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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第98話 今回も起きる

 


 同じ事故は起きない。

 だが、同じ作り方なら何度でも見抜ける。


 放課後、玲司は配布された実習詳細を机の上に広げていた。

 教室にはまだ数人残っている。

 部活へ行く準備、掃除当番の文句、提出物の確認。

 全部がいつもの音だ。


 その中で、紙だけが少し浮いていた。


 班分け。

 集合位置。

 待機列の順番。

 資材搬入の導線。

 補助教員の立会い地点。


 一見すれば、丁寧だ。

 むしろ安全に気を配っているようにすら見える。


 だが、待機列が狭い。

 資材箱が近い。

 補助導線が細い。


 そして一箇所だけ、立会いの厚い場所が不自然だった。


 見せたいところへ人を寄せ、見せたくないところから目を外させる配置。

 図書館の閉鎖区画で見た古い事故図とよく似ている。


「水城、まだいるの?」


 掃除道具を持った男子が言う。


「ちょっと見るものがある」


「真面目かよ」


「そう見える?」


「見えない」


 即答されて、小さく笑いが起きる。

 それでいい。

 学校では、そう見えない方が都合がいい。


 人が減ったあと、玲司は紙を折って席を立った。

 向かったのは図書室ではなく、渡り廊下脇の死角だ。


 先に来ていたのはカナデだった。

 風紀委員の巡回を終えた顔のまま、手元のクリアファイルを開いている。


「見た?」

 玲司が聞く。


「見たわ」

 カナデは答える。

「公開版より、内部配布版の方が嫌な配置をしている」


「どこが一番まずい」


「待機列」

 即答だった。

「待機位置が寄りすぎてる」

「しかも補助導線が細い。崩れた時、押し合いが起きる形よ」


 やはり同じ結論だ。


 そこへユラが、飲み物を片手に現れた。

 人前では偶然通りかかっただけに見える速度。

 でも目だけはもう軽くない。


「はい、空気係の感想でーす」

「これ、見せ方が露骨」


「何が」


「“ちゃんと人を置いてます”って顔したい場所だけ厚いの」

 ユラは資料の一部を指した。

「逆に、本当に危ないところの近くは、人の目が流れる」


「見せる安全と、実際の安全がズレてる」

 カナデが言う。


「そう、それ」

 ユラはうなずく。

「配信映えだけ考えてるやつとちょっと似てる」

「大事なとこじゃなく、安心してるっぽく見える絵を作る感じ」


 嫌な喩えだが、分かりやすかった。


 少し遅れてミオも来た。

 図書室の本を抱えたまま、紙片を差し出す。


「更新順です」


 そこには、実習資料の修正時刻が並んでいた。

 公式告知前から何度も触られている。

 しかも、待機列と補助導線の周辺だけが集中して直されていた。


「一回決めたものを、わざわざ危ない形へ寄せてる」

 玲司が言う。


 ミオが静かに答える。


「はい」

「普通なら逆です」

「危ないところは、広げる方へ直します」


 レナが最後に来た。

 壁へ背を預け、資料を一瞥して低く言う。


「また同じか」


 それだけで、全員に通じた。


 図書館で見た過去の事故。

 待機列の脇へ寄せられた資材箱。

 狭められた補助導線。

 崩れた時に人が詰まる順番まで含めて、今回の紙は嫌になるほど似ている。


 玲司は資料の一点へ指を置いた。


「ここだ」


 待機列の前半。

 その脇に仮置き予定の資材箱。

 さらに奥には、立会いの厚い安全確認エリア。

 いざとなれば“ここまでは見ていた”と言い張れる位置取りだ。


「事故に見せやすい」

 カナデが低く言う。


「しかも、外部立会いがいる」

 ユラが続ける。

「責任も散らしやすい」


 玲司はうなずいた。


「図書館の古い報告書と同じだ」

「崩落を止める気じゃなく、起きても処理できる形へ寄せてる」


 ミオが小さく息を呑む。


「じゃあ……」


 玲司は紙から目を離さずに言った。


「今回も起きる」


 風が渡り廊下を抜ける。

 紙の端がわずかに揺れた。


 誰もすぐには返さなかった。


 起きる。

 その言葉は予感じゃない。

 過去の資料、今の修正、外部協力の置き方。

 全部を並べたあとの結論だった。


 レナが先に口を開く。


「止めるぞ」


「止める」

 玲司は答えた。

「ただ、止めるだけで終わらせたら、また沈められる」


 その一言で、空気がもう一段だけ重くなる。


 事故は起きる。

 止める必要がある。

 だが、止めたあと何が残るかまで考えないと、黒峰も学園もまた“未遂で済んだ良かった話”に変える。


 玲司は資料を折りたたんだ。


「準備室」


 短く言う。


「今夜、全員集める」


 今回も起きる。

 なら次に決めるべきなのは、どう止めるかだけじゃない。


 止めたあとに、何を残すかだった。

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