に当分面倒を見るように頼まれ、これから数日間の面倒を見る事になりました」

「それで連れて来たのか」

「はい。一人にしておけません。それでこの子の面倒を見るに当たり、生活用品などの必需品を購入しなくてはならなくなり、今日は半休を頂きたいのです」

「そういう理由なら仕方がない。今日は一日休め。急遽別の者にマンクスの仕事をさせる。帰って良い。その代わり、次の休みは無しだ」

「ありがとうございます。面倒を見る間はメリータも一緒に来ます。宜しくお願いします」

「承知した。金はあるのか?」

「はい。私は皆のように趣味がないので、ずっと貯金しています」

「やはりマンクスはマンクスだな。だがそれで良かったではないか。いる間は存分に贅沢をさせてやれ」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

 小さくお辞儀をしたら、抱き付いているメリタの腕に力が入った。

 背中を支えるべきだった。

 反省。


 ヒューマノイドはボディーの金属を装飾したり、アップグレードしたりする事に給料を充てる。

 知能チップやディスクを購入する事も出来る。

 けれど、私はそれをせずに現状維持にしている。

 生まれた時のままだ。

 だから皆から「壊れた(マンクス)」と呼ばれている。

 ロボットにもモチベーションは必要だと極一部の人間がそう設定した。

 けれど、私は何かに楽しみや興味を見出せない。

 それはきっと「マンクス」だからだろう。

 同じように作られていても、こういう事が起こる。

 破棄する程に深刻な物ではないから、私はこうして生きている。


「またでんしゃ……。つぎどこ?」

 電車に乗ってテピタ地区へ戻っているけれど、メリタは退屈なようだ。

 行きは静かにしていたのに、どうしたのだろうか。

「メリタの買い物に行く。沢山買おう。欲しい物はある?」

「おうちかえりたい……」

「メリタのおうち、今は私の部屋。部屋へ帰る前に、メリタの使うベッドや椅子を買う」

「かおあらいたい」

「顔? 水も買う」

「はもみがく」

「歯ブラシも買う。リストにある。ベッドも布団も買う」

「めりたのおうちは、ふぇるのおうち?」

「そう。今日は沢山買い物する。だからメリタは何度も店とおうちを往復する。分かった?」

「ふぇるといっしょ?」

「そう。メリタを一人にしておけない。ずっと私と一緒」

 何故か頭を叩かれている?

 でも優しい。

「いいこいいこ」

 良い子と褒められた。

 きっと母親にそうされていたのだろう。

 やはり一人にはしておけないと強く思った。


 テピタ地区にある店で色々と購入する。

 私の部屋にあるインフラは電気だけ。

 けれど、メリタは人間で水を沢山使用する。

 それも購入する。

 ベッドと椅子と、ああ、ソファーも購入しておこう。

 布団もシーツもカバーも必要。

 当日配送をして貰えるから夕方に届くようにした。

 それから衣類。

 メリタの衣類を揃えなければ。

 メリタの髪は少し黄色っぽい茶色。

 これに合う色にする。

「このいろいや」

 気に食わないとは困った……。

 オレンジ色が嫌なのは、女の子だからだろうか。

 本人に尋ねれば良い。

「ピンクが良い?」

「ぴんく?」

「メリタが穿いているスカートの色」

「これぴんくじゃない。ろーずっていうの」

「ローズ? ……確かに色名はオールドローズ。アンドロイドより細かい……」

「あんどど?」

「ロボットの一種。この色もピンクの部類に入るからピンクで良い」

「ろーず!」

「細かい事は良い事だけれど、今は大まかで良い。服の後は下着も買うから早く選ぼう。……それで思い出した。オマルを買わなければ」

「ほしいふくない。かえろう」

「服は買う。その後にメリタの昼食。そろそろお昼ご飯の時間」

「おしっこ」

「水分摂り過ぎた? 今日は五度目。出したらまた飲まないといけない」

「おしっこ……」

「行きます」

 メイド用の知能チップが欲しいかも知れない。

 そう思いながらトイレへ駆け込んだ。

 女子トイレへ入って悲鳴を上げられてしまい、それ以降は男子トイレへ行っている。

 それにしても人間は不便だ。


 メリタが服を欲しがらない。

 けれど着替えは必須。

 施設が見付かるまでどれ程の日数が掛かるかが不明だけれど、洗濯はしなくて良いように各十着購入してしまおう。

 行き先が決まれば、洗濯をしてからそこへ送れば良い。

 メリタに一着ずつ見せては首を横に振られ続け、もうなくなってしまった。

 別の店へ見に行かなければならなくなった。

 けれど、この店で買えそうな下着を見に行く。

「兎、猫、犬、水玉、白、どれが良い?」

「うさぎさん……」

「兎だけでは数が足りない。他には?」

「ろばさん……」

「ロバはない。猫、犬、水玉、白のどれかにして欲しい」

「……しろ」

「分かった。兎と白に決まり」

 兎と白になった。

「きっとメリタに似合う」

「そう?」

 やはり下着は白。

 清潔感があって良い。


 メリタが昼食中、私はメリタの正面に座っていた。

 またフォークに刺した肉を私に差し出す。

「ありがとう。私はいつもお腹が一杯。だからメリタが食べてくれると嬉しい」

「ひとりでたべるの、さみし……」

「二人いる。メリタと私」

「いっしょにたべるの!」

 怒ってしまった。

 こういう時は正直が一番。

「ごめんなさい。私の食事は人間と同じではない。メリタのその優しい気持ちだけをもらう。ありがとう」

「ん」

 言った事が分かったとは思えないけれど、食べ始めてくれた。

 いなくなる日まではこれが続くのだろうか。

 そう心配していたけれど、夜には一人で食べてくれた。

 良かった。

 メリタは頭の良い子。


 けれど、私はやはりどこかが抜けているようだ。

 メリタをお風呂に入れなければならない事を失念していた。

 水が沢山いる。

 テピタ地区のホテルに宿泊して、ホテルの従業員に頼んで入れて貰う事にした。

 ホテルに来たらベッドがある。

 メリタは今、その上で飛び跳ねて遊んでいる。

 買う必要が一切なかった。

 そう、なかった。

 中古屋へ売るしかない。

 人間はリサイクルが大好き。

 どうにかなりそうで良かった。


 私は買って来た革製の手袋を着用し、メリタの頭を撫でる。

 メリタはその時だけ大人しくしてくれる。

 だからずっと撫でる。

 その内に眠ってくれた。

 私は寝かし付けの天才だと思う。

 メンテナンスの仕事が出来なくなる事があれば、メイド用の知能チップを買ってメイドになろう。

 体にガタが来れば、私自身をメンテナンスすれば良いだけだけれど。


 それにしても子供の寝顔は可愛い。

 天使だ。

 と、先人が言っている。

 それよりもメリタの排尿回数の多さが気になる。

 膀胱炎なのだろうか?

 拾った翌日は直ぐにトイレへ行かなかった。

 だからだろうか?

 頻尿の原因を探らなければ。


 理解。

 私が原因。

 ボディーを冷却しているにも拘わらず、メリタをずっと抱き上げている。

 冷えから来る物だと判断。

 明日からは抱き上げないで、歩いて貰おう。

 解決。

 私もコンセントと繋がって少し休もう。


 メリタが座り込んで動かない。

「のる」

「私に乗ると冷える。冷えるとおしっこが多くなる。だから駄目。メリタ、歩いて下さい。お願いします」

 これで十五度目。

 出勤時間だというのに本当に困る。

「分かった。行きは歩く。そうすれば帰りは乗って良い事にする。それで良い? どう?」

「ふぇるにのる……」

 そこへホテルの従業員が来る。

「あの、どうぞお使いください」

 差し出されたのはブランケット。

「けれど」

「これで包んで抱っこをしてあげてください」

「お言葉に甘えます。ありがとうございます」

 ロボットは遠慮などしない。

 受け取ってメリタに向かって広げた。

「これに巻かれてくれたら乗って良い事にする」

 メリタは笑顔で立ち上がってくれた。

 それで包んで抱き上げる。

「お姉さん、ありがとうございます。行って来ます」

「はい、いってらっしゃい。メリタちゃんもまたね」

「ばいばーい」

 不機嫌だったのにもう笑顔。

 ……困る。


 それから数日、メリタの世話をしながら仕事をこなす。

 けれど、メリタがずっと乗りたがって困る。

 あのホテルの従業員には新しくブランケットを買って贈った。

 メリタも新しいブランケットを欲しがって、仕様がなく買った。

 貰ったブランケットはもう使っていない。

 勿体ない。


 拾った日から九日目、警察から連絡があった。

 帰りにあの警察署へ行く。

 プロク地区から児童相談所の福祉司という人が来ていた。

 これは確実にメリタとお別れのようだ。

 助かる。

 けれど、メリタが何故か私から離れない……。

「君は相当気に入られたな?」

 メリタを私に押し付けた警察官が微笑んでいる。

 笑い事ではない。

「きっとまた捨てられると思っている。わたしは通りすがりのお兄さん。メリタの家族ではない」

「ずっといるっていった!」

「メリタのお迎えが来るまでという意味。分かった?」

「いやっ! ふぇるといる!」

 私は福祉司のメディンさんを見る。

 メディンさんは苦笑いをするだけでメリタを剥がそうとしてくれない。

 手伝って。

 いや、手伝え。

「カリダに子供を捨てに来る人間が多くて、あなたのようなヒューマノイドが手を貸してくれるとありがたいのよねぇ」

 この工業都市カリダには人間が多いから?

 それよりもメディンさんはこの前の警察官と似たような表情をする。

 不味い。

 これは非常に不味い流れではないだろうか。

「断固拒否。きっと私はメリタを悪の道へ(いざな)う」

「わははははは!」

「あーっはっはっはっ! 悪の道! あはははは!」

 受けた。

 けれど、私はコメディアンではないから全く嬉しくない。

 二人は笑っていて、メリタを剥がしてくれない。


 何故こういう事になったのか?

 それは私が飲食店の前で丸まっているメリタを見付けたからに他ならない。

 あの時にはこうなると運命が決まっていたのかも知れない。

 ……そんな馬鹿な事があるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ