表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/55

第30話 正体不明の救助班

 


 朝には、呼び方が一つ増えていた。


「影の救助班だって」

「なにそれ、漫画みたい」

「でも昨日の動画、ちょっとやばくなかった?」


 教室の後ろで誰かが笑っている。

 いつもの雑談だ。

 ただ、その話題の中に昨夜の断片映像が混ざっている。


 玲司は席に座ったまま、聞いていない顔をしていた。


 動画そのものは削除と再投稿を繰り返している。

 だが、完全には消えていない。

 むしろ断片だけが別の場所で増えていた。


 “助けたのは誰だ”

 “違法だけど有能”

 “顔のない救助班”


 名前がないぶん、呼び方だけが先に育っていく。


 昼休み、旧校舎脇の渡り廊下。

 時間をずらし、視線を切って、三人だけが先に揃った。


 レナは来ていない。

 学校の中で無理に接点を増やす方が危ないからだ。


「昨夜から朝までで、同系統の投稿は二十八」


 ユラが端末を見せる。


「元動画は短いのに、コメントと考察が勝手に伸びてる。しかも“助けられた側っぽい書き込み”が混ざり始めた」


「本物か」


 玲司が聞く。


「半々。現場にいたっぽい温度のもあるけど、便乗も多い」


 カナデがすぐに拾う。


「便乗込みでも、流れとしては悪くないわね。完全に違法集団扱い一色にはなっていない」


「その代わり、“有能なら公に出ろ”も増えてる」


 ユラは肩をすくめる。


「人って勝手だよね。助けろ、でも正体は見せろ、責任も取れってさ」


 玲司は短く返した。


「出たら終わる」


「分かってるって」


 軽く言いながらも、ユラはすぐに表情を戻す。


「ただ、ここで全部打ち消すのも悪手。もう“いた”ことは広がってる。なら、変に否定するより曖昧なまま流した方がいい」


 カナデがうなずいた。


「ええ。存在を消しにいくより、輪郭を曖昧に保つ方がまし」


 玲司は壁にもたれず立ったまま、考える。


 本来なら、公にならないはずだった。

 救助は救助。

 証拠は証拠。

 影のまま持ち帰るのが理想だった。


 だが今は違う。

 誰かが先にTRACEを観測し、その存在だけを外へ放った。


 それは危険だ。

 同時に、使える流れでもある。


「朝比奈」


「ん」


「次に同じ系統が出るなら、完全否定はするな」


 ユラが目を細めた。


「乗るの?」


「乗せられるほどはまだ出ない。だが、“助けたやつがいた”程度の曖昧さは残す」


「へえ」


「功績取りじゃない。逃げ道だ」


 玲司は言い切る。


「黒峰や学園側が全部自分たちの手柄だと言い出した時、噂の方に別の筋が残っていれば、あとで崩せる」


 カナデの目が少しだけ和らぐ。


「ざまぁに理屈を残す、ということね」


「そうだ」


 ユラは小さく笑った。


「玲司、そういうとこだけ容赦ないよね」


「感情で潰すより確実だ」


「好きだよ、そういうの」


 軽い言い方だった。

 だが玲司は拾わない。


 その代わり、端末へ視線を落とす。


 掲示板の新しい書き込み。

 短い考察動画。

 現場にいた探索者の匿名証言めいたコメント。

 それらが混ざって、一つの曖昧な像を作っていく。


 正義でもない。

 悪でもない。

 公認でもない。

 ただ、先に来て救う影。


 ユラが別画面を開いた。


「あとね。これ、ちょっと面白い」


「何」


「“影の救助班”って単語、最初に言い出したやつが同じ。三つの場所で」


 カナデがすぐ反応する。


「誘導?」


「たぶん。自然発生っぽく見せてるけど、少なくとも最初の火付けは一人」


 玲司は目を細める。


 誰かが広めている。

 それも、ただの野次馬ではないやり方で。


 TRACEを持ち上げたいのか。

 炙り出したいのか。

 まだ切れない。


 その時、渡り廊下の向こうで足音がした。

 三人とも会話を切る。

 ただの通りすがりの生徒だ。


 ユラはすぐに明るい顔へ戻った。


「えー、だからその動画の編集がさ」

「朝比奈さん、声が大きいわ」

「冬月さん、急にノッてきた?」


 通り過ぎた生徒は、ただの雑談だと思って行った。


 足音が消えてから、カナデが低く言う。


「学校の中では、もう少し切った方がいい」


「分かってる」


 玲司が答える。


「次は離す」


 ユラも小さく息を吐いた。


「はいはい、影の救助班は教室では赤の他人ってわけね」


 その軽口のあとで、彼女の指が止まる。


「……来た」


「何が」


「まとめアカウント。フォロワー多いやつが拾った」


 画面には、低画質の切り抜きと一緒に短い文が載っていた。


 ――正式救助より先に動く、正体不明の救助班。

 違法かもしれない。でも、助かった人間がいる。


 玲司は画面を見る。


 噂の範囲が、個人掲示板から一段上へ出た。

 もう身内の野次馬だけじゃない。


 次は、見ている側のレイヤーが変わる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ