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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第100話 二重目的の作戦会議

 

 守るだけでも駄目。

 暴くだけでも駄目。


 そう分かっている時の会議ほど、最初の一言が重い。


 翌日の放課後、準備室の机には中層実習の簡易図が広げられていた。

 待機列。

 補助導線。

 資材仮置き。

 外部立会い位置。

 真壁が流した控えと、ミオが拾った最新の差分を重ねたものだ。


 玲司は全員の顔を一度だけ見た。


 ユラは椅子へ浅く座り、端末を回している。

 軽そうに見せているが、目は真面目だ。

 カナデは紙の重なりを揃え、もう論点を整理し終えている顔。

 ミオは端末を抱えたまま静かに待っている。

 レナは壁際に立ち、図の危険位置だけを見ていた。


「やることは二つだ」


 玲司が言う。


「中層実習の事故を止める」

「同時に、事故が“偶然じゃない”と残す」


 ユラが手を挙げる。


「はい先生、それが難しいから集まってます」


「知ってる」


「即答」


 少しだけ空気が緩む。

 その軽さのあとで、玲司は図の中央を指した。


「前段階は三つ」

「搬入前、当日開始前、崩れた直後だ」


 カナデがすぐに引き取る。


「搬入前は記録側ね」

「申請番号、搬入順、外部立会い枠の変動」


「開始前は配置の確認」

 ミオが続ける。

「待機列と資材箱の距離、補助柵の位置、導線の幅」


「崩れた直後は現場だな」

 レナが低く言う。

「詰まりを切って、人を流す」


「それに加えて」

 玲司は言った。

「現場の痕を残す」


 ユラが机へ身を乗り出す。


「映像?」


「映像だけじゃ足りない」

 玲司は答える。

「向こうも切り取りで逃げる」

「だから映像、配置、搬入記録、外部立会いの所在を束ねる」


「証拠束ね役は私ね」

 カナデが言う。


「頼む」


 ミオが端末の画面を切り替える。


「図書館側から拾った再分類番号、旧備品管理の番号、搬入申請の差分は紐づけできます」

「ただしリアルタイムで全部は無理です」


「無理な分は切る」

 玲司は言う。

「優先順位を固定する」


 レナが腕を組む。


「救助班は?」


「お前が前」

 玲司は即答した。

「崩れたら最初に詰まりを切る」

「ただし、追いすぎるな。止めるのは導線だけでいい」


「玲司に触るな、って言えばいいか?」


「現場でそれは目立つ」


「じゃあ言わないで殴る」


「必要な時だけにしろ」


 ぶっきらぼうなやり取りだが、レナはそれで十分通じる。


 ユラが端末を指で弾いた。


「わたしは?」


「二つ」

 玲司が言う。

「一つは視線散らし。現場で人の目をずらす」

「もう一つは、残す映像の取り方を選ぶ」


「切り取られても逃げ切れない絵を先に押さえる、ね」


「そうだ」


 ユラは小さくうなずく。

 軽い顔のまま、中身は深く受け取っている。


「ミオは裏側」

 玲司が続ける。

「搬入前から番号を追う。崩れた直後は、向こうの閲覧と持ち出しを見ろ」


「はい」

 ミオは静かに答えた。

「燃やす前の動きが出るはずなので」


 カナデが図の隅を指した。


「問題はここよ」


 待機列脇の狭い導線。

 一番危ない場所だ。


「ここで本当に崩れたら、救助側へ人数を寄せないと詰まる」

「でも、その瞬間に配置の証明が薄くなる」


「だから前で押さえる」

 レナが言う。

「崩れる前に位置を見てればいい」


「見るだけで終わる?」

 ユラが聞く。

「向こうが直前で動かしたら?」


「その時は現場で拾うしかない」

 玲司は答えた。


 会議はそこで一度止まる。


 全員が分かっていた。

 役割は切れる。

 順番もある程度は決められる。

 だが、本当に危ないのは同時に来る瞬間だ。


 崩落。

 救助。

 証拠確保。

 外部立会いの動き。

 全部が同じ数分に重なる。


 カナデが静かに言う。


「玲司」


「何だ」


「役割分担はいいわ」

「でも、一番大事なところがまだ決まっていない」


 玲司は返さない。

 分かっていたからだ。


 カナデの声は平坦なまま続く。


「現場で両立できない時」

「あなたはどちらを先に切るの」


 準備室が静まる。


 ユラも、レナも、ミオも何も言わない。

 言えないのではなく、ここは玲司が答える場所だと分かっている沈黙だった。


 守るか。

 暴くか。


 今の命を優先するか。

 次の事故まで止めるための証拠を優先するか。


 どちらも必要だ。

 だから二重目的で動く。

 だが、現場ではいつか順番を選ばなければならない。


 玲司は図の一点を見た。

 待機列の脇。

 資材箱。

 狭い導線。

 過去の事故図と重なる場所。


 答えを出さないままでは、現場で遅れる。

 だが、軽く決められる問いでもない。


「……明日までに切る」


 ようやくそれだけ言った。


 カナデは短くうなずく。

 追撃はしない。

 だが猶予はないという顔だった。


 ミオの端末が、そこで小さく震えた。


「先輩」


「何だ」


「中層実習の最終配置、今、また更新されました」


 全員の視線が端末へ集まる。


「どこが変わった」

 玲司が聞く。


 ミオは画面を見たまま、静かに答えた。


「待機列です」

「もっと寄せられてます」


 レナが低く舌打ちし、ユラの笑みが完全に消える。

 カナデは図の上へ新しい線を書き込んだ。


 向こうも迷っていない。

 事故を作れる形へ、最後まで寄せてくる。


 玲司は新しい線を見たまま思う。


 もう次だ。

 議論だけでは終われない。

 選ばなければならない。


 生存優先か。

 証拠優先か。


 その答えだけが、まだ決まっていなかった。

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