おまけ話「アノ」
猫紹介
・名前:アノ
・模様:前から見るとシャムだけど、背中も楕円にコゲている。
・性格:お茶目でよく喋って食欲旺盛、一番初めに懐いてくれた。
勝田父が唯一触れるコなので溺愛してチュールあげまくり。
・癖:甘え声でスリスリすれば世界は思い通り。
そんなキーワードを煮詰めたおまけ話です。
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玄関を出る前にもう一度洗面所の鏡で前髪をチェックする姉・咲美。
その鏡に自分のコトをじとっと眺める弟・咲也が入り込んで。
咲美はキラキラな笑顔でくるっと振り返った。
「ど?サイドを目尻に沿わして貰うたんや。輪郭キレイになるやろ?
新しい美容院やけど、評判通りカットめっちゃ上手かったで。
今度一緒に行こー」
出掛ける時に前髪がイメージ通りキマると。
もうそれだけで「今日は良い日決定」気分。
それは咲也にも判るけど。
ついこの間まで、あんなに凹んで大学もサボってたのに。
結局、咲美と辰徳は別れた。
辰徳はショップを欠勤し連絡も付かない状態が続いて。
最後にショップのオーナーにだけ顔を見せに来たらしい。
咲美も知らない債務が随分あり、自己破産手続をして郷里に戻ると。
オーナーが言うには。
「あのカッコツケがヨレた服で、げっそりしとって。
大変なんは判るけど、あいつ。
咲美ちゃん達のコト何んも言わんねんで!謝りもせんし!
ホンマ自分の都合でしか世の中を見てへん。別れて正解やで。
もお辰徳んことは忘れて、今度はもっとエエ相手と付き合いや」
そんなカンジに、身近な人から理解や応援を貰って。
父親の手助けのお陰で、全部キッチリ精算出来て。
建前は就活と言うことで、配信活動も卒業することにした。
だから咲美が晴れ晴れとした顔になって。
メイクやファッションが変わるのも、解らないでもナイ。
でも咲也は他のナニかを嗅ぎ取っていた。
「姉ちゃんもお新しいオトコ捕まえたん?」
「なによーその言い方」
「こっちがナニて言いたいワ。
その清楚系メイク、パウダーはパープルでシャドウはブラウン?
今まで使うたこと無いのばっかやん」
「こーゆーのも似合うやろー。
あんまイマドキ過ぎると、歳の差感じさせてまうやん?
どお?年上社会人にも成人女性として見て貰える思う?」
「切り替え早~」
「失敗から学び取れるオンナて言うてや」
「相手て、もしかして父さんの職場のヒト?」
かなり嫌味が利いた声で咲也がツッコムと。
急に咲美が咲也の顔を両手でつつんで、真面目な顔になる。
身長はもうとっくに咲也が咲美を追い抜いた。
「あんたと私はよお似とる。
顔も、オトコの好みもや。
あんたが辰徳を好きなんは知っとった。
辰徳もそれを判って、あんたを利用しとった。
配信では、あんたの方が人気あったやんか。
せやから私は心のどっかで。
あんたが好きな辰徳は、私の恋人やて見せびらかして。
それで負けてへん気分になっとったしな。
今回のことでな、私つくづく思い知ったンや。
私らぁは精神年齢コドモやねん!」
「はぁ?何その発想」
咲美がシリアスな口調でダークサイドを語るから。
咲也の心臓も緊張して縮こまったのに、ナンヤソレ?
咲美の真面目顔の反対側にあるような咲也の呆れ顔。
「ええから最後まで聞き。
そんな時にな、パパと職場の人と3人で何度か会うたやろ。
コンプラ関係で法律とか詳しーてな、めっちゃ頭良えし。
難しいことも解り易うに全部説明してくれて。
パパが表立って動けヘン時はフォローしてくれたし。
始めにパパが私のこと「我が子ながら恥ずかしい」て言うたら
何んて返してくれた思う?」
「知らんワそんなん」
「若い頃の失敗は誰にでもあるし。
隠したりせんで助けを出せる素直さが一番大切なんやて。
良え親子関係ですね、良え娘さんですねて言うてくれて。
それでパパの機嫌も良うなるし。
私はもーお惚れてまうやん?」
「何んでやねん。
それ言うたら、褒められるべきはオレやんか」
一応咲也は反論するけど。
その場面を思い返して浸っている咲美の耳には届かない。
だから咲也は、お花畑にいる咲美を引っ張り出そうとする。
「姉ちゃん、始めの頃言うとったやん。
その人のスーツが昭和タイプでダボいとか。
ネクタイが縞ばっかやし、革靴に白ソックスは無いやろとか。
髭剃り残しあるし、10分カットでダサダサやて」
「そおやで。せやけど私は判ったンや」
意外と冷静な声で咲美は結論を語り出す。
「私らぁはオコサマやってん。
見た目が良おて、ご機嫌取ってくれる人が心地良うて。
それが幸せなんやて勘違いしとった。
せやからな、そんな私らこそ必要やねん!
ぱっと見判りにくぅても、空気合わせてくれんでも。
真っ直ぐに目ぇ見て話してくれて、聞いてくれて。
一緒に考えたり教えてくれる人がな。
ほんまに必要な人と出会えたて思うとる。
わたしにはもおあのひとしかおらんわ」
うっとりお花畑を写していた瞳に、メラメラと本気が点火して。
咲美の肌は更にツヤツヤ、唇はプルプル。
(何んや…色々後付けしとるけど。
マジ恋しただけやんか、それにイチイチ似とるてゆーなっ!)
もうこれ以上一方的な恋バナは聞きたくなくて。
咲也はノーコメント。
でも咲美は本当に今の気持ちと状況が幸せらしく。
最高にキラキラの笑顔で、咲也の鼻をちょんと突いて解放した。
「今から、配信卒業報告するんでランチ一緒するねん。
残業あるからディナーは無理とか断られたけどな。
まーあ勝負はこれからや。絶対私の方を向かせたる。
なあ私とあんたはよお似とお。
あんたもそーゆータイプと恋愛する方がきっと幸せになれるで。
がんばりや。ほんなら行って来るわー」
もしかするとランチは蕎麦屋とか丼チェーン店かも知れないけど。
咲美はご機嫌ステップで出掛けて行った。
強めの捕獲宣言を浴び続けた咲也はぼんやり部屋へ戻る。
父親の職場の人は、咲美から名前も聞いたし写真も見せて貰った。
でも思い出せない。
思い浮かんでしまったのは、勝田の顔だった。
(あかんやろ…)
そう思うのに、身体中がどくどくと音を出して震えてしまう。
咲也には誰にも言えないコトが出来てしまっていて。
事件があって、その深夜に勝田と電話で話した翌朝。
下着が汚れていた。
勝田に庇われていたとは言え、取り立て屋の男達に囲まれ。
全方向から蹴られた何発かは咲也にもカスったし。
タイル路面に押し付けられて膝や肘を擦りむいたし。
警察や病院や色んな人から、怖かったやろ?痛かったやろ?
と心配して貰ったのに。
その時咲也が感じてたのは。
ぴたりとくっつく勝田の体温・汗・匂い・はげしい呼吸。
咲也の身体はただただ熱くて、頭は真っ白だった。
それしか覚えてないし。それだけを夢に見てしまった。
咲也にとっては、アノ事件よりよっぽど大事件。
消音効果のために布団や枕をなるべく嵩高く重ねて、
ぼすんと頭を突っ込むと。
「アんノやろーーーーーっ!!」
思い切り叫ぶしか出来なかった。
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猫は懐く相手を自ら選ぶそうです。




