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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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107/109

第107話 証拠隠滅部隊

 


 救助に慣れた人間と、隠滅に慣れた人間は、持ち物より歩き方で分かる。


 深部側の保守通路へ向かった三人は、走っていなかった。

 急いでいるのに、急いで見えない速度。

 助ける相手ではなく、先に触る物が決まっている足取りだ。


「救助担当、ね」


 ユラが低く言う。

 端末越しに送られてくる映像には、三人の背が短く切り取られていた。

 担架は持っている。

 だが重心が違う。

 中身が空だ。


「向かう先は?」

 玲司が聞く。


 ミオがすぐ返す。


『保守通路の先です』

『旧式の点検室と、補助設備の制御盤があります』

『図書館の報告書で出ていた番号と近いです』


 違法設備と記録。

 どちらもあり得る。


 だが生徒の救助はまだ終わっていない。

 中腹側では別班の足止めも起きている。

 ここで全員の目を深部へ向ければ、TRACEの順番そのものが崩れる。


 玲司は短く息を吐いた。

 決めたはずの順番を、今ここで使う。


「レナ、救助を切るな」

「中央と右列を先に抜け。動けないやつからだ」


「分かってる」

 レナの返答は短い。

 その短さが頼もしい。


「カナデ、深部側の核だけ取れ」

「全部は要らない。消える前の記録だけでいい」


「了解」

 カナデの声も迷わない。

「欲張らない」


「ユラ、向こうの顔を押さえろ」

「救助しない救助班の絵が欲しい」


「任せて」

 今度のユラは軽くなかった。

「切り取られても逃げづらいやつ、撮る」


「ミオは削除線だ」

「誰が、どの端末で、いつ消したかを取れ」


『はい』

 小さい声のまま、芯だけが強い。


 玲司自身は全体を見る位置を動かさない。

 前へ出るのは、本当にそれしかない時だけ。

 今は順番を切る方が先だった。


 崩落区画の手前では、教師が一人、外部協力スタッフへ怒鳴っていた。


「深部はあとだ! まず学生の確認を——」


「向こうにも取り残しがいる可能性があります」

 救助担当を名乗る男が、落ち着いた声で答える。

「保守通路側を先に見ます」


 平然としている。

 嘘を慣れた温度で言う声だった。


 玲司はその声を聞きながら、床の薄い擦れを見た。

 保守通路へ続く靴跡は三人分。

 戻ってきた跡がない。

 しかも一人は、足裏に細い煤をつけている。

 さっきまで火気処理箱に触っていた痕だ。


 救助じゃない。


「水城!」


 中腹側で女子生徒が立ち尽くしていた。

 崩れた岩棚の向こうに、友人が残っている。

 泣きそうな顔だ。


 玲司はそちらを見た。

 今行けば救える。

 だが、それはレナの線だ。


「見えてる」

 玲司は短く返し、レナへ声を飛ばす。

「左の岩棚裏、一人! 足場は中央から入れ!」


「もう行ってる!」


 レナはすでに動いていた。

 それでいい。

 自分が全部を抱えるな、とミオに言われたばかりだ。


 その間に、カナデが深部側へ回り込む。

 表から見れば、崩落確認に向かう優等生の一人にしか見えない。

 だが、その手はもう端末のロックを解く準備に入っている。


「保守通路前に制御盤があるわ」

 カナデの声が落ちた。

「削除命令、まだ通り切っていない」


「抜けるか」


「抜ける」

 一拍。

「ただし三十秒」


「三十でいい」


 ユラの映像が切り替わる。

 保守通路へ入ろうとした三人のうち一人が、途中でうずくまっている負傷生徒を見ても止まらなかった。

 もう一人は視線だけ向けて、そのまま奥へ入る。

 担架は使わない。

 救助班なら一番先に拾う相手を、完全に捨てている。


「はい、ありがとう」

 ユラが低く呟いた。

「今のは残る」


 その時、深部側から短い警告音が鳴った。

 削除開始。

 制御盤側の火が走る前触れだ。


「先輩」

 ミオの声。

『向こう、設備ごと焼きます』


「カナデ」


「分かってるわ」

 カナデは冷静だった。

「核だけ持つ」

「全部じゃない」


 崩落区画の中央では、ようやく負傷者の流れが外へ向き始めていた。

 レナが前を開け、ユラが視線を散らし、教師たちが遅れてそれに乗る。


 玲司は床の震えを読む。

 まだ三次崩落の可能性はある。

 だが今、保守通路の奥で消されるものの方が早い。


 順番は決めた。

 生存者が先。

 でも、次を防ぐ核は捨てない。


 玲司は短く命じた。


「助けながら残す」

「向こうの手も、こっちの動きも両方だ」


 返事はいらなかった。

 全員、もう動いている。


 そして深部側の保守通路で、カナデが低く言った。


「見つけたわ」

「違法補助設備の運用ログ、まだ生きてる」

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