その二十四
金曜の夜、ルートCAには3人がいる。美咲と拓海、七海だった。ニヤける七海とスマートフォンを出されている2人。
「いやーやっと3人で飲めると思ったら、君たち、熱々じゃない?」
拓海のスマートフォンは背面で置かれている。透明なケースの下には小さい写真が入っている。バックはライトアップされている東京タワー、手前は美咲と拓海が全身で三角ポーズを取っている。
美咲のスマートフォンは表面置かれいる。七海が画面を触ると待受が現る。背景は東京タワー、2人は全身三角ポーズ。
「はい、いつ行ったんですか?」
「この間の非番の時…夕方に」
七海は不機嫌そうに大きく鼻で笑う。拓海はやらされている感じはあったが、美咲と七海の茶番が面白く、黙って見ている。
「えー?私の言葉を無視して〜家に帰ったのはどこの誰かな〜」
「…あたしですね、本当、すいませんでした」
「そうですか、そうですか、そこのお兄さん、何時まで待ったんですか」
矢印が自分に立ったので、油断していた拓海はピクッとしてから考える。蕨駅で待つと宣言した日のことを聞いているに違いない。
「えー、一時ちょい過ぎですかね」
「ほうー終電無くした、彼氏候補が気になったわけですね。しのちゃん!」
「はい…その通りです」
美咲は頭を下げたまま茶番を続ける。七海はニヤッとする。意地悪をしたくなったのだ。
「そんで、駅前であつーくハグして、キッスを決めたわけね!どこぞの映画みたいに!」
「あ、それは違う」
美咲は茶番じゃないと思ったら頭を上げ冷淡に返した。つれない親友がもどかしい七海は拓海を睨む。
「どうせ朝帰りでしょう?」
「まぁー、色々話してたらね、朝にもなるよね」
「いいーなー、あたいも彼氏ほしいー!」
その言葉に美咲は笑みを浮かべてから飲み物を一口飲んだ。ぼやき続ける七海を少し面倒そうに見る拓海だったが、礼は言わなきゃと思っていた。そこで美咲が先に話す。
「ありがとうね。七海がいなかったら、あたし本当に何もできなかったと思う」
「うん、本当にありがとう。お礼にこの写真送る」
「いらないっ!なんだ、その幸せのお裾分けは!」
照れ隠しなのか、本当に嫌だったのか七海は変な顔をしてお酒を飲む。彼女としては本当はもっと根掘り葉掘り聞きたい気持ちもある。しかし、火種だった東京タワーにも2人で行って、今や当然のように写真を飾っている。以前より進んでいるという証拠があるなら七海として口出しはいらないのではないかと思えた。
「でもあの時は久々にしのちゃんとまじで話したわ」
「ね、久々にピンタもされましたね」
「そうそう、三、四年ぶりくらい?しのちゃんが普通に打ち返そうとするから面白かったけど」
さすが警察というか、女の戦いというか、想定より激しかった対話の内容を聞いて拓海は少し驚く。拓海としてはあまりイメージできてないが、美咲は実は相当強いのではないかと一瞬思うのであった。
(まぁー俺からすりゃ可愛いだけの人だけど)
「うわっ、タック、今絶対しのちゃん見て可愛いと思ったでしょう?」
そんなに顔に出たかと思い、拓海は手を左右に振ってから飲み物を飲む。美咲はそう会う2人が面白いのか、声を出して笑うのであった。
「そういえば七海、海の日って仕事?」
「当番明けだけど、なんで?」
拓海と美咲はお互いを見て困った顔になる。
「実は拓海さんの会社の人たちとBBQするけど、前言ってた黒川さんもくるから七海もって思ったのね」
「あの面白おじさんね!いいなー行きたい!」
「スタートが早いんです。11時とかで」
「えーその後浦和で飲めばいいじゃん!」
七海としてはBBQは特に関係なかった。会ってみたい人に会える。飲める。楽しめるで、盛り上がろうとした。
「あと、佐久間くんも来るんです」
「え、そちらの佐久間大地くん?なんで?」
「俺の妹の指名です。前会ったことがあって面白いって事で」
七海には情報量が多かった。拓海の妹に、佐久間、面白い。彼女は繋がらなかった。変な方向には繋がっていた。
「タックの妹って、佐久間くんのこと好きなの?」
七海の荒唐無稽な質問に拓海は飲んでいる酒を少し吹いた。考えたこともない言葉が出たので拓海としてはびっくりしたのだった。空咳をする拓海を美咲が心配しそうに見ている時に美咲のスマートフォンに知らない番号から電話が来た。
「はい、東雲ですが」
『美咲さんの携帯ですか?』
「あ、はいそうですが、どちら様でー」
『やっと繋がった!!』
通る声であった。拓海も、七海も電話している美咲を、正確には耳に当てているスマートフォンを見る。
『ごめんなさい。私、桐谷真緒といいます。伸也さんとの交際を支援頂きたく、電話しました』
その声は明るく、丁寧で、芯がある人のものに聞こえた。しかし、急な内容に美咲はなにも言葉が出てこなかった。
…
…
…
ひなちゃんとは浦和駅で合流した。与野に住む綾子さん、家族と自宅の車で、黒川さんと早川くんはすでに現地にいるとのことだった。
駅前のロータリーで待っているとタックさんの妹の美月さんの姿遠くから見える。
「おはようございます」
私たちじゃない、隣に立っていた男性が声を出す。塩顔の丈夫な体つきをしている人だった。かなり若く見える。ひなちゃんと同じくらい?
「あ、佐久間さんですか?西村ひなです。美月から聞いてます。よろしくお願いします!」
ひなちゃんは、自然に男に声をかけた。
なぜ、名前を知っている?
私が驚きながら2人を見ていると塩顔の人は硬い感じで言ってきた。
「佐久間大地です。声掛け頂いてありがとうございます」
「紹介は要らなさそうですね」
タックさんが割って入ってきてくれる。その後ろで美月さんとひなちゃんが話し始めた。
美月さんは確かファッション系のコラムとかSNSの仕事をしていると聞いた。どの会社勤めかは知らないけど、ファッション関係のためか、オシャレなイメージがあった。タックさんの最近妙に垢抜けたのは妹さんのおかげに違いない。
「理沙さんもお久しぶりです。そのイヤリング、可愛いですね」
「久しぶりです。褒めてくれてありがとう。美月さんは夏って感じだね」
軽く挨拶をする。イヤリング、新調したのを気づいてくれたのか、わざわざ褒めてくれた。
タックさん側を見ると、佐久間さんが申し訳なさそうに話をしている。どういう流れのこのメンバーかは後で聞くとしよう。
「タックさん、黒川さんからのメッセージみた?」
「はい、足りないから買ってこいってやつですよね」
パシリのために先に行ったのかあの2人とも思った。タックさんと話して、私たちはちょっとスーパーに買い出しに向かう。
途中綾子さんから飲み物は心配するなとのビールのケース写真が届いた。
「こんなに飲めないよね?」
「まぁ、後ろに酒の精霊がいるからなんとか、ソフドリがちょっと欲しいですね」
タックさんが後ろの女子2人、男子1人のところを指しながら話す。
ひなちゃんは確かに、美月さんも飲めた気がするけど、佐久間さんはどうだろう?
少し彼らを見ていると布陣が面白かった。佐久間さんを真ん中にして、両側に女子が立つ。女子2人はずっと彼に話しかけている。
「2人とも佐久間さんのこと好きすぎに見えますけど」
「人当たりいい人ですからね。話しやすいでしょう」
タックさんはそういうが、私の目には萎縮しているように見えた。体は小さくないのに、両女子に圧で負けているというか。
一頻り物が揃えて、会計カウンターに向かう。タックさんが当然のように財布を触る。
「会計、私やろっか?」
「大丈夫ですよ、後で黒川さんに請求するから」
そう言いながらタックさんは個人のカードで切ってくれる。同じ立場くらいとはいえ、残念ながら私が知る限りタックさんの方が年収は上だ。ここは甘えておこう。
「みんな、タッグさんが奢ってくれるって」
「あざます〜パイセン」
「すいません、佐藤さん、ありがとうございます」
「たく兄、早く荷物持って」
3人、それぞれ反応をする。
「タクシーで行くでしょ?それは私出します」
「との道2台だからね、じゃ女子側頼んでいいですか?」
再度ロータリーに向かいながら話した。
あ、そういう分け方でいくんだ…
てっきり、タックと私、他3人で分けるのかと思っていた。買い物ずっとそういう感じだったから。
「じゃ、大地くん、また後で」
美月がそういうと、ひなちゃんも手を振るながら助手席に乗った。そしてすぐ美月さんが始めた。
「理沙さん、大地くんってどう思います?」
「えー話してないからあれだけど、純朴?」
「ですよね!先バーベキューなにが好きって聞いたら、’自分あんまりやってないので、でも肉は基本好きです’って言うんです。可愛くないですか?」
「それ思った。今時自分っていう人、初めて見た」
美月とひなちゃんは完全に女子会モードに入っている。
私こういうの苦手なんだよな〜
「ず、ずっと3人で話してたけど、何話してたの?」
「えー、塩顔なのに筋肉すごいですねーとか、仕事何してますかーとか」
若干アウトなネタがあるような気もするが、ひなちゃんの回答に聞きたかったことを思い出す。
「彼はどういう繋がりなの?タックさんの後輩とか?」
美月さんが知っていて、あの体の具合、タックさんがらみしかないと思った。
「あーそう言われと説明しにくいな〜一応たく兄の知り合いっていうのがスタートなんですけど」
やっぱりね!優しくしておこう!
私は美月さんの言葉に耳を傾けた。
「以前私が仕事する時に、兄が呼んで手伝ってもらったんですよね。それでどこかでお返ししなきゃと思っていたら、バーベキューだってなって、今見たいな?」
これ、もしかして、美月さん、彼に興味がある的な…?
私はそうと思いながら、ひなちゃん側を見る。彼女は私だけ見れる角度で親指を立てる。
「で、今日が2回目って会うってこと?」
「そうですね。兄から連絡先は教えてもらってたのでちょくちょくやり取りはありましたけど」
「そ、そうなのね!彼は彼女とかいるの?」
ひなちゃんがびっくりして後ろ席に見てきた。
何よ?
「あ、ないですって。まだ実家住まいで、特に趣味っていうのもないみたいなんで」
「なんか、それ大丈夫?」
いや?冷静に見るとタックさんといっしょか?
彼は大丈夫なの?
「いやいや、それがいいんですよ。あまり世の中分かってませんっていうのか、うちの兄みたいに、汚れ切ってないっていうか」
妹さんから見ると彼はそう見えるのね。兄に当たり厳しいすぎるんじゃないかな…
「って何やっている人なの?」
「あ、警察です。今年配属になったばかりみたいですけど」
「だからあんなに筋肉なんだ」
なんか納得した。
塩顔には似合わないと思っていたんだよね。
「兄の彼女の美咲さんの後輩です」
美咲さん…?
私は思い返した。
ちょくちょくタックさんの携帯にうつる名前。
警察、森下さんが言ってた。元カノが警察だと。
いや?
タックさんがこの前の飲み会で言っていた。
(彼女ですね)
あ、なるほどね。
彼女さんの名前が美咲さんで、警察なのね。
「り、理沙さん、もう着きます!」
ひなちゃんが声をかけてくる。
そうだ、支払い。
私は携帯を取り出し、QRコード決済を準備する。
すぐタクシーが止まり、決済をしてタクシーから降りる。すぐ後ろにタクシーがつき、タックさんと佐久間さんが降りてきた。
美咲さん…タックさんの彼女ね。
「水野さん、具体的な場所わかります?」
彼が私に声をかけてきた。
場所?あ、場所ね。
「き、聞いてなかったね。ちょっと早川くんに電話してみる」
私はすこし離れながら早川くんの番号を押した。
場所、場所を聞けばいいんだよね。
『まだですか?』
「あ、ごめん。今着いたけどどこに行けばわからなくて」
『タクシー降りたところわかりますか?ピクニックの森とか?』
「わ、わからないかな…」
『大人が自分の場所もわからんとは』
「……ごめんなさい」
『…水野さん?』
私、どうしたの?
早川くんの声が聞こえるけどなんか言葉がうまく出てこない。後ろを振り向いてタックさんを見る。楽しげに佐久間さんと話している。
あ、ひなちゃん、ひなちゃんに…
「電話変わりましたー可愛い後輩です!」
ひなちゃんは私の携帯を持って早川くんと話をしてくれる。
私、体調悪いのかな?
せっかくみんなで楽しめるのにしっかりしなきゃ…
…
…
…




