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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第6話 やり直しの校内実習

 

 最初の校内実習は、拍子抜けするくらいいつも通りに始まった。


 学院地下の訓練区画B。

 人工坑道と模擬採集場を組み合わせた、基礎実技用の区画だ。

 低層ダンジョンを模してはいるが危険度は低い。教員たちも、生徒たちも、どこか緩い。


 玲司はその緩さごと覚えていた。


 点呼。

 装備確認。

 退避導線の説明。

 全部が流れ作業みたいに進んでいく。


「水城、今日はちゃんとついて来いよ」

「置いてってくれていい」

「それで後から減点されたら、こっちまで巻き添えなんだよ」


 班の男子が笑う。

 玲司は手袋を直しながら適当に返した。


「善処する」


「それ、絶対しないやつの返事」


 周囲がまた少し笑う。

 軽い。平和だ。ここではまだ、誰も危険を本気で考えていない。


 問題の事故は中盤に起きる。


 模擬鉱石の回収時、床材の一部が沈む。

 一人が足を取られ、その拍子に脇へ寄せてあった搬送ラックが傾く。

 大した怪我じゃない。教員は設備不良として片付ける。

 だが、残る歪みは前の大崩落とよく似ていた。


 見過ごされた小さな前兆。


 玲司は説明を聞くふりをしながら、訓練区画の床、壁、資材配置を順に見ていく。


 床材の継ぎ目。

 固定ボルトの新旧。

 ラックの車輪跡。

 魔力循環を安定させる補助導線の薄い乱れ。


 人工区画だから安全、じゃない。

 人工区画だからこそ、人の手が入った痕が読める。


 模擬採集場の手前。

 そこだけ、床の沈み方が違う。

 さらに横へ寄せられた搬送ラックの脚が、妙に不安定だった。


 記憶通りだ。


 玲司は班の流れの最後尾へ少し下がった。

 ここで教員に危険を訴えても、話が大きくなるだけだ。まだ大事故じゃない。信頼のない人間の警告は、こういう場面では雑音になる。


 必要なのは実習全体を止めることじゃない。

 事故に巻き込まれる一人だけを外すことだ。


 視線を前へ滑らせる。

 次の入れ替えで危険域に立つ位置。その並びに、朝比奈ユラがいる。

 友人と軽口を叩きながら、いつもの輪の中にいる顔だ。


 玲司は少しだけ息を詰めた。


 名前は知っている。

 顔も知っている。

 クラスの人気者で、こういう空気の中心にいるやつだということも。


 前の時間軸では、ろくに関わる前に崩落へ呑まれた。


 今は、まだ何も知らないクラスメイト。

 それでいい。そう扱う。


「水城、何ぼさっとしてんだ。採集位置入れ」


 前から声が飛ぶ。

 玲司は「今行く」とだけ返して、危険域までの歩数を数えた。


 三歩。

 二歩。

 一歩。


 近づくほど、床の濁りがはっきりする。

 崩れるほどじゃない。

 けれど、もう持たない。


 朝比奈の足が、その位置へ入る前にずらす。

 必要なのはそれだけだ。


「はい、次の班。位置入れ替え」


 教員の声で、生徒たちが散る。

 朝比奈たちも模擬鉱石の前へ出る。


 玲司は自然に一歩遅れて、進路を変えた。


 今ならまだ間に合う。

 だが、派手には動けない。


 目立たないように。

 それでも確実に。


 玲司は手袋の端を引き直し、前へ出た。


 次の数十秒で、未来は少しだけずれる。


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