3話 騒がしい来訪者
お昼ご飯を終えてキキョウとユキヒメと僕の3人でこれからの具体的な方針について話す事にした。
まずは現状の確認とこれからの具体的な目標について話す必要がある。
それに彼女たちがどんな経験や戦績を積んできたのか、適性を含めて把握しておきたい。
ナナは大事なお話があるからという事でおやつにプリンを出してTVを見てもらっている。
「それで、君たちの戦績は?」
僕の問いかけにユキヒメから話す。
「中央では一勝クラスでした!4戦1勝、3着1回です!問題の件が起きてからは地方で12戦2勝です!いつもいいところまで行くんですけど最後抜かれる事が多くて・・・。」
(思わず「おお・・・」と僕は内心感嘆の声を漏らした。)
「私は中央ではオープンクラスできさらぎ賞、シルクロードSを制しましたわ。弥生賞3着で桜花賞に挑戦しようとしたところで地方に移籍しましたの。地方では15戦4勝です。盛岡では調子がいいんですけどね・・・。」
(中央オープンクラスだと!?と内心驚愕する。1勝もできずにターフを去る名もなき馬(この世界ではウマ娘かと思い直す)が多い中でGⅢを制してGⅡ弥生賞3着でGⅠ桜花賞優先出走権を確保するほどか!)
「・・・盛岡では調子がいいか。」
キキョウの話に岩手出身の僕は盛岡競馬場の特徴を思い出す。
地元であり良く休みに足しげく通っていた僕は熟知している。
【盛岡競馬場は地方競馬で唯一芝コースがある】・・・な。
それにあまり地元を悪く言いたくもないが門別や大井、川崎、船橋、浦和の南関競馬に比べて多少見劣りする馬が多かった。この世界でもきっとそうなのだろう。
という事はツクヨミの適性は芝コースという事になる。
次の問題は距離適性だ。その前にユキヒメにも追加で質問する。
「ユキヒメはこれまでどんなレースに出ていたんだい?地方ではどこを走ってた?」
ユキヒメはうーんと可愛く唸ってからぽつりぽつりと話し始めた。
「中央ではダートも芝も走ってましたね~。勝ったのはダートの1600mですね~。でも芝で走ってもダートで走ってもそれなりに走れます!『それなり』にですけど」
あはは・・・。と誤魔化し笑いするユキヒメ。
「あとは戦法も決まってませんでした。トレーナーからは毎回指示が変わるんです。ツクヨミ姉さんはいつも後方からって決まってるんですけど・・・。」
「まさか・・・。」
これは困った。おそらく決まった型が無い「自在型」だ。
自在と言えば聞こえはいいものの様は器用貧乏だ。
ライスシャワーの様なスタミナがある訳でも、芝・ダートどちらも制したクロフネの様な適性がある訳でも、オルフェーヴルの様な末脚があるわけでもない。
レースの展開によって作戦をコロコロ変えては掲示板内を確保してきたのだろう。
ブオオオオン!というバイクか原付のうるさい排気音がしてからすぐ。
ピーンポーンとインターフォンの音が鳴ってユキヒメが入口にぱたぱたと小走りで向かう。
10秒後。耳をつんざくような大声が響き渡る。驚いて鳥がバタバタと飛び去って行く音がした。
「えええーーーーーーーー!?ユキ、トレーナーさんが着いたの!?誰誰!?上がらせて!見せて!」
慌ただしい足音がする。ユキヒメが制止するも聞かずに上がり込んできた。
強く制止しない所を見るとおそらく知り合いなのだろう。
「いたー!!!見つけたわ!!!」
ビシッと人差し指を僕に向けて来たのは黒髪サイドテールのギャルっぽいウマ娘だ。
なんというかこういうタイプは苦手なんだよなあと苦笑する。
「私はユキのダチのクロユリ!クロって呼んでもいいぞ!・・・てかなかなかイケてるじゃん?私もコイツ指名しよーかなー☆」
こちら側の返答も何も聞かずに捲し立てて来るクロ。てか指名ってどういう事だ。
「くろおねえちゃんだーーーー!」
だだだーーーー!っとナナが才能の片鱗を見せながらクロに飛びついてくる。
なんだこの光景。幸せ過ぎてどこぞの館の時止めメイド長なら卒倒してるぞ。
「よーしよしよしー!今日はナナは学校はお休みか?」
頬ずりしながらクロが話す。
「にちようびだからおやすみにゃの!」
ナナのかわいい返事とは裏腹に冷汗が伝う僕。
(学校?トレセン学園に通うには小さいと思うが、もしかして初等部なんかあるのか?いや、それなら学費もかかるよな。というかトレーナーしm.........)
「トレーナーさん。クロちゃんが言っているのは【合意契約】の事ですわ。」
これまで優しく微笑み成行きを見守っていたツクヨミが思考に割り込んで口を開く。
どうやら合意契約というのは公開模擬レース後に各トレーナーがドラフトのようにウマ娘を指名し、ウマ娘とその家族や代理人交渉の末条件がまとまらなかったか、どのトレーナーからの指名も無かったウマ娘、もしくは契約を解除されたウマ娘が「トレーナーからの指名及び条件に合意した場合」契約が締結するらしい。自由交渉なので契約金は不要で条件はトレーナー有利に結べるらしいのだが・・・・。
なるほど、野球で言う所の戦力外通告を受けた選手を拾い上げる感じか。
「いや、それならクロ・・・だったか。この子『逆指名』してたよな、ありなの?」
苦笑いを浮かべてクロをちらりと見ると、まるで自分の家かのように冷蔵庫から勝手にプリンを出してチューリップ賞を見ているクロとナナ。レースは第2コーナーを曲がった所。ジェンティルドンナが後方に控えているようだ。
というかナナはプリン2個目だぞ。俺の分・・・。
「・・・・なしですね、普通に。あと、ナナちゃんは初等部なのでレースでは走れません。早くてもあと数年かかります。もっとかかるかもしれませんが。」
「だよなあ・・・。だってレースで走れるのユキヒメとキキョウだけだろ?ナナの学費もあるしクロがどれだけ走れるのか分かんないし食い扶持が増えたら大変だ。」
「頼むよぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!家賃滞納して追い出されたんだよぉぉぉぉ!」
ピクリとクロの耳が動いてこちらを振り返ったと思うとスライディング土下座してきた。
凄い綺麗だった。もしかしたら慣れているのかもしれない。
「どういうことだ?」
説明を聞くとどうやらこのウマ娘は別のトレーナー無しウマ娘「アカネ」と家賃や食費を折半しながら助け合って生きていたらしい。しかし出走したレースの成績がどうやら芳しくなく、さらに趣味のバイクに金を回していた結果1年分の半分の家賃分36万円を滞納し、一応全額完済したものの金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったもので、アカネに追い出されてしまったので幼馴染で仲のいいユキヒメに居候のお願いをしに来たという流れらしい。
ナナが泣きそうな顔で僕の袖を掴んでおねだりする。
「ぱぱ、くろおねえちゃんといっしょにすむにゃ。ななもお手伝いがんばるにゃ・・・だから・・・。」
どうやら僕はトレーナー→とれ―にゃー→ぱぱにランクアップ(?)したようだ。
というかこの顔を見せられてダメだと言える大人はいないだろう。
クロをちらりと見てため息をつく。
「明日からバイトも探すわ・・・。」
その返答を予期していたのかユキヒメが「やったー!」とぴょんぴょんしている。
ナナの頭を撫でながら話す。
「分かった。クロも一緒に住もう。ちゃんとお手伝いするんだぞ、ナナ。」
ナナが僕に飛びついてくる。子ども体温というのか暖かい。
「ぱぱだいすきー!」
この瞬間俺は今死んでも後悔しないと思った。
【3月2日 16:32 天候:晴】
クロには空き部屋を割り当てて、荷物を部屋の中に、バイクを家の外に置いてから割り当てられた自室の掃除をしている。一方ナナは忘れていた学校の宿題に悪戦苦闘し、ユキヒメが優しく教えながら洗濯を取り込んでいる。
一方そのころ僕とツクヨミは夕飯の食材の買い出しに出かけていた。
転生初日初めての外出である。この世界はどうなっているのか、そして僕のキャッシュカードは使えるのか。ある意味生死を賭けた大勝負が今始まる!?




