落ちた猫
意識が少し浮上し私は、そのまま微睡む事にした。うとうとと眠りながら、『起きようかなー?でも、まだ寝てたいなー』と自分と戦っていたが、まだ寝てたい気持ちが勝ったので、まだ寝てる事にする。
ゴロンと寝返りをうって、うっすらと目を開けると、部屋が薄暗いのが分かった。
ー良かったー。まだ朝じゃないや。
これならまだ当分は寝てても大丈夫だ。
私はそう思って、また目を瞑った。その時、ふと目の端に何かが映った様な気がした。
ーん?何だろう?……ま、いっか。
気にはなったものの眠気が勝り、私は眠りについた。んだけど…。
さっき見た何かが頭をちらついて仕方がないのだ。
ーう〜ん。まだ起きたくないんだけどなぁ。でも、気になる。…ええい!!!
微睡みながら悩んだ末、私は観念して目を覚ます事にした。
パチっと目を開けて、気になったものに目をやる。部屋は薄暗いけど、猫目の私にはバッチリ見えた。そして理解した。それが何なのかを。
「頭っ!?」
何で頭がここに!?誰の頭?
と思ったけど、誰の頭かなんて一目瞭然だった。その銀色の髪、見間違いようがない。レイさんだ!
でも、何でレイさんがここにいるのかな?
そもそも、ここは、どこ?
見知らない場所に、私は一瞬身体が強張った。赤毛の男の船を思い出して。でも、それは本当に一瞬で治まった。だって、ここにレイさんがいるんだもん。ただそれだけで、私には心強くて安心出来るのだ。
そんなレイさんは、ベッドに突っ伏してすやすやと寝ている。
ーあっ、つむじが見える。何か可愛い。
ただ、レイさんがいる事で安心は出来るけど、知らない場所には落ち着かない。なので、ここが何処だか考えてみる事にする。
ここは、さっき目が覚めた時と同じ感覚がする。と言う事は、ここは船の可能性が高い。そしたら、ここにレイさんがいるって事は、ここはレイさんの船なのかな?
って事は、ここは、もしかして、レイさんの部屋!?
ひゃーーー!!!そうだ!きっとそうだよ!!あわわわわわ。そしたら、私、レイさんのベッドで寝てたって事?当のレイさんを差し置いて!?
レイさんは戦いで疲れてるんだから、ちゃんと休まないといけないのに!私ったら、すみません。すぐに退きますから。
私はそっとベッドから降り立った。だけど、私が降りてもレイさんをベッドに寝かせられる訳ではない。これからどうしようか。レイさんも私なんか放っておいて、ベッドで休めば良かったものを。
と考えて、私は首を横に振った。
正直に言おう。レイさんがもし私を床に寝かせて自分はベッドで寝てたとしたら、私はきっとレイさんに幻滅しただろう。例えそれが私じゃなくっても、ベッドがあるのに女の子を床に寝かせておくなんて言語道断だし、更にその上自分だけがのうのうとベッドに寝るなんて事があったら、許せないよ!
レイさんがそんな人じゃなくて本当に良かったよ。
でも、安堵の気持ちもあるけど、申し訳ない気持ちもあるのだ。だって、ちゃんと身体を休めないと。よく見ると、レイさんの腕には包帯が巻かれているし、チラッと見える頬には傷当てがしてあった。
「レイさん、レイさん」
起こすのは申し訳ないけれど、私の力じゃベッドに寝かせられないし、風の魔石は奪われたままだから、魔石で浮かせられないから仕方がない。
「起きて下さい!ベッドで寝て下さい!」
ゆさゆさと身体を揺さぶるけど、何の反応もない。
ーまあ、よく寝ておられますこと。
良い事なんだけど、今は困るよ。えーん、起きてぇー!
「レイさん、起きて下さいよー」
「う、ううん…?」
3度目の正直で、私の揺さぶりは功を奏した。やったね!
「レイさん、ベッドで寝て下さい。ベッド、ありがとうございました」
「エ、エミリア…?」
レイさんはまだ眠そうにムニャムニャと目をこすっている。
ー何それ!可愛すぎるんですけど!
寝ぼけているレイさん、可愛すぎ!ずるい!
「エミリア、大丈夫なのか?」
「はい!もう大丈夫ですよ」
「そうか。良かったぁ」
レイさんは私の答えを聞いて、安心したようにホニャっと笑った。その笑顔は無防備で無邪気なものだった。その笑顔に、私はやられてしまった。ドクンと心臓が大きく跳ねたのが自分でも分かった。
ー何あれ、何あれ!可愛すぎっ!!
心臓がまだドキドキしている。
そんな私には気にも留めず、レイさんはベッドに入っていった。良かった。
けれど、私は全然良くなかった。レイさんの顔をチラリと見ただけで、ドキドキするし、顔も熱くなってくるのだ。
ーこ、これって、もしかして。もしかすると、私、落ちちゃったんじゃないでしょうか。恋に。




