9話(外伝) 中央で待ってる
このエピソードは本編7章でオグリキャップが笠松からトゥインクルシリーズ(中央)にスカウトされ単身上京したものの笠松とは訳が違う店の多さ、駅の多さ、人の多さにトレセン学園までの道が分からず主人公雪人に助けを求め、ナナ、ユキヒメ、オグリ、ユキトの4人で45キロ先のトレセン学園に向かって車で向かう中での車内トークになります。
本編とややかけ離れた話になります、ご了承ください。
※エアグルーヴが凄い美人になりました。正直ビビりました。
僕らは厩舎のある東京都目黒区から東京都府中市にあるトレセン学園に車で向かっている。
「・・・笠松とは全然違うな、人の数もお店の数も。何よりコンビニの数が多い。騒がしくてちょっと苦手だ。」
「笠松で一度走った事があります!月桂冠特別レースで。結果は2着でしたが。」
「そうか、笠松で。・・・ふふっ。東京に来てから右も左も分からない私が言うのもなんだが、私は笠松の方が好きだな。もちろんこれからトゥインクルシリーズ(中央)で走れることに胸が高鳴っているのも正直な気持ちだ。」
オグリが少し車の窓を開けて風を感じながら笠松を思い出しているのか、少しだけ遠くを見るような表情で今の気持ちを吐露した。
「ぱぱ?かさまつってどこ?」
「笠松競馬場は岐阜県にある地方競馬だよ。おうちからだと400キロぐらいかな。結構遠いよ。」
「はにゃー・・・・。たぶんすっごくとおいのはわかったにゃ!」
多分これ分かってないやつだなと苦笑しつつ嚙み砕いてナナにも分かるように笠松競馬の特徴を話す。
笠松競馬場は岐阜県にある地方競馬場で一周1100mの小さい競馬場である。
この平行世界の笠松競馬場に行ったことは無いが、前の世界では地方とはいえ昭和の雰囲気が色濃く残る特に寂れた競馬場であったと記憶している。
また場内にはオグリキャップの像が展示されていて、コース内パドックというのが大きな特徴だ。
普通はコースの外にパドックがあるのだが、コースの内側にある事で間近で馬を見る事が出来るのが競馬ファンにとってはたまらなく嬉しいポイントだ。
キモ焼きやからあげ串、鶏皮、トンチャンなどは確か120円で食べれてお財布に優しかった。
現在は値上がりしてるか定かではないが、仮に一日3000円で遊ぶとなったらビール片手にからあげ串や鶏皮を片手に馬券を豆買い(1レースに100円や多くても500円を賭けて長く楽しむ買い方の事)して競馬を楽しむのもいいかもしれない。
「よくレース終わりにはどてうどんや焼そばを食べていたな。あげぱんやきしめんも美味しかった。トレーナーが良く言っていたよ。笠松じゃなきゃ終わってたって。お財布を見つめながらだが。」
(ああ・・・。分かるぞオグリのトレーナーさん。この子ら見た目細いのに野球部の食トレぐらい食うもんな・・・。しかも超が付く大食いのオグリのお腹を満たすなら・・・と想像して僕はぞっとした。多分下手すりゃ2,3カ月で貯金20万が消し飛んでいた可能性すらある。)
「まあ僕も正直驚いたよ。君たちウマ娘がこんなに食べるなんて。その分レースで活躍してくれればいいんだけど。家に置いてきたあの君と同じ髪色の子。ツクヨミって言うんだが4日後に水沢競馬場でレースがあるんだ。地方の重賞10頭立て。距離は1400m。」
※写真はあくまでオグリの想像ですw
「そうか、水沢で。私も色んな競馬場で走ってみたかったな。きっと色んな美味しいものがあるに違いないからな!盛岡にはジャンボ焼き鳥があると聞いた事がある。行ってみたかったな。」
笑顔でよだれでもたらしそうな緩み切った顔でオグリが続ける。
「私は、君たちが少し羨ましいと感じるよ。いろんな地方に行けるからな。」
「・・・それでも私は中央で走れるオグリちゃんが羨ましいですね。私も中央で勝ったことがあるんですよ!」
ユキヒメが元気に答えた。やっぱりユキヒメも中央で走りたいんだ。
ユキヒメの口から本音を聞いて僕も覚悟を決めて話す事にした。
信号待ちでオグリに何故彼女たちがトゥインクルシリーズを追放されたのかを話した。
「それは正直意味が分からないな。トレーナーの不祥事はウマ娘の責任ではないんじゃないのか?」
「正直僕もそう思うよ。別の厩舎への異動ではなく中央からの追放は明らかに過剰処分だと思う。だから僕たちは地方で結果を出してから彼女たちを中央で走らせたい。僕らが今中央委員会やシンボリルドルフ会長に直訴しても門前払いされるからな。だけど地方で結果を残して中央で走る彼女たちを見たいと思う世論を味方に付ければ勝機はあると思うんだ。」
「だがそれでは時間が掛かり過ぎるんじゃないか?私たちウマ娘にはタイムリミットがある。」
「分かってる。でもこれしか方法がないんだ。」
地方で結果を出して新聞や競馬ファンが騒ぎ立てればトレセン学園も中央委員会も無視は出来なくなる。
それに彼女たちの中央を追放された理由が前トレーナーの不祥事だと知れば。同情するファンや学園の非情ともいえる対応や中央委員会への批判もあるかもしれない。
そうなる前にチャンスが舞い込んでくるかもしれない。
中央は何よりも「格」を重んじるからだ。
それに週刊誌や新聞の記事になればレースへの売り上げにも響きかねない。
不祥事や混乱などあってはならないのである。
「まあ正直私は走る事しか出来ないし、中央で生き残れるか分からないが。・・・もしも笠松に戻ることなく中央で走り続ける事が出来たら、いつか中央で一緒に走ろう。楽しみにしている。」
そう言い切ったオグリの顔はとても綺麗で格好良かった。
「なあユキト。あれは「すたば」というやつか!?私のトレーナーが言っていたぞ!『すたば』は凄く美味しい「ふら・・・なんとか」があると!」
道の先200m先の左側にスタバの看板を発見した。
数秒前のキリっとした表情は何処に行ったのだろうか。
しかし流石にスタバでそんなにお金使わないだろと内心ほっとする。
オグリのトレーナーはこれを毎食ビクビクしながらお財布と相談していたと思うと不憫に思えてきた。
「私も行ったことないですね~☆(ちらちらと飲みたいアピールのユキヒメ)」
「にゃにゃもないにゃ!(連れてっての可愛いささやきおねだり)・・・ぱぱ~☆」
「分かった。寄って行こう。まあ僕も一回ぐらいしか入ったことないしな。オグリも初めてか?」
「ああ。初めてだ。笠松競馬場の近くにお店はあったんだが、どうにも私にはキラキラした世界に見えてな。気後れして入れなかったんだ」
スタバの駐車場に駐車しながら皆に話す。
「じゃあ行くか。まあこれもいい機会だしな。」
店内に入ると人間の店員とウマ娘の店員が一緒に働いているのを見て、クロも今頑張って整備の仕事をしているのを思い出す。
「なんだこれは?!すっごく可愛いぞ!」
正直に言おう。オグリ。今の君の方が数倍可愛い。
季節限定の桜フラペチーノに目を輝かせている美少女ウマ娘3人である。
値段は700円。正直コーヒー一杯に700円かと思ったが後日節約を頑張る事にした。
「お決まりでしょうか?」
茶髪のウマ娘店員が話しかけて来る。問題は注文である。
これもいい経験だとにやにやしながら見守る事にした。
「この桜咲くよふらぺちーの?を頼む」
「にゃにゃはこれ!」
ぺちぺちとメニュー写真を指で示す。どうやら白桃が読めなかったらしい。可愛い。
「桜咲くよ白桃ソーダですね~。」
「私もオグリちゃんと同じものを!」
ここからが本題である。
「サイズはどうしますか~?ショート、トール、グランデ、ベンティとありますが。」
ニコニコと笑顔で悪魔の問いを投げかけて来る店員のウマ娘。
「しょ、しょうと?ぐらんで?べn・・・?」
頭に「???!!???」と疑問符を浮かべながら聞きなれないサイズを反復しようとするオグリ。
僕の方をちらちらと見て「助けて」サインを送って来る。
放置しても面白そうだったが、後ろにお客さんが並んでしまったので助け舟を出す事にした。
「ふふ、カウンターの上に見本の空のカップが置いてあるだろ。あれが目安だよ」
「おお・・・。分かり易いな。まあ言われなくても分かっていたがな!」
精一杯の強がりを見せてからカウンターの見本カップを見比べるオグリ。
「じゃあ私はべんてぃ?だな。大きくていいな!」
・・・知ってた。一番大きくて一番値段が張るサイズである。
どうやら【葦毛の怪物】として世に知れわたる事になる未来のスーパースターの辞書には遠慮という文字は無いらしい。
「あとはしゅがーどーなちゅ・・どーなつとしなもんろーりゅ。・・・ろーるを。」
どうやら横文字は苦手らしい。
そしてちらちらとまるで牽制球を投げるピッチャーの如く、こちらの反応を見ながら勝手に注文を追加していくオグリ。
チョコレートドーナツボールを追加注文しようとしていたところで僕のこめかみがピクリと動いたのを見たか見なかったか、それとも中央に行くウマ娘の危機察知能力か口をつぐんでくれた。
ちなみにオグリの注文だけで1500円である。
そして、このオグリが先陣を切って追加注文したことで行けそうな空気感を感じたのか、ユキヒメとナナも追加注文が始まった。
もしここにツクヨミという常識人がいたなら、全員の注文はドリンクだけだっただろう。
「ななはこれとこれ!」
相変わらずぺちぺちとメニュー表を指さすナナ。
「アメリカンワッフルとシナモンロールですね~」
シナモンロールって、サイドメニューの中で一番高い420円なんだが。
「私はチョコレートチャンクスコーンとマロンパウンドケーキで!」
あれ?おかしいぞ?合計が5000円を超えたんだが?
ありがとうございましたー!と元気なあいさつに見送られ僕は予想外の出費にダメージを負いながらも車に乗り込んだ。
「すまない。ついいつものように注文してしまった。この恩は必ずいつか返す。」
「あまくておいしいにゃ!」
「ありがとうございます、トレーナーさん!」
これ以上節約したら僕のご飯が無くなるんだが。
だが僕も誇り高き日本男児である。顔は笑って心で泣いておく。
「別にいいぞ。じゃあ行くか。後15分もあれば着くはずだ。」
オグリもすっかり仲良くなったようで一口ずつナナのワッフルとシナモンロール、ユキヒメのスコーンとパウンドケーキを食べ比べしては「これは好みだ」「しなもんとやら覚えておこう」と年相応の愛らしい表情を見せていたので僕はこれ以上悪態をつけなかった。
やがて僕も初めて見るトレセン学園が見えてきた。
全員で車から降りて学園を校門付近から見渡す。
「でっか!!なんだここ!?」
デカいなんてレベルじゃない。東京ドーム何個分だこれ。20個弱は入るんじゃないのか。
「・・・久しぶりに見ました。やっぱり大きいですね。」
ユキヒメはかつての学び舎に思いを馳せている。
ナナはあまりの大きさにぽかんと口を開けたまま硬直している。
数年後初等部を卒業したらここに入学するのだ。無理もない。
グラウンドというか芝コースでは有名なウマ娘たちが走っている。
ダイタクヘリオス、メジロドーベル、ツインターボ、バブルガムフェローだろうか。
「む。そこの車。関係者以外立ち入り禁止だが。」
近づいてきたのはエアグルーヴだ。
ゲームやアニメで見てきたことはあるが、生で見るととんでもない美人で見惚れてしまった。
「私はオグリ。オグリキャップだ。笠松から今日付けで転入になった。それで東京に来たのだが道が分からなくて困っていたところをこのトレーナー、ユキトとユキヒメ、ナナに助けて貰ったんだ。」
「ああ、貴方が地方から転入の。会長から話は聞いてるわ。ようこそトレセン学園へ。学園は貴方を歓迎するわ、オグリ。」
そしてエアグルーヴは眉間にしわを寄せて顎に手をやり記憶を探っている。
「・・・思い出したわ。確か1年半前の事件の子ね。」
「副会長。お久しぶりです。覚えていてくれましたか。」
「記憶の片隅に、だけどね。なにせ約2000人のウマ娘が在籍してるもの。それで元気してた?」
社交辞令か本心からかは読み取れないが、エアグルーヴは久しぶりに実家に帰ってきた娘を心配する母の様な優しい表情をしている。
「それとこちらの男性は?初めて見る方だけど。」
僕は地方のトレーナーライセンスを見せて自己紹介する。
「僕は川城雪人。新しく彼女たちのトレーナーになったんだ。」
エアグルーヴは身分確認の為ライセンスを受け取り視線を落とす。
発行された日付を見て困惑した表情を浮かべているエアグルーヴ。
「本当にトレーナーなのは理解したけど、貴方、本当に正真正銘の新人トレーナーじゃない。それでちゃんとこの子たちの面倒は見れてるの?ちゃんと食べさせてるのかしら?」
こうなると本格的に娘を心配する母親である。
「それならちゃんと食べてるぞ。ユキトはここに来るまでに『すたば』とやらに連れて行ってくれた!ふらぺなんとかも美味しかったぞ!」
その言葉を聞いてエアグルーヴの眉間の皺が深くなった。
「貴方、初対面の担当じゃないトレーナーに奢って貰ったというわけね?見ず知らずの他人になにたかってるのよ全く。反省しなさいよ。笠松の元トレーナーからの紹介状にも【大食いなのでよろしくお願いします】と書かれていたけど噂は本当だったのね・・・。」
エアグルーヴ副会長。よく言ってくれた。僕の気持ちを代弁してくれてありがとう。
「そうだ、先に言っておくよ副会長。いや、エアグルーヴ。僕らの厩舎から3月8日にツクヨミが水沢の地方重賞に出るのを皮切りに、彼女たちをトゥインクルシリーズ(中央)で再び走らせるために再始動する。地方で結果を出して出して勝ちまくって皆に背中を押されて中央に戻る。過去は取り消すことは出来ないが未来は変えられる。首を洗って待ってろとルドルフ会長に伝えてくれ。」
「貴方、なぜ私の名前を?それに本気で言ってるの?あまり中央を舐めないことよ。それに地方にだって中央と遜色ないウマ娘が沢山いるわ。」
ふっと不敵に微笑んでエアグルーヴが続ける。
「まあ、けどそういう男は嫌いじゃないわよ。口だけにならないことね。それにいい暇つぶしというか会長との話の種にはしてあげるわ。」
どうやら宣戦布告は会長との話の種程度にしか受け取って貰えない様だ。
まあだが、それもそのはずである。中央で走り続けた(現役なのか不明だが)エアグルーヴにとって中央で勝つことが、そもそも中央に在籍し続ける事がどれだけ大変かはエアグルーヴ自身実際に身に染みて理解している事だろう。
中央のウマ娘が結果を出せず地方に泣きながら帰っていく姿は何度も目にしてきた光景だろうし、それに地方で結果を出して意気揚々と中央に挑戦してきては通用しないウマ娘の姿も。
「じゃあオグリさん。寮を案内するわ。・・・それじゃあ期待してるわよ。新人さん。」
そういうとオグリを連れ立って踵を返して広大なトレセン学園に戻るエアグルーヴ。
オグリは校門をくぐる時僕たちを振り返ってこう告げた。
「いつか走ろう、中央で」
「ああ、負けるなよ。オグリ。」
僕らは二人を見送ってから車に乗り込んだ。
「さ、買い物して帰るか。夜行バスもあるし買い物もしなきゃな。」
そうだ。4日後には僕らの反撃の狼煙が上がる。
中央を追放されたウマ娘が中央に乗り込んでその脚で全てをねじ伏せる。
後に【葦毛の怪物】として地方から中央へ乗り込み、次々に常識を覆し競馬ブームの火付け役となったオグリキャップと別れ僕らは厩舎に戻るのだった。
後書きにオグリキャップの成績を乗せておきます。
地方12戦10勝(2着2回)
中央20戦12勝(2着4回、3着1回、着外3回)
主な勝ち鞍
勝ち鞍
GI有馬記念1988年・1990年
GIマイルCS1989年
GI安田記念1990年
GIINZT4歳S1988年
GII高松宮杯1988年
GII毎日王冠1988年・1989年
GIIIペガサスS1988年
GIII毎日杯1988年
GIII京都4歳特別1988年
GIIIオールカマー1989年




