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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第31話 教室では空気のまま

 


 おかしいのは、話題の中心にいるやつほど平然としていることだ。


 二限目のあと、教室はいつもより少し騒がしかった。

 動画の話。

 違法救助の是非。

 “影の救助班”という雑な呼び名。


 その中心にいるのは朝比奈ユラだ。


「え、でも助けてるならよくない?」

「いや違法は違法っしょ」

「でも黒峰より早かったってマジ?」

「それは盛ってるって」


 明るく返し、笑い、話を回す。

 いつも通りの人気者。

 そこに裏の匂いは一切ない。


 玲司は二列後ろで、プリントの端を見ていた。

 実際には文字など頭に入っていない。

 入っているのは、教室の温度差だけだ。


 ユラは近づかない。

 カナデはもっと露骨に視線を切る。

 そしてレナは――


「おい、そこの地味」


 休み時間、教室の前を通りかかったレナが、わざとらしく玲司を見た。


「プリント一枚余ってた。捨てといて」


 教室の空気が少し笑う。


「橘先輩、雑」

「水城に頼むんだ」

「似合いすぎ」


 玲司は顔も上げずに言う。


「自分で捨てればいいだろ」


「いま急いでんだよ」


 ぶっきらぼうに紙を机へ置き、レナはそのまま去る。

 ただの雑な先輩後輩。

 周りにはそう見える。


 だが、紙の端には小さく数字だけが書いてあった。


 17:40

 北棟階段裏


 集合じゃない。

 確認だ。


 玲司はそれを見ても表情を変えない。

 紙を半分に折って、普通に鞄へ入れた。


 三限のあと、カナデが前を通る。

 足は止めない。

 声もかけない。

 ただ、プリント提出の列で一瞬だけ玲司の机に視線を落とした。


 短い。

 だが十分だ。


 数字は共有された、と分かる。


 学校は演技空間だ。

 危険地帯じゃない。

 無関係を装い、距離を演じる場所。


 だからこそ、こういう雑なやり取りの方が自然だった。


 放課後まで、玲司は空気のまま過ごした。

 声をかけられれば短く返す。

 目立たない。

 評価も変わらない。


 それでも、周囲の話題は少しずつ動画へ戻る。


「うちの学校にもいそうじゃない? ああいうの」

「いや、いたらもっと目立つだろ」

「確かに。水城みたいなのは絶対違うし」

「それはそう」


 笑いが起きる。


 玲司は気にしていない顔でノートを閉じた。

 だが、その笑いの中に一つだけ鈍い感情が混ざる。


 目立たないことは盾だ。

 同時に、何者でもない顔でもある。


 その帰り、廊下の端でユラとすれ違った。

 向こうは友人に囲まれている。

 玲司も一人だ。


 視線は合わない。

 足も止まらない。


 すれ違う一瞬だけ、ユラの声が少し低く落ちた。


「右、見ないで」


 本当に小さかった。

 友人たちには聞こえない程度。


 玲司は言われた通り、右を見ない。

 そのまま通り過ぎる。


 三歩進んでから、ガラスの反射にだけ映った。

 廊下の曲がり角。

 知らない男が一人、スマホを触っていた。


 教員でも生徒でもない。

 保護者にしては立ち方が硬い。


 玲司は足を止めない。

 止めた方が負ける。


 そのまま北棟の階段裏へ回ると、先にいたのはレナだった。

 カナデは少し遅れて来る。

 ユラは最後だ。


「右の男、見た?」


 レナが短く聞く。


「反射だけ」


「十分」


 カナデが端末を開いた。


「校内来訪者ログに即時の該当なし。正規の入構じゃない可能性が高いわ」


 ユラが肩をすくめる。


「さっきのタイミングで動画の話題拾ってた。偶然の見学じゃないね」


 玲司は壁に寄りかからず立ったまま、考える。


 動画。

 噂。

 学校での観測。

 全部が一本の線になりかけている。


「学校まで来るのが早い」


「噂の伸びが早かったからでしょ」


 ユラはそう言ってから、少しだけ真面目な顔になる。


「それか、最初から学校も候補に入ってたか」


 誰もすぐには否定しなかった。


 レナが低く言う。


「なら余計に、学校じゃ他人だ」


「分かってる」


 玲司が答えると、カナデも続けた。


「今日から、接触の理由も作るわ。偶然すら偶然に見えるように」


「面倒だな」


 レナが吐き捨てる。


「面倒だから必要なのよ」


 カナデは平坦だった。


 ユラは二人を見て、小さく笑う。


「ほんと、うちの組織って真面目」


 玲司はその言葉にだけ、わずかに目を細める。


 うちの組織。

 もう、ただの仮の同盟じゃない。


 その時、ユラの端末が震えた。


「……あ」


「何だ」


「まとめじゃない。別ルート」


 ユラは画面を見たまま言う。


「動画、探索者向けの企業監視アカウントに拾われた」


 玲司の思考が一段深く落ちる。


 野次馬の噂は終わった。

 次は、見る側が変わる。


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