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学校ではモブの俺、裏ではダンジョン救助組織の司令塔 ――《痕跡鑑定》で事故も隠蔽も見抜いてやり直す  作者: 玖城イサ


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第10話 なんでわかったの?

 

 次の日、朝から妙な視線があった。


 教室の空気そのものは変わらない。

 誰かが眠そうにしていて、誰かが課題を写していて、窓際ではいつもの連中が笑っている。


 その輪の中に朝比奈ユラもいた。


 明るめの髪。

 よく動く表情。

 輪の中心にいるくせに、空気の読み方がうまいやつの笑い方。


 ただ、今日は二度ほど目が合った。


 すぐ逸らされた。

 けれど偶然じゃない。

 確認されている視線だった。


「水城、今日なんか死にそうな顔してない?」


 後ろの席の男子が言う。


「いつもだろ」


「今日はちょっと濃い」


「失礼だな」


「褒めてないし」


 軽い会話でやり過ごしながら、玲司は窓際を見ないようにした。

 ああいうタイプは、人前では何もしてこない。するなら、人がいても“目立たない形”でやる。


 嫌な予感は、昼休みに当たった。


 購買へ向かう途中、廊下の角で声が落ちる。


「玲司」


 玲司は立ち止まらずに歩いた。


「聞こえてるんだけど」


「そう」


 追ってくる足音。

 軽い。慌てていない。周囲から見れば、クラスメイトが何気なく話しかけているだけに見える距離感だ。


「昨日の続き」


「ない」


「あるよ。わたしの中では」


 玲司は階段の手前でようやく止まった。

 ここなら人通りが少し減る。だが完全な死角じゃない。ちょうどいい。


「何が聞きたい」


「だから、なんで分かったの?」


「たまたま近くにいて、嫌な感じがした。それだけだ」


「嫌な感じ、ね」


 ユラは壁にもたれた。

 スマホは手に持っていない。けれど持っていない方が、逆にまだ動画を切る気がないと分かる。


「玲司って、前からそういうのあるの?」


「何が」


「事故りそうな場所だけ分かるとか。危ない順番だけ見えるとか」


 玲司の目が細くなる。


「言い方が変だな」


「だって変だったし」


 即答だった。

 軽さの奥に、妙な確信がある。


 ユラは少しだけ視線を落としてから言った。


「わたし、撮ったあと何回か見返したんだよね」


 玲司は無言。


「普通なら、落ちそうになってから助けるじゃん。でも玲司は、その前に動いてた。しかも迷ってない」


 固定ピンを弾いたこと。

 進路を切ったこと。

 躊躇のなさまで見ていたのか。


「偶然だろ」


「それ、ほんとに便利な言葉だね」


 ユラは笑う。

 でも茶化し切らない。


「別に、バラしたいわけじゃないよ。ただ気になってるだけ」


「それが一番面倒なんだよ」


 少し強く言うと、ユラは目を瞬いた。

 驚いたのかと思ったが、すぐに薄く笑う。


「やっと本音っぽいの出た」


 玲司は黙る。


 ここで怒るのは違う。

 必要なのは距離を切ることだ。


「朝比奈」


「うん」


「昨日の件は忘れろ」


「無理」


 早い。

 迷いがない。


「動画見たの、わたしだけだし。騒ぐつもりもない。でも忘れるのは無理かな。だって普通に怖いし、変だし」


 怖い。

 その言葉に、玲司の胸の奥が小さく引っかかった。


 ユラは自分のことを怖がっているわけじゃない。

 あの一瞬の“分かり方”を怖いと言っている。


 それなら、まだましだ。


「……だったら余計に近づくな」


「それも無理」


「何でだよ」


「気になるから」


 答えが軽すぎて、逆に玲司は言葉を失う。


 だがユラはそこで笑い飛ばさなかった。

 少しだけ声を落とす。


「あと、助けられた借りくらいは気にするよ。わたし」


 その言い方は、昨日より真っ直ぐだった。


 玲司は一瞬だけ視線を上げる。

 ユラの顔から、軽口が少し引いている。

 ただし重くなりすぎてもいない。


 こいつはたぶん、人の見せ方だけじゃなく、言い方の置きどころも知っている。


「借りなんてない」


「あるって。少なくともわたしの中では」


 また同じだ。

 自分の側の論理で、ちゃんと線を引いてくる。


「で、ほんとのとこは?」


「言わない」


「即答だ」


「当たり前だろ」


「じゃあさ」


 ユラは少しだけ前へ出た。

 人から見れば、ただの雑談距離。

 けれど玲司には近い。


「これでも?」


 言いながら、制服のポケットからスマホを取り出す。

 数回の操作。

 画面が玲司の方へ向く。


 そこに映っていたのは、昨日の動画の停止画面だった。


 床が落ちる直前。

 朝比奈の手前へ入る玲司。

 そして表示された時刻。


 崩落の一秒以上前だった。


「……」


「ね。たまたまって言うには、ちょっと早すぎる」


 玲司は画面を見たまま、何も言わない。


 ユラは画面を引っ込める。


「わたし、こういうの切って見るの慣れてるからさ。止める位置とか、ズレとか、わりと分かるんだよね」


 ただ撮っただけじゃない。

 見返して、止めて、比較している。

 この女は“映像としておかしい”を拾える側だ。


 配信好きの目撃者。

 最悪に近い相手だった。


「……朝比奈」


「うん?」


「その動画、まだ持ってるのか」


 ユラは笑わなかった。


「持ってるよ」


 昼休みのざわめきが、少し遠くなる。

 玲司は画面の黒さを見つめた。


 その数秒は、未来を変えた証拠でもある。

 同時に、自分が普通じゃない動きをした証拠でもあった。


 そしてそれを、朝比奈ユラは消していない。


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