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恐怖

持っていたナイフを投げ終わったミレイアさんは、次に更なる攻撃を加えていった。ミレイアさんは、大男の背後にさっと素早く飛びながら近付くと、大男の服の首根っこ(服の後ろ)をむんずと掴んだ。そして、そのまま上空に向かって羽ばたいた。

すると、ぐんぐんと高く昇っていくではないか!!大男を掴んだまま。


ーミレイアさん、その細腕のどこにそんな力があるんですか!!


大男は、今や完全に上空に浮かんでいる。しかも、その首元には服が食い込んでる気がする。


ー首、締まってないかな?い、生きてる?


私が、敵ながら大男が心配になった時、ミレイアさんは掴んでいた大男の服をパッと手放した。すると、どうなるか。それは自明の理だろう。重力によって、そのまま落下だ。


ーひ、ひええええええ!!紐なしバンジーーーーー!!!


ただし、すごく高い所から落とされた訳ではない。けれど、人の身長よりは高かったと思う。大男は悲鳴を上げて落ちていった。


「うわぁぁぁぁぁ……!!!」


ドシーンっ!!!


大男は船の甲板に落ちた。そして、動かなくなった。


ーし、死んじゃったの!?


私が青くなっていると、『無事だ』『生きてるぞ』という声が聞こえてきた。落ちた大男の所に向かった人達が、大男の状態を確かめたようだ。


ーよ、良かったぁー。


私にとって大男は敵だけど、それでも死なれるのはイヤだもんねー。生きてて良かった。それに、ミレイアさんが大男を殺さずに済んで良かった。まあ、ミレイアさんの事だから、死なない程度の高さから落としたんだろうけど。


「すごいねー」

「すごいですねー」


私の隣でアリシアさんがしみじみと呟いたから、私もしみじみと返した。もう『すごい』としか言いようがない気がするよ。


「あーあ、私も行けば良かったなー」

「えっ!?」


アリシアさんが頭の後ろで手を組んでそう言ったから、私は驚いてしまった。やっとの思いで逃げて来たのに、またあっちの船に行こうと思えるアリシアさんもすごい。

私には出来ない。せいぜい戦闘が行われていない隣の船で援護するのがやっとである。

アリシアさんは獅子で、自分の戦闘能力に自信があるから、そう言えるのかもしれない。私だって普通の人間よりは強いと思うけど、強い人に勝てる気がしないもんなー。

ミレイアさんもアリシアさんもすごいなー。


私達が話している間に、大男は縄で縛られたようだ。これによって、戦いは終わりになった。甲板にいる赤毛の男の仲間達は、全員縄で縛られている。


「さあ、手当しに行くよ!残りの者は、準備を!」


女の人は、こっちの船にいる皆を見渡して告げると、あっという間に向こうの船に渡って行った。その姿を目で追うと、一目散にフィデルさんの元へ駆けて行った。


ーフィデルさんは腕に結構なケガしてますからねー。心配ですよねー。


私もレイさんが心配だ。ミレイアさんも。


「私達もあっちの船に行ってみるー?」

「そうですね」


アリシアさんに聞かれて、私は頷いた。こっちにいても、何をしたら良いか分からないしね。準備するって言ってたけど、何の準備するのか全く分からないし。


そうして、私達はさっきまで戦闘が行われていたあっちの船に行く事にした。アリシアさんの後に続いて、船の間にかかっている渡し板を渡る。

そしたら、急に臭いが漂ってきた。血の臭いだ。

多分、レイさんの船にも血の臭いはしてたんだと思う。けれど、少し離れてる上、潮の香りもしているし、私の鼻もまだ本調子じゃないから、気がつかなかったのだと思う。

でも、この距離まで近付いたら、血の臭いが分かった。


私は血の臭いに恐怖を感じて、恐る恐る甲板に近付いて行き、甲板を見ると……。

そこには、たくさんの血の跡が付いていた。まだ乾いてない血だまりもある。そして、何よりも、まだ血を流している赤毛の男の仲間やレイさんの仲間達。痛みに呻いている者もいる。


私はその様子に恐怖した。血の跡や血だまりを見ると、背中がぞわっとするのだ。


ーこ、恐い………。


思わず、私は自分の両腕を両手で抱えて蹲った。


「エミリア!どうしたの?」


私を心配するアリシアさんの声が聞こえるけど、今は立てそうもない。

『ごめんなさい』と心の中でアリシアさんに謝っていると、私の耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。


「エミリアっ!!」


私は反射的に顔を上げて、その人の顔を見た。

その人は、月を背にしながら私に向かって走って来た。月明かりに銀色の髪が照らされ、その姿はとてもキレイで幻想的だった。私はレイさんに見惚れるのと同時に、その姿を見てほっとした。


「どうした!?大丈夫かっ!?」


その声を聞いて、私は立ち上がると、近付いて来たレイさんに向かって一直線に駆け寄った。そして、抱きついた。


「レイさん、レイさん、レイさん、レイさん、レイさ………」

「エミリアっ!!!」


私はここで限界を迎えた。レイさんに抱きつき、レイさんの名前を呼びながら、私は意識を手放した。

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