前にも 聞いた 気がする
自宅の夢を見てから、確信めいたものが胸の奥に居座るようになった。
これは、初めてのことではない。
季節が符合していたこと。噂が消えていく様子。誰も覚えていないのに、自分だけがずっと覚えていること。ひとつひとつはただの偶然で済ませられても、重なれば重なるほど、偶然という言葉では足りなくなっていく。
確かめずにはいられなかった。
会社帰り、いつもの暖簾をくぐる。
「大将、いつもの」
「おう」
ホッピーが出てくる。焼き鳥の匂い。いつもの空気。だからこそ、聞いてみた。
「大将さ、前にもこの話、してなかったっけ。みんな同じ夢見てるって噂の話」
大将は焼き鳥をひっくり返す手を止め、少し首をひねった。
「前にも? いや、お前に話すのこれが初めてじゃねえか」
「いや、絶対したよ。夏頃だったと思うんだけど」
「夏? んー……覚えてねえなあ。まあ歳だからな、俺も」
大将は笑って誤魔化したが、その顔には嘘をついている様子も、記憶を探っている様子もなかった。本当に、初めてのことのように受け止めていた。
次の日、後輩にも聞いてみた。
「前にさ、この夢の話、お前から聞いたことあったよな。千葉の方でも話題になってるって」
「え……そうでしたっけ。すみません、記憶にないです」
「絶対したはずなんだけど」
「うーん……先輩、大丈夫ですか?」
心配されるだけだった。
休みの日、あの神社の蕎麦屋にも足を運んだ。
「女将さん、前にも一度、この話しましたよね。宮司さんに聞いてみたらって」
女将は丼を拭く手を止め、不思議そうな顔をした。
「あら、初めてじゃない? そんな話したっけ」
誰一人として、覚えていなかった。
大将も、後輩も、女将も。みんな今回が初めてだという顔をしている。それなのに、自分の中には確かに、前回の記憶がある。あの居酒屋のカウンターも、あの蕎麦屋の座敷も、宮司の言葉も、全部覚えている。
孤独だった。誰にも共有できない確信を抱えたまま、季節だけが進んでいく。
これは、ループしている。時間そのものが戻っているわけではない。ただ、この現象――夢が広まり、忘れられていくという一連の出来事だけが、何かの周期で繰り返されている。
そして自分は、なぜか今回だけ、その繰り返しの外側に立たされている。
理由は分からない。あの神社で拝んだことが関係しているのかもしれない。宮司の言葉が関係しているのかもしれない。それとも、ただの偶然かもしれない。
分かっているのは、次に何が起きるのか、まだ誰も教えてくれないということだけだった。




