第30話 「束の間の出来事」
沖合に停泊する異国の船に闇にまぎれて進む小舟が数隻、
月明かりに照らされるその小船の上には全身を黒い装束に包み顔も黒い頭巾で
覆われている。
静かに舷側に近づくと、錨の鎖を伝って登って行くもの、艦尾側ではロープをかけて登り始める者と様々だが数にして数十人が船に取り付いた。
先に登った者から船の甲板に消えていく、すべてのものが甲板に消えたあとなぜか小舟がすべて海の底に引き込まれるように沈んでいった、あたかも誰も帰れないように。
船首楼にあるライオネルの寝る船長室のドアの前から数歩離れた、下の甲板に続く階段の前にベネットの召喚した僕達が集っていた彼らは侵入者に気づいていた。
「マスターはお休み中だから起こさないようにね。」
背後に船長室のドアを従えてパイアが話し始める。
その声は人には聞こえない程の音量と音域でしかも人が使うのとは異なる言語だった。
「あなたが仕切るの?。」
褐色の肌の腕を胸の前で組んだ姿勢でカカオがパイアに問いかける。
もちろん彼女もまた同じ言語を使っている。
ただ彼女の姉妹ともいえるミントもまたその声に反応してパイアを睨みつけている。
彼女たちと違いこの船上で召喚されたジーナやヴァリアスは三人を交互に伺っている。
ローラィは少し離れたところで様子をみている、パイアはそんな仲間達を見回した後何か躊躇った後に返事をした。
「悪い?貴女の方が先輩だけど誰が最上位種かわかるでしょ。」
魔物の中にも序列は存在する、ただ種族間での諍いは召喚時には持ち出さないのが不文律になっている。この場合残念ながらスライムであるカカオ/ミントよりも他のメンバーの方が上位になる。しかもパイアはベネットが思っているヴァンパイア族ではない。
それを他の召喚者達は知っているが聴かれたわけではないから主人であるベネットには話していないし話す義務はない。
そして、その場では一番年嵩に見えるヴァリアスが先のパイアの言葉を肯定する。
「確かにパイア様が最上位です。」
「では、指示に従ってくれるわね?。」
「「「「はい(いいわよ)。」」」」
「じゃあ、カカオは船尾楼に取り付いた者を排除して。」
「う~ん、食べちゃってもいいの?。」
「お好きに、ただその前に情報はちゃんと収集してね。」
「ミントは船首甲板の方に、ローラィは海中で待機して、もし逃げれた者がいたら処理して。」
そこで言葉を区切り続ける。
「私は甲板上もしくは侵入する者を排除します、ヴァリアスはマスターの警護を
ジーナは・・・今日はジーナの日だからライオネルの警護を、わかったら行動開始一人も返さないわよ。」
階段を降りて船尾楼に向かうヴァリアスとカカオ。
ジーナはパイアの横をすり抜けて船長室のドアを開けて中に滑り込んだ。
パイアはミントとローラィを引き連れて船首楼から甲板に出た。
ドアの外には既に甲板に上がってきていた黒ずくめの侵入者達がいた。
ドアは25センチの厚みがある無垢の木材で出来ており、パイアが開ける時に丁度侵入者の一人がドアを開けようとしていた。その男は開け放たれたドアと壁の間に挟まれて潰された。
一瞬である。
潰された男は声を上げることも体が潰された音すら上げれなかった。
召喚者達の動きは早い、そして分担も的確で本来襲う側である侵入者達の方の反応は余りにも遅すぎた。
瞬く間に駆逐されていく侵入者達、しかも声を上げることさえ許されない速度で確実に戦闘能力を奪われていく。
明るさなど関係がなかった、完全な闇夜でも召喚者達には問題がない。
まして月明かりがあれば昼間と何ら変わらない。
それは、船尾楼に取り付いていた者たちもその運命は変わらない。
喉を潰され、両足を叩き折られて両腕も使えないように折られた上で意識を刈られている。
そして、ミントとカカオの吸収が始まる。
彼らは生きながら彼女らの体内に取り込まれ、その体内の強酸によって溶かされる際に脳から直接情報を引き出されるのだ。
海に逃げた者達もいたが彼らはローラィとその姉妹達に処理された。
襲撃者から得られた情報は少なかった、彼らは海軍ではなく盗賊でもなかった。
もちろん素人であるはずもなくー何者かによって集められた個人的なプロの集まりだった。
ある一人の記憶にはミッションと報酬金額が強く残っていた。
再度の襲撃に備えて起きているほどみんな暇じゃ無いので、ゴーレムの大ちゃんに上甲板に来てもらい甲板上を覆い尽くして物理的に侵入出来ないようにしてもらいみんなそれぞれの寝室に戻り眠りについた。
船長室から甘い声が漏れていたけれど、それは軽くスルーして・・・




