おまけ話「ソノ」
猫紹介
・名前:ソノ
・模様:一番シャムぽいけど、全体的に色が淡い。
顔と耳としっぽの先がコゲている。
・性格:マイペースでひとりで居るのが好き。
小食だし、誰かに見られてると食べない。
未だにおやつも母親の手からしか食べない。
・癖:気分の上げ下げで急に噛んでくる。
そんなキーワードを煮詰めたおまけ話です。
*****
9人家族六弘家の広いダイニング。
もそもそと食事をしてるのは釉。
その向かいにちょこんと末っ子が座って、チョコプリンを2つ並べる。
「釉兄、開けて」
「2つとも?オレはよお食べへんで?」
「オレが2つ喰う~」
「多ない?」
「瀬戸兄が言うとった。プリンは飲み物ンやて。
せやから1つは喰う用、1つは飲む用や。
何んか喰う時はノド詰まらんように、飲み物も一緒なんやで」
「そおなん?ちょおちゃう気もするけど」
「なあ釉兄、プリンは3時のおやつや。
釉兄こそ、いつまで昼飯喰うん?」
末っ子星之介は心底不思議そうな顔で、釉を覗き込む。
少し前に皆一緒に食べ始めた具材たっぷりの焼うどん。
確かに星之介の皿より、釉の皿は少し大きいけれど。
それにしても、うどんはほとんど減ってなくて。時間掛かり過ぎ。
「まだ喰うとるんか」
ダイニングに入って来た瀬戸も、第一声が星之介と同じ。
「はは…食べても減らん言うか…」
まだ半分位残っている皿を前に、釉はショボ笑い。
瀬戸はどかっと釉の隣に座ると。
その箸を取り上げ、具材と麺を別の皿に分ける。
「ほんならせめて肉と野菜は喰え。こっちはオレ喰うし」
「ええの?オレの食べ掛けやけど」
「そんなん今更いっつものコトやろが。
一度に喰えへんだけやねんから、ちょいちょい喰えばエエんや」
「麺食べると、それだけで腹膨れてもて」
「ええから肉喰え野菜もや。タンパク質とビタミンや」
そう言いながら瀬戸は冷めてしまった麺だけを食べ始めるので。
食卓の小籠から黒色の箸を取って、釉も具材だけを口に運ぶ。
「助かるワ~これなら全部食べられそおや。あ、箸借りるな」
六弘家では色違いで揃えられてるモノが多い。
箸や歯ブラシ、傘やカップも。
柄や形で区別できるものはそのままだけど。
取り違え易い物にはマジックでワンポイントカラーが付けられる。
祖父は金色・祖母は銀色・星之介は黄色の星型と色も固定。
釉は緑で瀬戸は黒。
瀬戸が緑の箸で食べ始めてしまったので。
釉は瀬戸の箸を借りたというコト。
食べながら視線を上げた瀬戸は、星之介の手元を見る。
「星之介それ2個も喰うたら明日のんが無くなるで」
「冷蔵庫にまだあるもん」
「ほんまか?ばあちゃん達の水羊羹と間違えてへんか?」
「えーっ」
星之介はイスを飛び降りて冷蔵庫を開ける。
9人家族だから冷蔵庫も大きくて奥行きがあるし。
タッパー達に視界を遮られ、見間違うことはよくある。
しかも星之介が今ハマってるチョコプリンは手作り。
里山の近くにある、地元の農産物や特産品が並ぶ販売所の物。
料理上手な主婦が出品する和洋スイーツはほんとに美味しい。
ただ手作りなのでパッケージはシンプル。
プリンもゼリーも水羊羹も同じカップにシールが貼ってあるだけ。
冷蔵庫を覗き込んだ星之介は叫び声。
「あーーーー!チョコちゃう~」
「やっぱそおやろ。あんま残ってへんなーって思うたんや。
まあアイスはようけ買うてあるし」
「いややーっプリンとアイスは別やもんっ」
「自分で喰うたんやから、しゃあないやろ」
「チョコプリンが要るねんっ明日孝星とおやつすンねんっ。
オレがスキなんを一緒に食べよて約束したンやーっ」
もう小学5年生なのに。
4人の兄達に甘やかされてきた星之介は幼児みたいに泣く。
そうすると誰かが何んとかしてくれるのが、六弘家のシステム。
そしてもうひとり、ある意味甘やかされてる釉が瀬戸をつつく。
「何んとかならんの?」
「販売所まで車やからなー今他に誰も居らんし」
うどんをペロリと食べ終えた瀬戸が意味ありげに釉を見る。
「いや免許持ちがひとりココに居ったワ」
「え、オレ?」
「畑であんだけ練習したしな、もお外走ってもエエんちゃう?」
「う…」
釉の表情が緊張する。
大学の夏期休暇で、母親と一緒に帰省したものの。
運転下手過ぎと指摘され。教習所の合宿並みに毎日私有地で練習中。
練習場所は祖母の畑地なので。
畦道が細かったり直角交差だったりと実は高度な運転技術が必要。
それを練習したのだから、技術的には充分。
単に譲りっ放しとか躊躇し勝ちとか、ほとんど性格的なモノ。
だから助手席に長男が座って。
「おらーっ!いつンなったら右折するんじゃあっ」
と辛抱切れられると「あわわ」となってしまうけど。
瀬戸が座って。
「いま、出え。向こうは待つ気や」
と一工程ずつ指示を貰える時はすんなり行ける。
「瀬戸付き合うてくれる?」
「…エエけど。まず皿のん全部喰え」
「うん、すぐ」
2人の会話に、グズっていた星之介は笑顔になって釉に抱き着く。
「釉兄!プリン買うて来てくれるん?やったー!!」
カワイイ末っ子が喜んでくれるなら。
釉も笑顔になって、急いで皿の上の具材を口に運んだ。
販売所は里山の麓に在る。
だから実は路は広いし真っ直ぐだし、歩行者もほぼいない。
問題無くスムーズに販売所に到着して。
星之介のチョコプリンの他にも家族が好きそうな団子とか焼き菓子とか。
良い買物が出来てかなり満足な帰り道。
「ばあちゃんの畑より走り易い気ぃするワ」
「まあそおやろな」
すっかり気持ちも軽くなって、運転しながら雑談も出来てしまう。
「謹慎中やのに販売所行ったんバレたら、怒られるやろか?」
「野菜や山菜しかナイ場所で、悪さしよーがナイやろ」
「そっか。そんなら良かった」
「それより怪我させたンは…ほんまにスマンかった」
「鼻血出ただけやし。
それに母さんも言うとったけど。
病院行けたンやから、そっちの方が良かったワ」
「つーか体調悪いンならさっさと病院行っとけっ」
思わず瀬戸は唸ってしまう。
数日前、釉を瀬戸の友人のトラブルに巻き込んでしまい。
釉は肘鉄喰らって鼻血ぼとぼと。
それだけのハズがなかなか出血が止まらないし眩暈でフラつくし。
念のため病院で検査を受けたら。
低血糖だの鉄分不足だの栄養失調初期症状を指摘されてしまった。
元々生活能力低め。
適当にコンビニパンと野菜ジュースだけの食生活になっていて。
母親も祖母も食生活の見直しが必要と。
帰省中の食事が毎食、肉と野菜たっぷりメニューになってしまった。
有難い配慮だけど。
釉の胃袋には収まらない量で、食事だけに時間をかなり取られてる。
「大学で一緒に飯喰う知り合い居らんのか?」
「陶土とか焼物んとかニッチな学部やから。
共通話題で根詰められる知り合いは居るけど。
似たモン同士なせいか、食事とか呑みとか誰も興味無うて」
「…世話してくれるカノジョとか」
「あははは無理無理。
他学部の人なんて名前も知らんし挨拶もよおせん。
せやからなーほんまに瀬戸と兄弟で良かったて思うンや」
「はあ?」
「瀬戸とオレ全然タイプちゃうやん?
もし兄弟や無かったら、隣に座っても喋りなんて絶対せんやろ。
兄弟やから、こおやって何処行くンも付き合うて貰うて。
何んでも情けないコトでも話出来て…そんで、そのオレ…」
「おい顔色悪いで?」
「腹痛い…」
釉の口調が怪しくなってしまい、瀬戸が顔を寄せると。
額にうっすら我慢の脂汗。
ハンドルを握る釉の手に、瀬戸は自分の手を重ねてゆっくり言う。
「その先待避所あるンでソコ入れ」
「ん…」
広い道路を抜け、後は畑だらけの分岐道。
農耕用重機も通るので所々にすれ違い用の待避所があって良かった。
何んとか停車すると、釉はふわ~と力が抜けたよう。
「ごめんなーちょお休憩。
多分急に腹いっぱい食べたから胃がビックリしたんや。
腹がきゅうっとすんなぁて思うたンやけど。もうすぐ家やし」
「あほ我慢する方が運転危ないワ」
「そおやんなあ」
「販売所で買うた健康茶みたいなん有るで?飲むか?」
「いやそれより腹んトコまっすぐにしぃたい」
「どないするンや」
「膝貸して」
ハザードを点滅させ、エンジンも停止させると。
釉は助手席の瀬戸に膝枕状態になって、胃の辺りをさする。
「シート倒せや」
「たまになるンやー。
食後座りっぱやと胃腸が圧迫されて、きゅうってなあ。
横向きで腹を水平にしとったら収まるし。シート倒すほどちゃう」
「シートボタンの使い方判らんだけやろ」
「はははそおかも」
「喰うンも運転もあんま無理すんな」
瀬戸はクーラー送風口の向きを動かしたり、スマホを取り出したり。
とにかく手が空っぽにならないようにゴソゴソ。
逆に釉はすっかり緩々状態。
「ちょっとしたコトやのになぁ、オレ色々出来んから。
何んでも出来る瀬戸と兄弟でホンマよかったワー。
弟3人居っても、瀬戸はちょお別やんな」
「別て何んやねん」
「んー…何ン言うか…ずうっと一緒に居ってくれたらなあて。
瀬戸と居るとラクチンなんや、ってあかんあかん!
このまんま寝てまいそおや。
腹落ち着いたし帰ろ。まだ最後の難関、車庫入れが残っとる~」
腹痛も収まって、釉は寝心地の良さでふんわり顔になったけれど。
我に返って急に身体をがばっと起こすから。
瀬戸は顎をぶつけそうになって、避ける為に身体ごと動かして。
そのまますぐ近くに来た釉の口元をがぶっと噛んだ。
「わ、何ん?」
「ソノ言葉忘れんなよ」
「え?どれ?」
「どれでもええワ」
「えー何んそれ?全然判らん」
「別にエエ。オレが判っとればエエことや。
それより星之介と須恵兄からライン来たで。
時間掛かっとるから何んかあったんかて心配しとる」
「そっか急がな」
釉は深呼吸してエンジンを掛ける。
家まで後少し。隣に瀬戸が居るから車庫入れだってきっと大丈夫。
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猫の行動として、愛情表現として噛むこともあるそうです。




