第21話 「ミント。」
夜が明けた、太陽が黄色いのはなぜだろう?。
俺は朝の清々しい空気の中、波打ち際を歩きながら考えていた。
俺の身に起きた次元間転移だが、バーチャルゲーム中にゲームキャラに意識が載ってる状態で移行したのだとしたら、室内にいる俺の肉体はどうなっているのか?ということが心配ではある。
実家に両親と住んでいるから部屋から出てこなかったら、遅くても明日の夜には気がつくはず。
俺が遊んでいた「バトルデューティ2」の世界では時間の経過が実際の時間の6倍で進むから、既に気がついているはずならば衰弱死とかは心配いらないと思う。問題は・・・
問題はパソコンとの接続がどうなっているか、VPSにしろVMMORPGにしろ人体との接続方法であるギアを取られていたら、もしくはゲームが強制終了されていたり、パソコンの電源が落とされたらアウトだな。
ただ、以前に起きた世界的な規模でのVCSの事件によって出来たマニュアルが流布されたおかげで多分その心配はないはず、だがVCSからの帰還者はいない。
それと別に現実世界から失踪し、おそらく次元間転移した者も多いらしい。
彼(彼女)らの中には帰還者もいるらしい。
だが、俺のようなケースの場合はどうなんだろうか?。
考えながら進んでいると襲撃を受けた浜辺に出た、そこでは今この島を出ていくための帆船を建造している。
でもペース早くないか?キットの組み立てじゃないんだから、まだ作り始めてから1日かそこらじゃなかった?。
何かほとんど完成してないか、これ?。
横を見ると帆を制作してるローラィがいっぱいいる、その中のひとりが俺に気がついてこちらに歩いてくる。
「お目覚めか?。」
「はい、おはようございます。そちらの方たちは?。」
「うむ、妾の姉妹たちじゃマスターの要望に応えるために呼び寄せた。」
「大丈夫でしょうか?この島にはゴブリンやオークなどが生息しています。襲われませんか?。」
軽く彼女は笑い、そして俺の元に近寄ると耳元で囁くようにいった。
「妾達が陸の上で無力かとお思いか?、我らの歌声に魅せられぬ雄など、どの種族にもおらぬ案ずるでない。唯、主の気遣いには感謝する。パイアに飽きたら妾がお相手いたそうぞ。」
彼女はそのまま俺の頬に口づけをして作業に戻っていった。
生臭いかなとおもいきや彼女の口づけはアーモンドのような香りを残していった。
その吐息はバニラのように甘かった・・・知らずのうちに脚が前に出て彼女の後を追いかけた。
踏み止まれたのはミントの声が聞こえたからか。
「踏み止まれ、ラント!。」
その鋭い一声で幻惑が解けた、気が付くといつの間にか海の中におり既に肩まで水面が来ていた。
振り返ると浜辺で笑うローラィが見える。
腹の周りに馴染みある感触があり、浜辺に急速に引き戻された。
「礼を言う、助かったよミント。」
ミントの体内から出してもらいながら、浜辺の砂を足の下に感じる。
「何、おまえを助けるのはもう馴れたものよ。」
確かにこれで何度目になるのだろう、けれど話をするのは初めてだ。
「しかし、いつから話せるように?。」
「さて、我にはわからぬ。今おまえに話してるのが初めてかもな、主とは距離など関係ないからな。」
ミントの体内から出て入るがまだ一部が俺の腕に触れている。
[あれも繋がっているから、この方法でも聞こえるかもしれんが、人魚族はというかお前達人間の女の姿を模している魔族は気をつけたほうが良いぞ?。
例えば、人魚たちに雄はいない。やつらは人間の男を誘惑し自らの巣に引き込み、3日3晩精を絞りとった後は稚魚の餌にする。]
「な・・。」
[自然界というのはそんなものだ、お前のいた世界でも似たような事はあるだろう?。]
[精々気をつけることだ、それと主はパイアを吸血鬼族と思っているが違うからな。お前も調子に乗って交わっていると・・・。]
ミントの体がピリッとした振動を伝えると俺の腕から剥がれていった。
「ライオネル、ここにいたのね。朝の食事の準備が出来たわ。戻りましょう。」
ミントの体の向こうにパイアがいた。
恐らくミントがその体色を濃くして、視界を遮っていたのだろう。
ミントの体が砂の中に溶けていく最後に一言「気をつけろ」と残して。
「あら?何に気をつけるのかしら。」
「今、ちょっと波にさらわれかけたんだ。一気に沖合まで持って行かれそうなところを。」
彼女の動きもまた素早く、瞬速で俺の左側に現れて腕を取り鼻をピクッと動かすと。
「そういうことね、ミントは偉いわね。」
そういう彼女の眼は座っている。肌は昨日までよりツヤツヤしているが。




