その四十一
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うーん、かなり良くない。
昼食を終え、着替え室で個人の携帯を開いたところ、美月さんからメッセージが入っていた。
【兄の誕生日、素通りに見えたけど、もう嫌いになりました?】
確かに、昨日のショーンさんも誕生日プレゼントと言いながらお酒をくれた気がする。
それから、あたしは彼の誕生日を知らない。
悩ましい。
付き合ってまだ一カ月ちょっととは言え、彼女である。
知らなかったは通じないと思う。
急いで、拓海とのメッセージを振り替えてみるが、それらしいことは書いてない。
彼との会話も思い返すが、誕生日に触れてこなかった。
これは、どうすれば…いい?
自分の誕生日を気にしてない?
それは拓海らしい。
「でも、あたしはお祝いしたかった」
あたしは携帯を握ったまま、少しだけ唇を尖らせて呟いた。
…まあ、それはあくまであたしの気持ちで。
本当に気にしてないのかな?
実は少し怒っている?
わからない…
美月さんには何も返せず、携帯を戻してから着替え室を出て行った。
次拓海に会うのは週末、そこまで考えなくては。
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ショーンは信野医薬のロビーのソファに座っている。少しユニークなデザインがショーンとしては座りにくいものだと密かに考えている。一応本日は技術的な意見交換を題材にとしているが、実際のところは尊敬する黒川に会い、楽しく飲むためであった。お土産も用意している。
「お久しぶりです」
ショーンは女性の声に少しびっくりする。てっきり拓海が迎えに来てくれると思っていたから、水野の声に驚くしかなかった。彼女は少し笑みを浮かべてショーンを見ている。
「これは理沙さんじゃないか、相変わらず固いね」
「このご時世に危ない発言ですよ」
冗談をやり取りしながら、ショーンは立ち上がった。水野はすぐに会議室への案内をしてくれるので隣で歩きながら雑談を続く。
「絶対タックが来ると思っていたよ」
「まあ、彼と黒川さんはちょっと実験トラブル対応中です。後、そのまま飲みに行くから全部整理してから降りてくると思いますよ」
「おや、理沙さんは今日付き合ってくれないのか?」
「どうしようか、悩んでます。相手が生意気なんでね」
ショーンは以前サンディエゴの街中であった時より余裕がある人になったと感じた。それは当然かもしれない、緊張すべき場面の前日であったし、彼女はライバルはかなりできる人だったからだ。しかし、それとはまた少し違う何かがある気がする。
「なんか、変わったね」
「そうですか?タバコ初めて、やめた事しかありませんよ」
「タバコか、大抵男がらみだ」
その言葉に水野の笑みが少し揺れた。ショーンは気づいたが知らないふりをする。昨日帰り際に駅のフラットフォームで拓海と話して内容からするとなんとなく、相手がイメージできるからだった。そんなことより彼は水野に用意したものを会議室に入る前に渡す。
「私に?プレゼント?」
「そう、あなたにお似合いの物だ」
会議室に入り、席に座りながら流暢に話した。たまたま見つけたもので、自分が言ったこともあるから買っておくしかなかった。水野は少しそわそわしながら紙袋の中身を見る。中身は梱包されているの物はわからない。
「ぜひ開けてくれ、仲間として送る気持ちだ」
ショーンの言葉に水野は恐る恐る箱を開けてみる。そこには銀色の腕輪があった。箱の中には小さめのシルバーの歯車がサイズ違いで並べられていて、その両端から細いシルバーのチェーンが輪の形でつながっていた。少し武骨だけど、ちゃんと華奢な感じがする独特なデザイであった。
水野は少し驚きながらショーンを見る。
「ネジのアクセサリーはさすがになかった。これであの時無礼は許してくれるか?」
その言葉に笑いしか出なかった。そもそも無礼なことはなかったと思う。水野としてはどちらかというと励まされていたと考えていた。最後のネジの冗談も今まで正直忘れていた。
「もちろんだよ。あなた、いい人だね」
「理沙さんに気に入られたんならしばらく、信野には自由に出入りできそうだ」
ショーンが大げさに言うと水野は先までに誤魔化していたことを正直に言っておこうと考えた。数回して話してないけどこの人は信頼できる人に見えだし、拓海との親しい人だからだ。
「正直に言うと、この間佐藤さんに振られたんだよ」
「タックか?まあ、今のあいつは彼女のハマっているからな。無理だろう」
ショーンは淡々と言い返した。
水野は思う、やはり普通に考えればそうだろうと。しばらく自分がおかしかったことは認めざる得なかった。
「私のことは、女性じゃなくて同じ学者でしかみてないってさ」
「それはいい事じゃないのか?君たちはライバルだろう?」
「そ、そうだね」
「ならすべてOKで、まあ、そんな感じでふられたのは別に君が初めてではないぞ」
水野は頭にはてなが付いた。振られるのが当たり前な扱いをされていると思ったら、今度は違う角度から入ってきたからだ。水野はあまりいい気分にはなれない。それに気にせずショーンは話し続ける。
「大学院の時もさ、何回か食事に行く女性はいたけど、すべて学者としてしか見れないからって3人くらいはふっている。タックは一回人を定めると中々、イメージを変えれないやつだから仕方ないと思う」
「で、でも今の彼女は別に最初から彼女ではないよね?」
「うーん、昨日会ってみて思ったけど、最初から拓海には特別だったんじゃないのか。顔との見た目ではなくて、どこかでこの人を知りたいっていうスイッチから関係性が始まったと思うよ。」
水野はあっけない気持ちになってしまった。
最初から拓海の隣に立つということは、居場所を間違えていたんだと思えた。彼は水野を下に見ていたわけでも、興味がなかったわけでもない。ただ最初から、自分を同じ線上いる人、研究者として見ていた。それも知らず、頑張って周りを飛びまわり、自分が認めてもらっていることを、自ら捨てようとしていたことになる。なんと情けない、恥ずかしい事なんだろうと彼女は思ってしまった。
「この数カ月、無駄にした気分だよ」
「まあ、でも楽しかった経験じゃないのか?あなた見たいなロボットには必要なことだ」
ショーンが笑いながら水野に慰めの言葉を渡してきた。水野は軽い笑みを浮かべるしかなかった。心に最後まで残っているもやもやが消えていくようにも感じたからだ。
金曜の夜は、拓海と連絡つかなかった。一応週末に会うことにはなっていたが、いつとは決めていなかったのでその話がして、準備の時間を確認したかったのに捕まらず。とりあえず、浦和駅前の百貨店に向かう。
美咲には心の余裕がなかった。
「いつまでぶらぶらするのよ?どうせダックのだろう?」
退勤する際に着替え室でたまたま会って、一緒に買い物に来ている七海が聞いて来る。今日の買い物の理由を具体的には伝えていない。バレたくないからだ。でももう30分近くメンズフロアにいると流石に気付かれた。
「拓海のですけど、こう、記念になりそうなものを」
「なに?誕プレ?」
図星で来ると肩が落ちる。自慢の無表情を取り作る余裕もなく、七海に気付かれた。ニヤニヤしながら顔が近づく。そして’言ってごらん’と言われなのだ。
「きゃっはははは!しのちゃん最高!」
素直に話すと七海は遠慮なく笑ってくる。フロアの人から見られるのが、七海のこの笑いがとても恥ずかし思う。
「仕方ないじゃないてすか!考えたことなかったですから」
「普通さ、彼女は最初に聞くよ?なんなら付き合う前にね」
言葉が美咲の心に刺さる。
「まぁ、頭にリボンでつけて、’プレゼントは私だよ’って言えばいいんじゃない」
「それは無理です」
「忘れたと言うか、把握してない詫びとして?」
「…あ、やっぱ無理」
意外と真面目に話してくる七海に乗せられて、美咲は一瞬真面目に考えたけど、想像するだけで鳥肌が立ってきたので無理と再報告する。
七海ら少し考えるが、拓海の好みはわからなかった。少し古めのものが好きと言うイメージはある。でもそれは恋人の彼女でもわかるはず。
「ごめん、なんも出ないや。なんかパンツでいいんじゃない?」
学生のりのコメントが来る。美咲はそんなの買うわけないでしょうと思いながら、雑貨コーナーを見てみる。
(お財布とか…重いよね。腕時計もあんまりつけないし…名刺入れ?)
結構拓海のことは見ているはずだ。でもいざこう言う機会になるとあまり知らないと気づいてしまう。拓海が物欲を出すところをあまり見たことがない。後、何より欲しければ自分で買っている。
「困るよな〜自分より金ある人へのプレゼント」
「そうですね、七海ならパック日本酒で済むのに」
親友のきれのいい返しに七海を笑ってしまった。ケラケラの声にまたフロアの注目を浴びてしまう。笑いを堪える七海を見ながら美咲は閃いた。
「わかりました!七海、決まりました!」
「へぇーおもろかった。なんにするの?」
美咲は六階といいながら急足で向かった。七海は想定もできず着いていく。彼女が知る限り6階はリビングフロアで、拓海とは縁がなさそうだった。
「あたし、家でお酒飲まないじゃないですか?」
「そうね、て言うか酒はここじゃないよ」
「違うんです。あたしが飲まないから拓海も飲まないんです」
それはありがちなカップル在り方だと思う思っている。それでも美咲が少し興奮気味で話すので、七海は聴くことにした。
「昨日拓海のお友達から高いウィスキーをもらったんです」
「この前言ってた、私が前に捕まえたやつね?」
「そう、二人で飲んでって言うから私が持ち帰ったんです」
七海はわかった。ウィスキーグラスを買おうとしているのだと。パック日本酒からよくそこまで辿り着いたと思ったが、少し心配がある。
「あの棚にあるBで始まるブランドでいいと思うよ」
リビングフロアに着いて、ウィスキーグラスがあるところを見ると七海は自分が知っているの中でやや高めなものを勧めてみた。正直彼女としてはウィスキーグラスを使う理由がわからない。格好つけるだけだろうと考えている。
「あの言いにくいけど、タックは家に持っているんじゃないかな?」
「持っていますよ」
淡々と返す美咲に七海は少し呆れた。しのちゃんは意外と彼氏を自分色に染めたい女なのかもしれないと思ったのだ。
「なのに買うの?」
「はい、あたしの家で使うものとして」
七海はやっとわかった。持ち帰ったウィスキーを後から拓海に帰すつもりはなくで、自分の家で飲ませるつもりだと理解した。
「あ、ちょうどペアのがあるからこれにします」
美咲は笑みを浮かべてペアのモデルを取り出す。そこで七海はニヤける。悪戯が思いついたのだ。
「しのちゃんあれかな〜?このグラス使った日には朝まで一緒に的な〜?やっぱり私がプレゼント的な?」
美咲が幻滅する目線で七海を見つめる。仕事の無表情やり取り冷たさを感じてしまったので七海すぐにあやまった。
二人は無事購入を終えて百貨店を抜け食事に向かう。せっかくだし、久々に二人で夕飯を済ませてから帰ることにしたのだ。
「急だったのにありがとうね」
「いいよいいよ〜家帰ってもパック日本酒飲むだけだから」
駅ビルを通り抜けて何回か来たことある洋食屋さんに入る。二人は軽めの食事とグラスワインを頼んだ。ワインで乾杯をして、少し緊張がほぐれる。
「それにしても彼氏の誕生日を知らないは笑ったなぁ」
「本当に、美月さんにもびっくりされたからね。がっかりさせたかな?」
「そりゃね〜、一応実の兄だし。公認の彼女が実兄の誕生日知らないってなったら少しひくよね」
美咲は額に手を当てた。せっかく自分を好感を持ってくれていた彼氏の妹点数が下がる気がしたからだ。
「本人はどうなの?なんか言ってた?」
「全然、なにも。メッセージも普通でしたし、昨日もショーンさんと普通に話していたし」
「タックってさ、誕生日とか気にしないんじゃない?」
「そうですけど、こちらは祝いたかったから、ちょっとショック的な?」
七海は感情の波に呑まれている美咲を見て少し微笑ましくなった。軽めの悩みは多いけど、着実に進んでいるのが美咲らしいと思ったのだ。
少し惚気にでも付き合ってやろうかと考える。
「昨日あった時とか、帰りは何も言ってないんだ」
「はい、ほぼショーンと話していて、あたしはあまり入れなかったですね。英語だったし」
「しのちゃん、別にいけるじゃん?」
「いやいや、そう思ったんですけど。拓海がネイティブすぎて、ほぼわからなかったです」
「ショーンってやつと悪口言ってない?大丈夫?」
美咲は昨日のことを思い返す。全くわからないわけでもないからある程度は理解していたし、拓海がなるべく話しを教えてくれてたから話題自体は問題ない。
思い返すところで彼の可愛いところを一つ思い出して笑みが溢れる。
「え、なに?なんかあった?」
七海が食いつきよくその笑みに聞いて来る。美咲は迷った完全に惚気になるからだ。ワクワクしている七海の顔をもう一度見て、素直に話す。
「拓海は誤魔化してましてけど、ショーンさんからすると、最初の取締りからあたしのことタイプって言ってたみたいですよ」
七海のワクワクは、強めの惚気とワインで流れてしまった。




