その二十五
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物音に目が覚めた。
眠い…
「七海起きた?」
しのちゃんがいる。そうだ。
今日はバーベキュー行けなくて、後から飲み屋で合流することになっている。
だから今朝、しのちゃんの家に泊まった。今何時だ?
「もう15時過ぎです。拓海さんたち、浦和駅に向かっているって」
ソファに座り込み、しのちゃんを見る。
裾の広いグレイパンツ、白の可愛い感じのブラウス、腰にはワインレッドのスカーフみたいな物が巻かれている。化粧はまだか。
「おはよう…チカラ入れすぎじゃない?」
私は脱いでおいたデニムを履きながら言った。
デートでも行くのか、こいつは。
「普通です」
「はいはい」
白の半袖トレーナーを着て、顔を洗いに洗面台に向かう。
散らかっている。ヘアアイロンも出ているし、髪型も整えたのか。
彼氏の職場の人に会うんだろうし、負けたくないんだろうな。これは化粧も何時間かかかりそう。
「言っとくけど、後20分で出るからね、しのちゃん!」
「わ、わかってます!」
本当にわかっているのか。
そう思いながら、顔を洗う。
見てみようかな~、眩しい人たち。
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正直、まだ少し眠かった。
でも、拓海さんと逃げないって約束したから、絶対に行くと決めていた。
七海もいるし、拓海さんもいる。心は万全だ。
「あれじゃない?」
窓越しに見えるいい感じで盛り上がっているグループ、その中に拓海さんが座っている。
周りには会社の人、森下さんは見えない。
佐久間くんが美月さんと知らない若い女の子に囲まれている。後は黒川さん、ロビーで見た若い男の子、そして水野さん見える。
「いいね?」
七海が確認するように聞いてくれる。
私は首を縦に振って、店のドアを開けた。
「美咲さん!」
拓海さんが私を見かけると立ち上がる。
平常心で、笑うんだ。
私は手を上げてからそちらに向かう。
「どうもどうも、失礼します!遅くなってすいません!」
七海が隣で大きな声を出してくれる。1番最初に反応してくれたのは黒川さんだった。
「噂の七海さんね。どうも、偉い人の黒川です」
「やばい、もう好きになりそう」
その言葉に黒川さんが豪快に笑う。
七海、飲み会慣れしているからこういうところではすごいんだよな。
あたしはどうしようか。
「美咲さんですね?佐藤さんの可愛い後輩枠の西村ひなです。こちらに座ってください。」
佐久間くんと話していた西村さんが、席を案内してくれる。
当然のように拓海さんの隣だった。私の正面には七海が座った。
すぐ飲み物を頼むとすぐに飲み物が届き、黒川さんが待つ余地なく乾杯という。
うちの飲み会とはかなり流れがちがうと思った。
いつも班長か、偉い人が一言話してからだったので、少し不思議だった。
「さて、タック、お願いできるか」
黒川さんの言葉に拓海さんが少し困った顔をする。
何か無茶ぶりされている?
「今までさんざんいじって改めて言えと?」
「写真は写真ですからね」
拓海さんの文句に拓海さんの隣に座っていた早川さんがツッコミをいれる。
拓海さん、あたしの写真見せたの?どれ?大丈夫なやつ?
そう不安がって周りを見ると、いつの間にか拓海さん以外はみんなあたしを見ていた。
「あ、東雲美咲です。拓海さんがいつもお世話になってます」
思わず、言ってしまった。
拓海さんが拍子抜けた顔をしてあたしを見てくる。これじゃないの?
正面の七海がけらけら笑いだす。
「うむ、いいね。初々しさは大事だぞ」
「離婚者が言うと変な意味持つからやめてくださいよ」
黒川さんの言葉に西村さんが厳しく当たる。それで拓海さんの会社の人たちも笑ってくれている。
大丈夫なのかな?
少し遠くにいる美月さんが口を開く。
「よかったね~たく兄、私は絶対言わないことを言ってくれる人ができて」
ちやほやされているのか、茶化されているのかがわからず、少し難しくこの場を感じ始めた。
味方である七海はけらけらするだけ、佐久間くんなんかは西村さんと美月さんに笑われながら叩かれている。
二人とも、役に立たない!
「黒川さん、こいつらのなりそめ聞いてあげてください。すごいの!」
そこに七海が追い討ちをかける。
味方違うの?!
「実はそれ、大体聞いちゃった」
「えーじゃもう知ってんの?しのちゃんが逆ナンした話」
「まさにそれ思った。なんでこんなやつに、こんな美人が声かけるかね?」
七海の暴走に少し、イラつきを感じる。
逆ナン、否定はできない。
でもそれ、今言わなくてもいいんだよ。七海。
「いや、出会いはショーンさんも一緒でしたから、七海もいたから」
「え?なんでショーン知ってるの?」
何人かがこちらを向く。
え、その人、この会社で有名なの?
「あれですよ。ショーンと草津行こうとする時に取り締まりで七海さんに捕まったんです」
「あ!それね?セクシーなオフィサーとロボットに捕まったってやつ?」
「ちょっと待って、ロボットはしのちゃんだから〜セクシーってあたいのこと?」
拓海さんのフォローから七海の反応にまだしもみんなが笑う。
七海、流石にうまい…!
でも引っ掛かる。あたし、ロボットなの?
「拓海さん、ロボットって何?」
笑いながら拓海さんに聞く。明らかに困った顔になる。
「美咲さん、それはですね。あいつの感想であってー」
「ショーンはそういうやつなんですよ。私も何回かロボット呼ばわりされてますから気にしなくていいです」
拓海さんの言い訳の腰をおり、水野さんが初めて会話に参加した。
前から気になっていた人。
「水野さんですよね?ロビーの時のあるから2度目ましてですね」
「はい、その時は東雲さんスーツだったからもっとお堅い系の方だと思いましたけど、全然イメージの違いますね」
敵意はないけど、なんだろ。
この引っかかる感じ。
「ロビーって何?」
七海が聞いてないって顔であたしに聞いてくる。
拓海さんが少し苦い顔をした。
大丈夫、もう大丈夫。
「この前、拓海さん驚かそうと思って信野医薬に行ったんてす。水野さんと早川さん、あと森下さんが拓海さんと話していて、そこで顔だけ見たって感じです」
早川さんも思い出すかのように天井を向き、水野さんは少し笑みを浮かべて何も言わない。
「それって、付き合う前だよね?」
七海が恐る恐るあたしに確認する。
心配しなくていい、あたしは大丈夫。
「うん、会う約束もしてたし、びっくりさせたかったから、あんまり東京にいることもないですし」
「…すごいですよね。私なら無理」
あたしの言葉に水野さんが反応する。
彼女の笑みが続いている。でもそこから特に発展する言葉はなかった。あたしはその笑みを見る。
空気が沈もうとするところを破ったのは早川さんだった。
「ちょっとタバコ行ってきます」
「あ、私も」
「え?理沙ちゃん吸わないじゃん?」
「黒川さん!みなまで言わせないでよ。理沙さんも乙女だから!」
西村さんと黒川さんのやりとりにまた場が温まる。西村さんが新しい話題を出してくれた。
「大地くんは、美咲さんの後輩と聞きました!」
「そうです。いつもお世話にー」
「そんな話はいいから、仕事場での美咲さんはどんな?七海さんも警察の方ですよね?」
佐久間くんがこちらを見る。どこまで話していいのか探りを入れているようだった。でもあたしはそれより佐久間くんを見ている美月さんが気になった。
好奇心?みたいな目をしている。
「言葉気をつけろよ。佐久間くん、明日も署で会うからな」
七海が威嚇をするが、佐久間くんには届くだろうか。
おそらく彼はこの店に入る前からずっと同年代の女子に絡まれていただろう、相当疲れているよ卯に見える。
「大地くん、言っちゃえ、言っちゃえ」
小声で美月さんが佐久間くんを煽る。
「七海さんは酒乱で、東雲さんはロボットです!明日もよろしくお願いします!」
その言葉にあたしは笑いが出ちゃった。それは七海も一緒だった。あの堅物が煽りを受けたとはいえ、先輩をいじる、面白いことを言ってくれる。
七海が笑いながら言う。
「明日、牧野班長と面談するわ」
佐久間くんだけが焦ることが見えたが、みんな笑っている。
あたしは言わないかな、知らない人たちと馴染もうと彼なりに頑張ってくれてる。今日も無理矢理だったし。
笑っていたら拓海さんがあたしを見て笑みを浮かべている。
どうしたんだろ?
あたしがにっこり笑い返すと、さらに笑ってくれる。
疑問はある。
でも優しさは感じる。
心配…してくれてるのかな?
あたしはもう大丈夫だよ。拓海さん。
「たく兄、キモいから美咲さん見ないでよ」
「あ、それ俺も思った。いい彼氏の顔すんなよ。全部バラすぞ、お前の失敗談」
拓海さんの失敗談!気になる!
あたしは黒川さんに食いついた。
意地悪な笑みを浮かぶ黒川さんの顔を見て、ここからは楽しく飲めそうな気がした。
…
…
…
お店の喫煙ブース。顧客が1人入っている。
早川は少し酔いを覚ましながら電子タバコを吸っている。
(一日…長いな)
朝は黒川に引っ張られ、下準備をした。気付くと森下の家族が来て、火を起こす前から瓶ビールを飲み始めていた。子供は全て早川に丸投げ、旦那さん側も黒川との話に逃げている。
久々の子供相手は二十代前半とは言え、キツかった。ずっと走り回る少年2人に敵う術はなかった。
極みつきは水野からの電話だった。
(やっと気づいたな…どうすんだろ?)
異変に先に気付いたのは早川と西村だけだった。後から黒川や森下に状況を伝えるものの、当の本人が大丈夫なふりをしてしまった。
「本人があの状態ならこちらからは気にしてはいけない」
黒川の言葉に3人は通常通りすることを決めた。そのはずが、早川としてはみてられなかった。
美咲が店に入る時から水野の様子はおかしかった。彼女も話した通り、’予想と違う’それが全てな気がした早川だった。
ブースの外にお手洗いから席に帰ろうとする水野が見える。
「ちょっといいっすか」
「えー臭くならないよね?」
早川の声かけに水野が少し文句を言いながら入ってくる。それから特に話すことはなく、早川はタバコを吸い続ける。
「早川くん、なんで呼んだの?」
「今行くと辛いでしょう」
水野の顔が固まる。早川は正直に言ってやりたかった。あなた以外、みんなとっくの昔にあなたの気持ちに気づいていると、でもそれが酷いことであることは早川もわかっている。
「美咲さんって、もっとお堅くて、暗めな人だと思ってました。でもあれは仕事の時だけみたいですね。少なくとも佐藤さんの前ではあの状態」
「…そうね。もっと落ち着いている感じだと思った」
「だから、勝てると思ったんですか?」
早川が、煙を吹く。
「違う!そう言うのじゃないの!」
「そうですか、俺はてっきり」
否定する彼女は涙もなく、顔が崩れることもなかった。この会話をBBQ の場でやっていたら耐えれなかっただろうにと早川は思う。
それから水野からは特に言葉はなかった。ちょっど電子タバコの消えかけていたので早川はブースを出る前にもう一度水野の顔を見た。
「吸いますか」
電子タバコを差し出す。水野はそれを見て少し考える。それを見て早川は新しいスティックを差し込み、電源を入れて吸えるようにしてから水野に再度差し出す。彼女は迷いながらも受け取って思いっきり吸い込む。
「ちょっとダサいですよ。男のせいでタバコ覚えるのは」
初めて吸うタバコに水野は咳き込み、それに追いかけるように早川が言葉を刺す。
「うるさい!」
咳き込みが落ち着き、程度がわかるようになったのか、水野は普通にできるようになった。それから話す。
「…あなたの言う通りよ。正直、ロビーで見て、タックさんの周りの女子ってあんなもんか思ったよ」
「地味でしたからね。仕事帰りって感じだし」
早川は彼女の言葉から感じている。美咲より自分が上位交換だと思っていたんだろうなと。感じが似ている、でも華やかさ、社会的なステータスは上だと。そう思っていただろうと。
「今日ね…美月さんに言われて初めてショックだったの。タックさん彼女いるって、前から知ってたけどなんか…しっくり来たと言うか」
早川は納得した。別の角度、身内から刺されて気づいたんだと。
「だからすごい辛かった。BBQ楽しくなかった」
「でしょうね」
早川の相槌に水野が少し彼を睨む。早川は肩をすくめてまるでどうぞって言っているよなポーズをとった。
「…なんで私あんたみたいなのにこんなこと話してんだろ」
「普段は視野に入ってないから?」
そこで水野は少し声を出して笑う。
「なんかちょっとスッキリした。戻ろう」
水野は電子タバコを渡す。早川は受け取り少し笑みを浮かべて水野とブースから出て行った。
「戻ったらみんなにタバコデビューって言ってやろ」
早川の言葉に水野は強めに彼の背中を叩いた。早川は痛そうにしていたが、水野は何食わぬ顔で席に戻った。これでやりにくさが少し消えればいいと早川は思う。




