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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第86話 先に動いたのは誰だ

 


 最初に動く線は、だいたい隠すのが下手だ。


 翌朝、玲司は校門前の人の流れを見ながら、いつもより少しだけ歩幅を落としていた。

 遅刻しない程度。

 急いでいないように見える程度。

 その中途半端な速度が、観察にはちょうどいい。


 朝の学園は、全部が普通の顔をしている。

 登校する生徒。

 校門で名札を確認する教員。

 補助腕章をつけたスポンサー側の大人が、来訪票を片手に職員棟へ入っていく。


 その一人が、途中で携帯端末を開いた。

 開いて、すぐ閉じた。

 視線だけが校門ではなく、実習棟側へ一度流れる。


 玲司は見なかったふりをした。


 昼まで待つ。

 違法採掘の餌は、あえて遅らせてある。

 外に抜けやすい話ほど、流れる時間と拾われる時間に差が出るからだ。


 一時間目の休み時間、ユラは窓際でいつも通り笑っていた。

 その輪の中で、違和感なく一言だけ落とす。


「え、あの件まだ終わってないんだ」

「昨日、外の人がちょっと焦ってたっぽいよ」


 それだけだ。

 詳しくは喋らない。

 聞き返されれば肩をすくめて流す。


「知らない知らない、わたしも聞いただけ」

「なんか採掘のやつ、もう一回見るとかどうとか」


 軽い。

 雑談の温度だ。

 でも、必要な単語だけは落ちている。


 その昼、レナは学院外縁のバス停近くから連絡を入れてきた。


『玲司』

 声は短い。

 現場の時の声だ。

『動いた』


 玲司は人気のない渡り廊下の端で足を止める。


「どこだ」


『違法採掘の方だけ』

『例の旧搬入路に、朝から二回入った車がある』

『しかも一回は空、もう一回は養生材積んでる』


「早いな」


『早い』

 レナが言う。

『現場確認じゃない。先回りして潰す動きに近い』


 その言い方で充分だった。


 養生材。

 つまり、何かを隠すか、塞ぐか、回収の痕をごまかすための準備。

 再調査の噂に対して、普通の反応じゃない。


『あと一つ』

 レナが続ける。

『現場の手前に、新しい足跡がある』

『工事靴と革靴。学生じゃない』


「スポンサー補助か」


『断定はまだ』

『でも、学校の中だけの動きじゃないな』


 通話を切る前、レナが低く言った。


『先に動いたの、これだ』


 玲司は端末をしまい、すぐには動かなかった。


 違法採掘だけ。

 証人移送も、倉庫もまだ反応が薄い。

 なら、最初に食いついたのは外向きの耳だ。


 そこへ、別の振動が来た。

 ミオから短い通知。


【違法採掘関連ワードだけ閲覧急増】

【来訪処理端末と外部補助窓口が近いです】


 さらに数秒遅れてカナデ。


【生徒会・教務側はまだ薄い】

【先に動いたのは外の線と見ていいわ】


 玲司は短く息を吐いた。


 読めた。

 少なくとも一本目は。


 昼休み、教室ではいつも通りの空気が流れている。

 購買パン争奪戦。

 提出物忘れの言い訳。

 動画編集班が文化祭の残り作業を愚痴っている。


 その中でユラだけが、わざとらしく声を少し上げた。


「え、うそ、もう動いてんの?」

「早くない?」


 周囲の数人が振り向く。


「何が?」

「また何か知ってんの、朝比奈」


「いや、知らないけど」

 ユラは大げさに肩をすくめる。

「なんか大人の人たち、昼前からバタバタしてたし」

「前の採掘の件、ほんとに触るのかなって思って」


 その雑な言い方が効く。

 詳しくないふりで、でも外側の動揺だけは見せる。

 噂を拾う連中は、そこへ食いつく。


「また危ないやつ?」

「スポンサー関係?」

「え、実習止まったりする?」


 ユラは笑って流す。


「そこまでは知らないって」

「でも、何か隠してる時の顔ではあったかも」


 それは半分だけ本当だ。

 だから嘘より強い。


 放課後、準備室に集まると、レナが最初に言った。


「違法採掘だけ、露骨だった」


 ミオが端末を見せる。

 時刻の並び。

 閲覧の偏り。

 来訪処理側の端末だけに寄る短い照会。


「昼前に増えたのは、外部補助と実習搬入側です」

「教務系の窓は薄いまま」


 カナデが言う。


「証人移送にはまだ飛びついていない」

「倉庫も見てはいるけど、動くほどじゃない」


「つまり」


 ユラが机へ頬杖をつく。


「先に動いたのは、違法採掘を消したい側」


「そうだな」

 玲司が答えた。

「しかも、学校の外へ抜ける耳に近い」


 レナが腕を組んだまま低く笑う。


「分かりやすいじゃねえか」


「分かりやすすぎるのが逆に嫌なのよ」


 カナデが即座に返す。


「一本目だけ見れば、スポンサー側の線で終わる」

「でも、そう簡単に終わるなら、今までここまで混ざっていないわ」


 玲司はうなずいた。


 違法採掘だけが露骨に動いた。

 それは収穫だ。

 でも同時に、他の餌にまだ何かが潜っているということでもある。


 ミオが小さく言った。


「倉庫の方、遅れてます」

「見てるだけの窓が増えてます」


「見るだけ?」


 ユラが聞く。


「はい。照会だけして、保存してません」

「誰かに渡すためじゃなく、自分で確認してる感じです」


「校内寄りか」


 玲司が言う。


「たぶんな」


 準備室が少し静かになる。


 先に動いたのは誰だ。

 その答えはもう半分出た。

 違法採掘の餌に食いついたのは、外へ近い線。

 学園の外にいる誰かか、そこへ直接繋げる誰かだ。


 でも、それで全部じゃない。


 レナが玲司を見る。


「で、次は」


 玲司は机の上の二枚を見た。

 証人移送。

 倉庫調査。

 まだ動ききっていない餌だ。


「待つ」


 そう答えると、ユラが眉を上げた。


「珍し」


「今はな」

 玲司は言う。

「一本出たからって、そこだけ追うと混ざる」

「残りがどう動くかまで見る」


「つまり泳がせるのね」


 カナデが言う。


「ああ」


 その時、ミオの端末が短く震えた。

 彼女の目が少しだけ細くなる。


「……来ました」


「どっちだ」


「倉庫です」

「鍵照合の形式だけ見てた窓が、今、備品台帳の方へ寄りました」


 レナが低く舌打ちする。


「やっぱり二本目もいるな」


 玲司は端末の画面を見たまま、静かに言った。


「先に動いたのは外だ」

「でも、中はまだ、動ききってないだけだ」


 違法採掘の現場に先回りした誰か。

 そして、校内の鍵に近い窓を静かに見ている誰か。


 一つじゃない。


 その確信だけが、昨日より濃くなっていた。

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