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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第37話 倉庫に隠された記録

 


 おかしいと思ったのは、鍵そのものじゃなく、減り方だった。


 昼休みの図書室。

 返却カウンターの横で、ミオはいつもの小さい声で言った。


「先輩。倉庫の鍵、閉庫日に動いてます」


 玲司は借りるふりをしていた便覧から目を上げる。

 ミオは本を受け取る手つきのまま、視線だけ帳簿へ落とした。


「保管庫と資料室は、まだ理由がつくんです。でも、第七倉庫だけ、使われた日の説明が薄いです」


「薄い?」


「貸出欄は埋まってるのに、返却理由が短いんです。いつも“備品整理”だけ」


 玲司は何でもない顔でページをめくる。

 周囲にはただ、本好きの地味な先輩が図書委員と話しているようにしか見えないはずだった。


「備品整理なら、何が変なんだ」


「量です」


 ミオは棚へ戻す本を抱え直す。


「その日のあとだけ、搬入出記録が増えてます。倉庫の中身は減ってるはずなのに、書類の方は逆に増えてる」


 玲司の指が止まる。

 記録を整えた形跡だ。


「誰が触ってる」


「そこまでは、まだ」


 ミオは首を横に振った。


「でも、鍵を借りてるのは先生だけじゃないです。実習補助と施設管理の名前も混ざってます」


 施設管理。

 ただの補助教員より一段深い。

 事故のあとを片づける側へ近い役職だった。


「先輩」


 ミオが、返却本の陰から細い紙片を差し出した。

 図書室のメモ用紙に見える。

 だが中身は、手書きの簡単な対応表だった。


 第七倉庫。

 閉庫日。

 鍵貸出。

 搬入出あり。


 三回。

 そのうち一つは、玲司が前の時間軸で引っかかった事故の直前と重なっていた。


「……よく拾ったな」


「図書室、暇なので」


 前にも聞いた返しだった。

 でも今度は、それが冗談で終わらない場所まで来ている。


「もう一つあります」


「何だ」


「校内便覧の古い版だと、第七倉庫の棚番号、今と少し違います」


 玲司は眉を寄せた。


「差し替えか」


「たぶん」


 ミオは声を落とした。


「空欄になってる棚、前は“実習補助資材・封鎖用”って書いてありました」


 その言い方で、玲司の中の線が少し繋がる。

 補助バー。

 支柱。

 簡易固定具。

 事故の前後で“消えるもの”に、ちょうど合う。


「今日はもう話すな」


 玲司が言うと、ミオは小さくうなずいた。


「はい。返却期限、明日です」


 図書委員らしい言い方だった。

 そのまま会話は切れる。

 玲司も何でもない顔で便覧を閉じた。


 放課後。

 旧校舎裏の空き教室。

 四人に加えて、今日はレナもいた。


「で、第七倉庫ねえ」


 ユラが壁に寄りかかりながら言う。


「分かりやすく怪しいけど、逆に嫌なやつじゃん」


「嫌なやつよ」


 カナデが即答した。


「施設管理側の閲覧権限が混ざっている。実習補助だけで回せる場所じゃない」


 レナは腕を組んだまま、短く聞いた。


「入るのか」


「入る」


 玲司は迷わない。


「ただし昼じゃない。夜に見る」


 ユラが手を上げる。


「はい質問。うちの静かな新入りちゃん情報、どこまで確度ある?」


 ミオは少しだけ視線を伏せたが、声はぶれなかった。


「鍵の動きは確かです。図書室に回ってきた便覧の旧版も、本物だと思います」


「思います、か」


 カナデが拾う。


「でも十分よ。私の方でも、第七倉庫に関わる棚番号だけ、学内端末の更新履歴が不自然だった。三か月前にまとめて書き換えられてる」


「事故より前か?」


「ええ。しかも差分が消されてる」


 レナが小さく舌打ちした。


「分かりやすく黒だな」


「分かりやすいのが逆に気持ち悪い」


 ユラが言う。


「こういうのって、普通もっと雑に隠すか、もっと完璧に消すでしょ」


 玲司はその言葉にだけうなずいた。


「だから見る価値がある」


 空気が少し締まる。


「役割を切る」


 玲司は短く並べた。


「ユラは外周。人の流れと見張り線。カナデは管理端末側の封鎖ログ。ミオは退避導線と鍵の補助。レナは外で待機」


 レナが眉を上げる。


「中入らねえのかよ」


「出る幕がない方がいい」


「つまんねえ」


「静かに済むなら、その方が価値が高い」


 レナは数秒黙ってから、肩をすくめた。


「分かった。暴れる段になったら呼べ」


「呼ばないで終わるのが理想だ」


「言うようになったな、司令塔」


 少しだけ空気が緩む。

 その隙間で、ミオが小さく言った。


「先輩。第七倉庫、奥の棚だけ床鳴りが違います」


「見たのか」


「掃除当番の時に、前を通りました」


 それだけで十分だった。

 通りすがりに拾うには、あまりに欲しい情報だ。


 玲司は全員を見た。


「今夜、倉庫を見る。欲しいのは写真じゃない。一次証拠だ」


 ユラの表情から、軽さが少し引く。


「原本側ってことね」


「そうだ。改ざんされたあとの説明じゃなく、触る前の記録を持つ」


 カナデが静かに続けた。


「搬入出。封鎖申請。受領欄。できれば更新前ログ」


「持てる最小限だけ持つ」


 玲司は言う。


「痕を増やすな。見つかる前提で動け」


 窓の外は、もう暗い。

 校舎の灯りだけが残り始めていた。


 倉庫を見れば、たぶん次が変わる。

 ただの違和感じゃなく、言い逃れしにくい形へ進む。


 その代わり、戻れなくもなる。


「じゃ、準備しよっか」


 ユラが笑う。

 軽く言っているが、目は笑っていない。


 レナは扉へ向かう前に、玲司へだけ短く言った。


「妙に静かだったら疑えよ」


 玲司は返す。


「分かってる」


 妙に静かな場所は、だいたい誰かの都合で静かだ。


 そして今夜向かう倉庫は、たぶんそういう場所だった。


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