その四十三
日曜の昼前、拓海と美咲は先ほど入れたコーヒーと昨日買ってきたショートケーキを食べている。もちろん朝食もはしっかり食べてからのデザートだった。
昨日のウィスキーを飲み、その後も二人のハナシアイが続いたので起きた時にはしっかりお腹が空き、食事を終えて今だった。朝食とは言え、起きる時間が遅かったので、ブランチと言える。
「やっぱり真緒さんと一緒に来るみたいです」
美咲の言葉に拓海はそうだろうなと考えた。あの人の行動力ならきてもおかしくないと以前から思っていた。
「金曜から一緒?」
「はい、しかも帰りは真緒さんの車で帰るらしいです」
拓海は少し笑うしかなかった。思ったよりガッツリついてくる感じが流石だと思っだが、美咲の気分には少し触るらしい。
「もうお義姉さんのつもりなのかな」
美咲は真緒が嫌いではない。しかし、急すぎるのがあまり気に入らない様子だった。兄をさっそく取られている気がしたんだと拓海推測する。
「しかも日曜の昼に先生に会うみたいです」
拓海としてはそれは意外だった。あんまり接点がないように見えたからだ。それで、わざわざ会うってことは考えたくないが一つしかない。
「結婚の報告?」
拓海の言葉に二人の間に静寂が走る。
「なんか、いやですね。それ」
美咲は淡々と話したが目の奥ではちょっとした怒りを感じれる。彼女としては拓海とのそう言う報告がまだなのに、兄が彼女と先にそんな報告をするのが順番とられた気がしたのだ。
「まぁまぁ、別に結婚が決まった訳でもないんで」
「そうですよね?うーん、でも言われたら嫌だな〜先生にはあたしが先に言いたいのに、あっ」
美咲はそう言ってから拓海を見て恥ずかしような、慌てるような、忙しい態度をとった。それを見て拓海は余っているショートケーキを一口美咲にあげる。
「結婚への、圧迫では、ないですから」
美咲はもぐもぐしながら言い訳を話す。自分が言っていることが圧迫になることは理解しているんだと拓海は思う。でもあまり気にしていなかった。拓海としてもいずれはとは思っているが、今はなんとなく切り出せてないだけだった。それは美咲も同じだと考えている。
「本当にそういうつもりじゃ、ないですから」
「気にしてませんよ。でも、たまに二人住める部屋とか見ちゃうよ」
その言葉に美咲は少し嬉しそうな顔になる。いつも将来のことは考えているような態度をとってくれるが、具体的な住処を言及したのは今回が初めてだからだ。
「やっぱり2LDKはほしいよね?」
「広いのはいい事です。この部屋見てください」
美咲の部屋は2DKで女性の一人暮らしには広めであることに違いない。リビングがない事を理由に部屋を一つリビング化していた常にオープンしているのである意味1LDKより広く感じるところでもあった。拓海も幼いころから今の実家で住んでいて、留学先はそもそもすべてが大きかったので狭い事はそんなに好きではなかった。その点では二人の意見を一致している。
拓海は以前姉が話してい事が頭によぎる。
「早めにマンションとか買うのも手ではあるんだよね」
「え…買うって、大人ですね」
美咲は不動産を買うという考えは持ったことがなかった。拓海と付き合う前は特に誰かと結ばれることは考えた事なかったし、なんとなく今の家でしばらく住んでいて、将来的には実家に戻るとかなどが頭の隅っこにあっただけだった。
「姉がお金周り詳しいので、よく言うんだ。マンションとかを投資対象として若いうちにローン組んで資産増やして行くみたいな」
「…ごめんなさい。あまりわかってなくて、難しい」
美咲は真剣には聞いたものの、考えたことない分野だったので正直に話した。それを見て拓海は笑みを浮かべる。急ぎすぎたと思ったのだ。
「今度ちゃんと勉強してから話そう。なんか勢いに任せすぎた」
「ううん、あたしもちゃんと考えます」
嬉しさがあった半面、大人として知らないことが多すぎると美咲は思った。ちゃんとやるということは好きだが、二人で未来を描くには自分自身がもっと世の中を知らないといけない気がしたのだ。今まで意識したことがないから、少し恥ずかしさもある。
「それで、お兄さんは土曜の夜に会う感じでいい?」
「はい、あたしはたぶん昼から一緒ですけど、拓海は夕食だけでいいと思います」
「土曜は休みだから別に俺も昼からでも行けますよ」
それはそれで嬉しいが、なんか挨拶ではなくただのダブルデートになりそうだと美咲は思った。拓海は少し考えて、言葉を発した。
「三枝さんにもみんなであったら面白いかもね」
「なるほど、それいいかもしれません」
美咲は賛同して、すぐ兄にメッセージを送ることにした。
拓海は残りのコーヒーを飲みながら伸也がどういう人か考える。以前真緒は拓海には怖い人だと言っていた。それはなんとなく理解ができる。美咲と伸也の関係性は、自分と美月の関係性よりもっと強く、深いということは見てわかるからだ。可愛い妹を取られたくないのかもしれない。それはそれなりに腹を括るしかないと拓海は思った。
昼過ぎに二人は外に出ていた。あのままではずっと食卓か、ソファ、ベッドの上で過ごしてしまうからと感じたからだ。
ゆっくり歩いたつもりが、いつのまにかルートCAの前まで来てしまったが、特によるつもりはない。二人は何回かここでランチをしたこともあるが、今日はまたお腹は空いていない。
なんとなく和樂備神社まで歩いてみることにした二人だが、先ほどのルートCAで拓海は一つ思い出した。
「そう言えば、高瀬さんと宮原さんってこの辺に住んでる?」
拓海にしちゃ珍しい名前が出たので美咲を日傘の下で驚きながら拓海をみる。それから考えるながら話したが。
「高瀬さんは蕨とは聞いてますけど、あまり分かってなくて、宮原さんはここからも近いですよ」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「どうしたんですか?急に」
「いや、この間は二人がこの辺で一緒に歩くの見たんだよね」
「あーじゃ家の方面が近いんですかね」
拓海はあの時のことを思い返す。美咲が言ってるような感じではなかった。あれば確かに恋人の距離感であったが、美咲のこの反応を見ると知らないに違いないと拓海は思った。でも特に隠してあげる義理もない。
「その二人、付き合ってると思うよ」
その言葉に美咲がキョトンとしたまだ拓海をみる。それからは笑いながら手を振った。美咲が知る限り二人のツーショットは想像ができないはず、だった。
「あれ?もしかして本当?」
「うん、俺たち並みに距離感近かった」
美咲は思い返す。
浦和署で2人で話すことは見たことがない。しかし、合気道同好会やその帰り、飲み会まで記憶を広げて行くとそれらしき瞬間が、いくつかあった。
合気道同好会で、二人の距離が近いと思ったことがある。しかし、それは練習中だからの前提があった。帰り際も宮原は高瀬と同じ電車に乗ることもあった。場合によっては飲みの席でも一緒に抜けて帰ることがあったと覚えている。
「なんであたし気づかなかったんだろう」
鈍感だから言ったら怒られると拓海は密かに思った。拓海もあの場面を偶然見かけなかったら気付くことはできなかった。実際に個別にあの2人に会った時はそう言う話にならなかった。
「もし向こうが隠していたんなら仕方ないですよ」
「えー、七海は知っていたかな?」
美咲は少し悔しいように話す。妙なところで負けず嫌いが発揮されていると拓海は思う。
「でも高瀬さんと、宮原さんか〜」
「同好会とかで一緒でしたよね?」
「はい、でも仕事だと全然違う課で、二人でいるところは見たことないんです」
確か高瀬は刑事課で、業務的な協力は美咲の方が多いはずだと思い返す。前赤羽で飲んだ時も妙な念押しされている事を覚えている。ずっと‘いい子だから‘と言われていた。
「これって知らない顔しといた方がいいんですよね」
「まぁ、本人らが言わないならね」
「了解です。でもこの辺ってことはルートCAに通っているといずれあっちゃいそうですよね」
拓海は思う。彼女は多分宮原さんに言いたい。恋バナをしたいのかもしれない、それとも職場での内緒の彼氏持ち同士仲良くしていきたいのかもしれない。
彼が邪推をしていると美咲はワクワクしながらスマートフォンを見返す。高瀬と宮原が一緒に写っている写真とかあるのか探しているのだ。
拓海は日傘を持った彼女をさらに日陰の方に誘導する。そうすると美咲は急に写真を見せつける。
「ありましたよ!」
おそらくみんなで飲み会をした日の写真、拓海は思わず美咲を探す。右側にやや固い表情の美咲がいる。ちょっと前なのか、髪が出会った時より長い。
「この子かわいいね」
「あたしじゃなくて、左です」
拓海が写真の美咲を指さすと美咲は少し恥ずかしがりながら左端のの高瀬と宮原を指す。こちらも拓海のイメージよりちょっとだけ若い。高瀬が正座している前にいい感じで酒が回っている宮原が座って高瀬に背もたれである。
「確かにこれは怪しいですね」
「でも絶対付き合ってますよ。なんでこの時気づかなかったんだろ」
鈍感だからですと拓海は言えない。美咲はまたアルバムを探る。見返すと実は怪しい写真をもっと見つけたいのだ。拓海は笑みを浮かべて彼女を見ている。
夏の日陰の中で二人はいる。




