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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第15話 あなた、何を知ってるの

 

 放課後、行かないという選択肢もあった。


 だが玲司は結局、旧校舎側の渡り廊下へ向かっていた。


 来ない方が怪しい。

 そういう判断もある。

 だが本当の理由は別だ。


 冬月カナデが何を掴んでいるのか、放置したままにしたくなかった。


 渡り廊下の脇は、人目が少ない。

 完全な死角ではないが、長話をする生徒も少ない。

 前に朝比奈ユラと話した場所にも近い。


 先にいたのは、もちろんカナデだった。


 壁にもたれたりはしない。

 背筋を伸ばしたまま、窓の外を見ている。

 こちらが来たのを足音で分かっていたはずなのに、すぐには振り向かなかった。


「来たのね」


「お前が呼んだんだろ」


「そうね」


 ようやく振り向く。

 切れ長の目が、迷いなく玲司を捉える。


 玲司は適当な距離で止まった。

 近づきすぎない。逃げすぎない。

 それだけで、こういう相手は読む材料を減らせる。


「で」


 玲司が先に切る。


「何の用だ」


 カナデは少しも急がなかった。


「確認よ」


「何を」


「あなたが、最近の事故を知っていたのかどうか」


 単刀直入だった。


 玲司は表情を変えない。


「知らない」


「そう」


 あまりにもあっさり返されて、逆に玲司の方が警戒する。


 カナデは続けた。


「でも、あなたは事故が起きたあとから動いた人間じゃない」


 玲司の目が細くなる。


「言い方が変だな」


「正確に言っているだけよ」


 カナデは一歩も動かないまま言う。


「訓練区画Bの件。あなたは崩落のあとに慌てた顔をしていなかった。むしろ、その前からそこだけ見ていた」


 見られていた。

 朝比奈ユラとは別角度から。


 玲司は内心で舌打ちしたくなったが、顔には出さない。


「観察しすぎだろ」


「風紀委員だから」


「便利な肩書だな」


「あなたも便利なごまかし方をするのね」


 淡々と返される。


 玲司は窓の外へ一度だけ視線をやった。

 夕方のグラウンドでは、部活の掛け声が重なっている。

 ここだけ温度が違う。


「それで?」


「それだけじゃないわ」


 カナデの声が少しだけ低くなる。


「事故のあと、あなたは旧記録を調べている。しかも、普通の生徒が気にしない順番で」


「順番?」


「事故報告そのものじゃなく、その前後の点検、配置、補助記録を追ってる。隠された原因を探す人間の見方よ」


 玲司は無言でカナデを見る。


 こいつは端末の閲覧履歴そのものを見ているわけじゃない。

 見ていなくても、出入りの順序と持ち出した資料の種類から組み立てている。


 十分すぎるほど厄介だ。


「で、何が言いたい」


「あなたが妙だと言っているの」


「抽象的だな」


「なら具体的にする?」


 カナデはそこで初めて、手元のクリアファイルを持ち上げた。


 中にあるのは、資料室利用の控えや風紀委員の巡回メモらしい数枚の紙だ。

 玲司自身の名前が見えたわけじゃない。

 だが資料室の利用時間と、端末室への出入り時刻、その近さが並んでいる。


「風紀委員は、不審行動の確認くらいはするわ」


 玲司は短く息を吐いた。


「で? 告発でもするのか」


「しない」


 早かった。

 その即答に、玲司の方が一瞬黙る。


 カナデは目をそらさない。


「告発するなら、もうしてる」


 その通りだった。

 こんな場所に呼び出す必要はない。


「じゃあ何だ」


「知りたいのよ」


「何を」


「あなたが何を知っていて、何を見ているのか」


 玲司は数秒黙った。


 朝比奈ユラとは違う。

 あいつは映像の違和感から踏み込んできた。

 こっちは、人の動きと記録の偏りから詰めてくる。


 どちらも面倒だ。

 だが冬月カナデの方が、放っておくと学校側の構造に近づける。


「知ってどうする」


「判断する」


「何を」


「敵か、味方か。そのどちらにもならない方がいい相手か」


 その言い方に、玲司はわずかに眉を寄せた。


 脅しじゃない。

 試験に近い。


 カナデは続ける。


「私は学校の中で、“おかしいのに処理が早すぎる件”を何度か見てる。小さい事故。記録の訂正。急な配置変更。全部単独なら偶然で済む」


 玲司の喉が、ほんの少しだけ詰まる。


「でも、続くと構造になる」


 そう言って、カナデは玲司を真っ直ぐ見る。


「あなたは、その構造を最初から疑って動いているように見える」


 玲司は答えない。


 答えないこと自体が、もう材料になる。

 だが否定の重ね塗りにも限界がある。


 カナデはそこで声を少しだけ落とした。


「前にもあったの」


 玲司の視線が止まる。


「二学期の実習棟の転倒事故。保健室送り三人。原因は床材の浮きで処理された。けど、前日に出ていた補修申請が記録から消えた」


 玲司は何も言わない。


「その時は、私も確証がなかった。気のせいだと思うことにした。でも今回も似た匂いがする。だから放置しない」


 理屈だけの人間じゃない。

 見て見ぬふりを一度して、次はしないと決めた人間の声だった。


「安心して。私は今すぐ答えを要求しない」


「……ずいぶん親切だな」


「親切じゃない。効率よ」


 その返し方で、玲司は少しだけ理解する。


 この女は興味本位で近づいてきたわけじゃない。

 自分の中にある違和感を、ちゃんと確かめたいだけだ。


「あなた、ひとりで抱え込むつもりでしょう」


 玲司の視線が止まる。


「違うと言う?」


 言い返しかけて、やめた。

 少なくとも今の段階では、違わない。


 カナデはクリアファイルを下ろした。


「私はあなたを告発しない。代わりに、次はごまかさないで」


「断る」


「でしょうね」


 それでも、カナデは引かなかった。


「だから条件を変えるわ」


 玲司が無言でいると、彼女は静かに言う。


「私は、あなたを脅したいわけじゃない」


 一拍置いて、カナデは言った。


「取引できるかどうかを見たいの」


 玲司はそこで初めて、相手を“ただの観察者”としては見られなくなった。


 しかも厄介なことに、その提案は思ったより理にかなっていた。


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