目覚まし 鳴らない なぜ
その夜も、同じ夢を見た。
見覚えのある場所、安心できる誰か。前日と同じはずなのに、今日はどこかが少し違う気がした。
会話の中で、誰かが季節の話をしていた。「もう秋も終わりだな」――そんな一言が、やけに耳に残った。
おかしい。今は春のはずだ。
夢の中の自分は、その違和感に気づきながらも、なぜかそれを不自然だとは思わなかった。ただ、頭の片隅でだけ、小さな警報のようなものが鳴っていた。
一緒にいる誰かの顔を見る。知っている顔だった。それなのに、記憶にある年齢より、ほんの少しだけ上に見えた。数歳ではない。もっと微妙な、ふとした皺の増え方とか、目元の疲れ方とか、そういう小さな差異だった。
季節が違う。歳も、少しだけ違う。
その二つに気づいた瞬間、視界がぐらりと揺れた。
目が覚めた。
天井を見つめながら、しばらく状況が飲み込めなかった。枕元に手を伸ばし、スマホを掴む。
時刻表示を見て、跳ね起きた。
七時。
「目覚ましは……!」
いつもなら六時半に鳴るはずのアラームが、鳴らないまま素通りしていた。設定を確認している暇もない。慌てて布団を跳ねのけ、着替えを掴んで洗面所に走る。
夢の中の季節のことも、あの顔のことも、頭の中からきれいに抜け落ちていた。今はそれどころではなかった。歯を磨きながら時計を睨み、いつもより二本遅い電車に間に合うかどうかを、必死で計算していた。




