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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第41話 知らない差出人

 


 一番質の悪い依頼は、助けに行かない理由まで先に潰してくる。


 旧校舎の準備室に、昨日の紙がまだ広がっていた。

 事故報告写し。

 倉庫台帳。

 改ざん前ログ。

 維持管理図。

 学園都市の地下保守線。


 全部を位置で重ねた時点で、もう後戻りはできなかった。


 小事故に見せかけて支えを削る。

 封鎖を口実に導線を細らせる。

 倉庫で補助材を抜き、記録だけを丸める。

 それを何度も繰り返せば、いつか一つの大きな崩れ方になる。


 玲司は床の図面を見たまま言った。


「これ、学園だけじゃ終わらない」


 カナデが静かに返す。


「ええ。学園都市の保守線まで触ってる。事故隠しの規模じゃないわ」


 ユラはいつもの軽さを半分だけ残して、壁へ寄りかかった。


「最悪の話してる自覚ある?」


「ある」


 玲司は即答した。


「でも、見えた以上は無視できない」


 ミオは膝の上のノートを見ていた。

 いつもの小さな字で、区画番号と時刻が並んでいる。


「……昨日の番号、学外側にも少し似た並びがありました」


 玲司が顔を上げる。


「どこで見た」


「地方版の事故記事です。低層ダンジョンの簡易封鎖。三件だけ」


「学園都市の外か」


「はい。完全には重なってません。でも、保守用の言い回しが似てました」


 カナデの目が細くなる。


「それ、偶然だとしたら都合がよすぎるわね」


 重い沈黙が落ちる。


 今まで追ってきたのは、学園の中の事故だ。

 だが、もし同じ手口が外にもあるなら、敵は最初から学院内部だけで閉じるつもりがない。


 玲司が次の言葉を切る前に、ユラの端末が短く震えた。


 全員の視線が向く。


 ユラは画面を見たまま、表情を消した。


「……来た」


「何が」


「匿名受信箱」


 ユラが端末を机の上へ置く。

 そこに表示されていたのは、差出人不明の短い文面だった。


 ――南第三区低層坑道。

 ――二人消えた。

 ――管理側はまだ閉じていない。

 ――今行けば一人は間に合う。


 それだけだった。

 名乗りもない。

 事情説明もない。

 添付されているのは、手描きの簡単な坑道図と座標だけ。


 レナが壁から背を離した。


「罠くせえな」


「罠だろうな」


 玲司も否定しない。


「でも嘘だけじゃない」


 カナデがすぐ聞く。


「何がそう見えるの」


 玲司は画面を引き寄せ、添付された簡易図を見る。

 線は雑だ。

 だが、一本だけ妙に正確な印がある。


「この避難脇道」


「どこ?」


 ユラが指を寄せる。


「ここ。公式の案内図だと潰れてるはずの旧管理導線だ。一般利用者はまず書かない」


「現場を知ってる人間ってこと?」


「少なくとも一度は入ってる」


 ミオが小さく足した。


「言い回しも変です。“事故”じゃなくて“管理側はまだ閉じていない”って書いてます。閉鎖判断が遅れてるのを知ってる人の言い方です」


 カナデが腕を組む。


「つまり、現場にいる誰か、あるいは現場を見た誰かが流した」


「でも名乗ってない」


 ユラが言う。


「しかもTRACEって書いてないのに、こっちの受信箱にだけ来てる。充分気味悪いんだけど」


 それもその通りだった。

 この受信箱は、ユラが匿名の動画投稿やリークを拾うために管理している、表に出していない連絡窓口だ。

 そこへ直接投げ込める時点で、ただの通りすがりではない。


 レナが低く言う。


「行くのか」


 玲司は数秒だけ考えた。


 罠の可能性は高い。

 だが、助けを求める文面の中にだけ、不自然に具体的な現場語が混ざっている。

 それは、雑な嘘より悪い。

 本物の一部を混ぜて、動かすつもりの文面だ。


「行く」


 ユラが眉を上げる。


「早」


「放置したら死ぬ」


 玲司は端末から目を離さない。


「それに、こっちを知ってるやつが外にいるなら、どのみち後で向こうから来る」


「先に見るってことね」


「そうだ」


 カナデが冷静に確認する。


「学校案件とは別軸で動く?」


「別軸じゃないかもしれない」


 玲司は添付図の端に記された簡易管理番号を指で叩いた。


 南第三区。

 旧管理脇道。

 簡易封鎖保留。


 その並び方が、昨日まで床に広げていた学園都市側の番号と、少しだけ似ていた。


「同じ臭いがする」


 ユラの軽さが消える。


「それ、めちゃくちゃ嫌な言い方」


「嫌なものだからだ」


 玲司は立ち上がった。


「今日は学園の続きを読む日じゃない。外の現場を見る日だ」


 ミオがすぐノートを開く。


「管理情報、拾ってみます。閉鎖申請が出てるなら、地元掲示板か自治体の公開欄に痕があるかも」


「頼む」


「わたしは移動ルートと、目立たない集合場所を切る」


 ユラももう迷わない。


「レナ先輩は?」


「前に立つ」


 ぶっきらぼうな返事だった。

 でも、その短さが一番頼もしい。


 カナデが最後に言う。


「玲司。罠の可能性は切らないで」


「切ってない」


「ならいいわ」


 準備室を出る時、玲司は一度だけ机上の維持管理図を見た。

 学園都市級崩落の兆候は、消えたわけじゃない。

 その上に、今度は学外の座標が重なっただけだ。


 事故の線は、もう学校の中だけを走っていない。


 しかも、こちらの連絡先を知る誰かが、それをわざわざ見せてきた。


 助けに行けば試される。

 行かなければ、人が死ぬ。


 匿名の差出人は、最悪の順番でそれを置いてきた。


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