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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第26話 証拠を持ち帰れ

 


 夜の低層は、昼より音が少ない。


 一般探索者が減る。

 管理の巡回も間延びする。

 隠れるには向く。見つかった時の言い訳が利きにくい時間でもあった。


 玲司は枝坑から少し離れた岩陰で、二人の位置を確認した。


 ユラは搬出路の自販機脇。

 スマホを見ているだけの顔だが、視線は軽トラと管理小屋の両方を切っている。


 カナデは管理棟側。

 闇に紛れる黒い上着のまま、端末を開いていた。


「入る」


 玲司が言う。


「十分で切る。人がいたら人命優先。証拠は持てる最小限だけ持つ」


 ユラがすぐ返した。


「了解。派手なことはしない。必要なら引っ張る」


 カナデも続く。


「こっちは正規ログの複写が半分終わったわ。あなたが昼に見たあと、閉鎖理由の文面が変わってる」


「やっぱり見られてたな」


「ええ。しかも閲覧履歴の一部を消そうとしてる。慣れてる」


 玲司はロープの脇から身を滑らせた。


 昼より砂が薄い。

 掃いたあとだ。しかも表面だけ。

 足跡を消したいのに、急いでいて全部は消し切れていない。


 ライトを最低光量で点ける。

 壁際に置かれた空ケース。

 一般流通品の箱に偽装した掘削具。

 床に残る細い轍。

 写真を数枚。角度を変えてもう数枚。


 目的は映えじゃない。

 反論できない形で残すことだ。


 玲司はケースの内側を覗いた。

 粉がうっすら付いている。この区画で出る色じゃない。

 高純度層の削り粉だ。許可採掘なら搬出記録があるはずのもの。


「サンプル取る」


「右ポケット」


 カナデの声に従い、玲司は透明パックへ微量だけ移した。


 持ちすぎない。

 痕を増やさない。

 証明に足る最小限だけ。


 次に、補強杭の根元を撮る。

 削り込みの角度が不自然だ。

 支えるためではなく、落とすための準備。

 さらに脇には、小さな樹脂片が落ちていた。正規品じゃない固定補助具だ。


「物証一つ」


 玲司はそれもパックへ入れた。


「昼に見たやつ?」


 ユラが聞く。


「同系統だ。崩落誘発用の補助具」


「嫌な言い方するね」


「嫌なものだからな」


 その時、ユラの声が低くなった。


「玲司。外、増えた」


「人数」


「見えるだけで二。軽トラのそばに一。管理小屋側に一。どっちも昼の巡回より硬い」


 武装している歩き方だった。

 玲司はライトを切らず、逆に奥へもう二歩入る。


「カナデ、閲覧履歴は」


「いま一つ消えたわ。こっちを見てから動いた速度よ」


「了解」


 枝坑の奥へ進む。


 そこには、昼には気づかなかった生活痕があった。

 使い捨てマスク。

 飲みかけの水。

 壁に立てかけた安い手袋。

 短時間の盗掘なら置いていかないものだ。


「掘るだけの連中じゃない」


「何が見えたの」


 ユラが問う。


「ここ、使い捨ての現場じゃない。何日か回してる。しかも、雑に使われてるやつがいる」


 道具の置き方が一定じゃない。

 慣れた人間の並びと、素人の散らかし方が混じっている。

 見張りや元締めだけではない。下っ端か、使い捨ての作業員を混ぜている。


 玲司は狭い横穴の手前で止まった。


 床の片側だけ、擦れが多い。

 荷物を引いた跡じゃない。足を引きずったような浅い線だ。


 その時、奥からごく小さく、咳が聞こえた。


 三人とも黙る。


 もう一度。

 今度ははっきりと、苦しそうな息。


「……人がいる」


 ユラの声から、完全に軽さが消えた。


「作業員?」


「たぶん」


 玲司は横穴の暗がりを見た。


 敵は証拠を消しに来る。

 なら、証拠と一緒に切られる人間がいてもおかしくない。


 むしろ、その方が自然だ。


「最悪だな」


 カナデが静かに言う。


「向こうが来る前に、ひとり残ってる」


 玲司は即答した。


「救助優先。証拠はもう足りる。奥を見る」


 その言葉を切った直後、外から乾いた足音が重なった。


 十分どころじゃない。

 残されたのは、先にその一人へ届けるかどうかだけだった。


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