埼玉 都内 境目
都心を抜け、電車が地上に出る。窓の外の景色がビルから住宅街へと変わり始める、その一つ手前の駅で、どっと乗客が乗り込んできた。
会社を出た頃には、もうすっかり日が暮れていた。JR線に揺られながら、スマホの画面をぼんやり眺める。投稿の数字は、朝から変わらず『0』のままだった。
大学生らしき四人組が、すぐ近くの席に座った。ユニフォームのレプリカを着ている。今日はデーゲームでもあったのか、酒の匂いと一緒に、上機嫌な声が車内に響いた。
「マジで今日最高だったな」
「サヨナラのとこ、鳥肌立ったわ」
そんな会話に紛れて、ふと一人が声のトーンを落とした。
「あ、そういえばさ、俺も見たわ、あの夢」
「え、お前も? マジで?」
「なんかもう、みんな見てね?って感じじゃない」
「わかる、うちの妹も見たっつってたし」
要領を得ない相槌の応酬だった。何がどう「わかる」のか、具体的な中身は誰も口にしない。それでも四人は、確かに同じものを共有しているという顔で、うんうんと頷き合っている。
朝、都心のオフィスでは「知らない」の一言で片付けられた話だ。それが、埼玉に一歩近づいただけで、また当たり前のように転がっている。
まるで、都心はまだそこまで浸かっていないだけ――そんな気がしてならなかった。




