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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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106/110

第106話 誘発された落盤

 


 崩れる前の一秒は、だいたい音の方が正直だ。


 二度目の乾いた音が鳴った瞬間、玲司の中で危険導線が一気に走った。

 中腹の搬送通路。

 補助支柱。

 その外側の薄い岩壁。

 連鎖すれば、見学班と採集班の間が切れる。


「止まれ!」


 玲司の声が飛ぶ。

 何人かが反射で足を止め、何人かは遅れる。


 次の瞬間、通路奥の岩が斜めに落ちた。


 轟音は一拍遅れて来た。

 土煙。

 悲鳴。

 足元を打つ振動。


「右に寄るな! 中央残れ!」

 玲司は叫ぶ。

「前列、走るな! 詰まる!」


 教員の指示より先に、レナが動いた。

 前方の細道へ飛び込み、倒れかけた補助柵を蹴り返して進路だけを開ける。


「前、開けた! 三人ずつ来い!」


 ぶっきらぼうな声が、今は一番通る。


 ユラは反対側で、怯えて動けなくなった生徒たちの視線を切った。


「はい、こっち! 止まると余計危ない!」

 いつもの軽い声。

 でも速い。

 人を動かす時の声だった。


 カナデは崩れた通路の手前で、補助扉のロックを切り替えていた。

 完全封鎖ではない。

 押し寄せた人間が一箇所に詰まらないよう、流れだけを変えている。


「左は潰れるわ。中央へ寄せて」

「先生、そこに立たせないで。補助壁が持たない」


 教師の一人がようやく生徒の誘導に入る。

 遅いが、ゼロよりはいい。


 玲司は前に出すぎない。

 全体を見る。

 床の歪み。

 崩れた角度。

 次に落ちる順番。


 奥の搬送通路で起きた落盤は、自然崩落にしては切れ味が良すぎた。

 一点だけ、負荷がきれいに抜かれている。

 誰かが先に弱らせ、起きる瞬間を寄せた形だ。


「ミオ、二次崩落の線を追え」


『……見えてます』

 ミオの声は静かだ。

『通路B側の補助柵、直前で開閉記録が入ってます。自然じゃないです』


 やはり誘発だ。


「玲司!」


 レナの声。

 視線を上げると、崩落で分断された向こう側に四人取り残されていた。

 うち一人は足を挫いている。

 今ならまだ通せる。

 だが、その導線の頭上には細いひびが走っていた。


 三十秒。

 長くても四十秒。


「レナ、二人ずつ! 最後の一人は肩を貸すな、抱えて抜け!」

「カナデ、中央の圧を切れ!」

「ユラ、後ろの視線を散らせ!」


 短く切る。

 全員が迷わない長さで。


 レナが最初の二人を引きずるように通す。

 二人目が抜けた瞬間、頭上で石が跳ねた。


「次!」


 足を痛めた男子が動けない。

 横にいた女子生徒が泣きそうな顔で支えようとする。

 それだと遅い。


 玲司は一歩だけ前へ出た。

 完全に前衛へ入る距離ではない。

 だが、順番を切るには足りた。


「そのまま待て。レナ、右肩」

「分かってる!」


 レナが男子を担ぎ上げる。

 その瞬間、玲司の視界で崩落線がさらに走った。


「下げろ!」


 叫ぶのと同時に、岩が落ちる。

 だがレナはすでに一歩外へ出ていた。

 最後の女子生徒もそれに続き、通路が背後で潰れる。


 間に合った。


 土煙の向こうで、教員たちがようやく事態の重さを理解し始める。

 中層実習は中断。

 待機列の再編。

 負傷者確認。

 口ではそう言いながら、誰も全体を見られていない。


 外部協力スタッフの一部が現れる。

 救助用の担架。

 誘導灯。

 見た目は正しい。

 だが玲司は、その中にさっき安全説明の横にいた三人がいないことに気づいた。


 少ない。

 表に出ている人数が足りない。


「先輩」


 ミオの声がまた入る。


「外部協力枠のうち三人、現在地がずれてます」


「どこだ」


「深部側の保守通路です」

 一拍。

「救助導線ではありません」


 玲司の目が細くなる。


 救助班なら、今行く場所じゃない。

 今優先すべきは生徒がいる中腹側だ。

 深部へ向かう理由は一つしかなかった。


「……何持ってる」


『医療ケースじゃないです』

 ミオの答えは速かった。

『火気処理箱と、記録媒体用の保護ケースです』


 助けに来た顔で、消しに行く。


 その時、ユラが小さく舌打ちした。


「今、撮れた」

「担架持ってるくせに、誰もこっち見てない」


 軽い調子はもうない。

 レンズ越しの違和感を、完全に拾った声だった。


 玲司は崩落で舞う粉塵の向こうを見た。

 向こうは予想している。

 TRACEが即応することも、その混乱の中でこちらが人命を優先することも。


 だからその裏で、深部へ走らせる。


 事故のあとに形を決めるための動きだ。


「カナデ」


「聞いてるわ」


「深部側、当たりだ」

 玲司は低く言った。

「救助担当を装った連中が、証拠を消しに行ってる」


 一拍の沈黙。

 そのあと、カナデの声だけが硬くなった。


「なら次は、もう一つしかないわね」


 崩落はまだ止まり切っていない。

 生徒の悲鳴も残っている。

 その中で、深部へ向かう三つの影だけが、妙に落ち着いていた。

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