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10/15

10話 岩手上陸

後日挿絵追加します。

3月4日、水曜日 時刻 18:13 天候:晴

オグリとトレセン学園で別れた後買い物を済ませ一時帰宅し夕食の準備を終えた僕、ユキヒメ、ナナはクロが帰って来る夜8時まで各自の部屋で仮眠をとる事にした。


先に晩御飯を食べても良かったのだが、フラペチーノとワッフルやドーナツを食べたナナとユキヒメはまだ大してお腹が空いておらず、この後夜行バスがあるのと4日間もクロとユキヒメと別々になるので一緒に夕食を取ってから東京駅八重洲口の夜行バス乗り場に向かう流れになった。


ツクヨミもおやつを食べたらしく「皆に合わせる」との事だった。

僕らがオグリとトレセン学園に向かっている間、夜行バスに向けて仮眠を取ると言っていたが、1カ月ぶりのレースに眼が冴えてしまい、軽くダートコースを流す様に走ったとの事だった。


僕もいつもは寝付けないのだが、往復約100キロの運転が知らず知らずのうちに体に疲労を蓄積させていたのか20:00にアラームをセットした後、自分でもいつ寝落ちたのか気づかないまま寝落ちていた。


挿絵(By みてみん)


時刻は20:00。アラームが規則正しく鳴り響いて僕は目覚めた。


リビングのテレビをつけバラエティ番組を流しながらキッチンに移動し、準備していた茄子と挽肉(なすとひきにく)の甘辛炒め、ちくわとこんにゃくの煮物、子持ちししゃも、もやしのナムル、豆腐と大根の味噌汁を温め直しながらクロの帰宅とユキヒメ、ナナ、ツクヨミが起きて来るのを待つ。


正直言うと体がだるい。これから夜行バスに乗るのを考えると憂鬱(ゆううつ)である。


「ただいまー。今日は結構しんどかったわ~。」

20:15。クロが整備のバイトから帰ってきた。


「お疲れさん。着替えてからあいつら起こしに行ってくれ。今日は色々あってな。」

「色々ねー。飯食いながら聞くわ~。りょーかい!起こしてくるわ~☆」


20:22。温め直した夕食をテーブルに並べ終ってぼんやりとバラエティ番組を眺め始めた頃だった。

「おなかすいたにゃ!」

ナナがクロに抱っこされながらリビングにやってきた。


「ぐっすりでした!」

「・・・だろうね(笑)」

続けてユキヒメが凄い寝癖で起きてきた。まあ出発前に風呂入るしいいか・・・。


「・・・寝れませんでした。」

・・・ああ。今日のナナの寝相による被害者はまさかのツクヨミだった。

レース前日じゃなくて本当に良かったと安堵する。

そして皆でいただきますをして遅めの夕食を取り始める。


挿絵(By みてみん)


「へえ・・・。笠松から中央にスカウトされたんだ。すげえじゃん、そいつ。」

ユキヒメからクロに今日オグリと出会ったこと、トレセン学園に行ったこと、スタバに初めて行ったことエアグルーヴに宣戦布告したことを話す。


「トレーナーってさ、普段なんかぼーっとしてるけど意外に大胆じゃん☆」

クロが僕の宣戦布告を聞いて玩具を見つけた子供のように目を輝かせた。しかし。

「てか何3人でスタバ行ってんのよ。今度連れてってよね、私も。」

「・・・機会があればな。」


どうせ連れてくとなったら今度は今日行けなかったツクヨミ、クロを連れて行くことになる。

そうなったらナナも可愛くおねだり攻撃してついてくる。というかナナのおねだりにダメと言える大人は世界中探してもいない気がする。おねだりの仕方が上手すぎる。あとめちゃくちゃに可愛い。


となるとユキヒメだけお留守番も可愛そうなので結局全員に奢る羽目になる。

そうなると色々理由をつけてクロとツクヨミだけ連れて行かなければならないなと、後日訪れるであろう厩舎脱出劇に思いを馳せるのだった。


「勝って来てよね、絶対!」

「ええ、行って来るわね。ユキちゃんの事お願いね。」

「お土産待ってますね!」


ユキヒメとクロユリを家に残し僕、ナナ、キキョウは車に乗り込んで東京八重洲の夜行バス乗り場へ向かう。


挿絵(By みてみん) 


3月5日 水曜日 07:10 天候:曇り

「身体バキバキだわ~。着いたな、盛岡。」

「ええ、来ましたね岩手に。私は二度目ですけど。」

「・・・にゃぁ。」

8時間の地獄の夜行バスを終えてついに僕たちは東京都墨田区から岩手県盛岡市に来た。

朝日が眩しい早朝である。

ナナは初めての夜行バスにもうクタクタである。


「温泉行くか。更に移動があるんだよ。盛岡から水沢までな。電車で一時間。」

流石にこのまま更に電車に乗り継いで行くよりは温泉で一旦休憩と仮眠を取るべきだと判断した。

行こうとしているのは盛岡駅周辺にある開運の湯という温泉である。


レースは3月8日なので3日後。今日は温泉に入って夜行バスの疲れを癒した後電車で水沢に行き早めにホテルにチェックインすることにした。


「ありがとうございますトレーナーさん。正直限界でした。」

ふふっと微笑んで無意識に尻尾を揺らしながらツクヨミが嬉しそうにしている。

「おんせん!ひさしぶりにゃ!」

耳がピコピコと動いて急に元気になるナナ。

「移動もあるしレースも控えてるからな。まあ、必要経費だ。行こう。」


開運の湯までは盛岡駅から約1.5キロ。夜行バスで強張った身体をほぐしつつ、歩いたとて大した距離でもないのでリフレッシュがてら散歩しながら向かう事にした。

「ここが盛南大橋。下に流れている川は雫石川なんだ。」

「風が気持ち良くて空気が美味しく感じますね。住みやすそうです。」

岩手ではウマ娘は珍しいのか盛南大橋を渡っていると仲良く散歩している老夫婦が会釈してくる。

「めごぃわらすですねぇ。(可愛い子供ですね)」

「んだなぁ、ほれ。あめっごぐうが?(そうだな、ほら飴食べるか?)」


東北の訛りにまるで異世界の言葉を聞いたかの表情のナナが「???」という表情をしているので通訳してやる。

ちなみに岩手弁や盛岡弁は分かるが、津軽弁になると岩手県民でも訛りがきつすぎて意味が分からないことが多い。


例えば津軽弁の例文だが「きなのばげ、えさ帰ったきゃだもいねくて、すげねがった」というのがある。

通訳なしにネイティブに(?)おじいさんにいわれたら一発で解読できる人はまずいない。

ちなみに答えは「昨日の夜、家に帰ったら誰もいなくて寂しかった」である。


きなのはげ=昨日の夜 えさ=家に 帰ったぎゃ(けったらもある)=帰ったら

だも=誰も いねくて=居なくて すげねがった=寂しかった「すげね(寂しい、物足りない、退屈だ)」で、それが過去形(〜だった)である。


おそらくこの解説を聞いても「?」だろう。フランス語の勉強の方が簡単かもしれない。

いい加減本編が進まないので最後の津軽弁コーナーである。


「えへでらの?まま どうすば!かねんずな?」と言われたらどうだろうか。

・・・はい。正直岩手出身の僕でも岩手弁と共通する意味を持つ単語から本文の意味を推測するしかありません(匙投げ)。

答えは「怒っているの?ご飯どうするのよ!食べないの?」です。

いーや!意味わからんて!(笑)


・・・気を取り直して本編に戻ります。


挿絵(By みてみん)


「にゃ~☆ありがとおじちゃん☆」

イチゴミルクとパインアメを老夫婦に頂いた。


「見だ所ウマ娘みだいだげどレースさ出るのが?」

「ええ、三日後さ水沢競馬場で。相手はユキノビジンだ。」

「ユキノビジンが~。これはこれは。応援しに行がねぁーどな。まあ、けっぱれ(頑張れ)よ。そんじゃな~」

腰に手を当てて「ほんにめごぃわらすでしたね~」「んだな~」と老夫婦は盛南大橋を渡って行った。


「やさしいおじちゃんだったにゃ~。」

貰ったパインアメを舐めながらナナが歩き出す。

「あ、橋の向こうのあれですか?」


橋の向こうに「開運の湯」の看板が見えて僕らは自然と歩調が速くなった。


僕らは開運の湯で受付を済ませ、レンタルタオルを受け取って温泉から上がったら畳の休憩所に集合と約束してから男女別に分かれた。

僕は真っ先に「寝湯」に向かった。露天風呂の隣にあり横になると暖かいお湯が石の枕の後ろからちょろちょろ流れるので寒くはない。


ただしお腹までお湯は来ないので冬になると吹雪の中、背中は暖かいが横になった身体の上半分は極寒という仕様になっている。

意外と僕はそういうのも肌で季節を感じながら舞い散る雪をぼんやりと眺める事が出来て嫌いではない。

むしろ結構好きまである。


石の枕に白いレンタルタオルを置いて寝っ転がる。

春の岩手は若干肌寒さが残るが背中から順に下に流れるお湯が心地よい。

遠くにはぼんやりと岩手山の輪郭が見えており、山頂付近には冬の名残か、わずかに溶けきらぬ雪が少し残っていた。

(やっぱり東京より岩手の方が落ち着くな・・・。やっぱり作戦は・・・。)


ー同時刻、水沢競馬場付近、ユキノビジン所属厩舎。※ユキノビジンの視点です。


挿絵(By みてみん)


「・・・やっぱしその作戦だが。おらもそれが良いど思っていました~」

「まあおめを信じではいるども相手が相手だがらな。単純さ前に付げだ方が良いべ」

「正直他の子も実績のある娘っ子だぢが多いども、おそらぐ最後は一騎打ぢになりそうだね~」

私、ユキノビジンはトレーナーと朝のトレーニングの準備をしながら岩手の新聞「岩手日報」のレースプログラム欄に改めて目を通す。


3月に入ったといえども初春の岩手は最高気温10℃、平均気温5℃、そして朝晩は氷点下まで気温が下がる事もあり、吐く息が今日はわずかに白くなっていた。


枠 馬名       (逃・先・差・追)人気     短評コメント

① アイネストキオ  (◁◁◁◀)   10人気 現状では苦しいか

② エアリアル    (◁◀◀◁)   4人気  叩き良化、一発ある

③ ユキノビジン   (◁◀◀◁)   1人気 気配絶好、実力上位

④ ゴールドビクトリー(◀◁◁◀)   6人気  現状では連下まで

⑤ ツクヨミ     (◁◁◀◀)   2人気  実績十分、逆転候補

⑥ シャマードシンボリ(◁◁◁◀)   7人気  実力あるも相手が悪い

⑦ スパニッシュローズ(◁◁◀◀)   8人気 展開次第。穴ならこのウマ娘

⑧ ジンライ     (◁◀◀◀)   5人気  好調保持、展開左右。

⑨ サニーダイヤ   (◀◀◁◁)   3人気  叩いてどこまで。距離絶好。

⑩ ゲンジホマレ   (◁◀◀◀)   9人気  掲示板まで。分が悪いか。


「やっぱし警戒すべぎはツクヨミだべな。中央で勝ってらし地方でも強い。まあ相手になるのはキキョウがサニーダイヤだべ」

「例え中央で実績があっても関係ねぁーよ。おらが絶対勝ぢますから!勝ったらぴょんぴょん舎さ連れでってくなんしぇね!」


ちなみにぴょんぴょん舎は岩手が発祥で関東にも(墨田区にも)ある盛岡冷麺が美味しい焼肉屋である。


「もぢろん勝ったらどごさでも連れでってけるよ。じゃあトレーニング始めんぞ。今日はレース見据えだダートコースな。」

私の戦績はこれまで6戦4勝。この地方重賞に勝てば中央転入がぐっと近づく。

トレーナーさんは中央のスカウトもこのレースを中心に見に来ると言っていた。


だから、絶対に、勝ちたい。

いや、勝つ。絶対に。

このレースだけは、負けたくない。

私を信じてくれたトレーナーさんの為に。

私の背中を押してくれる皆の為に。


私、ユキノビジンは息すら凍てつく水沢で決戦を待ち焦がれるのだった。

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