おまけ話「コノ」
猫紹介
・名前:コノ
・模様:色が薄くシャムぽくないのに背中とシッポは盛大にコゲ。
・性格:どっしりしてて物静か、一度膝に座ると動かない。
とても澄んだ綺麗な青い瞳で何やら考え深げに見える。
・癖:膝に乗ったら降りるまで撫でろ。
そんなキーワードを煮詰めたおまけ話です。
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夏休み最後の補習が終って、フラッペ持って勝田の家に到着。
「おじゃましまーすって。わっコノちゃんや~」
玄関先にコゲしっぽをパタパタさせてる1匹がお出迎え。
勝田が持つ保冷バッグにふんふん鼻を寄せる。
「おまえのおやつちゃうで。
藁科、これとりあえず冷凍庫入れとけばエエか?」
「もお飲まへんの?」
「腹減ったからカップ麺喰う。藁科も喰う?」
「いやエエわ。フラッペて結構腹に溜まるンに、よお喰うなあ」
「最終日のせいか内容めっちゃ詰め込みでキツかった」
「うわデカ盛り!そんなん喰うたコト無いワ」
キッチンへ入った勝田が棚を開けると。
ビッグサイズのインスタントがぎっしりで、藁科は笑ってしまう。
「こーゆーン好きなん?」
「そーゆー訳ちゃうけど、オレよお飯作らんし。
親はどっちも仕事しとおから、ひとりン時はコレ喰うとる」
よほど空腹なのか、勝田は着替えもせずにカップ麵を作り始めるから。
藁科はちょっとオモロイなと思う。
自分なら部屋着に着替えたり、メイクオフするのが最優先。
この季節ならいっそシャワー浴びたりもする。
「夏にカップ麺て暑いやん」
「エアコンの温度は猫に合わせとるから、暑いか?強する?」
「いやオレは平気やけど、勝田がさー」
「エエねん、どばーて汗かいて水浴びるンや」
「水?」
「水シャワー」
「ウソやろ心臓縮こまりそーや。せめてぬるま湯にせえや」
「それが気持ち良えねん。
オレ冬の風呂はめっちゃ熱いし夏は水やで。
えーとテキトーに座ってくれや、散らかっとるけど」
「うん」
生活感溢れるダイニングのテーブルに勝田がカップ麺を置くので。
その向かい側のイスに藁科が座ると、膝にコノがのしっと座った。
「わーめっちゃカワエエ!膝座ってくれたで」
「エエのは今のうちだけや。
こいつ気ぃ済むまでヒザに居るから、藁科動けへんで」
「ええよ~ずっと居って~」
コノの喉がごろごろ鳴るのと藁科も嬉しくてあちこち撫でてやる。
「麦茶飲むか?」
「んーコップ半分くらい」
勝田の肩越しに見える冷蔵庫のドアにはメモがたくさん貼ってあって。
そのひとつに藁科は見覚えがあった。
「それ三輪山本の袋?」
「あーそおやで、藁科が家族でわざわざウチ来てくれた時のや。
この極細素麺めっちゃ旨かった。
親も気に入って、今度取り寄せするて言うてたワ。
オレあん時鎮痛剤で熟睡しとって。礼も言わんでスマンかったな」
「いやべつに…」
駅ロータリーのドタバタ翌日。
巻き込んでしまったお詫びに藁科家4人は六弘宅と勝田宅を訪問した。
時間が無い中で高級素麺だの和菓子だのと精一杯の品を揃えての謝罪。
でもその時点では、勝田の両親はかなり拒否的で。
玄関先の形式的な会話だけで追い返されてしまった。
「うちの母さん気ぃも言葉もキツイし。
結構ヒドイコト言うたんちゃうか?今更やけど悪かったなあ。
でも母さんぶつぶつ言うとったワリに、この素麺とか和菓子とか。
藁科から貰うたモンめっちゃ旨いんでマジで感激しとった」
「そおなんや」
その言葉を聞いて藁科はほっとする。
あの時は険悪さMAXで、とぼとぼ下を向いて帰ったから。
勝田は2人分の麦茶をテーブルに置くとカップ麺を食べ始める。
「六弘んとこにも行ったんか?」
「そらそおや。お兄さんまで巻き込んでもたし」
「どんな感じやった?」
「それがなーめっちゃ軽うてサラっと終わって。
いつの間にか親同士で陶芸の話しとった」
「とうげい?」
「うん、おじいさんが陶芸家やねんて。
オレの母さん、インテリアとかファブリックとか好きでな。
リビングがハワイアンになったり北欧系になったりすんねん。
そのうち焼物ン集めて、茶室みたいになるかも知れんワー」
勝田家とは逆に、六弘家の居間では深刻さゼロ。
巻き込んでしまったお兄さん以外に、末っ子くんも登場して。
親戚訪問みたいに賑やかになったのを藁科は思い出す。
「へーさすが藁科ン家はまるごとオシャレなんやな。
うちはまー見ての通り平均的サラリーマン宅や。
オシャレスイーツは無いけど煎餅ならあるで、喰うか?」
自分ばっかり腹を満たして。
藁科はちょっと麦茶を口にしただけなのが、勝田は気になる。
「だーいじょうぶや、今日は朝も昼も喰うたし」
「へ?喰わん時あるんか?」
「外でランチする時は朝抜くなぁ」
「それオレと一緒に喰う時もか?」
眉間にシワを寄せ少し怒ってるようにも見える勝田の顔。
藁科はギクリとして慌てて付け足す。
「いや、ほら。
喰う量とか早さとか相手と合わすンに、腹いっぱいやと難しいし。
メイクすんのに時間掛かるから、朝飯喰うとる場合ちゃうし。
その、オレが勝手にしとるコトいうか習慣いうか。
別に勝田が気にせんでも」
へらへら笑いで藁科は軽く流そうとするけれど。
勝田は無言で、ちょっと下を向いたり上を向いたり。
そして口はへの字に曲がってる。
膝上のコノまでサファイアブルーの瞳で藁科をじっと見上げてるし。
(ヘンなコト言うたやろか…)と藁科の心臓は苦しくなってしまう。
でもそれは勝田が自分の中でかなり言葉を探して選んでる為で。
右手の箸が意味無くカップの中をうろうろして。
それから思い切ったようにへの字の口を開く。
「何んつーか。
さっきから結構ショーモナイ話だらだらしとるやん?
喰うモンとか風呂とか親んことも。
藁科が朝飯抜くンも初めて聞いた」
「うん…」
「今までオレあんまそーゆー駄弁りて興味無うて。
「何んで」とか「それで」とか理由まで訊いたり応えたりすんの
メンドイて思うとった。
そんなんヒトの勝手なんやし。
口出ししたり、口に出すンのメンドイて」
「うん…」
メンドイなんて嫌われワードが出て来て、藁科は崖っぷち気分。
なのに勝田は急にぶふっと噴出した。
「不思議やワ。
藁科やったら延々話たぁなる。理由聞きたぁなる。
オレは、藁科が何考えとるンか知りたいんやな。
ははは!こんなん初めてや
でもまあ朝飯はフツーに喰えや。
確かにオレ早喰いやけど、藁科が食べ終わるン待つし。
喰えへん量の時は手伝うし。もーヘンな遠慮は無しな」
そして食べ終わったカップを持って勝田が立ち上がるから。
咄嗟に藁科は思い切り手を伸ばして、勝田の腕をぎゅっと掴む。
膝にはコノが漬物石状態で立ち上がれないから仕方無い。
「ちょお待てっ!知りたいてどーゆー意味なん?」
「えー…そらぁ…」
(言え言え言え言うてくれ、オレが聞きたい言葉言うてくれっ)
何恥ずいこと願うとるねんっと、自分ツッコミする余裕も無いくらい。
メイクが崩れてるかも知れない今の自分をイメージ出来ないくらい。
必死に、勝田の腕を掴む藁科の手に汗が滲む。
「藁科が左腕吊って隣座るまでは、全然知らん奴やったのに。
少しずつ知ってくとなあ。
カワエエだけちゃうくて、オモロイし。
派手なんか思うたら、結構素直やし。
いつの間にかよお一緒に居って、何ンか付き合うとるみたいやん?
そんだけ特別なトモダチに成ったンやから。
もっとよお知りたぁなるんはアタリマエやろー」
「みたい、て何んやねんっ」
「え?」
「付き合うとる「みたい」て!」
「あ、や。
道場のカノジョ持ちな奴らが言うコトに結構当てはまるなーて」
「特別て?アタリマエて?
ちゃんとオレにも解るよーに言うてや!
オレも勝田が考えとること知りたいんやからっ」
いつの間にかコノは藁科の膝からテーブルに前脚を掛けて。
じっと勝田を見ている。
そして藁科も瞬きもせずに勝田を直視。
4つの綺麗な瞳に見つめられて、勝田はやっと自覚する。
これは間違いなく一世一代の告白場面。
首元からジワジワジワ~と熱が上がって来て、額に汗も浮かぶ。
はっきり言って。
今の勝田の顔を見るだけで、もうその答えは伝わって来る。
だから藁科はとびきり可愛い笑顔になって。
今度はゆっくり唇を動かして願いを言葉にする。
「オレんこと好きか?」
こんな風に、願いは叶うこともあるらしい。
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猫ってそこに座ってるだけで良い仕事してくれるもんです。




