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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第39話 中にいる協力者

 


 何も起きない朝ほど、気味が悪い。


 翌日。

 教室はいつも通りだった。


 提出物の話。

 次の実習の愚痴。

 昨日流れた探索者動画の切り抜き。

 そのどれもが、いつも通りの軽さで回っている。


 第七倉庫の騒ぎはない。

 夜間侵入の噂もない。

 教師の空気も変わらない。


 玲司はそれが一番まずいと思った。


「水城、プリント回せ」


「ああ」


 前から渡された紙束を後ろへ送る。

 ただそれだけの動きなのに、頭の奥では別の順番が回っていた。


 気づいていないなら、鈍い。

 気づいていて動かないなら、もっと悪い。


 昼休み。

 カナデはいつもの風紀委員の顔で通り過ぎ、紙片だけを落とした。

 玲司は拾わず、少し遅れてから足で引き寄せる。


 ――端末側、反応なし。倉庫側も平常。


 反応なし。

 つまり、何も見つかっていない顔をしている。


 図書室ではミオが何でもない声で言った。


「返却期限、延長されてません」


 それは合図だった。

 今日も噂の流れに、第七倉庫の影はないという意味だ。


 放課後、空き教室に集まった時には、全員の顔に同じ違和感が乗っていた。


 最初に口を開いたのはユラだった。


「ねえ、これさ。逆に怖くない?」


「怖いわね」


 カナデが即答する。


「封鎖ログを一時的に薄くした痕は、普通なら今朝までに拾われている。でも拾われていない」


「倉庫の板も、戻したままです」


 ミオが続ける。


「掃除当番の子の話でも、いつも通りだったみたいで」


 レナが壁にもたれたまま言う。


「じゃあバレてねえんじゃねえの」


「それならいい」


 玲司は短く返した。


「でも違う」


「どう違うの」


 ユラが聞く。


 玲司は昨夜持ち出した原紙と、カナデが抜いたログ差分を机に広げた。

 紙の並び。

 更新時刻。

 受領印。

 そこにあるはずの慌てた修正が、ない。


「向こうが本気で隠す側なら、まず倉庫を見に来る」


「まあ、そうね」


「でも来てない。理由は二つしかない」


 玲司は指を二本立てた。


「一つ、見つかっていない」

「もう一つ」


 カナデが先を促す。


「見つかっても問題ないように、内側で止めてる」


 空気が少し張る。


「協力者ってこと?」


 ユラの言葉は軽くなかった。


「少なくとも一人」


 玲司は言う。


「しかも倉庫番や補助教員じゃ足りない。あの静けさは、記録側まで触れるやつだ」


 カナデが原紙を見る。


「施設管理印だけじゃないわね。封鎖処理申請の承認が妙に速い。普通はここで一泊するはずの書類が、同日中に流れてる」


「上で押してる人がいる」


「あるいは、上へ通す前に整える人」


 ミオが小さく言った。


「図書室でも似てます。なくなる本って、全部“あとから困るもの”じゃなくて、“今見られると困るもの”だけが先に薄くなります」


 ユラが腕を組む。


「つまり、現場処理班と、記録処理班が別にいるってこと?」


「その可能性が高い」


 玲司はうなずいた。


「昨日の静けさは、俺たちを捕まえない余裕じゃない。捕まえなくても流れを保てる余裕だ」


 レナが小さく舌打ちする。


「面倒くせえな。中に何人いるんだよ」


「まだ切れない」


「でも、一人じゃないわ」


 カナデが言う。


「承認印の流れと、倉庫ラベルの更新速度が噛み合っていない。癒着というより、役割分担されてる」


 玲司は原紙の裏に残る圧痕を指でなぞる。

 表の文字じゃない。

 一枚下に書かれていた別の管理番号だ。


「……これ」


「何か見えた?」


 ミオが聞く。


「管理番号が飛んでる」


 カナデが身を乗り出した。


「飛んでる?」


「第七倉庫の受領番号の前後がない。抜かれたんじゃない。最初から、この番号だけ別綴じだ」


「隠し箱用、か」


 レナが言う。


「いや」


 玲司は首を横に振る。


「こっちが本線で、表の方が偽装かもしれない」


 ユラが顔をしかめる。


「それ、だいぶ嫌なんだけど」


「もっと嫌なものもある」


 玲司は、昨夜見つけた端末ラベルの写しを机へ置いた。

 第十四実習区画。

 旧搬送路再配置。

 第八区画封鎖。


 ミオが静かにそれを見た。


「この番号、図書室の古い新聞でも見ました」


「どこで」


「事故記事の小さい図版です。修繕予定区域って書いてあったところ」


 カナデがすぐ反応する。


「修繕予定区域?」


「はい。毎回、少しずつ違います。でも、完全には離れてません」


 玲司はその瞬間、紙の置き方を変えた。

 事故区画。

 封鎖区画。

 搬送路。

 それぞれを、位置で並べ直す。


 すると、ばらばらだった記録が、少しずつ一本の線に見え始めた。


「……倉庫じゃないな」


 ユラが息を止める。


「え?」


「これは、倉庫の隠し記録じゃない」


 玲司は机上の紙を見たまま言う。


「下の導線だ。学園の中をどう崩すか、その準備の記録に近い」


 誰もすぐには言葉を返さなかった。


 第七倉庫の件は、ただの証拠隠しじゃない。

 もっと大きい何かの途中にある。


 そしてその途中を、学園の中の誰かが、まだ手伝っている。


「次、図面がいる」


 玲司が言う。


「事故じゃなく、位置で読む」


 ミオがすぐに小さく返す。


「旧版の校内便覧と、地下搬送路の資料なら、図書室に残ってるかも」


「持ってこれるか」


「たぶん」


 カナデが静かに足した。


「私も施設管理の公開図面を拾う。完全版は無理でも、表の線は見える」


 ユラが苦く笑う。


「静かな朝の正体がそれかあ。敵が動かないんじゃなくて、中の誰かが動かなくていい形にしてるんだ」


 玲司はうなずく。


「そういうことだ」


 その時点で、もう倉庫の話だけでは終われなかった。



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