その三十三
ダナン、海沿いのリゾートホテルのレストランに水野と西村は座っている。夕食で現地のシーフード料理を食べて帰ってきたところだ。部屋に戻る前に、軽くホテルのレストランで飲んでから帰ることにした二人は、テラス席を選んだ。太陽はすでに沈んだおり、ライトアップされたプールが光を反射しながら揺らいでいる。
「理沙さんのおすすめ、全部よかったです」
初めてベトナムに来た西村は本当に満足しそうに声を出した。その言葉に理沙は笑顔を浮かべる。彼女もダナンは初めてなものの、ベトナムはすでに数回来たことがあったので馴染みはあった。
「それはよかったよ、ちゃんと先輩できたから」
「理沙さんはいつだって先輩ですよ。仕事じゃ教えてくれるし、遊んでくれるし、たまに奢ってくれるし」
「わかったわかった。ここは奢るから」
「うわっ!ありがとうございます〜」
水野のは人にたかり上手な後輩の言葉を理解した。正直勿体無いとは思ってない。西村は移動のタクシー代とか、食堂とかでもちゃんと自分で出そうとする子だ。結果はともあれ、先輩としては嫌いにはなれない。
「あ、すっごーい個人的かも知らないですけど聞いてもいいですか?」
「なになに?年収とかは言わないよ。後、昔の男も」
珍しい前振りに水野は構える。ちょうどそのときに店員が注文したカクテルを持ってきてくれた。二人は外てすでに飲んでいるので、軽めとおしゃれに行くためだった。
「聞く前に写真撮りましょう!二人できめて、みんなに見せびらかすんです!」
西村は水野隣に移動して顔を近づける。若干戸惑う水野にポーズを要求するが、水野のぎこちないなお動きに西村が手取り足取りポーズを作ってあげる。
「キメ顔と、はっちゃけてますと、オレンジ〜みたいな感じで行きますからね」
旅行の間西村の写真の指示はこうだった。よくわからない単語と言葉でお願いされるが、水野の結果物に西村からの指摘を受けたことはない。
連続でスマートフォンが光る。カクテルの持ち方を変えたり、表情を変えたりしながら写真を撮る。
「よしよし、これで思い出追加と!」
「ひなちゃん、写真好きだよね〜飲み会の度に撮っているし」
「いやいや、ちゃんとおでかけの時も撮ってますよ」
その言葉に少し水野は呆れる。いっぱい撮りには違いないからだ。
「黒川チームのメッセージにあげてもいいですか?」
西村は2枚の写真を見せる。キメ顔とオレンジ〜と言っていたハツラツした感じのものだった。水野は酒のせいで少し顔が赤いのは気になるが、黒川チームないなら良いと思った。
水野のオッケーサインに西村は席に戻りながら写真を上げる。
「れんれん、早っ!」
西村が席に座ったところ、早川から写真にいいねが付けられた。チェックしていた水野も驚いたのですぐさまメッセージを入れる。
【れんれん、見張ってた?】
【れんれんじゃありません。後そんな暇ないです】
返しのメッセージと一緒に早川から写真が送られてくる。暗くて街灯もない山道の中で、遠くに夜景のような街の光が見える。その前には早川のものと思われるロードバイクが置かれている。
【昼寝しすぎてまだ目的地に着いてません。12時前にはつきたく、それでは】
そのメッセージを読んだ水野は顔をあげるとちょっど西村と目が合う。二人は同時に笑い出した。
「れんれん、何してんのよ〜」
「四国待ってるんだよね?わざわざご苦労な事を」
「そうなんです。あんなにだるそうにしてる人なのによくやりますよね」
水野は激しく同意した。仕事では必要な事以外はなるべくしない。話聞く限り私生活でも似たようなはずなのに突飛なところで頑張っている。
水野は思いついたように西村に聞く。
「ひなちゃん的にれんれんはあり?」
「げっ、絶対無理。甘やかしてくれないもん」
「ですよね〜うちの若手は浮いた話ないな」
そう言いながら水野はカクテルを飲んだ。その言葉に西村は先ほど聞こうとした質問、自分がこっそり決めていたシークレットミッションを聞こうと思った。
「理沙さんはれんれんどうですか?」
「私?ないない。年下だし、人に興味なさそうだし」
「そうなんですか?二人でやってるいる仕事はみんな順調だから相性いいと思いますけど」
「あと、あいつは妙に生意気だからいやだ」
水野は嫌な顔をしながら回答した。西村は少し残念そうだった。早川が水野の件に首を突っ込む背景が恋なら、もう厳しそうだったからだ。
「まぁ〜頼れるやつってことには間違い無いけど」
最後に気持ちフォローするように水野が話す。その回答で西村は本題に入ることにした。
「私は、うちで誰かっていうなら、拓海さんしか無いですね。いいですよね?大人って感じで」
西村の仕掛け言葉に水野は先まで豊かだった表情が少し揺れる。
「…いいよね。彼も頼れる人だと思うよ」
「理沙さん的にはどうです?ちょうど同い年ですもんね」
その言葉に水野はカクテルを口にする。迷いが生じてしまったのだ。彼女がいる人へ持っている感情をこの子に言ってもいいのかと。
「前、黒川さんがサンフランシスコの写真送ってきた時に社内でざわつきましたよ。カップルやんと」
「あ、あれはさー、イタズラみたいなものだから。あと、あの人彼女いるじゃん?」
そういい返すものの、西村の言葉にあの時の感情を水野は思い出した。確かに彼女は言った。‘もう少し、いいですよ‘と、後残念がったことも。彼女の顔が少し顔が暗くなる。
「彼女がいると全く興味なくなるんですか?」
追い討ちをかけるように西村が話す。答えは求めていない。水野はまるで責められている気分になった。西村が自分の気持ちを全てわかっていて言ってるようだと感じている。
「そうね。普通そうだよね」
「まぁ、あんだけ可愛い人を見せられたら、こちらも考えますよね」
「…何が…言いたいの?」
天真爛漫な西村に振る舞いに、水野は我慢できずに聞く。彼女は何も言わずにいつもようにニコッと笑って話す。
「何がですか?拓海さん、モテる人ってこと?」
わざと的を外して斜め上ことを返した。水野はその反応に戸惑う。わかっているのか、そうでないのかわからなくなったのだ。
「そういえば理沙さんここでもシルバーアクセサリー買いますよね?」
「あ、うん。明日とかは見てみようかな」
「わたしー理沙さんと、お揃いしたいな〜」
西村は話題を切り替えり、いつもように末っ子スタイルで甘え始めた。水野は考えすぎと思ったのか溜め息をついて、笑いながら話す。
「わかったよ。可愛いやつ、探そうね!」
笑顔が戻った水野を見てから西村はスマートフォンの地図を開いてみる。事前に店探しをするつもりだった。そこでメッセージのアラームが鳴る。
【くそっ、いい女すぎる!混ぜてくれ!】
黒川だった。二人は無視することにしてカクテルに手を運んだ。
「あのさ、帰る前にいい?」
由佳はトランクを閉めながら拓海に聞いた。拓海は指でオッケーのサインを出した。スーパーの喫煙コーナーに行く。正確には喫煙コーナーだったところだ。
「灰皿ないじゃん」
「撤去されたかな?ご時世がね〜どうする?コンビニとかよる?」
「いいや、一瞬だし隠れて吸うわ」
拓海はやめた方がいいと思いつつ、禁煙って書いてないかを確認してみる。幸い張り紙はなかった。その間、由佳はすでに電子タバコの一口を口に深んでいる。
「お前本当すごいよな。必要な時だけ吸うって」
「まぁ、マリファナとか吸っとけばできるようになるんじゃない?」
拓海のアメリカンジョークに由佳は笑えなかった。右眉がだけが少し揺らいでイライラを表している。由佳は煙を吹きながら言う。
「彼女さん、可愛いのはわかったけど、将来のことは話しているの?」
「うーん、腰据えてはしてないな。2人とも意識はしているよ。俺は美咲逃したら結婚はできないし」
その言葉に由佳は少し笑みが浮かぶ。アメリカから帰ってきてままない時とは大分変わった未来を変えてるように感じたからだ。その時は母と家族優先というスタンスだったの、今はちゃんと自分がいる未来を描いている。
「まぁー相手も選ぶ権利あるからあんまり調子乗るなよ」
「そうね。姉さんからー」
「タバコ、やめていただけますか?」
拓海は姉に質問しようとしたが、馴染みのある声に振り向くしかなかった。警察の格好、吊り目に無表情。美咲が拓海と由佳の後ろにいた。
「あっ、すいません、消します」
由佳は警察の言葉に慌ててスティックを取り出し、スティックの箱に入れ直す。
「ここ最近、撤去に伴って敷地内禁煙になりましたので、ご理解のほどお願いいたします」
美咲は由佳にそう言いながら、拓海をみる。妙な笑みを浮かべて何も言わない。拓海は既視感があると感じた。そのため言い訳する前に口を開こうとしたが、由佳早かった。
「あれ?拓海、もしかして…」
「…そう、彼女の美咲」
「はじめまして、東雲美咲です。勤務中なのであまり話せませんが、お姉さんですよね?」
美咲は以前とは違う反応で、由佳に声をかけて行った。拓海は新鮮だった。制服の姿なのに、中身はいつもの美咲だと感じたからだ。
「姉の由佳です。拓海がお世話になってます」
「いいえ、こちらこそ。いつも素敵なお姉さんがいると聞いておりましたので偶然でもお会いできて嬉しいです。今度挨拶伺いますので、またよろしくお願いします」
美咲はそう言ってからには拓海をみる。また妙な笑みを浮かべた。拓海はやっとその笑みの意味がわかった気がした。
(あたし、しっかりしたてしょう?後で褒めてね)
美咲にそう言われている気分だった。
由佳離れていく美咲の後ろ姿を見続ける。美咲は少し遠めに留めている警察車両に足を運んだ。そこには佐久間が運転席側に立っていた。彼もまた拓海に向かって軽く会釈する。
「お前、あの若い男性も知り合い?」
「うん、今や美月の友達って感じが強いけど」
由佳は首を何回か縦に振る。それから拓海と自分の車に戻り、車とタバコに電源をいれる。拓海は助手席に座って電子タバコを口に加える姉を見る。
「美咲、どう?」
拓海が我慢できずに姉に聞く。そこでやっと由佳は考えの整理ができたのか拓海を見て話す。
「仕事だとしっかりしているように見えるね」
「…仕事外だと?」
「ふーむ、ちょっと生きるの下手?って感じ」
姉の引っかかるような言い方に掘り下げて見れば、やはりいい言葉は出てこない。拓海はすこし眉間に皺を寄せると由佳は車を出しながら話した。
「完全に我々とわかった上で声かけてきていたよね?」
「そうね」
「ならさ、将来的には義理のお姉さんになるかもしれない人に注意から入る?別の言い方にしない?」
由佳は文句のように話すが、怒ってはない。そもそもの非はこちらにあるわけだが、一連の行動を見た時に弟の彼女は要領いい子ではないという結論に至ったのだ。
「まぁ、拓海が結婚相手として見られてない可能性もあるけどね」
単純な美月とは違う。案外的確に美咲のことを把握した由佳を見て、拓海は先の美咲の笑顔を思い出す。結果論としてはいい印象は与えられてない気がした。どう美咲に伝えればいいのやら、悩ましい拓海だった。




