表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/55

第46話 端末の向こう側

 


 隠すのが上手いやつほど、隠し方に仕事の癖が出る。


 翌日の放課後、準備室の机には端末が三台並んでいた。

 ミオの拾った参照記録。

 ユラの匿名受信箱の予備ログ。

 カナデが学内から抜いた、外部接続の残滓。


 玲司は立ったまま、他の四人の手元を見ていた。

 前に出る話じゃない。

 こういう時の主役は、読む人間と繋ぐ人間だ。


「これ、個人の隠し方じゃないわ」


 最初に切ったのはカナデだった。


「踏み台を二つ噛ませてる。でも雑に消してる部分と、異様に綺麗な部分がある」


 ユラが首を傾げる。


「上手いのか下手なのかどっち?」


「両方よ。末端は雑。でも中継の癖が業務用」


 玲司が聞く。


「具体的には」


「接続の切り方」


 カナデは画面上の一列を指した。


「普通の個人端末なら、閲覧して閉じて終わり。けどこれは違う。一度外部の監視領域へ投げて、必要な部分だけ拾ってる」


 ミオが補足する。


「しかも参照先が固定じゃないです。同じ送信元に見せないために、毎回少しずらしてます」


 レナが腕を組む。


「回りくどいな」


「回りくどくできる環境ってことです」


 ミオの声は小さいが、芯はあった。


「個人じゃ用意しにくい」


 カナデが数秒だけ黙り、それから言った。


「企業サーバー経由ね」


 準備室が静かになる。


 ユラが先に反応した。


「企業って、会社の?」


「そう」


「え、学生の悪ふざけとかじゃなく?」


「最初からその線は薄かったけど、今のでかなり消えたわ」


 玲司は机へ片手をついた。


「どの種類だ」


「断定までは無理。でも、個人ブログや配信基盤の噛ませ方じゃない。もっと管理寄り。ダンジョン関連企業か、監視・保守系の外部回線に近い」


 学園の教員ではない。

 行きずりの探索者でもない。

 まして学生の遊びでもない。


 南第三区の依頼を流し、TRACEがどう動くかを見ていたのは、外で回線を持っている組織だった。


 ユラが表情を消す。


「……うわ」


「どうした」


 玲司が聞く。


「いや、ちょっと。急に嫌な現実になったなって」


 ユラは端末を見ながら続ける。


「謎の誰かに見られてる、はまだ雑に気持ち悪いで済むじゃん。でも“企業サーバー経由です”って言われると、急に予算と人数のあるやつらっぽくなる」


「その認識でいいわ」


 カナデは冷静だった。


「少なくとも、偶然見つけて面白がる側じゃない」


 玲司は昨日の現場を思い出す。

 固定金具。

 入口側で止まる二人。

 依頼文を見たあとで結果だけを拾う参照。


 全部が一本に繋がる。


「目的は」


 レナが短く聞いた。


「救助班の評価か。それとも潰す前の下見か」


「まだ両方あり得る」


 玲司は即答しなかった。


「でも少なくとも、助ける側じゃない。救助したいなら、あんな依頼の流し方はしない」


 ミオが静かにうなずく。


「見たいのは、人が助かるかどうかじゃないです。TRACEが、どう助けるかです」


 そこが重かった。


 人命より先に、こちらの動き方。

 導線の切り方。

 人数配分。

 救助優先の癖。

 そういう“勝ち方”そのものを見られている。


 カナデがさらに画面を拡大する。


「もう一つあるわ」


「何だ」


「この回線帯、学院の中から直接触った形じゃない。でも学院の外から、学院寄りの案件を追うには向いてる」


「スポンサー筋?」


 ユラが言う。


「そこまでは言わない」


 カナデは首を横に振った。


「でも、学園ともダンジョン管理とも無関係じゃないはずよ」


 玲司は小さく息を吐いた。


 黒峰とは別。

 学園の内部協力者とも別。

 だが、同じ案件の外周を回れる立場。


 敵の層が一段増えた。

 そういう感覚だった。


 レナが壁を離れる。


「で、どうする」


 玲司は短く切った。


「今まで通りには動かない」


 ユラが片眉を上げる。


「珍しく早いね」


「相手が学生じゃない」


 その一言で、全員の空気が少しだけ変わった。


 学校の噂。

 教師の隠蔽。

 黒峰の現場処理。

 そこまでは、まだ学園の延長で見ていた。


 だが端末の向こう側にいるのは、もっと外だ。

 現場の後始末も、回線の隠し方も、最初から業務としてやる側。


 ミオが端末を閉じる。


「玲司先輩」


「何だ」


「この先、救助依頼が来ても、前みたいにそのままは踏めません」


「分かってる」


「でも、踏まないと死ぬ時もあります」


「分かってる」


 同じ返答だった。

 けれど、それしかない。


 カナデが最後に画面の一角を指した。


「ここだけ、完全に切れてないわ」


 玲司が視線を落とす。


 数字の端。

 消したはずの参照痕の残り。

 そこに、ごく短い識別子が残っていた。


 企業名までは届かない。

 だが、個人が遊びで使うには不自然すぎる記号列だった。


「……仕事の手つきね」


 カナデが言う。


 玲司はうなずいた。


「学生じゃない敵だ」


 その答えが出た時点で、もう学校の内輪だけを警戒している段階は終わっていた。


 そして玲司は、その識別子の並びを見ながら確信する。


 端末の向こう側にいるのは、こちらを一度試して終わる相手じゃない。

 測る価値があると思ったから、次も見にくる。


 それが一番厄介だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ