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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第87話 ひとりじゃない

 


 一つの線で説明できる時は、まだ世界が単純な方だ。


 その夜、準備室の机の上には、昼までとは違う種類の紙が増えていた。

 備品台帳の写し。

 鍵照合の形式。

 来訪処理の時刻表。

 生徒会の会計締め日。

 スポンサー補助の来訪記録。


 全部ばらばらだ。

 でも、ばらばらのまま並べた方が、今回は見えやすい。


 ミオが端末の画面を机に寄せる。


「違法採掘の方は、外部補助窓口と来訪処理が近いです」

「倉庫は、生徒会側の備品照会と鍵の扱いに寄ってます」


「教務は?」


 カナデが聞く。


「証人移送に少しだけ触ってます」

「でも深くないです。確認だけで止まってる感じです」


 レナが眉を寄せた。


「じゃあ、本気で動いたのは二本か」


「今のところは」


 ミオの答えは静かだった。

 でも、静かな方が重い。


 ユラが机の端を指で叩く。


「違法採掘の方は分かるよ」

「外に抜けやすいし、スポンサー補助の大人が変な顔してたのもある」

「でも倉庫って、生徒会まで絡む?」


「絡むというより、届く窓があるんでしょうね」


 カナデが言う。


「備品、鍵、会計、行事名目」

「全部、生徒会が完全に握っているわけじゃない」

「でも“見ようと思えば見える”」


 玲司は紙の位置を変えた。

 違法採掘の線を左へ。

 倉庫の線を右へ。

 真ん中に、学校の共通窓を置く。


「共通なのは学園だ」

「でも出口が違う」


 ミオが小さくうなずく。


「はい」

「違法採掘は外へ早い」

「倉庫は中で一回止まってます」

「見た人が、その場で使う情報に近いです」


「つまり?」


 ユラが聞く。


 玲司は短く答えた。


「ひとりじゃない」


 準備室が静かになる。


 それは想定していた答えだった。

 でも、想定と確定は重さが違う。


「一人の密告者が全部流してるなら、違法採掘と倉庫で反応の仕方がズレすぎてる」

 玲司は続ける。

「外へすぐ抜く線と、中で持ってる線が別だ」


「生徒会ルートと、外部スポンサー接触ルート」


 カナデが整理するように言う。


「少なくとも二本はあるわね」


「しかも利害が違う」


 ミオが言った。


「違法採掘は“潰したい”動きでした」

「でも倉庫は、“知りたい”だけの見方が混ざってます」


「悪意の強さも違うってことか」


 レナが聞く。


「たぶん」

 ミオは答える。

「同じ相手なら、もっと揃います」


 ユラが苦い顔で笑った。


「やだなあ、それ」

「完全な悪人が一人いた方が、まだ気楽なんだけど」


「そうね」

 カナデが平坦に言う。

「でも現実は、そういう便利な形に並んでくれない」


 違法採掘の線には、外部と繋がる実利がある。

 証拠が再調査されれば困る相手。

 スポンサー補助、来訪処理、搬入の名目で動ける相手。


 倉庫の線には、校内の鍵と台帳に近い手がある。

 直接外に売るためというより、学校の中で何が動くかを確かめている手。

 それは保身かもしれないし、依頼された確認かもしれない。


 同じじゃない。

 でも同じ場所を見ている。


「学園の中で、情報の持ち方が分業されてる」


 玲司が言った。


「その一部が外に売られ、一部が中で回ってる」


「市場どころじゃないわね」

 カナデが言う。

「流通路よ」


 その言い方に、誰もすぐには返さなかった。


 ユラが小さく息を吐く。


「じゃあ、誰か一人見つけて終わり、はもう無理か」


「最初からそのつもりではなかっただろ」


 玲司が返す。


「そうだけどさ」

 ユラは肩をすくめた。

「やっぱ、確定すると嫌じゃん」


 そこは本音だった。


 レナが壁にもたれたまま言う。


「で、次はどっち追う」


「どっちも追う」

 玲司は答えた。

「ただし、人からは行かない」


「また構造から?」


 ユラが聞く。


「ああ」

 玲司はうなずく。

「個人を当てても、別の線が生きる」

「先に見るべきは、どう繋がってるかだ」


 ミオが端末から顔を上げた。


「……ひとつだけ、変なのがあります」


 全員の視線が集まる。


「何だ」


「倉庫の線と、昔の事故資料の管理番号が、少しだけ重なってます」


 準備室が静かになる。


「昔の事故資料?」


 ミオはうなずいた。


「図書室の古い保管コードです。廃棄済み扱いのはずなのに、参照番号だけ残ってるものがあって」

「今の倉庫照会と、形式が似てます」


 玲司の目が細くなる。


 今の密告者だけじゃない。

 もっと前から、何かを隠すための保管と移動がある。


 違法採掘の再調査を潰したい外の線。

 校内の鍵と台帳へ触る中の線。

 その奥で、昔の事故資料と倉庫の番号が似ている。


 個人の悪意より先に、場所の臭いが立ち始めていた。


「図書室で追えるか」


 玲司が聞く。


「はい」

 ミオは小さく答える。

「でも表からは無理です」

「閉じた側の棚か、古い保管コードが要ります」


 カナデが言う。


「次の章ね」


 その言い方はしない。

 でも全員、同じ方を見た。


 ひとりじゃない。

 だから一人を当てても終わらない。


 そして、その事実は次の段階にも伸びていく。

 個人の悪意だけなら、そこで止まる。

 でも利害の違う線が複数あるなら、その下には過去から積み上がった仕組みがある。


 玲司は端末の淡い光を見ながら、ようやく確信した。


 探すべきは、誰が流したかだけじゃない。

 何を流せる構造になっているか、その方だった。

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