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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第65話 先回りしたはずだった

 


 勝てると思っている時の方が、足は静かだ。


 翌朝、外縁南へ向かう車内は、妙に無駄話が少なかった。

 緊張しているわけじゃない。

 むしろ逆だ。


 高瀬の証言。

 搬出更新。

 外縁南の旧資材置場。

 今まで拾ってきた違法採掘側の癖。


 線はきれいに重なっていた。

 今度こそ、物証まで押さえられる。

 少なくとも、全員がそう思っていた。


「時間、予定通り」


 ミオが小さく言う。

 助手席で端末を抱えたまま、画面から目を離さない。


「搬入側の更新は、その後止まってます」

「追加の動きはなしです」


「なし、ねえ」


 ユラが後部座席で帽子のつばを指先で上げた。


「逆に気持ち悪いけど、今回はほんとに置き場っぽい?」

「釣り針つきの親切情報じゃなくて」


「高瀬の言い方と合ってる」

 玲司は短く答えた。

「搬出のあと、一度だけ外で寝かせる場所があるって言ってた」

「管理を通さず、でも車は横付けできる」

「条件が一致してる」


 レナが窓の外を見たまま言う。


「なら取るだけだな」


「取れればな」


 玲司が返すと、レナは少しだけ口元を動かした。

 否定しない。

 でも気負いもない。

 前に立つ人間の顔だった。


 運転席のカナデは、視線を前に置いたまま言う。


「進入は二手」

「正面の施錠確認を私と玲司で」

「ユラは外周の目を切る」

「ミオは監視と退路」

「レナ先輩は中へ入ったあと、奥の導線確保」


 昨日の夜に決めた運用そのままだ。

 短く、無駄がない。


 玲司はそれを聞きながら、窓の外を流れる景色を見ていた。

 学園都市の外縁。

 低層ダンジョン周辺の古い保守道路。

 人通りは少ない。

 物流だけが細く残っている。


 こういう場所は、使う側にとって都合がいい。

 正規にも見えるし、非正規にも紛れる。

 だからこそ、隠す側も好む。


「玲司先輩」


 ミオがまた呼ぶ。


「旧資材置場の周辺カメラ、二台だけ死んでます」

「でも、全部じゃないです」

「正面側だけ、昨日の夜から映像が飛んでます」


「点じゃなく線だな」


 カナデが言う。


「たまたま壊れた、では済まない配置よ」


 玲司は頷いた。

 そこまではいい。

 むしろ、らしい。


 問題は、その“らしさ”が今までの延長に見えすぎることだった。


 車が止まる。

 旧資材置場は、外から見る限りただの古い保管施設だった。


 低いフェンス。

 錆びたシャッター。

 使われていないはずの積載スペース。

 外灯は一本だけ死んでいて、逆に一本だけ妙に新しい。


 玲司は車を降りた瞬間、地面を見る。


 古いタイヤ痕。

 新しいタイヤ痕。

 それから、砂の均し方。


「……どうした」


 レナが聞く。


 玲司はすぐには答えなかった。

 正面搬入口の前だけ、地面がきれいすぎる。

 車が入った跡を消したいなら、もっと雑になる。

 だがここは、消したあとに“自然な荒れ”まで戻してある。


 人がやる均し方じゃない。

 仕事として何度もやっている手つきだ。


「向こうも慣れてる」


 玲司が低く言う。


「当たり前じゃん」


 ユラが肩をすくめる。

 けれど声の軽さは半分だけだった。


「ここまで来て素人だったら逆に困るし」


「慣れてる、の質が違う」

 玲司は地面から目を上げない。

「隠すことに慣れてる」


 カナデが鍵穴の脇へしゃがんだ。


「正面施錠は昨日の管理記録と一致してる」

「破られた形はないわ」


「中から動かした可能性は?」


「ある」

「でも、その場合も履歴は触ってる」


 玲司はフェンス沿いを半歩ずつ見た。

 靴跡は少ない。

 少なすぎる。

 普通なら、保管施設を動かすだけで往復の線がもっと荒れる。


「ユラ、外周」


「見てる」

 ユラはもう小型端末を耳元へ寄せていた。

「道路側、車なし」

「通行も薄い」

「こっち見てる目も今はなし」


「ミオ、裏導線」


「一本あります」

「北側の搬出口、半開きです」

「でも、そこも静かすぎます」


 玲司はその一言で顔を上げた。


 静かすぎる。

 それは、現場でいちばん嫌な報告だった。


 動いていないから静かなんじゃない。

 もう終わっている時の静けさがある。


「北側から入る」


 玲司が決める。


「正面はそのまま。触るな」

「カナデ、記録だけ押さえろ」

「レナ先輩、先行」

「ユラは外」

「ミオ、退路を切らすな」


「了解」


 返事が重なる。

 足が早くなる。


 北側搬出口は、たしかに半開きだった。

 だが風で開いた形じゃない。

 最後に閉め切る前、わざと途中で止めたみたいな角度だった。


 レナが扉へ手をかける。

 わずかに押す。

 金属が低く鳴る。


 玲司はその音を聞きながら、胸の奥に細い違和感が走るのを感じていた。


 勝ち筋は見えていた。

 順番も揃っていた。

 運用も固めた。


 なのに、現場だけが妙に遅い。


「開ける」


 レナの短い声。

 扉がさらに開く。


 中は暗かった。

 そして、暗いわりに、物の気配が薄かった。


 玲司は一歩目を踏み入れる前に、もう分かってしまった。


 遅かったかもしれない。


 その予感だけが、古い倉庫の冷えた空気の中でやけに鮮明だった。


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