第39話 「最初の・・・。」
勇者召喚の最初です。短いですけど王様に語らせるよりはいいかなと。
「もはやこれまでか。」
俺は追い込まれていたもう数年にもなる、でももうここまでかも知れない。
奴らは周到に準備をし俺たちを王権から追い落とし、そして国自体も追い込まれていた。もうどうしようもない、最愛の恋人もやつらの仲間だった~親友と思っていたやつと共に信じていたのに土壇場で裏切りやがって、
もし恨みを晴らす機会があるとすればいちばん死ぬまで時間がかかる方法で俺を裏切ったことを後悔させてやる。
王妃である俺の母親も近衛大隊長と不義密通をしていた首途で、国王自らが首をはねた後に奴らの陰謀だったことが明らかになった。
重臣も王家創立以来の使用人も何も信じられなくなった国王である俺の父親はついに俺と妹も信じられなくなり今朝この地下迷宮に俺たちを落とし込み、傭兵に追い立てさせ更に封印してあった魔物や不死の骸骨戦士たちを放ち、俺たちを殺すことにしたらしい。
既に何回あいつらを打ち払い逃げ続けたかわからないが、妹は疲れ果てて腕の中で今束の間の眠りに落ちている。俺も疲労が溜まっているが迫り来る眠気と闘いながら呼吸を整え耳を澄まし、近づく敵を警戒しているけれど・・・。
[生きたいか?復讐したいか?お前を裏切った奴らを、この世界を見返したいか?。]
その声は重く静かに俺の頭のなかに響いてきた。
とうとう幻聴が聞こえ出したか・・・無理もないここまで追い込まれたのだ。
精神がおかしくなってもしかたがないだろうと思っていると・・・。
[大丈夫だ、おまえは狂っていない。私がお前の望みを叶えてやろう、信じるのだこの声を。]
その声は自分で創りだしたにしては、あまりにも滑稽なことをいう。
信じろと?このここまで裏切られ続けた愚かな男にまだ信じろというのか?。
[そうだな、信じなくてもいい。これは契約だこの世界が信じられなくなったお前と、この世界に復讐したい私の。]
それはどっちも俺の望みじゃないか、もうたくさんだ妹の首を切り自分も後を追うそれでこのくそったれた世界とおさらばだ・・・
そう思い懐剣に手をかけた時、幼い妹が目を覚ます。
「兄様?。」
そのあどけない顔を見た時に、俺は決断したこの世界を俺達を見限った世界に復讐してやると。
「わかった、お前と契約しよう声よ。」
目に見えぬお前との契約を結ぶと声にした。
「契約にはあと一つ魂が必要だ、お前が抱くその娘の命を捧げよ。」
「それは出来ぬ、それでは契約する意味が無いのだ声よ、妹ともになしてこそ意味がある。」
「・・・わかった、此度はそれで良しとしよう。されば最後の呪文を教えよう。」
声によれば俺はこの迷宮内で戦い逃げるうちに知らず知らずのうちに魔法陣を書いていたらしい自らの血と追手の中に交じる兵士の血や魔物の体液まで使って。
教えられた呪文を唱えると、まばゆい光とともに迷宮内に群がるかりそめの命で動く戦士は黄泉の国に戻り、迷宮がある王宮全域とその周辺10キロに群がるあらゆる生命の魂を触媒にして、異世界から一人の勇者を召喚した。
彼は迷宮深くに隠れる俺と妹の前に現れ忠誠を誓い、俺と妹のためだけに戦い始める。
しかも彼の眼には俺と妹以外は醜悪な化物にしか見えずその言葉も届かない。
そして、勇者の活躍により俺は見事に復讐を果たし・・・たといえるのだろうか?。
国王である父も、裏切った恋人や友人達も俺たちに石を投げつけた国民たちも・・・
この大陸に住む全ての民草が死に絶えたこの世界に二人妹と残された俺は、
召喚した勇者に問われた言葉に応えることが出来なかった。
彼は、もうこの世界にあなたに害をなす人はいませんと、
私の役目は終わりました、元の世界に返してくださいと言われただけなのに。
返答に窮している俺に変わって妹が彼に言った。
私を娶りこの地に残って国を再興してくださいと。
勇者は躊躇った後返事をした、では憂いのなきようにこうしましょうと。
彼の腰の剣がスラリと抜かれる、その刀身は一度も欠けることも血糊で濡れて切れ味が落ちることもなく、切り結ばれた数だけ黒く染まっていき今では漆黒の輝きを放つそれは、
俺の首筋に吸い込まれて紙を切るよりも軽く胴体と切り離される。
俺が見た最後の物は妹の満足そうな笑顔だった。




