白百合の檻③
「……疲れた」
午後の授業が終わり、晶子は一人机に突っ伏した。
心なしか、午後の国語の教師も、晶子へのあたりが強かったように感じた。
「晶子、後で一緒に勉強しようね」
帰り支度をした順子が、晶子に声をかける。
晶子は顔を上げ、ぱっと明るく笑った。
「うん、そうしよう」
「じゃあ、先に向かってるね」
順子も嬉しそうな笑みを浮かべ、教室を出ていった。
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手洗いに行く途中、晶子は、下校する女学生たちを見守る藤澤の姿を見た。
(あ、先生……)
思わず足が動きかけた。
藤澤と目が合う。
藤澤はいつもと変わらない笑顔を向け、晶子の側に近づいてきた。
会釈をしようと晶子が頭を下げたその時であった。
「津島さん!あの本はもうお貸しすることはできませんから!」
晶子の言葉を遮るように、廊下に響くほどの大声で、藤澤が怒鳴りだした。
(……え?)
藤澤の剣幕に、晶子は呆気に取られた。
「それと、これは後でしっかり読んでおいてください。
あなたが知っておかなければならないことを書き記しておきましたので」
藤澤は荒々しく封筒を晶子に押し付けた。
その勢いで、晶子は思わず後ろに後ずさりをした。
「それでは、ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう……」
ヒールの硬い音だけが、廊下に残った。
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扉を開けると、焦げたようなコーヒーの香りが鼻を打つ。
きょろきょろと周りを見渡すと、窓の光が差し込む店内の端で、順子が手を振っていた。
「晶子、遅いよ!」
ぎぎ、と椅子の足が床をこする。
「ごめん、ちょっと手間取って」
「どうしたの?それに、なんかいつもと違う格好だよね」
「……ちょっとスカーフ、洋品店で買ってさ」
晶子は、もう一枚新品のスカーフをカバンから取り出した。
「ほら、順子もこれに替えて」
「え、なんで?」
「……いいから、早く」
お手洗いの個室内で、藤澤から渡された封筒を開けると、1枚の手紙が入っていた。
“あなたの本は机の中に入れておきます。そして、ミルクホールに寄るのであれば、スカーフを外して新しいものを手に入れるように”
彼女にはばれていた。
帰り道、こっそりとミルクホールに立ち寄っていることを。
「早く頼もう、あんまり遅くなるとお母さまに怒られるわ」
順子はあまり気にする様子もなく、スカーフを巻いた。
さっそくシベリアとモカ、アイスコーヒーを注文した。




